或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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景ちゃんハピバ


scene.76 大観覧車

 マリンシティの中にあるシネマコンプレックスでレオン・フラナガン主演のアクション映画を鑑賞して昼を済ませた俺たちメインキャストの4人は、行き当たりばったりで決めた次の目的地でもあるジョイワールドへ向かっていた。

 

 「やっぱ混んでんな~」

 「無理ないよ。だって今日は日曜だから」

 

 そしていざ入り口まで来てみると、ジョイワールドは休日なだけあってチケットを受け取るだけで軽く20分は待たされそうなほど混雑していた。

 

 「どうする?多分入ってもアトラクションによっては1時間とか待たされてロクに遊べないよこれ」

 「そーいや霧生の寮の門限って仕事がないときは19時半だったよな」

 「さとる(ジュン)って寮だよね?」

 「うん、そう」

 「てゆーか今って何時?」

 「午後2時ジャスト」

 「マジかー、後のこと考えたら思った以上に時間ないね」

 

 4人揃った休日と言えど今日は日曜で世間的にも“休日”なわけだから、どこもかしこも混んでいるのは当然のこと。とは言えせっかくリフレッシュのために来ているのに、待ち時間によってトータルで数時間分を失うのはあまり良い気がしない。

 

 もちろん、アトラクションで何十分も何時間も待たされるような遊園地やテーマパークには一度も行ったことがないから“食わず嫌い”な部分もあるのだけれど。

 

 「やっぱ違うところにしようぜ。見ろよ、サトル(純也)が露骨に退屈そうな顔してる」

 「余計なこと言うな一色(新太)

 「オイさとる(おまえ)

 「だってせっかくの貴重な時間が待ち時間で消えるのは嫌でしょ?」

 「いきなり映画で20分もあたしたちを待たせた“遅刻魔”がそれ言っちゃう?」

 「その節はすいませんでした(いつまで根に持ってんの・・・)」

 「まあまあ」

 

 なんて心の中に留めていた退屈の感情が思いっきり表に出てしまったのかまたしても一色と堀宮からそれを指摘され、おまけで集合に遅れたこともほじくり返された。言うまでもなく悪いのは俺だから、反論の余地はない。

 

 「けど憬さん(純也くん)の言うことも確かに一理あるかもって、私も思う」

 「まぁ、あずさ(アミ)の言う通りそれもそうね。悔しいけど」

 「ホントにすいません」

 「気にすんなサトル(純也)、こういう“星占い12位”の日も偶にはあるからさ?ポジティブに行こうぜ」

 「全く慰められてる気がしないのは俺だけか?

 

 ともかく永瀬の優しさに半ば救われる恰好になった俺は、メインキャスト一行と共に“ジョイワールド”を諦めて高速道路の高架と公園を挟んだ先にある“ヴィーナスタウン”という観覧車がトレードマークのショッピングモールで残りの“休暇”を満喫することにした。

 

 

 

 「“ここ”で働いているみなさん。しばらくの間オレたちがお世話になります」

 

 

 

 ヴィーナスタウンに向かう途中、偶然にもドラマ関連で9月まで世話になるテレビ局の横に来たこともあり、一色が仕切る形で俺たちは入り口に立ち寄り建物に向かって軽く一礼をした。

 

 「これ、お礼した意味あるの?」

 「あるわけないじゃん、ノリだよノリ」

 

 言うまでもなくついでで立ち寄った俺たちが挨拶をしたのには、特に深い意味はない。本当にそれでいいのか?と突っ込みたくなるが、今の俺たちはただの“高校生”で来ているから、あくまで“ノリ”ということにした。

 

 

 

 「サトル(純也)いいじゃん最高に似合ってる(やべぇ“前衛芸術”できたわこれ)」

 「いやいや、どっからどう見ても似合ってないって“これ”は(完全にわざとだろこいつ)」

 「じゃ~ん、どうこれ?あずさ(アミ)をコーディネートしてみたけど良い感じでしょ?」

 「ちょっと、恥ずかしいって杏子(雅ちゃん)

 「いや・・・マジで普通に可愛いじゃん。なぁサトル(純也)?」

 「うん、さすがシェアウォーターのイメージガール・・・に“そっくり”って言われてるだけあるわ永瀬さん(半井さん)危ねぇ・・・)」

 「誤魔化すの下手か。あとそれじゃああたしも“そっくり”さんってことになるわ」

 「確かに」

 「てかさとる(ジュン)“テンガロンハット”似合わなさすぎるでしょチョーウケる!」

 「だから言わんこっちゃねぇじゃんか一色(新太)

 

 

 

 そしてヴィーナスタウンについた俺たちは中にある店で4人でファッションやちょっとしたアクセサリーをコーディネートし合ったり、

 

 

 

 「よしっ!行けっ!・・・・・・あぁぁぁもうウッザ!今の行けたでしょマジで!?」

 「ホリミィ()、もう諦めなって。これで15回目だぞ」

 「いやまだ、コツは掴んだから次は絶対行ける」

 「ねぇ永瀬さん(半井さん)?ひょっとして杏子さん(千代)ってUFOキャッチャー好きなの?」

 「うーん、そうでもないかな。杏子(雅ちゃん)の場合は好きって言うより、どちらかというと何でもかんでも負けず嫌いって感じだから」

 「へぇー・・・そうなんだ(そうだろうけど負けず嫌いもここまで来ると大変だな・・・)」

 「うわタイミングミスった最悪・・・・・・あっヤバい、これ絶対金欠になるパターンだわ」

 「じゃあそうなる前にやめればよくない?」

 

 

 

 ゲームセンターで同じ芸能事務所の先輩女優がUFOキャッチャー相手に散財する滑稽な姿を見て“絶対自分はこうはならない”と反面教師にしたり、

 

 

 

 「憬さん(純也くん)ってプリクラ撮ったことなかったんだ?」

 「うん。実はこういうのって女の人専用だってずっと思ってた」

 「それはそれで偏見が凄いことで・・・」

 「写真(コレ)ね、胸元(ここ)に貼ればいいよさとる(ジュン)?」

 「さすがにそれが嘘なことぐらい知ってるわ」

 「にしてもさ、テーマパークに行ったこともなければ街も滅多に歩かないで映画ばっか観るみたいな生活してたら普通の高校生の役やれって言われても大変じゃね?」

 「一色先輩(コウ)がそれ言うと説得力が1ミリも感じられないんだけど」

 「酷いなホリミィ()、これでも日本(こっち)へ戻って来てからはホントにフツーの生活してきてるからねオレ?」

 

 

 

 4人で揃ってプリクラを撮ったりして本当に普通にそこら辺の高校生と何ら変わらない日曜日を満喫していたら、あっという間に時間が過ぎていった。

 

 

 

 「やっぱお台場に来たら“大観覧車(コレ)”は絶対乗っとかなきゃでしょ?」

 

 こうしてかれこれショッピングとゲーセンで2時間ほど時間を潰した俺たちは、最後にティザー撮影の後の話し合いで堀宮が絶対に乗りたいと言っていた大観覧車へ立ち寄った。

 

 「ちなみにこの観覧車ってロンドンにある観覧車に抜かれるまでの数か月間だけ世界最大だったらしいよ」

 「へぇマジで、すごっ」

 「その手の話に興味ないにしても少しは感情乗せたらどうなの?」

 「(堀宮と一色(このふたり)、多分これからもずっと仲良くはなれそうにないな・・・)」

 

 入り口の階段へと向かう途中で観覧車にまつわる豆知識を呟く一色に、如何にも興味なさげの“棒”なリアクションで返す堀宮を、俺と永瀬が何とも言えない感情で後ろから見つめる。とりあえずパッと見で互いに我が強いのがはっきりと分かる一色と堀宮は、役者としてはともかく人間的な相性はあまり良くなさそうだ。もちろん、これぐらい自分に対する自尊心が強いほうが役者としてやっていけそうなのは確かなのかもしれないけれど。

 

 「待ち時間は・・・10分か。意外と空いてるね」

 「時間的には夕方の一歩手前だから、ちょうどいいタイミングってところだしな」

 

 待ち時間は約10分。ゴンドラの種類はスタンダードな“カラー”と、4台しかない全面ガラス張りで透明な“シースルー”の2種類。もちろん変装して一般人に紛れ込んだ状態で遊びに来ている俺たちはなるべく目立つことはしたくない&そんなに待ちたくないということで、満場一致で普通のゴンドラへ繋がる階段を選ぶ。

 

 “・・・これで最後か・・・”

 

 そして大観覧車のゴンドラへと繋がる階段を前に、もうすぐ休暇が終わるという実感が急に湧き始める。とにかくここまで、なるべく“芝居(しごと)”のことから離れて“余計なこと”は考えずに普通にして楽しんできたつもりが、終わりが近づくにつれて一旦は忘れようとしていた“現実”が襲い掛かる。

 

 

 

 “『役者(おれたち)”には“役者(おれたち)の意地”があるということも、忘れないでください』”

 

 

 

 当たり前だ。俺たち役者は最初から役作りの一環も兼ねて遊んでいる。そもそも本当に何も考えずに遊びに行くならこんなふうに互いが互いを“役名”で呼んだり“タメ口”を強制したりで縛り付けるようなことはしない。それでも俺は大前提として今日を思いっきり楽しんだ。それはみんなと変わらない。

 

 ただ・・・そこに『ロストチャイルド』の時のように何にも縛られることなく本当の意味で100パーセント役作りに専念できるか、色んな余計なものを背負わされながら役作りをするかという、決定的違いが1つあるだけのことだ。

 

 

 

 “そのたった“1つ”さえなければ・・・・・・俳優(おれたち)はどれだけラクなことか

 

 

 

 「ねぇ?“ぐーぱー”しない?」

 「急だな、別にいいけど」

 

 なんて雑念に駆られていたら、先頭を歩く堀宮が突然“ぐーぱー”をしようと言い出した。ちなみに俺は、堀宮の言った“ぐーぱー”は知らなかった。

 

 「・・・“ぐーぱー”?」

 「えっもしかしてさとる(ジュン)知らないの?“ぐーぱー?」

 「・・・・・・あぁ、“ぐっとっぱ”?」

 「うん、逆にあたしはそれ知らないけど多分それ」

 「横浜だと“ぐっとっぱ”って言うんだ?」(※諸説あります)

 「うっわ出たよ地域によって呼び名が違うあるある」

 「“うわ”は余計だろ」

 

 そして堀宮の言葉でそれがようやく“ぐっとっぱ”を意味していることに俺は気が付く。ついでにどうやら呼び名は地域によって違うらしい・・・という、まあまあどうでもいい豆知識もついでに手に入れた。

 

 「それより教えてくれない?なんでぐーぱーするかさ?」

 「そんなの決まってんじゃん、2対2で分かれるためだよ。だってこのまま4人で仲良く乗ったってつまんないし」

 「なるほどね・・・もちろん男同士女同士になってもそこは文句なしってことだ?」

 「“ある意味”、それが一番かもね?」

 「スキャンダル的な?」

 「はい先輩はそれ以上余計なこと言わない」

 「ホリミィ()はオカンか?」

 

 ともあれ堀宮がいきなりぐーぱーをやろうとした理由は至って単純で、今からグーとパーで分かれて2人ずつでゴンドラに乗ろうというものだった。確かに堀宮の言う通りじゃないけれど、普通に4人で同じゴンドラに乗るのは、それはそれで普通過ぎる感が否めないから割と一理あるかもしれない。

 

 「それってさ、俺と杏子さん(千代)一色(新太)永瀬さん(半井さん)ってパターンもってこと?」

 「当たり前でしょ」

 「マジか」

 「え?嫌なのさとる(ジュン)?」

 「いや、別に?」

 

 もちろんその組み合わせが同じ事務所の俳優同士になろうと、関係はない。

 

 「じゃあみんな・・・・・・ぐーぱーじゃす_」

 

 

 

 こんなふうに色んなことを忘れたかのようにはっちゃけられるのも、今のうちだ。

 

 

 

 「いや・・・これ、“ぐっとっぱ”した意味ないですよね?

 「“ぐーぱー”ね?

 

 こうしてメインキャスト4人で“ぐーぱー”をした結果、その組み合わせはものの見事に“事務所ごと”で分かれた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「にしてもさあ、ゴンドラ(ここ)でもさとると一緒になるとかどんだけあたしたちって仲良いんだって話だよね?あずさと一色先輩もそうだけど」

 「“ある意味”、そうかもしれないですね」

 「“ある意味”ってどういう意味よそれ?」

 

 大観覧車のゴンドラに乗る前にやった“ぐーぱー”で仲良くパーを出した俺と堀宮は、赤色のゴンドラに乗って1周約16分の“空中散歩”に出ていた。

 

 「ていうか、いま俺のことサラッと本名で呼びましたよね?(って言ってる俺も敬語に戻ってるけど・・・)」

 「もういいじゃん、そういうの。どうせこの中にはあたしとさとるしかいないし」

 「そういう問題なんですかこれ?」

 「あと役の名前で呼び合うのいい加減疲れた」

 「あぁ・・・それは俺も分かります」

 

 ちなみにゴンドラの中で同じ事務所の先輩後輩の2人だけになったことで、それまでの“縛り”も一旦終了になった。恐らくそれはすぐ後ろのオレンジ色のゴンドラに乗る “一色・永瀬ペア”も同じこと・・・だと思うけれどあの2人が仲良く話しているイメージは今のところあまりないからそこまでは分からない。

 

 「しっかしアレだね・・・これじゃあ普段通り過ぎてつまんないね」

 「杏子さんが急に“ぐっとっぱ”なんかしようと言い出すからですよ」

 「“ぐーぱー”な。“上京”してきた以上は覚えなさい」

 「別に横浜と東京(ここ)じゃ上京もへったくれもないでしょ。そもそも事務所は思いっきり渋谷だし」

 「四の五の言わずさとるは“ぐっとっぱ”から離れることね?そうしないと“田舎者”ってナメられるよ?」

 「別に呼び方なんてどうでも良くないですか?やってることは同じだし」

 「あら、『役者(おれたち)”には“役者(おれたち)の意地”があるということも、忘れないでください』なんてカッコよく啖呵を切ってた割には“お利口さん”なこと」

 「とりあえず杏子さんが負けず嫌いなのはよく分かりましたよ。あとついでに言っときますけど、さっきのUFOキャッチャーの散財ぶりにはぶっちゃけヒキました」

 「敬うべき先輩に対してそんなにどストレートに言うかな普通?」

 

 そして始まる、本当に普段通りにも程がある空気感で展開される堀宮との会話。最早これでは、せっかく“縛り”を課してまで地味に行くのには不便なお台場(※2001年)に貴重な休日を使って4人で来た意味はまるでないも同然かもしれない。

 

 「敬うも何も普通に心配ですよ。この調子じゃいつか絶対に破産するんじゃないかって」

 「ホントさとるってあたしにだけ容赦ないよね?」

 「だけってことはないですよ(例えば蓮とか)」

 「あずさにはあんなに優しいのに?」

 「永瀬さんは初対面なんで」

 「正直でいるのは良いことだけど、あんまり正直すぎると友達増えないよ?」

 

 だけれどそんないつも通りの時間(いま)が、何だかんだで俺は一番心から楽しめているのが分かる。それがどうしてなのかは自分でもよく分からないのだけれど、目の前に座っている堀宮が“役作り”のことなど考えないで素直に楽しんでいる様子を見ていると、何だかこっちもついその気になってくる。

 

 「別にこれ以上増えなくてもいいですよ。俺には“親友”がいるんで」

 「相変わらず捻くれてますね~“孤高の天才”さんは、この前は“苦手意識”がなんちゃらかんちゃらって言ってたのに?」

 「(なんちゃらかんちゃらって・・・)あれはあくまで“役者”としてってことです。これでも俺は、現実と非現実(ドラマ)の世界はちゃんと分けて考えてますから・・・」

 

 何だかんだで今日は朝から乗り換えをミスって遅刻するわ携帯を寮に置き忘れるわで堀宮から早速叱られるわ、せっかくの映画鑑賞で爆睡をやらかすわで散々な休日だった。

 

 「・・・ふ~ん」

 

 それでも形だけとはいえメインキャストが全員揃ってこうやって貴重な休日を満喫できたことは、“これからのこと”を考えると本当に有意義だったと信じたい。

 

 

 

 “・・・って、何で俺はこの瞬間をこんなにも楽しんでいるんだ?

 

 

 

 「じゃあさ・・・・・・もしも “親友”の蓮ちゃんが“敵”になってさとるに牙を向けてきたら、どうする?

 

 

 

 

 

 

 「今頃盛り上がってるかな?ホリミィとサトル(そっち)は?」

 「さあ、どうなんでしょうね?」

 

 一方その頃、憬と堀宮が乗る赤いゴンドラの1台後ろのオレンジのゴンドラでは、同じように仲良くグーを出した十夜と永瀬が前のゴンドラに乗る2人のことを気に掛けながら2人きりで話をしていた。

 

 「すげぇ今更だけどさ、相変わらずあずさってホリミィ以外にはずっと敬語なんだね?」

 「いけませんか?」

 「別にいけなくはないけど、あずさから見たオレって同期で事務所も同じわけだから全然タメ口で話してもいいのにってふと思ったからさ」

 「そういう十夜さんは先輩だろうとアリサさんだろうと基本タメ口じゃないですか」

 「一応弁えてるよ。これでもね?」

 「そうなんですね・・・」

 「あ、全然信用できないって顔してる」

 「はい。正直」

 

 無論こちらも、2人きりになったことで“縛り”のルールは自然に消滅していた。

 

 「とにかく敬語なのは・・・こっちのほうが落ち着くってだけで、深い意味はないですよ」

 「さっきまで普通にタメ口で話してたじゃん」

 「あれは“縛り”で仕方なくですよ・・・はっきり言って私はやり辛かったです」

 「はははっ、確かにそう言われてみればチョイチョイ顔にも出てたし・・・やっぱり、リフレッシュしてるときぐらいは“マイペース”に行きたいってとこだね」

 「そう・・・ですね」

 

 ただオレンジのゴンドラの中の空気は、前を行く赤いゴンドラとは対照的にどこかよそよそしい。

 

 「・・・やっぱ盛り上がらないね。いつもの面子だと」

 「・・・ですね」

 

 そして流れるのは、今一つ馬が合わない2人同士の沈黙。

 

 

 

 “うん。フツーに気まずい

 

 

 

 「・・・・・・あずさはさ、今回のドラマではどうしていきたい?

 

 体感的に30秒ぐらいの沈黙を経て、俺は反対側に座るあずさに当たり障りのない言葉をかける。相変わらず生真面目でシャイな彼女とは、オーディションでグランプリを獲った初対面のときからずっとこんな感じで、事務所でたまに会って話をしてもあんまり盛り上がった試しがない。

 

 「そうですね・・・・・・私は他の3人に比べるとまだまだ芝居は未熟ですので、とにかく3人に芝居で追いつくことが、いまの目標です

 

 何よりあずさは、“変人”が多数を占める芸能界(この世界)においては逆に “希少種”でもある“普通の感覚”の持ち主だ。ホリミィのような自我丸出しの“エゴイスト”でもなければ、憬のような“ホンモノ”でもない、本当の意味での普通の人。強いて個性的なところがあるとするなら馬鹿がつくほど正直なところぐらいで、あとは全部普通だ。

 

 「うん。普通だね」

 「・・・もしかして馬鹿にしてます?」

 「ううん、褒めてる」

 「心なしかあんまりそういうふうには見えないのですが」

 「ひどいな~、これでも本当に褒めてんだぜあずさのこと?」

 「・・・そうですか」

 

 彼女が持ち合わせている役者として持っている価値観は、びっくりするほど至って普通。だけどそんなあまりにも“普通”な役者観が逆に“変人”めいて見えてくるのが異端な世界の綾にして、“女優・永瀬あずさ”の女優(やくしゃ)としての魅力でもある。

 

 「むしろあずさのような“普通の感覚”は、裏を返せば誰とも被らない役者としてとっておきの個性だとオレは思うから、大切にしろよ」

 「・・・はい」

 

 そしてもちろん至って普通な価値観がありながら原石としての素質があったことで、彼女はアリサからスターズの女優として見出された、と言ったところだろうか。

 

 「・・・そういえばあずさって、アリサさんに憧れて女優になるって決めたんだっけ?」

 「はい。アリサさんは小さいときからずっと尊敬しているので」

 「へぇ~、オレと一緒じゃん」

 「十夜さんもそうなんですね・・・正直少しだけ意外です」

 「ははっ、本当に正直だよな~あずさって」

 「すいません。悪い意味ではないのですが」

 「知ってる知ってる。普段の振る舞いって意味だろ?」

 「えぇ・・・まぁ」

 

 逆を言えばそんな普通の彼女は、アリサが女優をやめなければ夢を掴むことが出来なかったとも言える・・・

 

 「もちろんアリサさんのことは女優(やくしゃ)としても人間としても尊敬しているよ・・・・・・だからオレはスターズを選んだから

 

 何て目先で決めつけるほど俺の心は未熟じゃないから、俺は自分の為に平気で自分本位の嘘を吐く。

 

 「ところであずさは・・・・・・サトルやホリミィのような役者をどう思う?

 

 

 

 

 

 

 「じゃあさ・・・・・・もしも “親友”の蓮ちゃんが“敵”になってさとるに牙を向けてきたら、どうする?

 「・・・は?

 

 何の前触れもなく、いつもの明るい笑みと共に唐突に向けられた言葉に俺は思わず言葉を失いかける。

 

 「いや・・・まず、何で蓮のことを知ってるんですか?」

 「だって映画で共演してるから」

 「・・・あぁ、“バトルロワイアル”」

 「おぉよくぞご存じで」

 

 一体全体どうしてまだ名前すら教えていなかった蓮のことを堀宮が知っていたのかと呆気にとられかけたが、よくよく考えてみれば同じ映画で主演と助演で共演していたことを思い出して、共通点はすぐに見つけられた。

 

 けれど、どうして俺と蓮が親友だということを知っているのかはまだ分からない。

 

 「でも」

 「あと蓮ちゃん言ってたよ。“憬にだけは負けてられない”って」

 

 なんて俺からの疑問に堀宮は容赦なく言葉を被せて遮ると、目の前のやや深めに被る黒いキャップの下から覗く感情がいつもの笑みから偶に見せる不気味な笑みに変わった。

 

 「・・・さっきから杏子さんは何が言いたいんですか?」

 「まだ分からない?もしも“親友”の蓮ちゃんが“敵”になってさとるに牙を向けてきたらって、あたしはさっきから聞いてるんだけど?

 

 

 

 “『こんな血も涙もない“負け戦”みたいな真似をしてでもオーディションをやったのは、何かあたしたちに“意味(メリット)”があるからってこと?』”

 

 

 

 突如として向けられた、3日前と同じ感情。一体それが何を意味しているのか、同じメインキャストとして『ユースフルデイズ』のオファーを引き受けた俺にはすぐに分かった。

 

 「・・・牙を向けられたらこっちも牙で応戦するだけですよ・・・・・・それは相手が親友だろうが誰であろうが関係ない・・・・・・その牙を受け止められない程度の覚悟で、俺は役者なんかやってないので・・・

 

 そうだ。俺たちは役者だ。例え相手が誰であろうと、自分が1番だということを証明しなければいけない。

 

 

 

 “『サトル(純也)は役者で例えると、“監督や演出家(パペッティア)”の“意図()”がなくても自分の意思で勝手に動ける“人間”・・・・・・ってところだな』”

 

 

 

 それは例え休日だろうと、関係なんてない。2対2に分かれて“縛り”から解放された今はもう、“治外法権”も同然だ。

 

 「・・・その“覚悟”っていうのは本物なの?さとる?

 「はい。じゃなかったら今回のドラマのオファーは引き受けてませんよ

 

 不敵かつクールな笑みを浮かべて覚悟を問う堀宮に、全てを察した俺は即答で応える。正直に言うと、いまの俺は冷静さを建前でどうにかして保っているぐらいには、軽く動揺している。それもそうだ。つい数十秒前までは何事もなく普通に日常的な会話をしていたら、突如として現実に引き戻して役者の本質を問いかけるようなことを言ってくる。本当に堀宮(この人)は、突然女優モードのスイッチを入れてくるから油断ならない。

 

 「俺だってそれぐらいのことは分かっています・・・・・・もしかしたら今回のドラマで蓮と“敵同士”の関係になってしまう可能性もゼロじゃないということは・・・

 

 

 

 “『ところで憬くんはさ、俳優とか目指さないの?』”

 

 

 “『だったらやってみろよ。オーディションを勝ち抜いて、“こっち側”に来てみろよ!』”

 

 

 “『私と憬・・・どっちが先に自分の芝居を恥ずかしがらずに堂々と見れるようになれるか、勝負しようよ』”

 

 

 “『次はちゃんと“カメラの前”でこんなふうに芝居が出来たらいいよね・・・私たち?』”

 

 

 “『おかげさまで私も“そこそこ”有名になり始めてるから』”

 

 

 

 「だけど(あいつ)からはもう・・・・・・“喧嘩”は何度も売られているんで

 

 けれども、役者として蓮に追いつこうと心に決めたいまの俺は、それぐらいの覚悟を問われても堂々と自分の意思を答えられるぐらいには強くなれた。

 

 「そんなことより教えてください・・・何で杏子さんは俺と蓮が親友だってことを知ってるんですか?

 

 タイミングを見計らい、俺は一度言いかけて遮られた自分の意思を堀宮に伝える。

 

 「・・・・・・うん。じゃあ、5秒間だけ目を閉じてくれたら、全部教えてあげる

 

 すると堀宮は、数秒ほど考え込んだ末に普段の毒気が全くない笑顔を浮かべながらまたしてもよく分からないことを言ってきた。

 

 「5秒・・・・・・いやなぜ?」

 「知りたくないの?たった5秒だけ目を瞑れば“マジのマジ”で全部教えてあげるって杏子先輩が言ってるのに。こんなチャンスもう二度とないよ?」

 「ていうか何をするんですか」

 「それは絶対教えない。ほら、これから観る予定の映画を観る前にネタバレされちゃったら、さとるも嫌でしょ?」

 「まぁ・・・嫌ですけど」

 

 本気だという意思表示でもある“マジのマジ”というよく分からないワードと一緒に、堀宮は俺に容赦なく揺さぶりをかける。とにかく、この人は意地でも何をするのかは一切教えてくれないようだ。

 

 「・・・もうすぐ頂上ですね」

 「そうだね。で?どうしたいの?」

 

 さすがに堀宮が何をしたいのか今度こそ皆目見当がつかない俺は、徐に視線を外に向けて一瞬だけ話題を逸らしてすぐさま戻される。気が付くと俺と堀宮が乗るゴンドラは、ほとんど頂上に差し掛かるところにまで来ていた。

 

 

 

 “・・・やっぱり・・・俺はいま、堀宮から“役者”として何かを試されている・・・

 

 

 

 「・・・“マジのマジ”ですからね?

 

 本当に何も予測できないが、堀宮から何かを“試されている”ことを直感し“乗る以外の選択肢はない”ことを悟った俺は、堀宮の“マジのマジ”に乗ることにした。

 

 「ありがとう・・・さとるなら引き受けてくれると信じてたよ」

 「だから何が?」

 「それを今からするって言ってんじゃん。あんまりしつこいと嫌われるよ?」

 「・・・はいはい」

 

 再び普段と何ら変わらないオフの状態に戻ったように見える堀宮は、俺の目を真っ直ぐに見つめ笑いがてらに軽く叱る。

 

 「じゃあ・・・・・・目、閉じて

 「・・・こう・・・ですか?

 

 そして堀宮の声に誘導されるように、俺はゆっくりと目を閉じる。にしても何を仕掛けてくるのかは知らないけど、たった5秒間だけ目を瞑るだけで全部を教えてあげるなんて、随分と虫のいい話・・・

 

 

 

 

 

 

 “・・・・・・えっ・・・・・・

 

 

 

 目を閉じた次の瞬間、座っていたゴンドラがほんの僅かに揺れたのと同時に、柔らかな唇が口元に優しく触れる感触を覚えた。




突然のキスは、運命のミス?_



トータルで書き上げるのに2週間ほどかかった、何気に今までで一番難産な回でした。何となく全体的にダイジェストみたいな感じになってしまったのは、執筆の過程でペース配分とかを色々と考えた結果です。ひとまず景ちゃんのバースデーに間に合わすために無理やり締め切りを守ったようなものですので、気が向いたら添削する可能性が高いです・・・・・・と言いながら、肝心の本編は誕生日を迎えた本人はおろか原作キャラですら回想でしか登場しないという始末。
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