1999年11月13日_府中霊園_
ちょうど2年前に33歳の若さで不慮の死を遂げた1人の男の三回忌となるこの日、府中霊園にあるその男のお墓には全国からファンの人たちが彼を偲ぶために献花に訪れていた。
『続いてのニュースです。一昨年の11月13日に33歳の若さで急死したミュージシャンで俳優の
『府中霊園に来ています。普段であれば敷地内の遊歩道を歩く人の数はまばらなのですが、乾由高さんの三回忌にあたる今日は土曜日ということもあって彼を偲んで全国から若者を中心としたファンの人々が次々と献花に訪れており、あいにくの空模様であるにも関わらずまるで行楽シーズンのような人通りを成しています。“表現者”として絶大な支持と影響力を博していたカリスマの早すぎる死から2年、彼の存在は未だに根強く多くの若者たちの心を突き動かしています』
『由高さんの生まれたこの街に来ると・・・今でもどこかで由高さんが私たちのことを見てくれている気がする・・・・・・きっとそう』
『“
『もうここにはいないのかもしれないけれど・・・彼が生きていた証は時代となって永遠に残ります・・・・・・だからこれからもずっと、どんな形であろうと私は死ぬまで彼のことを変わらず応援し続けます』
『乾由高の音楽と芝居、何より“表現者”としての生き様は、何の取り柄もなかったいじめられっ子の僕に生きる希望と、自分を信じて最後まで困難に立ち向かう勇気を与えてくれました・・・・・・本当に彼は、僕の人生を変えてくれた偉大な存在です。勿論、これからも』
マスコミと民放各局はこぞって乾由高の三回忌に関連した内容を取り上げ、この日のワイドショーは彼の話題で視聴率を取り合っていた。
「なあ?最近妙にバラエティー番組多くね?」
夜の10時過ぎ。朝8時から丸々12時間の撮影を終えて家に帰って来た憬は、 “遅めの夕飯”を食べながら独り言を呟く。
「えっ?そう?」
その独り言に、台所に立つ江利が食器を洗いながら言葉を返す。無論、夕野家のテレビに映っている番組は“ホット”な話題を取り上げている土曜夜10時のワイドショーではなく、裏番組のトークバラエティーだ。
「普段はちっとも興味ねぇくせに」
このところ、というか『ロストチャイルド』の撮影期間に入ってからというもの、夕野家のブラウン管に映し出される映像の比率はバラエティー番組が増えている。まぁ、特にこの時間帯は俺的にこれといって目当ての番組はないから別にいいのだが。
「たまには良いじゃない。丸一日ニュースも映画も見ない日があってもさ?」
ちなみに普段は俺と同じくバラエティー番組なんて滅多に観ないかチャンネルを合わせてもただラジオのように無表情で聞き流すような母ちゃんだが、年に1度くらいのペースで急に大して好きでもないバラエティー番組ばかりを観るような日が続くことがこれまでにも何度かあった。
深い理由は分からないが、母ちゃん曰く“たまにはこういう日があったほうがいい”ということらしい。
「それにさ、案外こういう全く興味のない番組だとか本を読んでみたら、案外それが役作りに繋がったりするかもよ?」
「別に興味のないやつを観たり聞いたりしたって・・・」
食器を洗いながら俺に話しかけてくる母ちゃんの言葉が耳に入り、俺は“興味のないものに時間を使うのは無駄だ”と言いかけて、ふと言葉が止まった。
「・・・興味のないやつか・・・」
『ロストチャイルド』の撮影も気が付けば後半に差し掛かり、来週末にはついに入江が演じるリョウコとの撮影シーンを撮ることになっている。それが終わればストーリーは渡戸の演じる主人公のショウタが中心の話に戻っていくため、週末に撮る予定のシーンが俺の演じるユウトにとっては事実上“最後の見せ場”となる。
撮影が始まってからというもの、俺はどうにかこここまでユウトを演じ切ることが出来ている。でもそれはドラマや映画を参考にしたわけではなく、全てユウトに近づくために紆余曲折の“実体験”を得てきたからこそだ。
“・・・確かに・・・ドラマや映画を観ているだけじゃ分からないな・・・”
俺と渡戸が2人だけで実際にそれぞれの思い出の場所を訪れて“
「・・・ありがとな母ちゃん・・・参考になったわ」
「・・・・・・大袈裟だな~」
「何か言ったか?」
「えっ?いやぁ、役者頑張ってるな~ってさ」
「当たり前じゃん」
冗談半分の気持ちで言ったアドバイスを真に受けた憬に、江利は少しばかり戸惑いを見せつつも笑顔でエールを送った。
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時間を少し遡り、同日の午後3時。スターズの社長室ではアリサがデスクの上にある無数の資料に目を通していた。
“・・・そろそろ路線変更を視野に入れたほうが良さそうね・・・”
世間が休日であるにも関わらず、“安定期”に入った身体を労わるように自身のオフィスチェアに座り、いつもと変わらぬ様子でアリサは自分の仕事をこなす。今日もつい10分ほど前まで、所属俳優でもある山吹の出演する予定のドラマに向けた打ち合わせに参加していた。
自分が気を休めば会社も停滞してしまうように、芸能事務所の社長という仕事は超が付くほどハードである。
プルルルル_プルルルル_
デスクに置かれている電話が鳴り、アリサは資料に目を通したまま2コール目で電話に出る。
「はい」
『
「通してちょうだい。それと、あなたに言った“友人”というのはあくまで例え話だから真に受けなくていいわよ」
『かしこまりました』
秘書の
“・・・2年ぶりになるわね・・・あなたと話すのは・・・”
今からちょうど20年前、当時勢いに乗り始めていた芸能事務所が次世代のスターを発掘するために“ある映画”に出演するヒロインを決めるオーディションを企画した。そしてヒロイン役を決めるオーディションの最終選考に残ったのは、共に
1人は地元の劇団と演劇部を掛け持ちしながら何度もヒロインとして舞台に上がった経歴を持ち、この映画のオーディションの度に故郷である広島と東京にある会場を行き来しながらも最終選考までのし上がった、女優を夢見る活発で
もう一人は趣味である読書をするため学校帰りに図書館へ向かって歩いていたところをスカウトされ、“何となく”の気持ちでオーディションを受けてそのまま最終選考まで勝ち残った、東京生まれ東京育ちで芝居経験皆無の寡黙な文学少女。
そんな最終選考に残った2人の少女こそ、1980年代からの邦画界を牽引し、10年以上に渡り“天才女優”として芸能界で共に名を馳せることとなる“星アリサと入江ミチル”であることは、今では有名な話。
「失礼します・・・」
電話から約2分、ノックと共にアリサにとって20年来の“友人”であり“
この2人が面と向かって直接会うのは、およそ2年ぶりとなる。
「・・・お久しぶりですね・・・“星さん”・・・」
「・・・相変わらず、私のことを“苗字”で呼ぶのはあなたぐらいしかいないわ。ミチル」
開口一番、ミチルは穏やかで優しげな声色と氷のように微動だにしない表情で彼女しか使わない“呼び名”でアリサに話しかける。そんなミチルにアリサはほんの僅かに笑みを浮かべながら言葉を返すが、オフィスチェアに座ったまま2年ぶりに会う“友人”を見つめる
「まさかあなたとの再会がこんな場所になってしまうなんてね・・・これだけは先に謝っておくわ」
「謝らなくて結構です。あなたが社長業で非常にお忙しいことは既に聞いておりますので」
来客として訪ねてきた自分を見つめる冷たい瞳を、ミチルもまた感情が抜け切った蘇芳色の瞳で真っ直ぐに見つめる。互いに表側に憎悪の感情が全く出ていないにも関わらず、この2人が同じ空間に立つだけで周囲の空気が映画や舞台でのシリアスなワンシーンを彷彿とさせる独特な重苦しさで覆われていく。
「とりあえず来客を立たせ続けるわけにはいかないから、そこのソファーにでも座ってちょうだい。続きはお茶でも飲みながら話しましょう」
「・・・わかりました。ではお言葉に甘えて」
こうして2年ぶりに再会したかつての“ライバル”同士は何とも言えないギスギスした微妙な距離感を保ったまま互いに表情だけを和らげ、ミチルはアリサの座るデスクの前にある応接間のソファーに座った。
「手伝いますか?」
「
「・・・そうですか」
そしてアリサは応接間のソファーに座ったミチルに自らお茶を淹れる。その様子を見つめるミチルは、よく見ると“身籠っている”ことが一目でわかる程度に膨らんだお腹に視線を向ける。
「・・・その身体でよく事務所に来て普通に仕事ができますね?」
「こうでもしないと
「無茶をしたらお腹の中にいるお子さんの健康にも悪影響が出るかもしれないというのに」
「これでも妊娠が分かってからは出来る範囲でセーブしているわ。もちろん身体の状態を考えていずれは休みを取らせてもらうつもりよ」
限りなく無に近い表情を変えぬまま心配事を呟き続けるミチルに、アリサは表情を崩さずに淡々と言葉を返しながら淹れた紅茶の入ったティーカップをミチルの前に置く。
「・・・紅茶、ですか」
「そうよ」
子を身籠っている身体であるにも関わらずカフェインの含まれた紅茶を目の前に置いたアリサに、ほんの少しだけ“嫌な予感”を感じたミチルは“念のため”に聞いた。
「妊娠中のカフェイン摂取は控えたほうがいいのでは?」
「心配しないで。私は飲まないから」
だがミチルからの“念のため”の心配事にアリサは表情を変えることなく飲まないことを告げると、自分の分は置かずにそのままガラステーブルを挟んだ反対側のソファーに座る。
「それを聞いて安心しましたよ・・・」
ソファーに座ったアリサを無言で見つめながら、ミチルは安堵の言葉をかけつつもその感情を表に一切出すことなくアリサの淹れた紅茶を一口だけ口に運ぶと、手持ちで持っていた紙袋の中から、丁寧に包装された差し入れを差し出す。
「これは?」
「たんぽぽ茶です。つまらないものですが今日のお礼として」
だが、ミチルがバッグから出した差し入れのたんぽぽ茶のパックを見たアリサは、少しばかり怪訝な顔をする。
「どうしました?」
「珍しく気遣ってくれたところ悪いけど、あまりたんぽぽを使った飲み物は好きじゃないのよね、私」
「そうなんですね」
「試しに一回だけ飲んでみたけれど、“土っぽい”味が私には合わなかったみたい」
「・・・なるほど」
と、ここで一旦補足を挟むが、たんぽぽ茶はカフェインを一切含んでいないにも関わらず“コーヒーに近い”味わいが窘めることができ、実際のところその味は“コーヒーと麦茶の中間”とも言われている。変な誤解を招かないために言うが、アリサの口に合わなかったというだけで、断じて不味い代物ではない。
「でしたら
「・・・そういう問題じゃないけれど・・・ありがたく頂くわ」
「・・・ありがとうございます」
アリサが差し入れのたんぽぽ茶を飲めないことを知ったミチルは、表情はそのままに口調を穏やかに和らげながらその差し入れを“
「さっきから悪いわね・・・気を遣わせて」
「いえいえ、これらも全て星さんのためを思ってのことですので」
互いに距離感がありぎこちなさがありながらも、差し入れのたんぽぽ茶をきっかけに社長室の空気は少しずつだが穏やかになり始めていた。
「ところで久しぶりの“現場”は楽めているかしら?」
「そうですね。まだ“本格的な復帰”というわけではありませんので何とも言えないですが、悪くはないですね」
テーブルを挟んだ向かいに座るミチルに、アリサは彼女の復帰作となる映画の話題を持ち掛ける。
「確か紅林くんや久美子もその映画に演者として選ばれていると噂で聞いているけど、2人は変わらず元気にやっているの?」
「紅林さんは以前と変わらずですよ。杜谷さんは・・・直接的に共演するシーンがないのでよく分かりませんが、彼女もお変わりないですね」
「それにしても意外ね。巨匠と呼ばれている名だたる“先生方”の作品に何度も主演として出ていたようなあなたが・・・“鬼才”と呼ばれている若手の映画監督からのオファーを引き受けるなんて」
「たまにはこういう仕事を引き受けることも悪くはないと思っただけです」
「その割には随分と挑戦的じゃない?」
「普通のことですよ。元からわたしは仕事を選ばない口ですので」
「・・・あらそう」
「はい・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
テーブルを境目にそびえる“見えない壁”をこじ開けるように、どうにかアリサは質問攻めをして会話を繋げようとするが、相変わらず表情も感情も微動だにさせず淡々と話すミチルとの会話は長続きせず、せっかく穏やかになりかけていた2人の間に流れる空気が、気まずい沈黙と共に不穏へと変わる。
「・・・はぁ・・・全く、
沈黙から10秒。初めて会った時から“芝居をしているとき”以外では全くと言っていいほど感情が動かないミチルに、しびれを切らしたアリサは溜息交じりに皮肉とも取れるような言葉を返して沈黙を破る。
「・・・逆に今の
その言葉に対するミチルの何気ない一言をきっかけにして、再び不穏になり始めていた2人の間に流れる空気が一気に重くなり始めた。
「あらそうかしら・・・?私はいつでも自分の気持ちに正直なままで過ごしているつもりだけれど?」
「今の自分が置かれている“現状”がですか?」
「そうよ」
「芸能事務所の社長として膨大な数の資料に目を通して、表舞台に立つ演者のために西へ東へ奔走するような今の生き方は、誰よりも“お芝居を愛していた”あなたにとって本当に幸せなんですか?」
共に価値観や生き方が正反対で、共に超が付くほど我が強い2人の“
「私は自分のような“不幸な役者”をこれ以上増やしたくはない、これから生まれてくる子供たちが芝居によって“不幸”になって欲しくない。
「果たして人として“不幸”にならないことが、役者にとって“本当の幸せ”なのでしょうか?」
「それで心を壊してしまったら元も子もないじゃない」
「でも芝居で心を壊すような役者なんて、誰もがあなたの遠ざけようとしている“不幸”と向き合わなかった
「芝居で心を壊した人間の前でよくそんなことが言えるわね」
互いに限りなく無表情に近い感情で冷淡に言葉を交わしながら、互いが互いの“思い”を抱えて一歩間違えれば殴り合いの喧嘩になりかねない空気の中、2人は一触即発の言い争いを続ける。
こうなるともう、歯止めが利かない。
「さすがに“悪趣味”がすぎるんじゃないかしら・・・・・・ミチル」
「・・・“悪趣味”だなんてとんでもない・・・・・・先ほどからわたしはただ、思っていることを“そのまま”口にしているだけです」
「・・・・・・その言葉に“悪気が全くない”ところが・・・あなたの一番
無論これは今に始まったことではなく、2人の仲が良いのか悪いのか分からない関係性は初対面の頃から何も変わっていない。
「・・・きっとあなたのような
ただ初対面から20年の月日が経ち、2人の関係性は“
「・・・随分と酷いことを言うようになりましたね・・・・・・星さん」
「あなたにだけは言われたくないわ」
明確な悪意を持ったアリサの一言で“すっかり変わってしまった友人”を見つめるミチルの瞳が、ほんの一瞬だけ意味深に震える。
「それに・・・私はミチルのためだけに女優として生きていたわけじゃないわ。だから私がこの先どうなろうと、あなたがそれをとやかく言う権利はないのよ。お分かり?」
一瞬だけ表に出たミチルの感情を“動揺”と感じ取ったアリサは追い打ちとばかりに突き放すような言葉を投げかけるが、ここで2年ぶりに会う手筈を整えた時点で覚悟を決めていたミチルは全く動じない。
「その程度のことは言われなくても承知していますよ。ただ・・・今のあなたはあなたの言う“有望な俳優”の未来を利用して、“受け入れるべき現実”から逃げているようにしか見えません」
「・・・ミチルにしては面白いことを言うじゃない」
そしてかつての友人から放たれた正直な“本音”に“仮面”で覆い隠していたはずの感情が外れたその瞬間を、ミチルは見逃さなかった。
「あなたはお芝居によって心を壊してしまった自分のような思いをさせない為と思っているのでしょうけれど・・・・・・そのやり方では却って“俳優の未来”を奪ってしまうかもしれませんよ?」
「わざわざ
「文句ではなく忠告です。自分の求める幸せを他人に押し付けるような真似をするのは人として最低だと星さんも思いませんか?」
「そうやって
「その“世迷言”と同じような言葉を、2年前までのあなたは口にして」
「“アナタ”なんかに私の何が分かると言うのよ?」
ミチルからの“悪意のない悪意”に、アリサは言葉を遮り普段よりも1テンポほど早い口調で内に秘めていた心情を溢した。
「・・・やっと出てきましたね・・・・・・本当の“
冷静さを保ちながらも口調や声のトーンが“昔”のように戻ったアリサの言葉を遮ったミチルは、内に秘めた感情を覆い隠す“氷”をゆっくりと溶かしていくように表情を緩ませて、静かに微笑む。
「・・・・・・なるほどね・・・・・・これで“満足”かしら?」
“術中にはまってしまった”ことを理解したアリサは、“何も変わらない友人”に対する憤りの感情を溜息を交えながら皮肉で返す。
「すいません。“芸能事務所の社長という仮面”を被ることを強いられている星さんが“あまりにも可哀想”で・・・・・・だからあなたにはせめてわたしといる時だけでも“素の顔”でいて欲しくて・・・これは私からの純粋な気持ちです」
「あなたの言葉に“悪意”がないことぐらい・・・初めて会った時から知っているわよ」
そんな自分を穏やかな笑みで見つめる“何一つ偽りも悪意もない”純粋な感情から発せられたミチルの言葉が意味するものを、アリサは一瞬で理解した。
「・・・・・・本当に“狂っている”わね・・・ミチル・・・」
「・・・“狂っている”のはお互い様じゃないですか・・・・・・星さん」
最終オーディションの席で出会ったミチルは、暇さえあれば小説を読み漁っているような無口な女の子で、まるで“疑う”ことを知らない“純粋すぎる”心の持ち主だった。だから彼女は私よりも早いスピードで芝居というものを“自分の身体”に吸収していった。
“『栄えある最優秀主演女優賞は・・・・・・・・・『
そして女優として芸能界の頂点まで駆け上がる途中で何一つ疑わずに身の回りの
「・・・少なくとも女優だった頃は、私もそうだったわ」
もちろん同じ“表舞台”に立っていた“女優の私”も、確かに“狂って”いた。だから私は心を壊してしまった。結局私はミチルや“おねえさん”のように、“その先”にある“場所”に辿り着くことが出来なかった。
「でも・・・“あなたたち”ほどじゃない・・・」
「そうでしょうね・・・・・・だからあなたは“終わって”しまった・・・」
不思議なものね。2年前に会った時までは
あなたは20年前のオーディションで初めて会った時から、何一つ“変わっていない”はずなのに・・・・・・
“・・・やはりあなたとは・・・・・・“2年前”に全てを終わらせておくべきだった・・・”
「・・・さて、こんな淀んだ空気がいつまでも続いたらお腹の中にいるお子さんが可哀想ですから、そろそろ互いに近況報告の続きでも話しましょう」
「誰のせいでこんなことになったと思っているの?」
何の悪気もなく会話の流れをぶった切るように会うための口実となる“本題”をミチルが切り出すと、アリサは感情に蓋をすることなく堂々と憎悪の感情をミチルにぶつける。
「悪いけど、今すぐここから出て行って・・・・・・どうやら今日は虫の居所が“すこぶる悪い”みたいだから・・・」
応接間のソファーにくつろぎながら紅茶を口へと運ぶミチルに向けた感情は、
「・・・そうですか・・・今日は星さんとお話ししたいことが“山ほど”あったのですが・・・・・・“お子さん”がいるとなると仕方がないですね」
「・・・・・・」
そんな“友人”の感情を受け取ったミチルは、再び感情に蓋をするとティーカップに半分ほど残っている紅茶をそのまま残してゆっくりと立ち上がり、“失礼しました”と軽く会釈をしてゆったりとした足取りで真っ直ぐ社長室の出口へと向かう。
「・・・・・そういえば・・・・・・」
そして扉の取っ手に手をかけたところでふと立ち止まり、振り返ることなくミチルはソファーに座り込んだままのアリサへ言葉を投げかける。
「・・・“乾君”の命日・・・・・・今日でしたね・・・」
「・・・・・・・・・そうね」
5秒ほどの沈黙の末に自分のもとへと返ってきた背後からの声を合図に、ミチルは扉を開けそのまま社長室を後にした。
「・・・・・・酷い
扉が閉まり、自分1人以外に誰もいなくなったことで社長室は一気に静まり返った社長室で、ソファーに座ったままアリサは感情が昂ってしまった自分を溜息ついでに恥じる言葉を漏らして、気持ちを落ち着かせる。
“『手前が求める幸せを他人に押し付けるような人間だけは、俺はどうしてもいけ好かねぇ』”
映画デビューがかかった最終審査でミチルに敗れたとき、オーディション会場だったビルの通路の隅で人目を避けながら
当然、恩師の言っていた言葉も“正解の1つ”ということは否定しない。そもそも
だとしても、自分や“
“心を壊さなければ“役者”になれない・・・・・・そんな“残酷”な世界はもう・・・二度と見たくない・・・”
「・・・
膨らんだお腹に優しく手を当てて胎の中で眠る我が子に静かに言葉をかけると、アリサはゆっくりとソファーから立ち上がり、複雑怪奇に身体中を駆け巡る纏まりのない感情をリセットさせて自分のデスクへと戻った。
※実際に『化身(読み:けしん)』というタイトルの映画が実在しますが、劇中に登場する『化身(読み:ばけもの)』とは一切関係ございません。
そしてさり気なくですが、あのキャラクターの本名が明らかになりました・・・・・・ちなみに読みは違えど“慧”という名前の有名人は意外にも多かったりする・・・・・・
知らんけど