或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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scene.80 タイマン

 “『・・・ちなみに蓮は、杏子さんがさっき話してた言葉(こと)以外で何か俺について言ってました?』”

 “『・・・・・・それ、ほんとに聞いちゃう?』”

 

 

 

 “『憬にだけは負けてられない』”

 

 

 

 “『・・・・・・すいません。やっぱりもう大丈夫です』”

 

 じゃんけんに負けた蓮が堀宮に俺とのことを打ち明けたときに口にした“(おれ)にだけは負けてられない”という、負けず嫌いなあいつらしさが凝縮された一言。

 

 “『・・・マジでいいの?もっと色々教えてほしいんなら幾らでも話すつもりだけどあたし?』”

 

 好奇心という出来心が働いた俺は“答え”の先を関係のない堀宮に求めかけたが、その瞬間に俺のことを堀宮に打ち明ける蓮の姿が頭に浮かんで、寸でのところで冷静さを取り戻した。

 

 “『本当に大丈夫です・・・・・・それぐらいのことは、俺があいつから直接聞きます』”

 “『・・・“マジのマジ”で良いんだね?さとる?』”

 “『はい。“マジのマジ”でお願いします』”

 

 どうして見たこともないはずの光景が想像となって頭に浮かんできたのかは分からない。だけど、想像の中にいる蓮の俺に向けた“負けたくない”という感情は人伝なんかじゃなくてちゃんと面と向かってあいつと向き合い、ひとりの“親友”として俺が受け止めないと駄目だと思った。

 

 “『・・・そっか・・・・・・でも、せっかくの“親友同士”だったらやっぱり1対1(タイマン)で語り合わなきゃだよね?』”

 “『“タイマン”って・・・別に喧嘩するわけじゃないんですけど』”

 “『タイマンは1対1の“ステゴロ”で喧嘩するだけじゃなくて、“1対1で交渉する”っていう意味合いもあるからね。詳しいでしょあたし?』”

 “『・・・まぁ、杏子さんも一応“進学校”とも言われてる霧生に受かってるぐらいですからね』”

 “『うわぁ出たよ“ドラいもん”』”

 “『だから何なんすかそのタチの悪いパチモンみたいなあだ名・・・』”

 

 最終的に自分の意思で蓮の気持ちを受け止めると決めた俺に、堀宮は毒気のないいつもの笑みで先輩としての助言を送ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 「だけど、もしも“親友”っていう存在がこれからもずっと女優を続けていく私にとって邪魔な“障害物”だとしたら・・・・・・私は親友なんていらない・・・

 

 ブランコに座ったままでいる俺の目を見下ろすように真っ直ぐ見つめながら、目の前に立つ蓮はクールに笑いながら普段より1トーンほど低い声で言い放つ。

 

 「・・・本気か?

 「じゃなかったら君をわざわざ呼び出してまでこんなことなんか言わないよ

 

 見上げて問いかける俺に、蓮は表情を崩すことなく即答で答える。ブランコに座る俺を見つめる眼と向けられた感情は、言い放った言葉が決して強がりや挑発なんかじゃなく“本気”だということを物語っている。

 

 「ねぇ?憬の次の“仕事”って何?

 

 

 

 “『悔しいっていうか・・・・・・なんか自分の知らないところで自分が勝手に不戦敗したみたいな気分』”

 

 

 

 映画館で『ロストチャイルド』を観終えた後、隣の客席に座る親友を限りなく敵視に近い感情で見つめた横顔と同じくらいかそれ以上の強い感情で、蓮はすっかり“女優らしくなった”笑みを俺に魅せつけて畳みかける。

 

 「正直に答えてよね・・・・・・“親友”だったらさ?

 

 

 

 “『そうだね・・・牧静流(あいつ)はあたしの“居場所”を目の前で何度もすまし顔で奪い去っていった“(かたき)”だから、この地球上にいる誰よりも最高に“いけ好かない”』”

 

 “『芸能界はね・・・嫌われてなんぼの世界なんだよ。女優だろうと男優だろうとね』”

 

 

 

 それはいつかの俺が対峙した、自分の為なら相手のことを本気で“嫌い”になれる覚悟を手にした2人の女優(やくしゃ)が持ち合わせている感情(モノ)と同じだった。その原動力は、“(おれ)には負けたくない”という確たる決意だ。

 

 

 

 “『これからも“芝居”と共に苦しみもがき続けなさい』”

 

 

 

 「・・・・・・蓮は受けたのか?“オーディション”?

 

 向けられた役者としての覚悟に、俺は頭の中を駆け巡る“予感”が紛れもなく“本当”だということを悟り、ブランコから立ち上がり避けられない明日へ進んでしまう一言をぶつける。

 

 「うん。ただ残念ながらオーディションは仕組まれた“出来レース”・・・私は端から勝負すらさせてもらえなかったけどね

 「てことは髪を切ったのは“配役(そのため)”か?

 「へぇ~、憬のくせに随分察しがいいじゃん

 「いまのお前とよく似た中性的な雰囲気のキャラクターが原作にいたことを思い出したからな

 

 見上げていた表情がほんの数センチ分だけ下に移動する。予感は当たった。蓮は“勝負権のないオーディション”を引き受けて、大人の掌の上で転がされ落とされた。“対価”として代わりとなる配役を当てられた上で。

 

 「それに・・・・・・お前が受けたオーディションの実態は、俺も知ってる

 

 蓮が髪を切った本当の理由にようやく合点がいった。ショートヘアにした(こいつ)が演じるであろう役はきっと大村凪子といういわゆる“サブキャラ”で、原作では雅の友人としてそれなりの出番があり、メインの4人との絡みもある“オイシイ”役どころだ。ただ実際に来月から撮影が始まるドラマがどこまで原作をなぞっていくのか、あるいは独自な方向へ進んでいくのかは分からないから凪子がどんな立ち位置なるのかは脚本次第。それに、物語の“一番(ヒロイン)”であることに意味を見出す蓮にとっては、このオファーは一番ではない“負け犬”だというレッテルを本人の意思とは関係なしに周囲から貼られるという、屈辱以外の何物でもないものなのだろう。

 

 「・・・憬は誰になった?

 

 もちろん俺が()の立場だったとしても、間違いなく似たような心境になる。

 

 

 

 “『その“喧嘩”・・・・・・10年に1人の天才女優・堀宮杏子が引き受けた・・・』”

 

 

 

 「・・・園崎純也・・・・・・“メインキャスト”だよ・・・

 

 だとしても、役者という生き方を選んだ俺たちがやるべきことは、たった1つだ。そこに主役も脇役も端役も、自身の置かれている境遇なども全く関係ない。

 

 「“おれ”のことを恵まれている奴だと妬みたければ妬めばいい・・・・・・でも、“おれ”はお前以上に本気だよ

 

 自分でも何を挑発的なことを言っているのか、俯瞰した瞬間に面白おかしくなって吹き出しそうになる。だけど・・・これがいまの俺が(おまえ)に向けられる精一杯の覚悟だ。

 

 「・・・あはははっ・・・・・・もうほんっと久しぶりにみたよ、芝居以外で君がそんな表情(かお)するの

 

 少なくとも俺が役者になってからは一度も使う機会がなかった何の役にも立たない持て余した感情と共に吐き出された“真実”を真正面で受け止めた蓮は、堪えきれずと言わんばかりに腹を抱えて笑い出した。でも、俺に向けた眼には隠しきれていない感情が微かな動揺と確かな闘志となって見え隠れしている。

 

 「だろうな。役者になったらもうお役御免になるかと思ったけど、まさか“こんなこと”で使う羽目になるなんてな

 「ま、先輩の私から視れば久々に使った割には飼い慣らせてんじゃない?

 「そりゃあ俺の分身だからよ。手前の感情を自分で使いこなせなかったら役者失格だ

 

 何だかんだで久しぶりに使った、喧嘩のとき以外では何の役にも立たないメソッド。ただ役者になる前の“その場しのぎ”とは違い、今の“メソッド”は親友の覚悟と向き合うためには必要なものだ。

 

 「・・・やっぱり・・・まだ台本を誰が書くのかすら分からない状況なのにちゃんと仕上がってる

 「さすが・・・お前は親友なだけあっておれのことになると勘が冴えまくりだな

 「そんなんじゃないよ。私は“原作”を読破してるってだけだから

 

 そして俺のことをよく知る親友は役立たずだったメソッドの確かな違いに瞬時に気付いて、余裕綽綽な感じを繕いながら俺の右肩に優しく手を掛けて通り過ぎ、俺が座っていた左側のブランコに座る。

 

 「けどいいの?これ以上君が“純也”の力を借りて自分の芝居を見せびらかすような真似したら・・・・・・私も“本気”で喰ってかかるけど?

 

 先ほどとは打って変わって今度は俺がブランコに座る蓮を見下ろす格好になり、見上げながら浮かべるありとあらゆる心情が混ざった“女優の笑み”と対峙する。

 

 

 

 “『“役者(おれたち)”には“役者(おれたち)の意地”があるということも、忘れないでください』”

 

 

 

 「構わねぇよ・・・・・・役者が自分の芝居を見せびらかして何が悪い?

 

 そんな今まで向けられた中で一番強い感情に、俺は“あるがまま(自分)”の感情で意地をぶつける。

 

 「・・・・・・憬も言うようになったじゃん

 

 すると見上げる笑みと視線がほんの少しだけ“和らいだ”のを俺は静かに、確かに感じ取った。

 

 

 

 “・・・良かった・・・・・・蓮はちゃんと“蓮”のままだ・・・

 

 

 

 目に見える感情の一瞬の綻びに心の中で安堵して、さっきまで蓮が座っていた右側のブランコに俺が座ると、蓮はブランコを漕ぎ始めた。

 

 「憬は漕がないの?」

 「俺?・・・しょうがねぇな・・・」

 

 そして俺も蓮からの言葉に甘える恰好で、同じようにブランコを漕ぎ始める。

 

 「・・・何だかんだでいつも通りの蓮で安心したわ」

 

 確かにいまの蓮は、堀宮や牧と同じくらいの覚悟を秘めているかもしれない。だけど、少なくともあの2人とは違って向けられた感情の奥にある“本心”を隠しきれないでいる。もちろんそれは良い意味であって、仮面のようなもので着飾らずそのままでいることが蓮にとっては女優であるための一番の武器で、“女優・環蓮”があの2人のようになる必要なんて全くないと俺は思っている。

 

 「でも・・・・・・お前が“本気”なのはちゃんと心に伝わった

 

 それでも(こいつ)は、これからもずっとライバルの“一歩先”を走り続けるために、自分の中にいるもう一人の自分の感情を利用したのだろう。

 

 

 

 “『サトル(お前)は役者で例えると、“監督や演出家(パペッティア)”の“意図()”がなくても自分の意思で勝手に動ける“人間”・・・・・・ってところだな』”

 

 

 

 昨日の映画を観終えた後のバーガーショップの席で、自分が一体どういう役者(にんげん)なのかを言い当てた一色に心の中で確かな“不愉快”さを感じた、俺のように・・・

 

 

 

 「・・・言っとくけど、私は別に憬と親友でいられる“いまの関係”を断ち切りたいとは思ってないから・・・そこは安心していいよ

 

 体幹的に10秒ほどの気まずさに似た沈黙を破り、左隣でブランコを漕ぐ蓮は視線を遠くに向けたまま自分の思いを打ち明け始める。

 

 「分かってるよ。だけど必要とあれば“親友をやめる”覚悟は出来てる・・・ってところだろ?」

 「はぁー・・・ホントに憬のたまに見せる“そういうところ”だけはずっと嫌いだよ私」

 「俺に対しては本当に容赦がないよなお前ってさ?」

 「だって事実だし」

 

 いつもだったら言い負かせられている俺からの偶の仕返しに、“お株”を奪われた蓮は分かりやすく機嫌を損ねる。まだ発展途上の役者に過ぎない俺が言える義理じゃないが、同じ役者の視点で蓮のことを視れるようになったら、案外こいつは人から煽られると普段よりも“チョロく”なることが分かった。

 

 “やっぱお前、煽られると途端に分かりやすくなるよな?”

 

 「・・・そーかよ」

 

 と追い打ちをかけてやりたいと思う欲求を心の中に押さえて、適当にそれっぽい相槌を打つ。まぁ言ったところで俺が得をするわけじゃないし、そもそもそんなことをする必要もないから言うつもりもない。

 

 「“嫌い”って言われて親友やめたくなっちゃった?」

 「そんなんで嫌いになる奴とは親友どころか友達にすらなれねぇよ」

 「あははっ、人に容赦ないよなとか言っときながら憬も大概じゃん」

 「大概もクソも、俺は自分には嘘を吐かないってだけだ」

 

 そんなことなどつゆ知らずか、蓮は得意げになって俺を揶揄い始める。正直に言うと親友という“補正”が掛かっていると言われたらそれまでだが、人を揶揄ったりする“駆け引き”的なものは隙を一切見せない堀宮のほうが一枚上手だなとつくづく思う。これもまた、芸能界(この世界)に入って色んな役者や人間と直接会ってきたから理解できたこと・・・なのかはまだ分からないけれど、とにかく実際に会ってみたら意外と俺はまだ親友のことを理解出来ているみたいだ。

 

 「・・・ていうか、さっきから随分と余裕ぶってない?」

 「は?いつも通りじゃね?」

 「もしかして私が人から煽られると“チョロい”とか思ってる?」

 「・・・何で?」

 「そんなの顔を視なくても声の感じを聴けば分かるよ。“親友”なめんな」

 

 そして俺以上に親友のことを理解している蓮は、俺が心の中で“チョロい”と思っていたことを些細な変化だけで読み取った。

 

 

 

 “『どうせ芝居のことでまた悩んでるでしょ?』”

 

 

 

 「・・・俺も蓮の“そういうところ”だけは嫌いだわ」

 

 “親友”という一種の特別な関係が難儀にしてしまっているのは否めないが、蓮の“こういうところ”は女優(やくしゃ)として十分武器になる才能だと俺はずっと密かに思っている。

 

 「何それ?もしかして“煽ってる”つもり?」

 「別に何でもねぇよ」

 「言っとくけど芝居をしてないオフの憬が私のことを煽るなんて50年は早いと思うけど?」

 「“オフ”のときの俺とか“50年”って絶妙なとこを突いてくるのがお前らしいよ・・・」

 

 もちろんこのことはライバルとして、そして何より親友として何が何でも墓場まで持っていくつもりだ。役者という生き物は自分でも気づけていない秘めた手前の才能に自らの意思(ちから)で気付くことで、人間として一歩先へと進んで行ける。

 

 

 

 “『主人公のことを考えていたら、俺自身の過去のことを思い出してました』”

 

 

 

 少なくとも俺は、そうやってここまで這い上がってきた。それ以外の生き方を知らないだけだと言われてしまったら何も言い返せない。だけど、今でもこうやって隣にいる親友()と一緒に役者をやれているという現実が、自分の生き方が間違いなんかじゃないということを証明してくれる・・・・・・と、大言壮語を吐けるほどまだ俺は偉くもなければ強くもない。

 

 「なぁ・・・いまから1つだけ我儘言っていいか?」

 「・・・何?」

 

 でも、自分が今までしてきた芝居(こと)が間違っているなんて、1秒たりとも思ったことはない。

 

 「俺は・・・・・・蓮とはこれからもずっと親友でいたい

 

 

 

 “自分の芝居(こと)までを否定してしまったら・・・・・・それはもう“俺”じゃない

 

 

 

 「・・・もし私が“()だ”って言ったら?

 

 ブランコを漕ぐのをやめて“親友なんていらない”と面と向かって言われようと自分の“我儘”を貫く俺に、蓮はブランコを漕いだまま横目でクールに問いかける。

 

 「いくら蓮からのお願いでも、それを受け入れるのだけは“嫌だ”な・・・

 

 その問いの答えは、(おまえ)の前で“役者になる”と心に決めた日からずっと変わらない。

 

 「・・・俺は蓮の“いまの気持ち”と向き合いたくて役者になろうって決めた・・・それは今もずっと変わってない・・・・・・だから、“親友なんていらない”と俺に言ったお前の“いまの気持ち”とも役者として・・・何より“親友”として向き合いたいって思ってる・・・

 

 

 

 “『せっかくの“親友同士”だったらやっぱり1対1(タイマン)で語り合わなきゃだよね?』”

 

 

 

 「・・・ホントさ・・・・・・憬って教室の“隅っこ”にいたときからなんにも変わってないよね?

 

 俺からのあまりにも我儘で独りよがりな本音に、蓮はブランコを漕ぐのをやめて同じ視点で溜息交じりに大袈裟に呆れかえったリアクションをして嘲笑う。

 

 「・・・それは蓮だって同じだろ?

 

 もちろんそこに“悪意”の感情が一切含まれていないのは、俺に向けられた眼が“女優の環蓮”から“ただの親友”に戻っていたのを感じて一瞬で分かった。

 

 「当たり前でしょ。だって“私は私”だから

 

 どんなに芝居が上手くなろうと過去を乗り越えようと、そして必要とあれば親友を捨てる覚悟を持てるようになっても、幼少期に確立された己の人間性なんてそう簡単には変わらない。

 

 「・・・知ってるよ

 

 こうやってブランコに座って隣り合う俺たちは、互いが“世界の縮図(しくみ)”を少しずつ理解してその度に互いがそれぞれ“違う”ものを背負い始めて、互いが音を立てないでゆっくりと“大人”に近づいていこうとも、今日も仲良くあのときの“宇宙人と蔑まれる馬鹿(オタク)”と“負けず嫌いなクラスの人気者(マドンナ)”と何ら変わらない感覚で言葉を交わし合う・・・・・・こんな感じの日々が、あとどれくらい続いていくのだろうか・・・

 

 

 

 “『オーディションを受けて、蓮と同じように俺も役者になる』”

 

 

 

 「・・・私ね・・・今回の『ユースフル・デイズ』で“後悔”させてやろうって考えてる

 

 静かに自分の気持ちを吐き出しながら、役者になると言った “あの日”のようにいつもより一歩だけ踏み込んで“蓮の気持ち”に向き合う覚悟(こと)を決めた俺に、蓮は来月から撮影が始まるドラマへの思いを明かし始めた。

 

 「ひょっとして俺も含めた“メインキャスト”か?」

 「いいや、“一番”は私のことを選んでくれなかった“大人達”だよ・・・」

 

 何となく後悔させる矛先がどこに向いているのかは既に予想出来ていたが、俺は敢えて“一番じゃない”答えを言って心に貯めこんでいるであろう感情を更に吐かせた。

 

 「・・・環蓮(わたし)半井亜美(メイン)にキャスティングしなかった“大人達”を、後悔させてやりたくて仕方ないんだよ・・・・・・心の底から

 

 すると一旦ただの親友に戻りかけていた蓮の表情(かお)が瞬く間に“もう一人の自分”へと移り変わり、堀宮の”笑み“によく似た”黒い炎“が宿ったかのような琥珀色の瞳が地上と空の中間を睨み、限りなく憎悪に近い感情を吐き出す。

 

 

 

 “『そういう真似をされるのが一番ムカつくんだよ・・・』”

 

 

 

 「分かってると思うけどもちろん“芝居”での話ね?

 「分かってる

 

 それはあの日の怒りとは比べ物にならないほどの、禍々しい感情だった。“怖い顔”をしてここまで自分を追い込んでいる蓮を視るのも、初めてだった。

 

 「そういうわけだから場合によっては“メインキャスト”の君にも容赦なく牙を向けるようなことがあるかもだけど・・・・・・悪く思わないでくれるかな?

 

 

 

 “やっぱり、(おまえ)は今までの自分を捨てる覚悟(つもり)で俺の隣に座っているんだな・・・

 

 

 

 “『もしも“親友”の蓮ちゃんが“敵”になってさとるに牙を向けてきたら、どうする?』”

 

 

 

 「分かった・・・・・・だったら俺は、お前の芝居(きば)を“メインキャスト”として全部受け止めてやる

 

 だが再び一歩を踏み込むと決めた俺には、またひとつ大人へと変わろうとしている蓮の心境の変化を迷わず二つ返事で受け入れて向き合うだけの覚悟はもう出来ている。

 

 「・・・言ったね?“男に二言はなし”だよ

 「あぁ。俺だって伊達にメインに抜擢されたわけじゃない。それに・・・まだお前との“勝負”は終わってないしな

 

 

 

 “『私と憬・・・どっちが先に自分の芝居を恥ずかしがらずに堂々と見れるようになれるか、勝負しようよ』”

 

 

 

 「終わってないどころか、勝負はまだ始まったばかりだよ・・・・・・むしろ“私たち”にとってはここからが本番なんだから・・・

 

 左隣に座る蓮は、瞳に“黒い炎”を宿したまま笑みを浮かべて俺に向けて拳を突き出した。

 

 「マジで久々だな、“これ”やるの」

 

 隣から向けられた右の拳に、俺も左の拳を向ける。

 

 「ついでに言っておくと君とはこのドラマで何気に“初絡み”になるわけだから・・・“タイマンを張る前のごあいさつ”ってことで」

 「親友やめるわ牙向けるわタイマンするわ、今日の蓮はやたらと物騒(シリアス)だな(てか最近流行ってんのか“タイマン”って?)」

 「アレ?“親友”のことは全部受け止めるんじゃないの?」

 「当たり前だろ。俺は“暴力”が嫌いってだけだから、“芝居”のタイマンなら幾らでも引き受けてやるよ」

 

 そして俺たちは互いを横目で見ながら、夕方6時過ぎの空の下で月9の顔合わせのとき以来に互いの拳を合わせた。

 

 「覚悟しとけよ。憬

 

 この瞬間、俺と蓮は“親友同士”から“敵同士”になった。もちろん、親友(あいて)(かたき)になったところで我儘な俺たちの関係自体は何も変わらない。

 

 

 

 だけど・・・“芝居”となれば話は別だ。

 

 

 

 「望むところだ

 

 

 

 

 

 

 さあ、戦え・・・俺。




変わりゆくものと、揺るぎないもの_



サブタイトルを“タイマン”にするか“我儘”にするか“宣戦布告”にするかで三日三晩ガチで悩んだ挙句、こうなりました・・・・・・というわけでここからいよいよ色々と動き出していくわけですが、物語は2018年に戻ります。
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