或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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scene.3 スカウト

天馬心(てんましん)。5歳の時に子役としてデビュー。9歳で出演したMHKの大河ドラマで主人公の幼少期を演じたことがきっかけで人気に火がつく。“子役=可愛い、天真爛漫”というイメージを覆す美少年ぶりが話題を呼び、数々のテレビドラマやCMに加え映画にも出演するなど多岐に渡って活躍するも、星アリサの引退とほぼ同時期に突如芸能界から姿を消した。

 

 引退した理由は『学業に専念するため』ということだったが、真相は闇の中だ。

 

 本名、天知心一(あまちしんいち)

 

 

 

 「天馬さん!・・・あの・・・先ほどは天馬さんだと気付かず・・・すみません」

 「いや良いけどさ、あまり僕の“芸名”を大声で叫ばないでくれるかな?」

 「はい、すみません。それと、先ほどは私のような新人にアドバイスをして頂き、ありがとうございます」

 「(何なんだこの状況・・・)」

 

 覚えたての敬語を使って芸能人が一般人に頭を下げるという何とも間の抜けた光景を、憬は何とも言えない感情で見届ける。とは言え、相手はつい1年前まで芸能人だったからこうなるのも無理はないか。

 今では一般人であるとはいえ、同じ芸能人でもある環にとって天知はれっきとした先輩である。

 

 「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。僕はもう芸能界の人間じゃなくて通りすがりの高校生なんだからさ」

 「いえ、私にとって天馬、いや天知さんは役者としての先輩であることには変わらないので」

 「(先輩方から礼儀を叩き込まれたんだろうな・・・)そこまで健気に敬意をもってもらえると、僕も嬉しいよ。ありがとう」

 「いえ・・・ありがとう、ございます」

 

 驚きと嬉しさと色んな感情が縺れ合い環はしどろもどろになっている。ここまであたふたした環を見るのは初めてだった。

 そういえば環が天馬心のファンだったということを、俺はふと思い出した。しかも環からしてみれば文字通り芸能界の先輩でもある。 “あの環”がここまで腰を低くするわけだ。

 

 まぁそれも、“今は昔”の話であるが。

 

 「ついでと言ったら難だけどさ?今からつい最近オープンしたカフェに行く予定なんだけど、一緒に付き合ってくれる?」

 「・・・良いんですか?」

 「もちろん」

 「ありがとうございます!」

 

 ほんの数分前まで“あんな状況”に置かれていたにも関わらず、この変わりよう。ただ、相手はあの“天馬心”である以上、さっきの二の舞になることは恐らくないと信じたい。しかし、この天知という男が何かを企んでいるのは何となく察しがついていた。

 

 「おい蓮、流石に裏があるってこれは」

 「何?せっかくの天知さんからの誘いを断れって言うの?」

 「いやそういう訳じゃないけどさ」

 「ほんと君は芸能界を何も分かってない」

 「別に俺は芸能界の人間じゃないから分かるわけねぇよ」

 「そんなんでよくこの人の芝居はあーだとかこーだとか言えるよねー。ほんと愉快」

 「それは関係ねぇだろうが」

 「まあまあ2人とも喧嘩しない。それよりも、早くここから撤収したほうが良いと思うよ。周りを見てごらん」

 

 天知から言われて周りを見渡すと、いつの間にか俺たちは再び野次馬から視線を送られていた。

 

 「えっ?あれ天馬心じゃない?」

 「いや流石に天馬心がこんな堂々と渋谷なんて歩かないでしょ。すげー似てるけど」

 「にしてもそっくりだよなー」

 「あそこの女の子サインくださいとか言ってたし、もしかしたら本物じゃね?」

 「ていうかあの女の子もどこかで・・・」

 

 引退してから約1年の月日が経ち、その浮世離れした独特な存在感は未だに健在なばかりか、現役時代以上の風格(オーラ)すら感じる。隣にいる環ですら完全に霞んでしまうほどの存在感。なるほど、これが芸能人というやつか。

 

 「全く。変装しなければまともに街すら歩けない。こんなことになるくらいだったら芸能人(スター)になんてなるんじゃなかったよ」

 

 そうやって帽子を深々と被りながら愚痴をこぼす天知は、まるで周囲の野次馬など全く眼中にないような余裕さを身に纏っている。

 

 「君たち、足には自信ある?」

 「もちろんです」

 「人並みには」

 「・・・逃げるよ」

 

 そういうと天知たち3人は、たかりだした野次馬を背に全力で走り出した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 3人が逃げ込んだ先は、天知の言っていた目新しいカフェ。少なくとも俺が住んでいる横浜ではこんな店見たこともない。

 

 「ごめんね面倒なことに付き合わせて」

 「いえ、全然。寧ろ俺たちのことを助けてくれてありがとうございます」

 「礼はいらないよ。僕は当然のことをしただけだ。もちろん、3人分の食事代は僕が全部払うよ」

 「天知さん、(こいつ)には払わなくても大丈夫ですよ」

 「おいてめぇ」

 「アハハ、2人は本当に仲が良いんだね」

 

 天知から核心を突かれ、憬と環は互いに目を反らす。

 

 勘違いしないでほしいが、俺たち2人は付き合っている訳ではない。友達として認め合ったあの日から俺たちの関係は“友達”として進展こそしているが、そこに恋愛感情はない。

 あくまで気の合う親友同士。それでいい。それぐらいがちょうどいい。

 

 「そういえば少年の名前を聞くのを忘れていたね。少年、君の名前は?」

 

 天知から名前を聞かれ、憬は身分証明として持ってきた学生証を天知に見せる。

 

 「夕野憬です」

 「夕野憬か・・・良い名前だ。ドラマや映画のキャスト欄に載っていても全く違和感ないくらいに」

 「それは大袈裟でしょ」

 

 天知たち3人はそれぞれエスプレッソを注文する。ランチにしては遅く、間食を摂るにも微妙な時間帯だったのが幸いし、3人はテーブル席を確保することができた。

 

 スムーズに注文する天知に対して、俺は初見さんお断りの独特な各種メニューに手間取りまくった。

 そんな俺を温かい目で見つめる天知と目が合った瞬間は、死にたくなるほど恥ずかしかった。

 悩みに悩みまくった末、特に飲みたくもなかった一番無難なメニューを俺は注文した。

 

 「ラテ1つ注文するのにどんだけ時間かかってんの」

 「分かりずらいんだよここのメニューは」

 「確かにこの店は初心者にはちょっと手厳しいよね。僕も最初は戸惑ったよ」

 「そうですよね天知さん」

 「夕野くんほどじゃないけどね」

 

 フッと憬を心底馬鹿にしたように吹き出す環。何も言い返せない現実を目の当たりにし、再び恥ずかしさが込み上げる。それから3人は今日観た映画の話や互いの学校生活の話など他愛もないで盛り上がった。

 

 「そしたら憬が、『環さんはさ、ひょっとして人生2週目なの?』って急に言い出して」

 「おいそれは言うなって!」

 「あれはヤバいって・・・」

 「あの時の俺は色々とおかしかったんだよ。誤解しないで天知さん、小5の“クソガキ”だった時の話なんで」

 「本当に面白いなー、夕野くんは」

 「いや違うんですって」

 「ある意味そういうのも才能だよ、君」

 「天知さんの言う通りだよ。いい加減自分のことを変人だと認めた方が良いと思うよ?憬」

 「お前も中々の変人だけどな蓮」

 「君にだけは言われたくないね」

 

 すると天知は急に真面目な顔をして憬と蓮に語りだす。

 

 「でも、芸能界は少し周りとズレてる方がこの世界では上手く生きていける」

 「・・・そうなんですか?」

 「芸能界なんてどこも変わり者の巣窟だよ。夕野くんや環さん以上にぶっ飛んでる人たちなんてザラにいるしね。常識に囚われ過ぎるとすぐに潰れる」

 「確かに。私も時々“すごいところに来てしまったんだな”って感じることがあります」

 

 共感の眼差しを向ける環。なんだか俺一人、置いていかれているような気分だ。

 

 「そう。環さんの言う通りすごいところなんだよ芸能界って。一般社会の常識なんてまるで通用しない。本当に別世界だよ、あそこは」

 「分かったかな?夕野憬くん」

 「なんで蓮がそれを聞くんだよ。普通この流れだと天知さんだろ」

 「目上に対して“だろ”・・・か。そんな態度だとすぐ干されるよ憬くん」

 「なっ・・・すいませんでした。って何で俺は天知さんに謝ってんだ」

 「アハハッ」

 「おい何笑ってんだよ」

 「だって面白いから」

 「あんまり幼馴染をいじめるなよ環さん・・・ククッ」

 「天知さんまで笑ってるじゃないすか」

 

 少しずつお互いの緊張も解けていき、3人の会話は和やかに進んでいく。そしてラテも飲み終わり、そろそろ席を立とうかとしたその時だった。

 

 「そうだ夕野くん、最後に君に渡しておきたいものがあるんだ」

 「え?何ですか?」

 

 そういうと天知は、持っていたバッグから1枚のチラシと履歴書を憬に渡した。

 

 「これ、うちのポストの中に入っていたけど僕は興味ないから夕野くんにあげるよ」

 「・・・これって?」

 

 いきなり訳の分からないチラシと履歴書を渡され憬は困惑するが、そこには見覚えのある事務所の名前が書かれていた。

 

 “スターズ俳優発掘オーディション”

 

 「スターズが今年から俳優発掘オーディションをやるらしい。応募資格12歳から22歳。締め切りは2週間後。合格者には賞金及び弊社所属タレントとしてドラマへの出演が約束されているってさ」

 「なんでこれを俺に・・・」

 「んー、夕野くんにとって“良い話”だから?」

 「・・・はぁ」

 

 いまいち状況が飲み込めない憬。すると天知は不敵な笑みを浮かべる。

 

 「ついでに1つ聞きたいんだけど。何で夕野くんはあの時“演技”をしていたの?」

 「あの時って?」

 「さっきの喧嘩だよ。あんまり思い出したくないだろうけど」

 

 察することの出来ていない憬を環がぶっきらぼうにフォローする。普段の憬を知っている環が俺の“異変”に気づくことはまだ理解できるが、天知は他の誰かの感情を利用していたことを一瞬で見抜いていた。しかも初見で。

 

 「本当はすぐに助けてあげたかったけど、君の“お芝居”が余りにも迫真過ぎてつい見入ってしまったよ。ごめんね、助けるのが遅れて」

 

 天知の目を見る限り、恐らく彼は出鱈目を言っている感じではなさそうだった。

 

 「何でそんなことが分かるのか?って思っているでしょ」

 「・・・そりゃあ、蓮のように普段の俺を知っている奴ならともかく初対面でそんなこと」

 「忘れたのかい?これでも僕は元役者だ。普通の人と比べたら人の心を読むのは容易いことだよ」

 

 そう言いながら天知は、脳幹を指さして不敵に笑う。何故人の心と言いながら脳幹を指すのかは、未だに俺には分からない。

 

 「別に強制はしないよ。僕は無理やり自分の価値観を押し付けるような“非情な人間”にはなりたくないからね」

 

 断りづらくなりそうな空気にならないように、天知は憬に気を遣う。こういう時、目の前の獲物が大物であればあるほど、冷静にゆっくりと時間をかけて仕留めるべきだ。

 

 「ここから先は、君次第だよ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 大手事務所からの独立。それは芸能界において自らいばらに足を踏み入れるように過酷な道。しかし代表となった星アリサの人脈とその手腕によってスターズは芸能事務所として急成長を遂げる。

 

 俳優として数々の賞を受賞し、女性誌の『抱かれたい男No.1』にも選ばれイケメン俳優として飛ぶ鳥を落とす勢いの人気を誇るカリスマ・早乙女雅臣(さおとめまさおみ)や、若者を中心に絶大な支持を集めるティーンエイジャー世代の代表格・美藤夏歩(みとうかほ)を始めとした大衆を魅了する“5人の人気俳優”を始め、数々のドラマをヒットに導く人気脚本家の月島章人(つきしまあきと)などの著名な演出家や脚本家などの優秀なスタッフ陣を次々と引き抜いてテレビドラマや映画を問わずヒット作を量産し、少数精鋭ながらスターズは設立から僅か1年という驚異的なスピードで業界内から“次世代の筆頭”と呼ばれるようになるほどその勢力を伸ばし続けている。

 

 

 「私は受けてもいいんじゃないかなって思うよ。スターズ」

 「スターズか・・・」

 

 俺は一抹の不安を抱えていた。自分のような変わり者を、星アリサは本当に求めているのだろうかということ。

 

 そんな憬の心情を知ってか知らずか、環は一呼吸置くと今回出演した映画で共演した早乙女の話を始める。

 

 「今回の映画で初めて早乙女さんの演技を間近で見たんだけど・・・凄まじかった。NGなんて一回も出さないし、監督からの要求も瞬時に理解して一発OK。しかも本番が始まる時にはカメラの位置や自分のアングルまで頭に入っているから早乙女さんが出ているシーンの撮影は滅茶苦茶早く終わる。監督の藤崎さんも“これじゃあ俺の居る意味がないね”ってボヤいてたくらいだし」

 

 海辺の民宿を切り盛りする爽やかな好青年に不良上がりの高校教師。自由奔放なバンドマンに重い過去を持つ工場勤務の青年。色んな役柄を華麗に演じ分ける早乙女の芝居は、上手い下手では言い表せない説得力がある。

 そして自身の器用さ以上に“演出家いらず”と噂されるほど、早乙女の役者としての立ち回りの巧さは業界内では知れ渡っている。

 

 「それに早乙女さんは台本を現場に持ち込まないんだよ」

 「えっ?」

 「現場に入る時にはもう早乙女さんの頭の中には劇中の台詞が全て入ってる。自分の台詞だけじゃなく共演者の台詞も全て。恐ろしい話だよ。バラエティーにも出ていてテレビで見ない日はないって言われるほど忙しいのにね。おまけに私が出したNGも“咄嗟の機転”でそのシーンを成立させちゃうくらいだし」

 「マジか・・・」

 

 自身から醸し出される華やかさとは裏腹に、どんな作品でも一切の妥協を許さない真面目でストイックな努力家であり、本番までには毎回演出家の期待以上のクオリティに仕上げてくるため、スタッフや同業者からの評価はすこぶる高い。

 だからといって努力をしている素振りを周りには一切見せず、ファンへの配慮にも一切手を抜かないプロ意識の塊。

 

 ちなみに余談だが、早乙女は星アリサがまだ女優として活躍していた時期に彼女と同じ大手芸能事務所から俳優デビューした経緯があり、彼女とは前事務所からの先輩後輩の関係である。

 

 「最初はただ顔が取り柄なだけのイケメン俳優かと思っていたけど、改めて早乙女さんの演技を目の当たりにしたら、見方が大きく変わった」

 「やっぱりすげぇな・・・役者って」

 「そう・・・本当にすごい世界だよ。役者の世界って」

 

 そう言っている環の表情は、どこか思い詰めているようにも見えた。

 

 「何か・・・あったか?」

 「・・・私が?」

 「いや、何となく悩んでそうな顔してるからさ」

 「えっ?そうかなー」

 

 そう言って環はおどけて見せるが、本気で心配そうに見つめる憬に観念して隠していた本音を打ち明ける。

 

 「・・・やっぱり甘かったなー、私」

 「・・・何が?」

 「芸能界」

 

 それは環が初めて見せた“弱気”だった。

 

 「憬に勧められて軽い気持ちでコンテストに応募したらそのままとんとん拍子でグランプリ獲れちゃって。もちろんグランプリが獲れた時は嬉しかったし憬がいなければこんな貴重な体験も出来なかったから感謝はしてる」

 「・・・そっか」

 「それで雑誌に載ってCMも2本やって、今回の映画は見せ場のある役を演じられた」

 「淡々と言ってるけどそれ凄いことだからな」

 

 一般人の俺からしたら12歳で芸能界デビューを果たし、約1年というスピードであの早乙女と映画で共演している正真正銘のスターだ。

 

 「でも早乙女さんとか周りの共演者の演技を見れば見るほど、自分の姿が醜く思えてきちゃってさ」

 「俺からしてみたらこうして映画で重要な役を任されてる時点で蓮には才能があると思うぞ」

 「映画、観たでしょ。もう一度改めてスクリーンで自分の演技を観たけど。ほんと・・・私ってあんな下手くそだったんだね」

 

 そんな環が今、“真似できない才能”という果てしなく高い壁に直面している。

 

 「別に下手だとは思わなかったよ」

 「気なんて遣わなくていいよ。私は小手先の感情だけで演じてた。天知さんの言う通り、“ノリ”でやってた」

 「きっと天知さんは蓮に期待してたからわざとああいう言い方をしたんだよきっと」

 「綺麗事なんて誰も求めてない」

 「綺麗事なんかじゃねぇよ。第一、努力を続ければ花が開くって言ってたし・・・5年かかるらしいけど」

 「5年か・・・あの人たちを前にしたら5年も頑張れる気力がまるで湧かない。湧く気配もない。こんなんじゃ女優失格だよなぁ・・・」

 

 そう自嘲気味に笑ってみせたが思っていた以上に環は追い詰められているようだった。小手先の励ましは、何一つ響いていない。

 

 すると環は急に映画を観終わったときの話を始める。

 

 「ホントは知ってるよ。映画の感想を聞いた時、私がこれ以上傷つかないように“わざわざ”言葉を選んでくれたこと」

 

 ここで俺は、映画を観た後に環が何故怒っていたのかを理解した。

 

 「いやだからあれは」

 「そういう真似をされるのが一番ムカつくんだよ・・・何も分かってない癖に知ったような口聞きやがって・・・」

 

 そうだ、俺は何も分かっていない。芸能界がどういう世界なのかも。そんな世界に身を置いている環の気持ちも。

 1人の女優に憧れを抱いただけの、どこにでもいるただの中学生。

 

 「確かに蓮より上手い俳優とか女優はまだ沢山いるけど、蓮の代わりを演じられる女優はいないよ」

 「・・・何が言いたいの?」

 

 咄嗟に出てきた、嘘のない言葉。我ながら、俺は何を言っているんだろうと疑問を持ったが、そのまま俺は続けた。

 

 「なんというか・・・この映画を観て俺は、もっと蓮の芝居を観たいな・・・って思った。これからの何年、何十年もお前の芝居を観てみたいって。これからの“女優・環蓮”をさ」

 「私の芝居・・・」

 「だから、ごめん・・・やっぱこれだけはお前のために言っておくわ」

 

 心の中で止まってくれと何度も叫んだが、その意思に反して俺の口は止まらなかった。

 

 「蓮の芝居・・・酷くはなかったけど如何にも“演じてますよ”って雰囲気が滲み出ていて、イマイチ役への感情移入も出来なかったし、全体的にムラもあるし滑舌も所々気になるところがあった」

 

 今更本音を言ったところで何も解決しないことは分かっていたが、それでも俺の中で残っていた選択肢は1つだった。

 

 「やっぱり・・・そんなことだろうと思った。だったら最初からそう言ってくれればいいのに。下手くそだったって」

 「下手くそでもいいじゃねぇかよ!・・・才能があるとかないとか、早乙女さんとか周りがどうだとか、そんなもん関係ねぇよ。確かに良い芝居が出来て越したことはないかもしれないけど、“そんなことに”囚われる必要なんてどこにもない・・・って俺は思ってる。今の蓮がどう思っているかは俺だって全部は分かんねぇ。でも映画を観ていて俺にはお前がお前なりに下手でも必死に周りについていこうとひたむきに頑張っている姿勢は凄く伝わってきたし、何よりスクリーンに映る蓮は本当に輝いてた。少なくとも俺は蓮の芝居が”ノリ”だとは全く思ってねぇし、それはお前が1番よく分かっているはずだろ?違ってたら全力で謝るけどさ・・・だから、蓮は女優失格なんかじゃない」

 

 いつか見たドキュメンタリー番組で誰かが言っていた。役者として芝居の上手さはとても重要なことだが、何より大事なことは自分だけが持っている武器を大切に育てていくということ。

 

 「・・・じゃあ憬はどうすんの?」

 「・・・俺か・・・」

 

 急に核心をつく質問を返され、頭が真っ白になる。ここは嘘でもオーディションを受けると言うべきなのか。あるいは・・・

 

 

 

 “ところで憬はさ、俳優とか目指さないの?”

 

 不意に脳内に響き渡る、環の言葉。その言葉にあの日の俺は、

 

 “俺は別にいいかな”

 

 と答えた。

 

 すると環は

 

 “・・・そっか”

 

 と呟き寂しそうに笑った。何故このタイミングで思い出したかは分からない。

 

 

 

 「蓮。俺受けるよ、スターズのオーディション」

 「・・・は?」

 

 憬からの突然のカミングアウトに、環は理解が追い付けずにいる。

 

 「オーディションを受けて、蓮と同じように俺も役者になる」

 「・・・それで、憬が役者になったらどうなるっていうの?」

 「そうすれば、蓮の気持ちが少しは分かるかなって思ってさ」

 「・・・本気で言ってんのそれ?」

 「・・・本気じゃなかったらこんなこと言わねぇよ。蓮の言う通り、俺は芸能界のことをまだ何も知らない。でも、オーディションに受かって蓮と同じ世界に立てば、今の蓮の気持ちに向き合える自信はある。もちろん、役者として」

 

 俺の中で何かが弾けた。それは役者になるという覚悟を決めたからなのかは分からない。

 

「ねぇ?もう一回言うけど本気で言ってんの?」

「当たり前だろ?俺は本気だよ」

 

 一つ言えるのは、心の中にあった“迷い”が消えたということ。

 

 「・・・そう・・・だったらやってみろよ。オーディションを勝ち抜いて、“こっち側”に来てみろ!・・・そして芝居で・・・私に勝ってみせろ・・・」

 「・・・おう。望むところだ」

 

 『やれるものならやってみろ』とまるで喧嘩を売るかのような挑発的な口調でピシャリと言い放つ環に、『やってやるよ』と言わんばかりに憬は真っすぐ見つめて相槌をうつ。

 

 

 

  この日を境に憬と環はしばらくの間、互いに口をきかなくなった。

 




スターズの設定、現実の世界では1年程度じゃこんな快進撃は無理だと思います。まぁ、王賀美陸というデビューから賞を総なめにして星アリサと喧嘩してアメリカに渡米までをたった1年でやってのけたチートがいる世界ですし。そもそも漫画の世界ですし・・・


そして・・・・・展開が・・・・・遅せぇ・・・・・
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