或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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シンプルに一晩寝たらメンタルリセットできる心がほしい


scene.79 親友なんていらない

 “『それで、杏子さんはどうやって蓮から俺のことを聞いたんですか?』”

 “『まあまあそう焦らない。今からいきさつとかもちゃんと言うからさ』”

 “『別に焦って無いですよ』”

 

 お台場にある大観覧車のゴンドラの中で、キスに続く“宣戦布告”を経た堀宮はようやく蓮のことを俺に話してくれた。

 

 “『蓮ちゃんとは会うのはもちろん“バトルロワイアル”の現場が初めてだったけど・・・少しでも時間があったら台詞の言い回しの確認とかアクションシーンの練習とかしてたりさ、あと休憩時間だろうとお構いなしで監督のところに行って一緒にVチェックして自分のカメラ映りを確認してたこともあったかな・・・・・・とにかく蓮ちゃんって本当に真面目で一生懸命な努力家って感じだったから、ついつい声をかけたくなったんだよね_』”

 

 堀宮曰く、撮影現場での蓮はとにかく勉強熱心で誰よりも本気で撮影に取り組んでいたという。時には次のシーンの撮影準備のために他の出演者がロケ先の宿泊施設で休憩を取っている中でも1人休憩を取らずに監督のところに向かい、一緒にVチェックをして自分のカメラ映りを確認してどう映ればより“画的”に良くなるかのアドバイスを仰いだりしながら監督と話し合っていることもあったらしい。

 

 “『_それで2日目の撮影が終わった日の夜に泊ってたコテージのテラスに呼び出して、監督と一緒にVチェックしてたのを見たってことを話して“真面目に頑張ってて偉いね”って褒めてあげたら、“別に、これぐらい普通なんで”ってすっごいクールな感じで返されてさ・・・なんかそういう“自分、ハングリー精神で生きてます”みたいなところがさとるに似ていて“可愛かった”から余計に気に入っちゃった』”

 “『いや、あいつに“可愛げ”なんかないですよ。ついでに俺もですけど』”

 “『“可愛い”って言うのは見た目とか仕草じゃなくてあくまで仕事への姿勢って意味だよ』”

 “『分かってますよそんなこと』”

 

 ともかくそういった目の前の仕事に対するひたむきな姿勢はヒロインを演じていた堀宮にとっても思うものがあったみたいで、そんな(あいつ)の一生懸命さを気に入った堀宮は共演者である以前に“友達”になってみたいと、2日目の撮影が終わった後の夜にロケ先の宿泊施設のテラスに呼び出した。

 

 

 

 “『どうして蓮ちゃんはそこまでして頑張ってるの?もしかして演じてる役が途中で退場しちゃうから張り切ってるとか?』”

 “『そんな安っぽい理由なんかじゃないですよ』”

 “『じゃあどうして?』”

 “『それは・・・・・・どうして堀宮さんに言わなきゃいけないんですか?』”

 “『だって気になるから。蓮ちゃんがそこまで“マジのマジ”になれる原動力が・・・ね?』”

 “『先輩からのお願いだからって教えませんからね。だって堀宮さんには関係ないことだし』”

 “『ねぇ・・・じゃんけんしよ?』”

 “『・・・じゃんけん?』”

 “『うん。今からあたしと蓮ちゃんでじゃんけんして、勝ったら特別に蓮ちゃんの役作りにマンツーマンで付き合ってあげる』”

 “『・・・もし私が負けたら?』”

 “『蓮ちゃんが女優を頑張れる秘密をあたしに教えてよ。誰にも言わないから』”

 “『・・・いや、意味がわからない』”

 “『どうしてそんなに悩んでんの?だって蓮ちゃんってじゃんけんめっちゃ強いから絶対に有利じゃん・・・・・・それとも、あたしに“じゃんけん”で負けちゃったら勝てる“モノ”が何もなくなっちゃうのが怖いから?』”

 “『・・・・・・は?・・・なわけないでしょ?』”

 

 

 “『_って感じでかる~く煽ってみたら普通に乗ってくれたよ。じゃんけん』”

 “『あいつって一見すると余裕ぶってるけど意外と熱くなりやすいところがありますからね』”

 “『でもあのときの蓮ちゃんの眼が見るからにブチ切れてて超怖かった』”

 “『そりゃあんな馬鹿にするような煽り方したら誰だって怒りますよ・・・・・・いや待って・・・てことは杏子さんって“あの蓮”にじゃんけんで勝ったんですか?』”

 “『うん。普通に一回目で勝てたけど、何で?』”

 “『・・・言っときますけどあいつ、じゃんけんが強いとかそんなレベルじゃないっすよ?』”

 “『知ってるよ。現場でもじゃんけんが“超強い”って話題になってたからね。ケータリングの残りとか朝夕のバイキングとかを賭けた“じゃんけん大会”みたいなのを共演者(みんな)と一緒にやってたけど全部勝ってたし・・・蓮ちゃんがじゃんけんで負けたのはあたしとやった1回きりじゃないかな?』”

 

 そして話の流れでじゃんけんをすることになり、もし蓮に勝てたら自分に“秘密”を教えるという条件で堀宮は蓮にじゃんけんを挑み、1回目で勝ったという。俄かには信じ難いが、“あの蓮”にじゃんけんで勝ったという。

 

 “『・・・まさか、“最初から”とか汚い手でも使いました?』”

 “『いやいや、“清純派”で売ってるあたしがそんな外道な手口(イカサマ)なんて使うように見える?』”

 “『いきなりキスしてきた女優のどこが清純派なんですか?』”

 

 ちなみに俺は蓮と何回かじゃんけんをしたことがあったが、1度たりとも勝った試しがないどころかあいつがじゃんけんで負けている姿すらも見たことがない。

 

 “『本当にイカサマなんて何もやってないよ。強いて言えばほんのちょっとだけ“頭”を使っただけで』”

 “『頭を使うってどういうことですか?』”

 “『それはいまからじゃんけんして先にさとるが3回勝てたら教えてあげる』”

 “『またそうやって人を誑かすつもりですか?』”

 “『誑かすはヒドくない?』”

 “『世の中には仏の顔も三度までってことわざがあるんですよ杏子さん』”

 “『てゆーか、えっ?10年に1人の天才俳優であろうお方がじゃんけん如きで逃げるって・・・・・・ぶっちゃけダサ』”

 “『3連敗しても泣き言は無しでお願いしますよ先輩』”

 

 とまぁ、どういうわけか話の流れで俺も堀宮と一緒にじゃんけんをする羽目になったが、結果は俺の3連敗に終わった。もちろん、堀宮が使っている“必勝法”の手がかりは全く掴めなかった。

 

 “『てゆー感じでじゃんけんに勝って、あたしは蓮ちゃんからさとるのことを聞きだしたってわけ』”

 “『・・・そういや今日の予定決めるときに一色先輩と20回ぐらいあいこになってたの思い出したわ』”

 “『あとさぁ、さとるってホントじゃんけん弱いよね?』”

 “『俺の周りの連中がこぞって強すぎるんですよ』”

 “『3連敗したら泣き言は無しじゃなかったっけ?』”

 “『うっ・・・ハイ(自分で言った手前で何も言えねぇ・・・』”

 

 こうして“じゃんけん3連敗”という脱線を挟んで、俺は堀宮が蓮のことを知っている理由に辿り着いた。

 

 “『・・・ちなみに蓮は、杏子さんがさっき話してた言葉(こと)以外で何か俺について言ってました?』”

 “『・・・・・・それ、ほんとに聞いちゃう?』”

 

 

 

 

 

 

 4月9日_午後5時55分_馬橋公園_

 

 “本当に間に合うんかな・・・”

 

 7限目まである月曜日の授業を終えた俺は、オフで空いた時間を学校のすぐ近くにある図書館で課題と復習をしながら4,50分ほど潰して、約束していた時間の5分前に寮から歩いて1,2分ほどの馬橋公園の一角にあるブランコの前に着いて蓮を待っていた。本人は心配ないと言っていたとはいえ“遅れそうならメールくれ”みたいに一言だけ蓮の携帯に送ってやろうと思っていたが、向こうが撮影で気を引き締めているときにこんな“分かり切っている”ことを送ったところでありがた迷惑だろうなと思い、俺は夕方6時というあいつの言葉を信じることにした。

 

 まぁ、俺としては最悪寮の門限の10分前まではどれだけあいつが撮影で遅れようが待つつもりではいるが・・・

 

 “・・・誰もいない・・・”

 

 夕方6時前の日暮れの空の下、きっといつもだったら園児や小学生の子供たちの笑い声で溢れているはずのブランコの周りは人影すらなくて、どこか遠くのほうで家路に帰る子供のような声が微かに聴こえるくらいで静まり返っている。時間帯を考えると親に言われている門限があるだとか、何か目当てのアニメがあるだとか、そんなところだろう。

 

 

 

 “『いい憬?絶対に夕方のチャイムがなるまでには帰ること。分かった?』”

 

 

 

 そういえば俺も、小学生のときは母ちゃんから“夕方のチャイムがなるまでにはウチに帰るように”と、勝手にどこにでもいるお母さんらしく門限をつけられていたことを思い出す。仕事柄もあって夕方6時までに帰ってくることは稀だったから幾らでも門限なんて破ることは出来たのに、俺は律義に学校が終わったら直帰で301号室に帰って母ちゃんのコレクションを漁っては1人で勝手に鑑賞会を開いて時間を潰していた。

 

 

 

 “・・・すごい・・・

 

 

 

 という感じに言っておけば聞こえはいいが、要は俺には小6まで親友はおろか一緒に遊ぶ友達すらいなかったから門限を破る理由なんて端からなかったというだけだ。でも、ただブラウン管の前に座って観ているだけなのにちょっとした仕草のひとつですら感情が揺さぶられる星アリサ(あこがれ)の圧巻の演技があったから、寂しさはこれっぽっちもなかった。

 

 

 

 “『後悔も、思い残すことも、何一つありません』”

 

 

 

 それからしばらくした4月のある日、俺の憧れは突然と表舞台から降りて次の世代に芸能界(せかい)の未来を託した。そして今、憧れが託した“スターズ”とは違えど俺はかつて憧れていた女優(やくしゃ)がいた世界と同じ場所に立っている。早いものであれからもうすぐ2年が経とうとしているが、未だに俺は憧れどころか目の前を歩く親友にも追い付けていない。いや、“にも”なんて言ってしまったらまるで蓮が大したことないやつみたいで、嫌だな・・・

 

 「・・・憬

 

 こんな感じでブランコの周りを囲む手すりに座るように寄りかかり、目を瞑りながら昔を懐かしんでいた意識に聞き覚えのありすぎる声が聞こえて声のする方へと顔を向けると、左の頬に自分のではない指先がぶすっと触れる感覚を覚えた。

 

 「ハイ引っかかったバカが見る~」

 「・・・ったくしょうもないイタズラしやがってお前ってやつは・・・」

 

 頬に触れる指先を軽く振り払い声の聞こえた真後ろに振り向くと、そこには今日の撮影を終えてきた蓮が流行りの“何とか系”のストリートファッションを着こなして立っていた。

 

 「(蓮・・・だよな?)・・・・・・蓮・・・何か雰囲気変わった?」

 「何かじゃなくてあからさまにね?」

 「それは見りゃわかるけど・・・」

 

 だが後ろに立ってどこか誇らしげな雰囲気を纏いながら俺に笑いかけている蓮の髪が、すっかり見慣れた背中まで届くぐらいの長さから一見すると男と見間違えるほどバッサリと短くなっていたから、そのあまりの変わりように思考が追い付けなくなった俺はほんの一瞬だけ本気で人違いじゃないかと蓮のことを疑ってしまった。

 

 「あといま本気で私のこと“誰?”って思ったでしょ?」

 「何で?」

 「嘘が下手な君の顔にそう書いてる」

 「・・・好きにしろよ」

 

 案の定、心の中に隠していたつもりの本音を良いも悪いも俺のことをよく知っている親友は秒で読み取った。本当に蓮というやつは、こうやってダイレクトに思っていることを言い当ててくるからある意味で誰よりも油断ならない。

 

 「ってか、すげぇ髪切ったなお前?」

 「そうだね。もしかしたら人生史上一番短いんじゃないかな?さすがに生まれてきたときほどじゃないけど」

 

 そして人生史上で一番髪を短くしたという蓮から特に普段と変わらない様子のまま揶揄われながら、何となくの流れで俺は蓮と一緒にそれぞれブランコに座って特に漕ぐわけでもなく話を続ける。

 

 「人生史上一番かは知らないけどここまで短いのは俺も初めて見たわ。小6のときも今思えばそれなりに短かったけど、その時はまだ肩にかかるかかからないかくらいだったし」

 「よく覚えてるよねそんなこと?」

 「これでもお前のことは転校してきたときからずっと見てたからな」

 「えっ・・・もしかして憬って私の髪の毛を今までずっとジロジロ見てたの?ヒクわー」

 「なわけねぇよ普通に親友としてだわ・・・・・・まぁ、言い方は悪かったけど」

 「自覚あったんかい」

 「言い終えた瞬間に間違えたって思った」

 「ははっ、何それおもしろっ」

 「笑いたきゃ笑え」

 

 転校してきた小6のとき以上に短くなった見慣れないショートヘアのおかげで、最初は隣のブランコに座っているのが蓮だと分かっているはずなのにどことなく別の誰かと話しているかのような感覚に陥りそうになったが、その違和感も少し話せばすぐに消えて行った。

 

 「でもさ、自分で言うのもアレだけど案外ショートも似合うでしょ?私?」

 

 つい言葉を間違えたことを満足そうに弄った蓮は、如何にも“似合ってるでしょ?”と言いたげな目つきと表情で左隣に座る俺をクールな笑みで見つめる。もちろん背中までサラッと伸びた長い髪もボーイッシュな短い髪もどっちも文句なしに似合っていることは変わりないから、返す言葉はひとつだ。

 

 「まぁ良いんじゃね?普通に似合ってるし」

 「うわ反応薄っ」

 

 だけどあからさまに“言わせたい”感が満載でこのまま素直に言うと負けな気がした俺は、相手が怒らない塩梅でやや無愛想に感想を返した。

 

 「蓮は元々“華がある”から、前々からショートも似合うんじゃないかって思ってはいたからな」

 「・・・そりゃどーもです」

 「喜べよ。褒めてんだから」

 「憬のくせに生意気」

 「久しぶりに聞いたわそれ」

 

 右隣のブランコに座りやや自慢げに笑っていた横顔が、少しだけムスっとなって薄暗くなり始めた茜色の空に照らされる公園の木々を見つめる。その表情は思っていたのと違うリアクションをされた不満げとシンプルに似合うと言われた安堵が半々ぐらいに分かれている。人のことを嘘が下手だと蓮は言うが、俺からしてみればこいつも大概だ。

 

 「とにかく、2001年(今年)の環蓮は“ボーイッシュ”で行くからそこんとこよろしく」

 「・・・おう」

 

 視線を前に向けたまま、蓮はぶっきらぼうなトーンで言葉を返す。当然横にいる本人には直接言うつもりはないけど、誕生日を迎えるたびにこういうさり気ない普段の表情(かお)ですら女優らしくどんどんと綺麗になっていくから、嬉しい反面で遠い存在になってきているような気になってしまいそうになる。

 

 

 

 “『ところで憬くんはさ、俳優とか目指さないの?』”

 

 

 

 「・・・そういや、今日撮影あったんだよな?」

 「うん、1時間前までね」

 「よく間に合ったな」

 「間に合うも何も、スタジオで撮るシーンは土曜日で全部撮り終えて今日はファミレスのシーンだけだったし、ロケも荻窪の辺で割と近いとこだったからスケジュール的には最初から“ノー問題”だよ」

 

 数秒ほどの沈黙を挟んで、俺は一旦途切れた会話の続きを始める。

 

 「そっか・・・なんか色々頑張ってんな」

 「と言っても1話しか出番のない“ゲスト”だけどね?ま、出演時間が多かろうが少なかろうが真剣に()るのは変わらないけど」

 「蓮はホントに真面目で偉いよ」

 「ひねくれオタクに褒められてもちっとも嬉しくない」

 「こっちは素直に褒めてんのに酷ぇなオイ

 

 互いに顔を向けながら笑い合うわけではなく、横目で視線を送りながら淡々とブランコに座って会話を繋いでいく平和な時間が流れる。俺たちはカメラがまわれば共演者(ライバル)だけれど、カメラも何もなければこうやって意識的に仲良くしたりなんか全く考えないでありのままの言葉を日常的なトーンに乗せて会話を繋いでいくただの親友だ。

 

 「・・・髪を切ったのも撮影(それ)のためか?」

 「実は違う作品のためなんだよね・・・って言いたいところだけど、ついさっき撮り終えたドラマで私が()ってたのがバスケ部の女子生徒だから、“全然髪とかそれっぽく短く出来ますよ”って冗談で言ってたのが結果的にホントになっちゃった、って感じ」

 「・・・監督とかビックリしたんじゃないかそれ?」

 「さすがに撮影の3日前に“ホントに髪切ります”って伝えたからそこは大丈夫だったよ」

 「その辺は抜かりないんだな」

 「ただ監督は“本当に切ってきたんだ・・・”ってちょっとだけ驚いてたけど」

 

 と、ここで話の流れを遮って一旦余談を挟むが、俳優を始めとした芸能人が何かしらの都合で雰囲気や見た目が大きく変わるほどバッサリと髪を切るような場合は、当然ながら現在進行形で仕事で世話になっている関係者各所へ事前に伝えなければならないことが暗黙の了解として広がっている。もちろん言わなくても罪に問われることはないが、極端な例を挙げるとワックスのCMに起用したタレントや俳優が、いざCMや広告の撮影になったときにワックスをしても全く変化が分からない丸坊主になっていたら間違いなく現場は混乱するだろうし、その当事者に対する“信用”は確実に下がることになりましてやフリーではなく所属している事務所があるのならば親元の看板にも泥を塗ることになる。

 

 だから髪を切ったり髪を染めたりと大胆なイメージチェンジをする場合は、事前に関係者各所にそれを伝えることが業界におけるマストになっている。(※諸説あります)

 

 「にしてもさ、たかが役作りで髪切るだけで契約してるスポンサーとか色んな所に連絡とかしないといけないなんて、そういうところはめんどくさいよね芸能界?」

 「仕方ないよ、芸能人はまず“見た目”だからな」

 「憬は最初から“演技派”で売ってるからそういうのあんまり関係ないでしょ?」

 「あるにはあるよ俺にだって」

 「あと憬からそういう言葉が出てくるのはぶっちゃけ意外だよ」

 「そんな意外か?」

 「だって普段の君って芝居することしか考えてない“おバカ”じゃん」

 「お前は俺のことを何だと思ってんだ“ボーイッシュ”野郎がとうとう“芝居バカ”ですらなくなってんじゃねぇか・・・)」

 

 俺が本気でキレないことをいいことに容赦なく生意気に馬鹿にしてくる(こいつ)も、どうやらその辺のことはちゃんと理解しているみたいだ。もちろん根が真面目なのは分かり切っていることだから、驚きは全くない。

 

 「・・・ていうか、昨日のメールで言ってた話したいことって何だよ?」

 

 なんて具合に話が脱線していたが、そもそも俺は昨日の蓮からの“ちょっと話したいことがある”というメールがきっかけでこんな時間に馬橋公園(ここ)のブランコに座っている。しかも“バックれたらボコす”という脅しのおまけ付きで

 

 「あ~、そういやそれで憬をわざわざ呼び出したんだった」

 

 ふとそれを思い出した俺に、隣に座る蓮はややわざとらしくおどける。

 

 「“バックれたらボコす”とか人に言っておいて自分は忘れてたのかよ」

 「なわけないじゃん」

 「だったら早く言ってくれよ・・・こっちは門限のせいで1時間後には寮に戻んないといけないし」

 

 そんなわざとらしい態度をとる蓮を、門限がある俺は悪いと思いながらもややぶっきらぼうに急かす。だいたい、わざわざこうやって俺を呼び出したということは学校の休み時間10分程度で終わるような話じゃないのは想像がつくからだ。

 

 「・・・まぁ、なるべく話はちゃんと聞いてやるから」

 「心配しなくても大丈夫だよ。そんなに時間をかけて言うような話じゃないし」

 

 極力気を遣ってしまっていることを悟られないようにぶっきらぼうを装うが、悪いと思っている内心が表情に出てしまっていたのか蓮は俺のほうに顔を向けて言葉を遮るように間髪入れずに“大丈夫”と言った。

 

 「ねぇ・・・・・・憬にとっての“親友”っていうのは、どんな存在?

 

 そのどこか儚げな笑みを視た瞬間、これから蓮が俺に伝えることが只事じゃないという“嫌な予感”が頭の中をよぎった。

 

 

 

 ♪~♪~♪~♪♪♪♪♪♪♪♪♪~

 

 

 

 今まで俺に見せたことのない表情(かお)から放たれた蓮の声を合図にするように、夕方の6時を告げる夕焼け小焼けのチャイムが遠くから流れ、それまで淡々としていて穏やかだった俺と蓮の間(ブランコ)の空気がどっしりと重くなっていく。

 

 「“親友”か・・・・・・随分急だな

 

 意図せず不気味さを助長する夕方のチャイムが遠くで流れるなかで、理由もなく先の知れた未来を突きつけてくる予感に抗いながら俺は言葉を紡ぐ。

 

 

 

 “『もしも “親友”の蓮ちゃんが“敵”になってさとるに牙を向けてきたら、どうする?』”

 

 

 

 「お互いが“1番”を競い合うライバルになっても、カメラを前に牙を向け合う関係になっても・・・カメラの外だと今までみたいにどんなことでも気兼ねなく話すことができるただの“心を許せる大切な存在”でいられるのが親友・・・・・・ってところかな

 

 チャイムが聞こえなくなったのと同時に、“親友とは何か”という自分なりの今のところの答えはひとまず纏まった。自分で言っておいて難だが、ほぼそのまま蓮のことを言っているわけだから結構恥ずかしい。

 

 「フッ、親友っていうかそれもう私のことじゃん」

 「悪いか?」

 「別に?ただ憬はそういうふうに思ってるんだな~って。それだけ」

 「・・・何だよそれ」

 

 頭の中で考えるまでもなく、そのことは隣にもしっかり伝わっていたみたいでたまらず蓮は笑い出した。いつも通りの親友を揶揄ってくるふとした感情に毎度の如く言い返そうとするが、襲い来る“予感”といつもとほんの僅かに違う蓮の様子に、俺は上手く言い返せないでいる。

 

 「じゃあ、憬にとって親友は“無くてはならない大切なもの”ってことだね?」

 「そんな感じで言われるとすげぇ大袈裟だけど・・・・・・まぁ、俺にとっては誰が何を言おうとそういうのが“親友”だからよ・・・」

 

 

 

 そう言えば、今までの俺は“親友”とは何なのかなんて考えているようでロクに考えていなかった。俺が蓮に向けて言ったことはあくまで俺が思っている価値観(こと)であって、少し角度を変えて考えてみれば(こいつ)にとっての親友という存在が俺と全く同じだとは限らないことは当たり前だ。役者にも色んな人種(タイプ)がいるように、人間だって1人1人がそれぞれ違う・・・・・・

 

 

 

 「・・・蓮は違うのか?

 

 突如として心の奥に浮かんだ親友への疑念を、俺は簡潔な言葉に変えて隣に伝える。

 

 「ううん。親友は大切だよ。だって一緒にいて楽しいし、こうやって何気なく話してるだけで嫌なことも全部忘れられるし・・・」

 

 すると蓮はブランコから立ち上がり、ダンサーのような軽やかな足取りでブランコに座ったままの俺を見下ろすように目の前に立った。

 

 「だけど、もしも“親友”っていう存在がこれからもずっと女優を続けていく私にとって邪魔な“障害物”だとしたら・・・・・・私は親友なんていらない・・・




向けられた言葉は挑発か?本気か?_



ちなみに髪をバッサリ切った環のイメージは、図書館戦争の笠原郁です。更に補足をしておくと環って何かとロングヘアのイメージが強いですが、スカウトキャラバンのとき(※原作117話)や黒山の初監督作品に出演していたとき(※原作114話)など、本誌で読んでいた読者なら何となく分かると思うのですが結構ヘアスタイルを変えてるんですよね・・・・・・事情が事情なだけあって本誌勢の人にしか伝わらないのが何とももどかしい。
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