・新名夏(にいななつ)
職業:アイドル
生年月日:2000年12月24日生まれ
血液型:A型
身長:162cm
“『ねぇ聞いた?転校してきた3組の城原千夜子って子、あの“百城千世子”らしいよ?』”
私がアイドルになるよりも、女優になりたいと卒業文集に夢を書くよりも前の、小学4年の春。隣のクラスに“城原千夜子”という名前の転校生がやってきた。私が通っていた小学校に転校してきたときには彼女はもう“子役”としてそこそこ注目され始めていたけれど、私にとってはあくまで何かのCMで見たことがあるぐらいの認識だったし、あの頃の私はまだ“女優という職業”には将来の夢にしたいと思うほどの憧れは持っていなかったから、“すごい転校生が来たな~”ぐらいにしか思っていなかった。
“・・・どんな人なんだろう・・・”
“・・・綺麗・・・”
そこにいたのは、転校生に話しかける同じクラスの子たちの輪がすべてただの“背景”になってしまうほどの
あの日から、城原さんは私にとっての“憧れ”になって、私にとって女優になることが“夢”になった。
“『オイ、今度のドラマは百城千世子が主役らしいぞ?』”
やがて城原さんは転校してからすぐに
だけど城原さんは勝手に自分と距離を置き始めた周囲のことなどどこ吹く風で、淡々とした様子で一日を過ごしていた。どこを切り取ってもドラマのワンシーンみたいに華やかな彼女に私は話しかけようと無謀にも何度か機会を伺ったこともあったけれど、終わってみれば“その他大勢”と同じく彼女の独特な“オーラ”に気負けして、何もアクションを起こせなかった。その度に私は自分が彼女とは何もかもが“正反対”だということに気付かされた。
“・・・どうせ私なんて・・・”
私は変わらず城原さんに憧れ続けていた。“百城千世子”が出演している作品はドラマ、映画を問わず鑑賞して、ドラマや映画の宣伝で出演するバラエティー番組まで欠かさずチェックしていた。そうして人気子役・百城千世子として活躍する城原さん、もとい“女優”への憧れは日増しに強くなっていったけれど・・・自分が城原さんと比べるとあまりにも“違いすぎた”ことが心の中で“リミッター”になって、“
“『このハンカチ、あなたのでしょ?』”
きっかけは本当に些細なことだった。掃除の時間に何かの拍子で自分のハンカチを落としてしまうという漫画みたいに“ベタ”なうっかりをしたときのこと。
“『・・・そう、ですけど・・・どうして?』”
“『ちょうどあなたのズボンのポケットからハンカチが落ちるのが見えたから』”
私が廊下のどこかで落としたハンカチを、“隣のクラスの城原さん”が拾って渡してきた。ただそれだけのことだった。
“『次からは落とさないようにね』”
“『はい・・・・・・ありがとうございます』”
これが、小学生のときに城原さんと交わした唯一の会話だった。でも、私が落としたハンカチを拾って渡してきたときの“どこにでもいる女の子”な感じの微笑んだ表情を視た瞬間は、今でも忘れられない。もの凄く変な例えになるけれど、城原さんもちゃんと“私と同じ女の子”なんだということに気付かされた。まぁ、考えるまでもなく城原さんは生まれたときから私と同じ“
“・・・そっか・・・・・・勝手に“テレビに出てる人”だとか、“百城千世子”だからとか言って勝手に距離を置いてただけで・・・・・・城原さんも私と同じ“ただの女の子”なんだ・・・”
そして、絶対に近寄ることすらできないと思っていた憧れの存在が目の前で微笑んだ瞬間から、“今”に繋がる私の無謀な“思い上がり”は始まった。
「・・・・・・城原さん」
声が聞こえ振り返った先にいたのは、手を後ろに組みながら初めて会ったときと同じ表情で私に微笑む、“同じクラス”の城原さん。
「その名前で呼ばれるのはほんとに久しぶりだよ」
「・・・そうなんですね」
「だって私のことを“城原さん”って呼んでくれるのは新名さんと学校の先生ぐらいだから」
「確かに、他のみんなは城原さんのことは“百城千世子”としか呼びませんからね・・・」
ちなみに私は彼女のことを学校では“城原さん”という本名で呼んでいる。多分、というか絶対に彼女のことを未だに本名で呼んでいる芸能人は、この学校はおろか地球上で私だけだと思う。
「・・・あと、お久しぶりです」
ただ私はトップアイドルとして、百城千世子こと城原さんはトップ女優としてそれぞれ多忙で彼女を本名で呼ぶ機会は数か月か半年に1回あるかないかぐらいしかないから、実際に会って話してみると何を話したらいいのか分からなくなる。
「えっ?あぁ、そっか。新名さんと会うのは1学期の始業式以来だからね」
“天使”の二つ名に相応しいキラキラした表情で答える城原さんの言うように、私と城原さんがこうやって面と向かって会うのは5ヶ月前の始業式以来。でもあの日はどちらも
「中々会えないからね~“私たち”ってさ?」
「・・・ですね」
ある意味だと、これは“有名人”の宿命みたいなもの・・・って言いきっちゃうと凄く嫌味っぽいから、決めつけるのはやめよう。
「・・・そういえば髪型変えました?」
「おっ、よく気づいたね」
「だって、私の知ってる城原さんはハーフアップじゃなくて後ろ髪を1つ結びにしてたから・・・」
とりあえず気まずくさせてしまうのはいけないと思い、私のせいで止まりそうな会話を“少しだけ髪型を変えた城原さん”の話題でどうにか繋げる。街中に飾られたビジョンや看板越しに街ゆく通行人をクールに微笑みながら見つめる“天使”とは違う、大人しめの髪型とお洒落というより“実用的”という単語が合いそうな地味めな伊達眼鏡をかけた、どこにでもいる“普通の女の子”みたいな雰囲気の学校での城原さん。
「よく覚えてるね・・・学校の中で一番話してる新名さんですらとっくに忘れてると思ってたよ」
けれどもどれだけ天使から離れた“武装”をしても、女優・百城千世子として私以上に大衆を虜にしている彼女しか持ち合わせていない“魅力”を前にすれば、全てが“武器”になってしまう城原さんの美しさ。
言ってしまえば、私もそんな彼女の“
「忘れるわけないじゃないですか・・・・・・だって城原さんは子役として活躍していたときからずっと私にとっての一番の“憧れ”ですから・・・これぐらいの変化は気付けて当然です・・・」
私の人生観に現在進行形で影響を与え続ける“憧れ”に久しぶりに会えた純粋な嬉しさか、もしくはアイドルとして“最後の壁”にぶち当たっている自分の前に突如現れた“天使”に助けを求めたくなってしまったのか、どっちでもないのかは分からないけれど、私は無意識に言うつもりのなかった“らしくない言葉”を城原さんにぶつけた。
「・・・・・・あ、あの、これは違うんです!いや、違うんですっていうのも違うんですけど・・・」
最悪だ。なに城原さんに対して偉そうな口を叩いているんだこのバカ。身の程っていうのを弁えろ新名夏・・・あぁもう、なんで私はいつもこう・・・
「・・・大丈夫?新名さん?」
自分で蒔いた種で頭がいっぱいになった私に、城原さんはいつもと変わらない調子で声をかける。
「・・・ごめんなさい。つい上から目線みたいな言い方を」
「何で謝るの?私は新名さんからそう言って貰えて本当に嬉しいのに」
そして快晴の空に照らされ輝く天使みたいにふっと笑うと、後ろで組んでいた右手からそっと購買で買ってきたパンを私に差し出す。
「これって」
「購買で買ってきた。ほんとは授業が終わって事務所に移動する途中でもう一個食べようかなって思って2個買っちゃったけど、やっぱり新名さんにあげる」
「えっ・・・本当にいいんですか?あの、自分の分はお支払いしますので」
「いいよいいよ私が余計に買っちゃったってだけだし」
と、ここで一旦話を遮って補足を挟むが、千世子と新名が通っている霧生学園には購買と学生食堂がそれぞれあるが、どちらも一箇所にしかないため昼休みの時間になると芸能コースとその他のコースの生徒も関係なくこの場所で昼食などを買って食べている。ちなみに同校は髪型や身だしなみといった面に関してはある程度の自由が許されている反面、芸能コースの生徒との写真撮影及びその様子をSNS等に投稿した場合は“校則違反”として最大で半年間の停学処分(悪質性が高いなど場合によっては一発で退学)となり、これを2度行うと問答無用で“退学処分”になるなどモラルの面に関しては非常に厳しくなっており、握手やサイン目的での接触も校則で禁じられている。
それらが影響してか、芸能コースの生徒が購買や食堂を利用しても混乱が起きることはない。
「それに、“腹が減っては
「・・・すみません・・・では、お言葉に甘えて」
昼を“ウィーダーゼリー”だけで済ませようとしていたことを見抜いたかのような城原さんの笑みに根負けする形で、私は彼女が購買で余計に買ってきたという霧生学園で1,2を争うくらい人気の“トライアングル”を受け取り、隣り合わせになって3メートルほどの高さのあるフェンスを背にして地べたにしゃがみ込む。
“『こんなところで何してるの新名さん?』”
思い返せば、城原さんと学校でまともに会って話す
「あ、そうだ。昨日Mステ見たよ。録画だけど」
「えっ、本当ですか?」
「うん。トークは相変わらず“タジタジ”だったけど、曲に入ったら“いつも通り”の安定感でさすがトップアイドルだな~って思った」
「あはは・・・・・・大変恐縮です」
そして私は左隣の地べたにしゃがんで嬉しそうに先週のMステのことを話す横顔に憧れ続けて、今日までずっと前に進み続けてきた。
「トークのことはツッコまないんだ?」
「えっ?まぁ、あれはもう言われちゃっても仕方がないというか・・・城原さんなら分かると思いますけど、私ってあんまり話すのが得意なほうじゃないので」
「それは“なっちゃん”を見てきた人ならみんな知ってるよ」
「・・・ひょっとしてディスってますか?」
「ゴメンゴメン、言い方が良くなかったね。でもそういう新名さんの何一つ飾らない“ありのまま”な
「自分のことは特に“努力家”だとは思ってないんですけど・・・城原さんからそう言ってくれると、嬉しいです」
「あははっ、新名さんは本当に素直だなぁ~」
「あの・・・揶揄われるのはそんなに得意じゃないというか」
「別に揶揄ってなんかないよ。ただ私は真っ直ぐで健気な頑張り屋さんのことを見てるとほっとけなくて、ついつい声をかけたくなっちゃうってだけだから」
「・・・そうですか」
だけど私は未だに、自分だけを見つめるカメラと一緒に人生の半分以上の時間を過ごしている城原さんの本当の気持ちをほんの少ししか分かってあげられずにいる。
「今日だって“先週のMステ”のパフォーマンスが“良くなかった”から、さっきみたいに自主練してたんでしょ?」
「別に・・・完璧でも自主練くらいはしますよ。それが“アイドル”ですから」
「(“なっちゃん”は分かりやすいな~、まるでどっかの“夜凪さん”みたいに・・・)・・・ふ~ん」
一方で城原さんは、傍から見たら“いつも通り”で全く問題なかった自分に納得していない私の気持ちを、いとも簡単に読み取ってしまう。あの“3分間”の裏側なんて、視聴者の1人にしか過ぎない彼女が知っているはずもないのに。
「それから1ヶ月後には卒業も控えているし、何より後楽園ドーム公演は紀伊国坂46にとっての“念願”でもあるので、少しでもコンディションは上げていかないと私はみんなに迷惑を」
「やっぱり新名さん焦ってる」
「え?」
「だって視線が分かりやすく右のほうに向いてたから」
「・・・嘘」
「嘘じゃないよ。紀伊国坂のメンバーと一緒にいるときまでは知らないけど、少なくとも私と一緒にいるときに今みたいに心配させまいと“つよがる”ときは、決まって新名さんは視線を少しだけ右に逸らす癖があるのはお見通しだからね?」
私が城原さんのことを視ていた時間は、少なくとも彼女が私のことを視ていた時間よりも明らかに多い。
「さすが・・・トップ女優の勘の鋭さは凄いですね」
「・・・新名さん。言っとくけどこれは私が女優だからあなたのことが分かるとか、そんな難しいものじゃないから」
「・・・じゃあ、なんですか?」
だけど、せっかく物理的な距離はここまで近づけたのに、城原さんは私にここまで“近づいている”のに、私だけが彼女に憧れを抱いた日からちっとも“近づけていない”。どんなに私が前に進んだとしてもあくまでそれは“アイドルの世界”の中にすぎない話で、“芝居の世界”をたった1人で突き進む彼女との距離は、何一つ縮まっていない。
隣にいる城原さんから
「う~ん・・・何て言えばいいのかな・・・・・・敢えて例えるなら、アイドルじゃないときの新名さんのことを、新名さんの家族と紀伊国坂のメンバーの次くらいには知ってるつもりの“推し歴5年”の自信・・・みたいな?」
でも、
「・・・それを言うなら・・・・・・私は“推し歴8年”です・・・」
そんなどうしようもなくくだらない心の内側が、思いもよらない言葉として口から溢れた。とりあえず、いまの私は堂々とした顔と視線で城原さんのことを視ている。
「・・・・・・ん?」
「えっ?」
案の定、頭の上に
多分、“自覚”したらその瞬間に恥ずかしさで“悶絶死”するから。
「・・・ちょっと整理するね・・・え~っと、私が“推し歴5年”で、新名さんが・・・何だっけ?」
「あ、いや、何でもないです」
「あ~思い出した“推し歴8年”か~・・・で、それがどうかした?」
「・・・・・・とりあえず“天使”に生意気な口を叩いた無礼者な私の顔を二回ぶってください」
「さすがにトップアイドルの顔に傷を付けるのは“万死に値する”
「世間は許さなくても私は手放しで許しますのでどうぞお構いなく」
「うん、どっちにしろ私にはデメリットしかないよねこれ?」
はい。トップアイドル新名夏、17歳。完全にやらかしました。憧れのトップ女優に“推し歴”でマウントを取るという“痛さ”に、さっきまでトップアイドルらしくストイックに自主練に励んでいた数分前の威厳は
「・・・だけど・・・・・・私に“推し歴”でマウントとったときの新名さん・・・すごく“良い
自分が言い放った一言でものの見事に“自滅”した私の眼前に、しゃがみ込んで感情を凝視する城原さんの“天使”みたいな笑みが飛び込んだ。それにしても城原さんは、たまにこうやって独特な“距離の詰め方”を私にしてくる。
“『ねぇ?あなたが紀伊国坂46の2期生に最年少で選ばれた噂の新名さん?』”
「・・・“良い
ただこれも、中学1年からずっとクラスメイト同士の関係を続けていたら城原さんはこういう人だっていうのを心が分かり始めたからか、ちょっとだけ慣れてきた。さらに踏み込んで本音を言ってしまえば“推し”からまじまじと見つめられるのは、全然近づけていないのは変わらないけれど私的には“憧れ”との距離が近づいた気がして嬉しかったりする。
もちろん、それを目の前の本人に伝える勇気も度胸もいまの私にはないけれど。
「なんか・・・私を真っ直ぐに見つめてくる新名さんの眼が“自信”に溢れていて、 “アイドル”っていうより“女優さん”って感じがして凛々しかった」
だとしても勇気もなければ度胸もない私が私なりに真っ直ぐ歩いてきた、“隣のクラスの
“・・・“女優さん”なんて大袈裟ですよ・・・”
“・・・私は“女優”になるために頑張ってますから・・・”
「まぁ・・・私は“女優”になるために頑張ってますから・・・」
城原さんから言葉を向けられた私の心の中で、同時に二つの言葉が浮かんだ。いつもの私だったら数秒ほど悩んだ末に前者の言葉を選んでいたはずなのに、なぜか私は何の迷いもせずに後者の言葉を城原さんにぶつけていた。
「・・・私の“本当の夢”は・・・
たまに私の心を支配する自分らしくない“強気な自分”にほんの少しの恥ずかしさを抱きつつ、普段は心の奥に隠し持ったまま身体の中を堂々巡りしている秘めた想いが静かに爆発する。
「・・・なんだ・・・自分でそれを分かっているなら“焦る”必要なんて全然ないじゃん」
「・・・・・・」
周囲の言葉に相変わらず一喜一憂しては振り回される“弱い”私に優しく笑いかけながら、目の前でしゃがみ込んでいた城原さんは私の肩を一回だけ優しく押して徐に立ち上がり、再び私の左隣に戻りフェンスに寄りかかる。そんなただ悩めるクラスメイトのことを慰める何気ない一挙手一投足でさえも、城原さんにかかればドラマのワンシーンのように鮮やかに映える。
「新名さんがトップアイドルになれたのは“女優”になりたいっていう本当の夢があって、それを今日まで捨てずに追い続けているからじゃないの?」
「・・・もちろん。そのつもりでアイドルを続けてきました」
「だったら無理して“紀伊国坂のエース”で居続けようなんて思って自分を追い込む必要もないよ・・・
そう言って隣でずっとしゃがみ込んでいる私には目もくれずに前を向いたまま“アドバイス”を送った城原さんの表情は見たことないくらい大人びていて、口元は微笑んでいたけれど誰もいない屋上を見つめる眼差しは物凄く真剣で、どこか“意味深”に視えた。
同時に右隣へと向けられたはずのその言葉が、“アドバイス”というよりも自分自身に“言い聞かせている”ように私には聞こえた。
“・・・じゃあ
「・・・やっぱり・・・城原さんは本当に強い人ですね。私なんて未だに自分のことだけで精一杯ですから」
城原さんと同じように立ち上がってフェンスに寄りかかり、心の中に浮かんだ“本音”を隠して言葉を紡ぐ。本当は私だって知っているつもりだ。
だからこそ、曲がりなりにも同じように“努力”でいまの居場所まで歩いてきたからこそ、私は城原さんの心を容易く肯定することが出来ない。“それ”を全て肯定してしまうと、自分が“憧れの隣”に立てなくなってしまう気がするから。
「・・・それを言うなら私も同じだよ・・・
今まで見せたことのない、私には全く理解の出来ない“何か”を意識して誰もいない空間を睨むように見つめる琥珀の眼差しと、意味深な天使の
「城原さんにとってはそうだとしても、百城千世子が演じた役は他の女優さんじゃ絶対に務まらないって・・・私は思います」
「当たり前だよ。私って求められてない“他人”を演じるのは人より少しだけ苦手だけど、“自分”に求められている“分身”を演じることは誰よりも得意って自負してるから・・・それすらも否定しちゃうと・・・・・・いまの
だけど、女優になるということはずっと憧れ追いかけ続けていた“背中”と戦わなくちゃいけなくなるということ。女優になるということは、“
「・・・“そんなことない”って言われても無理ですよね・・・・・・女優だろうとアイドルだろうと、“主役”になれるのは“たった1人”だけですから・・・」
それでも私は“
「・・・こんなに自分に“自信”があるんだったら普段からもっと堂々としてればいいのに」
変に強気になっていた意識に、城原さんの煌びやかな微笑みと視線が左隣から飛び込んで私は一気に我に返る。今まで私に見せたことのなかった城原さんの表情を視ていたら、今まで生きていて感じたことすらなかった“新しい感情”で心の中が埋め尽くされて、また私は“らしくない言葉”を吐いていた。
「え・・・あぁ、いや、これはその・・・俗に言う“個人の見解”ですので、気にしないでください・・・」
我に返り言動に気付いた瞬間、本日で何度目かの羞恥心が込み上げる。
「あらら、また“ポンコツモード”のなっちゃんに戻っちゃった」
「“ポンコツモード”はちょっと酷いと思います、城原さん(言われてもしょうがないけど・・・)」
ほんと、思い上がりにも程があるぞ新名夏。お前はまだ“女優”ですらないくせに、何を偉そうに城原さんに対して“ライバル”みたいに気取って・・・・・・
「ってゴメン、私ったら新名さんの“自主練”思いっきり邪魔してたね」
「いえそんな!・・・むしろ今日は城原さんからありがたい“アドバイス”を頂けて本当に良かったというか・・・あと“
「だからお礼なんて要らないよ。私が余計に買ってきちゃっただけだし・・・とりあえず私はこれで教室に戻るけど、新名さんはどうする?」
「私は・・・・・・もう少しここで練習します」
「そっか。練習するのもいいけど、“
「あ、はい!」
「あと、くれぐれも自主練に集中し過ぎて午後の授業をすっぽかさないようにね?」
「それはもちろんですよ・・・ていうか、忘れるわけないじゃないですか」
「ふっ、もうホントに素直で可愛いな~“なっちゃん”は~」
「揶揄うくらいなら早く戻ってくれませんか・・・練習、したいんで」
「あぁうん、そうだったね。ごめんごめん・・・じゃあ今度こそ戻るから、お疲れ様」
「はい。お疲れ様です」
“・・・ライバル・・・か・・・”
「・・・新名さん」
「は、はい。何でしょう?」
“自主練を邪魔してしまった”ことを揶揄いを交えながら軽く謝り教室へと戻る間際、城原さんは背を向けたまま私の名前を呼んだ。
「卒業公演・・・行ける保証は出来ないけど応援はしてるから」
「・・・・・・ありがとうございます」
背中越しに伝えられた“エール”に自分なりの感謝を返そうとしたけれど、私の口から“ありがとうございます”の先にある二の句が出てくるのを待たずに、城原さんは歩き出して屋上を後にした。
というよりも、城原さんの背中を見た私は何をどう返したらいいのか分からなくなった。
“『それすらも否定しちゃうと・・・・・・いまの
髪型だけじゃない。私の知っている城原さんは、この場所には存在しないはずの“何か”を意識した“意味深な
““誰”って・・・・・・何勝手に決めつけてるんだ私・・・”
千世子の横顔と背中に今まで感じたことのなかった“何か”を感じてしまった新名は、その気持ちを誤魔化すように自主練の続きを始めた。
世間がどれだけ“よなちよ”を推そうとも、俺は“ちよなつ”を推したい。
ちなみに今回のサブタイは、原作56話のオマージュになっています。多分、分かる人は分かるはずです・・・・・・多分。