12/4追記:一部内容を変更しました
2018年9月2日_午前11時10分_阿佐ヶ谷_
俺が今日、阿佐ヶ谷に来た目的は『hole』のロケハンをする為だ。その理由は『hole』の作中で尋也のバイト先である喫茶店と、華と尋也が出会う公園のモデルになった場所がどちらも阿佐ヶ谷にあるからだ。そして今日の天候は雨。本当はもっと土砂降りの雨が降るシチュエーションなのだが、ロケハンを行うには十分な天候だ。
こうして先ずは目当ての1つとしている“喫茶店”に行く前に、“ランチタイム”までの時間つぶしとして阿佐ヶ谷に住んでいた頃に何度か歩いたアーケードを人の流れに乗りながら、ただ歩く。
“・・・何にも変わってないな・・・”
今日は日曜日ということもあって想像していたよりも人通りが多いが、新旧様々なジャンルの店が所狭しとアーケードの中で軒を連ねている光景は、あの頃と全く変わっていない。
“・・・そういえば“あの店”ってまだやっているのか・・・?”
基本的に俺はここのアーケードの中に行きつけの店だとかそういうのは一切ないが、ひとつだけ昔から何となく知っている店がこのアーケードの中にある。
その店というのはなんてことのない、アーケードの中程に店を構えるどこにでもありそうな商店街の衣料品店だ。ただ唯一の特徴とすれば、この店にはある“ドラマ”がきっかけで阿佐ヶ谷の“名物”として一時期ファンの間で飛ぶように売れていた“Tシャツ”が売られていたことぐらいだ。
でもそれはあくまで20年近くも前の話で、今ではその“Tシャツ”がお茶の間の話題になることは全くないし、俺が
“やってはいる、みたいだな・・・”
アーケードを歩いておよそ5分。俺はその店の前に着いたが、肝心の店の入り口の前には“定休日”と書かれた看板が置かれていた。店がここにあることは知っていたが、定休日が日曜だったことはさすがに知らなかった。
それにしてもこういった商店街の店において最も客が入るであろう日曜日を定休日にするとは・・・確かに普通の世間じゃ今日は休日なのだが。
“まだ売っていたのか・・・”
照明が全て落とされ暗くなっている店の中に目を向けると、店内の売り場の中にオーソドックスな洒落た衣服に混じるように置かれた縦文字で“アサガヤ”とだけプリントされた白いTシャツが視界に入った。
“日本で最も“視聴率”を稼ぐ
“早乙女さんか・・・もう10年以上も会ってないな・・・・・・確かおとといくらいに子供が生まれたとかニュースで言ってたな・・・”
俺は不意に、その早乙女と5年ほど前にパートナーとなった女優の
“そういや堀宮もいたな・・・懐かしい・・・”
堀宮とはかつて同じ事務所に所属していた時期があり、何かと現場が同じになることも多かった。元子役だったこともあり芸歴的には10年近い先輩だったが逆に年齢は一学年差で高校が同じだったこともあり、すぐに気の合う先輩後輩として打ち解け合った。ただお互いが多忙になり俺が高校を卒業した頃には現場以外では滅多に会わなくなり、俺が
“・・・何だかんだ“
だがそれは、これまで俺が役者として出会った“全ての人たち”とも同じことだ。
“・・・・・・生き残れなかったのは俺だけか・・・・・・”
いけない。気が付くと俺は“離れる”と決めたはずの世界を懐かしんでいた。自分が蒔いた種で全てを“終わらせてしまった”も同然なこの俺に、あの“日々”を懐かしむ資格などあるのだろうか。
“いや・・・ないな”
不意に心の中で芽生えた“邪念”を溜息で捨て去り、俺は定休日の衣料品店を背に来た道を戻ろうとした。
「これはこれは“先生”じゃないですか」
「!?」
すると背後から聞き覚えのある見た目を裏切らないやや低めな甘い声が聞こえ振り返ってみると、ビジネスバッグを片手に持つスーツ姿の天知がいた。この男もまた、俺と同じく“生き残れなかった”側の人間だ。とはいえ世間からそう認知されていた時代はもうとっくに過ぎ去っているのだが。
「・・・天知さん・・・何で?」
「休暇で“偶然”ここを歩いていたら定休日の店の中をジロジロと眺め続けている“変質者”を見かけて誰かと思ってみれば・・・良く知る顔がそこにいたのでつい話しかけてしまったわけです」
「誰が“変質者”だよストーカーみたいにいきなり現れやがって」
「ストーカーだとは失礼だな。私は“本当に偶然”休暇でここを歩いていただけだというのに」
「・・・果たしてどこまでが“偶然”なのだか」
日曜日のお昼前にビジネスバッグとスーツ姿で商店街を“休暇”でほっつき歩く男は日本中を本気で探せばいなくはないだろうが、少なくとも
とはいえ照明の消えた店内に並ぶ“アサガヤTシャツ”をまじまじと見ていたところを思い切り目撃されてしまったのは、我ながら不覚だった。
「しかし、せっかく雨の中ここまで来たにも関わらず閉店だとはとんだ災難でしたね」
「別に災難でも何でもない。ただ久しぶりに訪ねてみたらちょうど定休日だっただけの話だ」
とにかくさっさと次の場所へと行きたい俺は不機嫌を装って、というより不機嫌さを包み隠さずさらけ出して天知を撒こうとした。
「仕方ない。そんな“困ったちゃん”の君に私からひとつお土産を差し上げよう」
「誰が“困ったちゃん”だ」
だがそんな俺を引き留めるかの如く、相変わらずのスーツ姿の天知はビジネスバッグを掲げながら立ち塞がると徐にビジネスバッグの中身を取り出す。
「チャララッチャラ~、アサガヤTシャツ~」
「オイ天知P、仕事に追われ過ぎてキャラが崩壊してるぞ?」
そして明らかにどこかで見たことのある猫型ロボット風にビジネスバッグの中から、袋に包まれ綺麗に折りたたまれた“アサガヤTシャツ”を俺に差し出した。
「Lサイズだから比較的背丈のある夕野のでも十分に着れるだろう。有難く受け取ってくれ」
「いや、受け取ったところでどうせ着ないからな俺は」
アサガヤTシャツ。照明の消えた店内に置かれていたものを見た限り一見奇抜そうに見えるが、デザイン自体は別に悪くはないのだが、俺の好みからは圧倒的にズレている。
でもそれ以上に、気掛かりな点は色々ある。
「その前に、なぜ天知さんがそのTシャツを持っている?」
「・・・いけないかい?」
核心を突く俺からの疑問に、天知は意味あり気な表情を全く崩すことなく答えた。
「特に大した理由はない。“長年の友人”にちょっとした“プレゼント”を渡すために休暇がてら
「・・・絶対嘘だろ?」
俺は知っている。普段の天知は絶対に自分から“嘘だけは”つかない男であることを。無論、天知の言う“長年の友人”が誰であるのかも一瞬で分かった。
「はい、嘘です」
「だろうな」
下手すぎる嘘を瞬時に見抜いた俺に、天知は笑いかけながら左手に書かれた“ドッキリ大成功”の文字を見せびらかす。
「だが、これを次の制作会議までに君に渡そうと思っていたことは本当だ。着るか着ないかは好きにしていいが受け取ってくれ」
「は?何のために?」
「実はこれを華と尋也がお揃いで着る部屋着として使ってみたらどうかと君に提案しようと思っていたところだった。ここで会えたことで結果的に君の部屋に向かう手間も省けたわけだけどね」
「・・・めんどくせぇな」
虎ノ門にあるオフィスからだったら
「というかまず、天知さんは何の目的で
そしてこのまま店の前から立ち去って今度こそ撒こうと考えていたが、その前に休暇で阿佐ヶ谷に来た理由を俺は尋ねると、天知はまたしても意味深そうな空気を出しながら不敵に笑いかける。
「そうですね・・・・・・少しばかり“捻った”言い方をすると“聖地巡礼”でこの街を歩いていたところですかね」
「・・・“聖地巡礼”・・・」
あの天知から出てきた“聖地巡礼”というあまりに予想外の単語に、思わず思考が一瞬だけショートする。
「・・・もしかして天知さん、意外とアニメとか好んでいたりするのか?」
聖地巡礼。本来の意味では宗教において重要な意味を持つ“聖地”に信者が赴く行為、すなわちその聖地に巡礼することを指しているが、2000年代に入って以降はアニメやドラマ、映画や漫画に小説の舞台になった土地や建物、それらの作品に登場する人物の出身地といった場所に思い入れのあるファンやマニアが“聖地”と称して訪れることをそう呼ぶようにもなった。(※諸説あり)
別に聖地巡礼は1つのジャンルに限った話ではなく偏見するつもりもないが、俺の中にある“聖地巡礼”のイメージで真っ先に思い浮かぶのは“アニメ”だ。
ちなみに俺はアニメ自体を全く観ないどころか聖地巡礼すらしたことのない人間なのだが、ちょくちょくラジオ代わりにしているニュースでそういった話題が上がっていたおかげで、アニメを全く観ない人間であるにも関わらず俺の中で“聖地巡礼=アニメ”という固定概念が無意識のうちに根付いてしまっただけの話だ。
さて、話を戻そう。
「・・・もしかして天知さん、意外とアニメとか好んでいたりするのか?」
そんな固定概念が頭の中にあった俺は、アニメの“ア”の字も感じられない天知に一応聞いてみた。
「いや、私が好んで読んでいる“小説”の“聖地巡礼”だよ」
「あぁ、少なくともアニメではないなとは思っていたよ」
やはり、“アニメ”ではなかった。ただアニメに限らず実写作品や漫画、小説に至るまで物語の舞台にファンが足を運んで赴くことは全て“聖地巡礼”になるわけだがら、間違いではない。
今回のことを踏まえて、これからは“聖地巡礼”に対する考えを少しだけ改め直そうと思った。
「てことで俺はこの後ちょっとした用事があるから失礼するよ」
とりあえず用件が済んだ俺は、聖地巡礼という名の休暇で
「・・・・・・なぜついてくる?」
北口の方向へと歩き始めて10秒、早歩きの俺の後ろをピタリとつくような背後からの確かな気配を感じながら、振り返ることなく言葉をぶつける。
無論、こんな曇天の休日に下町の商店街をほっつき歩く小説家の後ろをついてくる人間なんて、ただ一人しかいない。
「・・・さっきから言っているじゃないか・・・・・・“聖地巡礼”だって」
背後から聞こえた
「“ロケハン”の間違いだろ?」
こうして俺は、急に湧いて出てきたスーツ姿の芸能プロデューサーを引き連れる形で聖地巡礼、もといロケハンとして最初の目的地へと向かった。
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「君とこうして街の中を歩いていると、19年前に渋谷のセンター街を全力で駆け抜けた日のことを思い出すよ」
南口のアーケードを抜けたところで灰色の曇り空を見上げながら、隣を歩く天知が昔を懐かしむような口調で言葉をかける。さっきまで降っていたはずの雨は、すっかり止んでいた。
「・・・あぁ、あったなそんなこと」
「まさか覚えていないというのかい?この前も話したというのに」
「いや、その逆だ」
中2の春休み。俺が“役者になる”と決意した“あの日”のことは今でも天気を除いて鮮明に覚えている。
「・・・忘れたくても忘れられない・・・」
もちろん、忘れられるわけがない。
「・・・君の“親友”・・・・・・ついに大河で主演を張るらしいですよ・・・」
「・・・知ってる」
すると昔を懐かしむ口調はそのままに、天知はわざとらしく“親友”の話を俺に振ってきた。
「あのとき夕野と一緒に自分が出演した映画を観に来ていた悩める少女も今や大河女優・・・・・・時代は変わりましたね・・・」
「・・・そうだな」
環が再来年にスタートする大河ドラマ『キネマのうた』で主演に抜擢されたというニュースを耳にしたのは、『hole』が世の中に出回った次の日のことだった。時に理不尽な
それらを踏まえても大河ドラマの主演に抜擢されるということは芝居を生業にしている役者にとっては格別な“勲章”であり、その“価値”が何を意味するのかは俺も痛いほど知っている。
でもだからと言って“おめでとう”の一言やプレゼントのような何かを渡す手段など俺にはなく、特に嬉しさもなかった。
「あ~スミマセン。君にとって彼女の話題は“禁句”でしたね?」
ちょっとした感傷のようなものに浸りながら相槌を返した俺の神経を、天知は容赦なく逆撫でしようと仕掛ける。
「・・・・・・“禁句”だとは一言も言ってねぇでしょ」
別に“俺たち”は天知の言うように互いのことを“禁句”にしなければいけないような関係ではないし、向こうはどう思っているか分からないが俺は環のことを人として嫌いになったわけではない。
ただ単純に、互いの“関係が終わった”だけの話だ。
「・・・ならば少しは喜ばしいと思わないのか?」
「着いたぞ。ここだ」
高架橋を潜り抜けて北口に出た先にある下町風情溢れる通りを道なりに歩いて数分、俺たちは『hole』で尋也がアルバイトとして働く喫茶店のモデルになった店の前に着いた。左腕のスマートウォッチのディスプレイはちょうどランチタイムが始まる11:30を指したところだった。
「・・・やれやれ」
天知からの言葉を半ば強引に遮り、俺は“アグリス”の店内へと入った。
阿佐ヶ谷駅の北口からほど近い場所に位置する喫茶店・アグリス。ここを始めて訪れたのは、『hole』を執筆し始めた頃にモデルとして作中に登場させる店を探していた時のことだ。赤紫色のオーニングの端に白文字で小さく書かれた店名。外観もオーニングの色彩に合わせた感じで地味ながらも全体的に小洒落た雰囲気を纏っていて、店頭には黒板で作られた手製のメニュー表が置かれていて、そこにランチメニューが記載されている。
そして店内のインテリアはアイボリーの壁と木目のテーブルとカウンターで明るいながら落ち着いている。正直外観だけならここと似通ったような店は幾らかあるだろうが、この“絶妙”にどこにでもありそうな雰囲気が俺の中にあった想像と見事にマッチしていたことが、この店をモデルにしようとした決め手の一つだ。
ついでに補足しておくが、『hole』の作中に登場する喫茶店のモデルを“この店”にするにあたって店主にはちゃんと“許可”を得ている。
「いらっしゃいませ・・・」
店に入るや、俺のことを認識した瞬間にこの店のマスターでもある50代の男性店主が俺に向けて軽く会釈をする。
「(・・・どうも)」
そして俺も店主の会釈に、同じように会釈を返して4,5組の客を通り抜けて一番奥のテーブル席に座る。
「あの店主は知り合いかい?」
「知り合いってほどじゃない。俺が一時期の“常連客”だったってだけの話だ」
この店にはholeを執筆していた時期にどうしようもなく詰まった時に決まって訪れてはコーヒーとランチをご馳走していたことがある。もちろん“この店をモデルとして使っていい”と言ってくれたことへの恩もあったが、この店に来て店主のコーヒーを飲むたびに物語の続きが面白いように浮かんできた。その経験もまた、holeのストーリーに色濃く反映されていることは言うまでもない。
「今でもこの店には来るのかい?」
「いや、holeを書き終えてからは今日までご無沙汰だよ。まず行きつけとして通うには遠いからな」
ただholeを書き終えてからはすっかりこの店にも来る機会がなくなっていた。理由は俺の住むマンションから遠いことに加え、黒山から託された新作のシナリオはここのコーヒーと“決まって頼んでいたメニュー”をもってしても全く思い浮かばなかったからだ。
今まで来なくて申し訳ないという気持ちではないが、やはり久しぶりに訪れるならこんな訳の分からない“珍客”を引き連れるような真似はせず、俺一人で来るべきだったのかもしれない。
「私はこの店に入るのは初めてだが、なるほど。小説に書いてあった通り、街中を探せば幾らかは同じような雰囲気の店はありそうな雰囲気だな」
一方でテーブルを挟み向かい合った先に座る天知は、そんな俺の心の中など知らずに足を組んだ姿勢のまま目線だけを動かしつつメモ帳に店内のイメージ図を書き、“聖地巡礼”という名のロケハンのようなことを勝手に始めている。
「そりゃあ俺は敢えてそういう店を“モデル”にしたからな・・・っていうか本当に原作読んだのか?」
「これでも作品において全責任を負う立場ですから、そこはご心配なく」
「・・・さすが抜かりないな」
そもそも俺一人でしか来たことのないこの店に自分以外の誰かを連れてきたのは、今日が初めてのことだ。その一人目がよりによって
でも、もし互いに時間に余裕が出来たら今度こそ寧々にこの店を教えるか・・・
“いや、何のために?”
「お久しぶりです。夕野さん」
図ったかのような絶妙なタイミングでお冷を持って現れた店主に声をかけられ、俺は我に返る。
「すみません。最近は色々と忙しく顔を出せなくて」
「いいんですよ全然。締め切りのあるお仕事となると忙しくなるのは必然でしょうから」
何だかんだ半年ほどご無沙汰になっていたとはいえ、holeを執筆していた時に片道1時間をかけて度々“ヒントを得る”ために通っていたこともあり、俺は店主からちょっとした常連客の1人として数えられている。
「本日はこれまでのようにお一人じゃないんですね?」
そんな俺との久しぶりの会話をそこそこに、店主は早速テーブル越しに向かい合って座る天知に目を向ける。
「お知り合いの方ですか?」
「あぁ、この人は」
「どうも、私は夕野君の“友人”です」
すると天知は俺の言葉を遮り姿勢を正すと、“営業スマイル”を浮かべながら胸に手を当て“俺の友人”だと言い張りながら挨拶をする。
「(友人じゃねぇっつの・・・)・・・まぁ、そんな感じです」
心の底から全否定したかったが、余計に面倒なことになりそうなのでひとまず俺はスルーした。
「ところでご友人の方は“お仕事”で?」
スルーする間もなく、店主はスーツ姿の天知をみて声をかける。表情や口調からして、店主が明らかに仕事の合間で来ていると思い込んでいることは一瞬で分かった。
「いえ、“休暇”です」
当然ながらあくまで“休暇”としてここに来ている天知は至極真っ当な言葉を返す。しかし片や私服でもう一方がスーツ姿にビジネスバッグと、絵面的に説得力は皆無だ。
「休暇・・・ですか?」
「彼は普段からこういう格好で出歩くような“ちょっと変わった奴”なんで、あんまり気にしないでください」
とりあえず店主が本気で対応に困り始めたのを見てつかさずフォローし、どうにか混乱はひと段した。
「(・・・君に“変わった奴”だと呼ばれる筋合いはないけどね・・・)」
同時にテーブルを挟んだ先から殺気を含んだ笑みを向けられたが、気にしない。
「では、何に致しますか?」
「“いつもの”で」
ひとまず余計な会話を終わらせる選択をした店主は俺たちにメニューを聞いてきた。無論俺はメニュー表などを一切見ずに注文した。
「かしこまりました」
ほぼ半年ぶりの注文だったこともあり伝わるかどうか内心不安だったが、店主は一瞬で“いつもの”メニューを思い出して頷いてくれた。
「ご友人様は?」
「では、せっかくですので同じメニューでお願いします」
「かしこまりました」
そして天知もメニュー表に一切目を通すことなく俺と全く同じメニューを店主に注文し、注文を受け取った店主はそのまま俺たちに一礼して厨房へと戻って行った。
「・・・・・・19年前に初めて会ったときはラテの1つを頼むだけで四苦八苦だったはずの君が、喫茶店のマスターに“いつもの”と注文する姿を見る日が来るとは・・・もしかしたら私たちは互いに思っている以上に歳を取ってしまったのかもしれませんね・・・」
店主が厨房のほうへと入ったのを目視した天知が、今日で二度目の“過去の話”を俺に持ち掛ける。
「さっきからむやみやたらに19年前の
「“わざと”だなんてとんでもない。偶然にも連想させるような場面が立て続けに起こっているだけのことさ」
「・・・じゃあいちいちそれに反応するなよ」
あの日、俺は天知と環の3人で“天馬心”に寄って
もしもあの日の俺が今の“俺たち”の姿を見たら、役者になることを諦めてくれるのだろうか?そうなったら“俺たち”は今でも変わらずにいられたのだろうか・・・?
“そんなタラレバ・・・・・・考えるだけ時間の無駄だ・・・”
「・・・・・・言っておくが今日は感傷に浸るためにここに来たわけじゃないからな?」
「はいはい、分かっていますよ」
「・・・やはりアーケードのところであんたのことは撒いておくべきだった」
天知の言葉で何度も感傷に浸りかける心を誤魔化しながら、俺はこの店に訪れるたびに注文していた“いつもの”メニューが来るのを待った。
どなたか我こそはという方がいましたら、是非とも呪術×チヨコエルのクロスオーバーを書いてクレメンス。(なお作者も一度だけ挑戦してみたことがあるものの、1話と持たずに挫折した模様)
ついでにぶっちゃけると作中に登場する小説『hole』に登場する華の名前のモデルは、言うまでもなくクルスエルです。あくまで名前だけです。はい。
ちなみに読みは華(はる)になります。“はな”ではありません。
ということで今日は、3年ぶりに聖地“鈴鹿”に帰ってきた最速の頂上決戦、日本グランプリをリアタイで見届けたいと思います。
がんばれ、つのっち