或る小説家の物語   作:ナカイユウ

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渋谷事変ハジマタ\(^o^)/


scene.82 ワル

 「なるほど~、屋上で2人きりとはなかなかやりますね。さとるセンパイ♪」

 

 俺から見て後ろ側にあるペントハウスの扉が開く音が微かに聴こえて背後に振り向くと、視線の先に購買で買ったであろうパンとウィーダーゼリーを片手に堀宮が得意げな顔をして立っていた。別に構わないけれど、何だか間が悪いのが否めない。

 

 「何を言いたいのかは分からないけど多分違います。てか杏子さんも今日学校来てたんですね?」

 「そうなんだよ~でも教室にいると視線が煩くて落ち着かなくてさ~」

 「それはご愁傷様です(俺もだけど)」

 「ついでにぶっちゃけると2年生になってから初めてなんだよね~学校(ここ)くるの」

 「杏子さんは忙しいですからね」

 

 少しゆっくりとした足取りで、堀宮は俺と蓮のところに歩いてくる。開口一番でいきなり“なかなかやる”と揶揄ってきたのことは今はスルーするとして、演じている役でも何でもない“高校生”になって俺たちと同じ学校の制服を着ている堀宮を見るのは何気に初めてだ。

 

 「ま、3年の“一色先輩”には負けちゃうけど」

 

 シェアウォーターのCM、ギーナのCM、そして6月に公開される“バトルロワイアル”でそれぞれ違う制服を着ている姿を知っているせいか、同じ学校の同じ制服を着ているはずなのに堀宮(この人)が着こなすとまるで学園ドラマのワンシーンを見ているかのような錯覚につい引き込まれそうになる。

 

 「・・・ってあれ?ひょっとして隣にいるのって蓮ちゃん?」

 「はい、“バトルロワイアル”以来ご無沙汰です。堀宮さん」

 

 存在に気付いた堀宮に声を掛けられて、蓮は軽くお辞儀をして挨拶する。よくよく考えたらいまこの屋上には芸能コースの生徒しかいない。そう思うと俺の隣にいる蓮はもちろんのこと、何なら俺も他のコースの生徒から見れば同じように見えているのかもしれない。

 

 「髪が短くなってるから一瞬誰だかわかんなかったけど・・・超似合ってんじゃん!」

 「ちょっ、いきなり人の前で頭を撫でないでください恥ずいから」

 「大丈夫、俺もそれこの人から何回もやられてるから」

 「そうなの?」

 

 近づきざまに堀宮は役作りで髪を切ってイメチェンした蓮の姿に分かりやすく驚いて、短くなった髪を俺のときと同じように撫でる。そういえば蓮が髪を切ったのはここ数日のことだから、堀宮が知らないのも当然のことだ。

 

 「杏子さんもほどほどにしてくださいよ、そういうの」

 「え~何でよ~カワイイ後輩ちゃんが2人もいたら先輩として可愛がるのが普通でしょ?」

 「もうちょいやり方ってのがあるでしょ。だいたい杏子さんは距離感がおかしいんすよ(こないだの“キス”とか・・・)」

 「ちぇっ、こうやって自分の価値観を押し付けるからさとるは友達が少ないんだ。ねぇ蓮ちゃん?」

 「蓮を巻き込まないでください。あといまの発言は普通にヒドいです」

 「まぁ、それは私も一理あると思ってます」

 「オイ蓮テメェ

 

 もちろん俺のほうも堀宮が蓮に喧嘩を売ってじゃんけんに勝ったエピソードしか聞いてないから、この2人が“パッと見”で案外普通に仲良さそうにしている光景を見て内心で少し驚いている。2人揃って“友達が少ない”認定されたことは事実とはいえ癪だが。

 

 

 

 “『_今日のことは絶対ナイショね(^_-)-☆_』”

 

 

 

 「っていうか・・・蓮と杏子さんって仲良いんですね?

 

 ただ“あのメール”のこともあってか僅かばかりに“不穏な予感”を感じ取った俺は、敢えて(しら)を切ってみた。

 

 「うん。“実は”見ての通りバトルロワイアルの現場で意気投合しちゃってもうすっかり“友達”って感じだから」

 「あぁ、“あの映画”ですか」

 「意気投合ってよりは堀宮さんがほぼ一方的に“友達になろ?”って絡んできただけなんだけどね・・・」

 「も~蓮ちゃんまで冷たい~」

 「ウチの事務所の先輩に代わって謝るわ、迷惑かけて申し訳ない」

 「コラさとる、あたしの株を勝手に下げない」

 「今しがた人の株を下げたアンタがそれを言うな

 

 試しに初耳を装って軽い小芝居(ウソ)を仕掛けてみたら、堀宮は俺のついた咄嗟の嘘に自然な感じで乗って自分より少し背の高い蓮の肩に手をやり“友達になった”ことをあからさまにアピールし出した。こういう演技なんて関係ない日常会話の中でさり気ない嘘をつく瞬間ですら自然で上手いところが、“女優・堀宮杏子”の恐ろしいところでもある。

 

 「あ、ごめん。さっきから2人きりで大事そうな話をしてるところを思いっきり邪魔してるよねあたし?」

 

 そして蓮を巻き込んで事務所の後輩にある程度のちょっかいを出したところで、堀宮は両手を合わせる仕草をしながら後輩2人(俺たち)に謝る。相変わらずこの人は何を考えているのか分からなくなる瞬間が多いが、やや“”にあざとさ全開の謝り方をした瞬間、まだ“演技”を続けていることだけは“役者の勘”で分かった。

 

 「いえ、もう話は済んだので大丈夫ですよ」

 「そう?」

 「だよね憬?」

 「ん?おう」

 

 先輩女優の小芝居に対して、蓮はあざとく謝ってきた堀宮に対して“全く気にしていませんよ”と言わんばかりに控えめに笑ってクールにあしらう。その微かな視線の動きで、蓮もまた“ひと芝居”を打っていることに俺は気が付いた。ついででこんなことを口にしたら怒るだろうし俺が言える立場じゃないけれど、やっぱり蓮の芝居はかなり上手くなったとはいえ“アドリブ”においては堀宮と比べてしまうと芸歴(キャリア)の差をまだハッキリと感じる。

 

 

 

 “・・・思えば堀宮が来てから、何だか空気が不穏だ・・・

 

 

 

 「そっかぁ・・・・・・じゃあマジのマジでごめんなさいだけどちょっと蓮ちゃんと“話したいこと”があるからさとるは先に降りてもらっていいかな?

 

 先ほど感じた“不穏な空気”が少しずつ確信に変わり始めるのとリンクして、堀宮は無邪気な口角と口調はそのままで俺に向けて“屋上から降りる”ように仕向ける。俺を真っ直ぐに見据える碧眼の瞳には、時折姿を現す不気味な“黒い炎”が浮かんでいるように見える。

 

 「・・・わざわざ俺を外さないと話せないようなことですか?

 「う~ん、ある意味

 「ある意味?

 「早い話が“女子トーク”的な感じだよ

 

 普段は後輩にちょっかいを出すのが大好きなめんどくさい先輩が、表情はそのままに“女優(やくしゃ)”になって普段は隠れている別の素顔を曝け出して俺に感情を向けている。この“”をしている堀宮を何度か見てきている俺はこんなことで動じるほど弱くはないから、平然を装って対峙する。

 

 「てことでさとるには先に降りてもらうことになるけどいいかな蓮ちゃん?」

 「・・・私は別に構いませんけど、憬は?」

 「・・・まあ、蓮がいいなら俺も構いませんよ」

 

 とはいえ“この状態”になった堀宮と“何か”を察している様子の蓮を見て、ひとまずこの場は身を引いたほうがいいと判断した俺は、張り合うことなく堀宮の誘導に従うことにした。

 

 「そうだ、お詫びにこの“トライアングル”。さとるにやろっか?」

 

 自分の思い通りにことが進んだことに納得したのか、堀宮は女優の感情を解いたいつもの先輩になって“霧生学園の名物”と言われている“トライアングル”というパンを俺に差し出す。

 

 「気持ちはありがたいですがあいにく腹はあんまり減ってないんで俺はいいです」

 

 だけれど学校に来てから中々気が休まらないままでそんな気分じゃないから、心の中で申し訳ないと思いつつ俺は先輩からの奢りを珍しく断った。とにかく今は、学校の名物をじっくり味わうよりも、昼休みが終わるまで図書室で潜むように陸上競技の参考書でも読んでこの2人を片隅で気に掛けつつ気持ちをリセットしたい気分だ。

 

 「ほんとにいいの?さすがに昼を抜くのは良くないと“先輩”は思うけど」

 「俺なんかより忙しい杏子さんこそたくさん食べたほうがいいんじゃないですか?」

 「もしかしてあたしが先に降りててって言っちゃったから拗ねてる?」

 「別に拗ねてないっすよ。そもそも学校(ここ)で食べる昼は自分の金で食べると決めているんで」

 「あらあら、いつもは何のためらいもなくあたしからの奢りを貰ってるさとるがこれは珍しい」

 「躊躇いなくって俺が餌付けされてるみたいな言い方だな・・・とにかく、もしそれをあげるなら蓮にあげてください。一緒に昼を食べながらのほうが会話も弾むでしょ?」

 「おぉ~、さとるがこんなイケメンみたいな気の利いたことを言えるようになるなんて・・・先輩は嬉しいよ」

 「それはどうもです」

 

 とりあえず自分が“お邪魔虫”と化したことを理解した俺は、この後に何かが起こりそうな気配しかない女子2人からゆっくりと距離を置くようにペントハウスへと足を進める。

 

 「蓮・・・言ってもあんまり意味ないと思うけど、昼休みが終わるまでは図書室にいるから

 「・・・・・・

 

 そして最後に図書室にいることを伝えられた蓮が無言で小さく頷くのを振り向きざまに確認して、俺は一足先に屋上を降りた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「本当に行っちゃったね。さとるくん」

 

 ペントハウスの扉が閉まる音が耳に届いてから一呼吸の間を置き、あたしは屋上を囲むフェンスのほうへと歩きながら蓮ちゃんに少しだけ心配しているように装って笑って見せる。

 

 「ですね・・・けど良かったじゃないですか。これで男子の前じゃ話せない“女子トーク”ができますよ?」

 

 そんな“後輩思いな先輩”を演じるあたしに、2歩ほど遅れてフェンスに着いて隣で寄りかかった蓮ちゃんはさとるといたときまでとは打って変わった無愛想な視線を向けて静かに笑う。さすがはあの“牧静流”が妹のように可愛がっていると噂の若手女優なだけあって、バトルロワイアルの撮影が終わってからちょっと会わなくなったうちに“この子”は元来の健気さはそのまま着実に“強く”なってきている。

 

 「も~、さっきから顔が怖いよ蓮ちゃん」

 

 こう言っちゃさとるには悪いけど、“邪魔”だった友達思いの後輩が空気を察して下に降りてくれたおかげで、あたしは“期待の蓮ちゃん”と2人だけになれた。案の定、“緩和剤”がいなくなったことで周りを取り巻いている空気が灰色の雲に覆われた空みたいに重くなり始めた。

 

 「・・・ずっと見てましたよね?私たちのこと

 「うん。見ちゃってた

 

 やっぱり・・・蓮ちゃんには気付かれてたか。あたしが一部始終をペントハウスの扉の裏側から窓越しでひっそりと見ていたこと。

 

 「でしょうね。だって一回だけ私とガチで目が合いましたから

 

 しかも、あろうことか目線までピンポイントに合ってしまった。

 

 「うん。まさか20数メートル(これくらい)離れててしかもドア越しなのにピンポイントで目が合っちゃうなんて思わなかった」

 「これでも視力2.0あるんで私」

 「やばっ、2.0とかあたしと一緒じゃん」

 「そうなんですね・・・まぁ、だからってお芝居にはあまり影響するとこじゃないですが」

 「さとるに負けず劣らず蓮ちゃんも“反抗期”ですね~」

 

 本当は数少ない“幼馴染といられる時間”を先輩としてもう少しだけ後輩に与えて上げたかったけど、冗談抜きで本当にピンポイントに目が合ってしまったから何とも中途半端なタイミングで扉を開けるしかなかった。あのまま放置していたら蓮ちゃんの一瞬の動揺に“芝居勘”が冴えわたっているさとるが気付いてしまうのは時間の問題だったから、あたしは無理やり“2人きり”の時間を終わらせることにした。

 

 「ちなみに君ら二人衆の会話はドアを閉めてたおかげで1ミリも聞こえてないから安心して♪」

 「どっちにしろ大した話はしてないんでそこはもういいです」

 「いいんかい」

 

 それでもさとるが最後まで動揺に気づけなかったのは、相手が幼馴染で同じ芸能界(せかい)でライバルとして張り合っている“特別な存在”だからこそ生まれた油断。確かにさとるの演技は芸歴10年越えでそこそこ目の肥えたあたしから見てもお世辞抜きで上手いし、何ならギーナのCMでさとるの異次元とも言える芝居の“深さ”は実感しているからこっちとしても油断はできないけど・・・やっぱり駆け引きみたいなお芝居以外の“要素(アドリブ)”が加わると、一気に隙が生まれて雑になる甘さが“あの子”にはまだあって、その甘さが“大人の役者”に成ることへの足枷にもなっている。

 

 

 

 ま、“(あたし)”のことを本気で好きになるまでは“あのまま”のほうが色んな意味で“好都合”なんだけど。

 

 

 

 「そうだ、トライアングルとウィーダー、どっち食べる?」

 「トライアングルで」

 「“誰かさん”と違って蓮ちゃんは躊躇いがないよね」

 

 ひとまず腹が減っていては(いくさ)なんて出来ないし、シリアスな空気にずっと入り浸るのもあんまり好きじゃないからあたしは自らさとるに代わって“緩和剤”になって、“やりづらい”相手を前にあからさまに心をガードしてる蓮ちゃんに2択の“奢り”を差し出すと、この子は相手が先輩女優だろうと迷うことなく豪華なほうを選んだ。こんなことしたら先輩のお昼が半分以下になっちゃうのに、失礼だなんて思わないのかな・・・なんて思いやる優しさだけじゃ、この世界は這い上がれない。もちろん目上の人を敬う礼儀は大事だけれど、だからといって“イエスマン(まとも)”になったらなったで途端に淘汰されてしまうのが・・・あたしたちが生きてる芸能界という理不尽な世界。

 

 「腹減ってるんで」

 

 

 

 ま、大真面目な顔して腹が減ったとアピールしてくるこの子が果たしてどれだけ“持ってる人”なのかはここからの“頑張り”次第になるけれど。

 

 

 

 「いいね~正直で。あたし蓮ちゃんのこういうとこさとると似てて結構好き」

 「そんなに似てますか?私?」

 「うん。もう“運命の糸”で結ばれてんじゃないの?ってくらい」

 「“運命の糸”って・・・勘弁してくださいよ。あくまで私はあの“芝居バカ”の“バカ”が感染(うつ)っただけです」

 

 購買で買った霧生学園で一番人気のトライアングルを渡しがてら屋上の2人を見て思ったことをそのまま例えてみても、トライアングルを受け取った蓮ちゃんはすました顔を貫いて動揺しているという素振りを見せない。やっぱりこの子は“バトルロワイアル”のときよりも着実に芯が強くなっている。

 

 「でもさ・・・そうやって“バカ”が感染(うつ)るくらい仲良くなれる“ライバル”がいるって、最高じゃん」

 「・・・“何言ってんだこの人”って一瞬思いましたけど、そういえば堀宮さんに憬のことは話してましたね、私」

 

 もちろん細かいところまで目を配らせると、さとると負けず劣らずの真っ直ぐな性格を如実に表す“”だけは“本当の感情”をずっと見せびらかしている。というか、そもそも“感情(こころ)”と繋がっている眼だけはどんなに芝居が上手くなっても嘘なんてつけないからいくらポーカーフェイスで誤魔化しても相手には常に筒抜けも同然。

 

 一番肝心なのは、その動揺に“自分自身”が気づけるかどうか。あるいは気づいた上で、ときに嘘を吐いてでも向き合い続けることができるかどうか。

 

 「・・・それはもちろん、最高ですよ・・・偶にあいつの芝居を見てると“骨が折れる”みたいな思いをすることもありますけど、その分こっちも“なにくそ”って気持ちになって前に進める・・・・・・ほんと、あんな刺激的なライバルなんて他にはいないですよ

 

 やっぱり“嫌う”狡猾さではなく“向き合う”誠実さを選んだこの子は、あたしからしてみればまだ“トライアングル”のように甘く“ワル”に成り切れないでいる子どもで、こういうところもまた、さとると本当にそっくり・・・

 

 「あははっ、蓮ちゃんはほんとにいい“ライバル”を持ったね」

 

 “大人達の天秤”に掛けられても“ワル”に堕ちることなく健気に頂きを目指して灰色の空を見上げる、ショートヘアの横髪から覗く金色の瞳。そんなどことなく騎士道を思わせるような勇敢で純粋な瞳を視て、この子は容赦なんてしなくても“上がってくる”と確信した。

 

 「そうですね・・・まぁ、“芝居バカ”が過ぎるところが玉に瑕ですけど」

 

 いや、むしろこの子には是非ともあたしたちメインキャストの“”として立ち塞がってもらえるくらいになってくれないと・・・ハッキリ言って困る。

 

 「“芝居バカ”・・・今度あたしもさとるのこと“芝居バカ”って呼んでみよっかな?」

 「また塩対応されても知りませんよ」

 

 だって踏み台にする“引き立て役”が強ければ強いほど・・・・・・あたしたちが“実力”でメインキャストに選ばれたことへの何よりの“証明”になるから・・・

 

 「あのさ、蓮ちゃんって今日は丸1日オフだったりする?」

 「はい、今日は大丈夫ですけど」

 「・・・そっか」

 

 

 はぁ・・・いつかのあたしもこの子みたいに健気に頑張っていたはずなのに、どこで違えたんだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 “『中途半端に“人の真似っこ”をすることしかできないんだったら、今すぐ消えてくれないかな?』”

 

 

 

 

 

 

 でも・・・みんながみんな健気な“いい子ちゃん”ばかりじゃ張り合いがないし、そんなつまらない世界じゃ“イエスマン”しか生まれない・・・・・・だから“ワル”は必要なんだよ・・・

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ・・・今日の放課後にその“芝居バカ”を賭けて、あたしと対決してみない?

 

 私をずっと横目で視続ける碧眼の瞳が、何かの封印を解いたように“ギラつき”を容赦なく放ち始める。

 

 「・・・対決・・・

 

 ペントハウスの扉を開けて、たったいま屋上(ここ)に来たように私たちに装う堀宮さんを見て、この人が最初から私と2人きりになって話したいことがあるのを私は察した。2人きりで話したのは“バトルロワイアル”の現場の一回きりだけど、その一回でこの人が私を“1人”にするときは何かを企んでいるときだっていうのは分かっているし、“根拠”だってある。

 

 「どうする?また“バロワ”のときみたいにじゃんけんで決めちゃう?」

 「じゃんけんで決めるかはともかくまず“バロワ”なんて略し方聞いたことすらないですよ」

 「だってこれはバロワの“舞台挨拶”のときまで温めてるネタだから」

 「ネタって、マジで何のために?」

 「とりま舞台挨拶を通じてマスコミの人にイイ感じに広げてもらって流行語大賞を獲る予定。みたいな?」

 「そうですか。私は応援できませんが頑張ってください

 「うん。女優とは思えないくらい感情が1ミリも込もってないね蓮ちゃんリアルで“ゴミを見るような目”を見たの初めてだわ・・・)」

 

 と、こんな感じでやっと“本題”に触れたかと思ったらまた話が脱線し始めた。もちろんこういう何を考えているか基本分からないところも、“バロワ”の現場で予習済み。

 

 「そんなことよりも先に、私に説明することがあるんじゃないですか?

 

 とにかく先ずは相手の思惑を知りたい私は、さっきの憬と同じくやや強引に話を元に戻す。

 

 「さとるもそうだけどさぁ・・・蓮ちゃんも蓮ちゃんでせっかちよね?」

 「もうこの際せっかちで構わないです(ちょっとだけ癪だけど・・・)」

 「うわ開き直った」

 

 心の中でじんわりと心拍数とリンクしてリズムを打つ動揺を建前という芝居で隠して対峙する私を横目で視て、メディアでよく取り上げられている清涼飲料水みたいに爽やかな“清純派女優”の姿からは想像出来ないどこか不敵な微笑みで、堀宮さんは心を揺さぶってくる。

 

 「自分で言うのも難ですけど私ってどっちかというと気が短いほうなんで」

 「言っとくけど“短気は損気”だよ?」

 「分かってますよ・・・でも、いま重要なのはそこじゃない

 

 動揺を悟られないように、頭をフルに回転させて相手に喰われない“台詞(アドリブ)”を紡ぐ。ただ隣でフェンスに寄りかかるように立って、私のことを横目で見つめているだけなのに、堀宮さんから本気(マジ)の感情を向けられるとそれだけで全身が締め付けられる感覚に襲われる。ただ制服を着て立っているだけで絵になってしまう“才能”に、無意識に圧倒されそうになる。こういうときに喰われずに“形勢逆転”が出来るかどうかで主役になれるかそれ以外で終わるかが決まるのが世界の縮図だとしたら、きっと前者が“メインキャスト”に選ばれた4人で、後者がなれなかった私なのだろうか・・・

 

 「なんで憬を巻き込むんですか?

 

 

 

 ・・・んなもん誰が決められるってんだよボケが、って思う。

 

 

 

 「別に巻き込むなんて一言も言ってないよ?ただ憬を“賭けて”蓮ちゃんにはあたしと対決してもらうってだけ」

 「賭けるってどうしてですか?」

 「だって対決するなら多少のリスクは背負っとかないと本気(マジ)になれないでしょ?」

 「だからって憬」

 「逃げるの?これはあたしに勝てるかもしれない絶好のチャンスなのに?

 

 私の主張を容赦なく遮り、逃げる隙すら与えず隣でフェンスに寄りかかる堀宮さんは追い打ちをかけてくる。“私たちの世代”の女優の中じゃ静流に続いて人気と実力がある女優からずっとハードな“心理戦”を仕掛けられているせいで、ハッキリ言って私の脳みそは疲れ始めて言い返すので精一杯。

 

 「それともあたしにまた“負ける”のが恐くて」

 「分かりましたよ。何するかは知らないけどやればいいんでしょ、対決?

 

 だけれど漫画でもドラマでも現実でもライバルになる“”を相手に棄権をするのは、主将の座を争うことになる“凪子”だったら、例えどんなに不利な状況に自分がいたとしても絶対にそれだけはしない。

 

 「その代わり・・・・・・“今日こそ”は絶対に負かす

 

 

 

 だから私は“凪子”として、“雅”からの挑戦状を受け取った。堀宮さんが私が凪子を演じることを“知らずにいる”としても、この対決は“引き受けなくちゃいけない”ことだけは感じていたから・・・

 

 

 

 「アハハハッ・・・・・・いいねぇ、そうこなくっちゃ

 

 おおよそ清純派とは思えない小悪魔のような笑みを浮かべた堀宮さんは軽やかな足取りで亜麻色のミディアムヘアをなびかせながら目の前にサッと現れるように移動して、

 

 「それでこそ(あたし)の“ライバル”だよ。“蓮ちゃん(ナギ)”?

 

 手を後ろで組むポーズをしながら1秒前までとは正反対の“清純派”って響きが本当に似合う穢れのない爽やかさな笑顔で知らないはずの“役名”で呼び、白い歯を“にっ”と出して笑った。

 

 「・・・やっぱり、“ナギ”を演るのは蓮ちゃんで合ってるみたいだね

 「・・・どうして分かるんですか

 「キミの瞳がそう言ってるから・・・・・・って言えたらかっこいいんだけどね?

 

 そんな堀宮さんの表情と仕草が“”にしか視えなくて、私はこの人の“役者”としての恐ろしさを改めて思い知らされた。




蒼色の瞳に、覗かれる感情(こころ)_



本当はもう少しキリの良いところまで進める予定でしたが、思った以上に長くなってしまったので堀宮が環に持ち掛ける“対決”とは一体何なのかは次回をお楽しみください。

最後に、本編にて“バロワ”という単語が出てきましたが、某グラブルの名探偵とは一切関係ございません。
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