気がつけばそこは── 作:ようせいさん
できればキャストリアと一緒に人理を修復したかった。
でも悲しいことにそれを書く文才がない……
早速、キャストリアの提案通り、村の外れにある妖精の少女の家をあの村と同じように安全にするべく向かった。
向かった先に丁度、その少女がいた。偶然とでもいうべきが最悪とでもいうべきか、村の外れにいた妖精の少女が文字通り獣畜生共に襲われていた。絵面が結構酷い。
ああ、助けなきゃと獣共に向かおうとしたところ、トリストラムに首根っこを猫のように掴まれた。
どうやら俺は前線に立って戦うよりも、後方で二人の指揮官的なポジションでいて欲しいのだと言われてしまった。
仕方なく指揮官ポジションに収まったはいいものの、指揮の仕方とかこれといって全く分からない。
だが、何故か知らないが身体は自然と覚えていた。
的確とまではいかないが、二人のサポートを少なからず出来ていたと思う。この着ている服が持つ能力の使い方だとかそういった類のものを、ある程度は扱えていた気がする。
何処かでこの服を見た覚えが……いや、考えるのはよそう。
キャストリアとトリストラムの二人は先程の戦闘について互いに話し合っていた。
元は軍属だとか猟師ではないか、という予想を立てた後、キャストリアは支えられていた王様は鼻が高いと大いにトリストラムを褒めていた。
直後、何ともいえない顔でトリストラムの弓を見つめていたような……?
そんな事よりも妖精の少女の無事を確認しなきゃ。と思った時には俺の身体は勝手に動いていた。
──大丈夫だった?
「……も、もしかして。いまのは、私のため……?」
目を丸くさせ、何があったのかわからないといった様子の妖精の少女。
「はい。○○が今すぐにでも!って言うもので、あなたの様子を見にきたのです。──獣達に襲われていたようでしたが、怪我はありませんか?」
「は、はい。いつものコトなので……そ、それで何の御用で、しょうか?村の案内は、もう終わってしまいましたし……」
少女に言われてようやく気がついた。
この後のことを全くといって考えていないという事に。どうしようかと、表情が固まる俺に助け舟を出してくれたのはキャストリアだった。
「わたしたちは、昨日あなたに親切にしていただいたお礼として、せめて、あなたの住処の獣除けをしてあげたくて……」
「──えへ。えへへ……嬉しいなあ嬉しいなあ……わたし、お役に立てていたんですね。久しぶりだなぁ、嬉しいなぁ」
妖精の少女は誰かの役に立てるという事に喜びを感じるのだろうか。もの凄い社会奉仕精神をお持ちでいらっしゃる様子。
だがそれは、名前と記憶がないからなのだろうなって思ったらなんだか悲しい気持ちになった。
「そうだ、お礼に幸福の祝福を──……あ……どう使うか忘れちゃったんだ。ごめんなさい、屋根もなくて……返せるもの、何もないの……」
これを聞いた時、目から涙が出そうになった。
──実は、もう、もらってるんだ、お礼。だから、いいんだよ……
「そう、なんですか?なんだろう……朝に積んだお花をあげたのかな……?」
妖精の少女は分からないといった表情を浮かべていた。俺は今すぐにでもここから立ち去って、一人部屋に篭って泣きたくなった。
でもそういうわけにはいかないことは分かっている。
この後、一人で獣除けの結界を張るから俺たち二人は村に戻っていてくださいと、キャストリアに言われたが、それなら尚更守らないといけないのでは?と言おうとしたら、またもや先読みしていたのかこの程度なら一人で大丈夫と小さな胸を張ってドヤ顔を浮かべていた。可愛い。
昨日も見て知っていたが、物理攻撃もこなせる役職魔法使いのキャストリアなら大丈夫。という謎の信頼を感じ始めていた俺は、不安そうなトリストラムを引き連れて村に戻る事にした。
それでよかったのかは分からないのだが──
▽
──昨日と比べれば、よく眠れた気がする。
いつものように、木の葉でできた布団の上で目が覚めた。やはり寝起きは身体が痛くなる。木の葉の布団があるからとはいえ、下は木の板でできた床だからだろうか。それでも何故かこの身体はなんなく眠れるのだから、不思議だ。
「ふわぁ……おはようございます──……昨夜は宴がなかった分、早く眠れましたね。それはそれとして、今日はどうしますか?特に用事がなければ、私はまた村の外に行きますが」
どうやらキャストリアも俺と同じく今さっき起きたみたいで、可愛らしい欠伸をした。
だがそれを俺に見られたことに気がついたのか、顔を真っ赤にさせつつも、何事もなかったかのように朝の挨拶をし、今日の予定を聞いてきた。
俺は特に考えてないと言おうとしたタイミングで、ぐぅっと腹の虫が鳴った。
そういえばと、昨日の夜はご飯を食べていなかったことを思い出す。
──お腹、空いたな……
「お腹が……なんです?」
▽
ふらふらとした足取りで広場へと向かい、朝ご飯が用意されて無いかどうかを確認しに行った。
一人の妖精に挨拶を交わし、何か食べるものはないかを尋ねてみた。
それを聞いた妖精の様子が徐々に可笑しくなりつつある事に何故気が付かなかったのだろうかと、俺はのちに後悔することになる。
──人間だ。
誰が言ったか分からない。だがその言葉に反応した村中の妖精達が一斉にこの広場へと集まりだす。
時既に遅く、不穏な空気が漂い始めた頃には、俺という一人の人間は数多くいる村の妖精達に囲まれてしまっていた。
人間というだけで何故それほどまでに興奮し、喜ぶのだろうか。俺にはそれが一番理解し難かった。
背筋が凍るような熱い視線を感じ、思わず寒気がしたので両腕を組んで肘をさする。
今朝までは何事もなかったはずなのに、どうしてこうなったのだろうという考えがしばらく俺の脳内を巡る。
「○○!空腹だなんて口にしたらダメ──……って、もうバレてるぅーー!?」
あわわ、と焦りの表情を浮かべるキャストリアだったが、この反応を見た彼らに俺と同じ人間では?と思われたようで、キャストリアやついでとばかりに部屋にいたトリストラムも妖精達に囲まれた。
そして、気づけば村の中心にあるテントへとドナドナされてしまった。
「訳の分からないままテントに押し込められ、早半日が経ちましたが……」
──うん。ご馳走が一時間ごとに運ばれてくるんだよね……もう食べられない……
今も俺の目の前には、宴の時よりも盛りに盛られた料理の山が存在している。しかも一時間ごとに増える仕様。
なんだろう、この感じは。
まるで食べきれないのにまだ餌を与え続けられる雛の気分になりそうだ。いや本当に、もうこれ、やめてもらっていいですか?
「これはもう歓迎という名の監禁ですね。
キャストリア、貴方にはどうしてこうなったのか分かりますか?」
トリストラムの言葉に思い当たる事があったのかキャストリアは苦笑いをしつつも答えていく。
「……それは、○○が人間だからだと──以前から美味しそうに食べる方だなって思ってはいましたが……早いとこ気がつくべきでした。あはは、わたし、あまり人間を見た事がないものでして……」
なんだかキャストリアの頬から冷や汗が出てきているように思える。
「と、それよりも今の状況ですね」
ここでキャストリア先生の説明が始まった。
何が何だかよく分からない俺に対しての助け舟である、彼女の説明。もといキャストリア先生の講座。
どうやらキャストリアによれば、今後俺に対するおもてなしはさらにヒートアップする事になると言う。今より酷くなるという事を聞いて、あの妖精達に若干引きつつ、話を聞いていく。
話を聞いているうちにわかった事がある。
妖精にとって人間は栄養源なのだとか。
つまるところ人にとっての栄養補給が食べ物だとすれば、妖精にとっての栄養補給とは、人の側にいるという事らしい。あの妖精達の餌は自分だという事に気がついた途端、それはもう鳥肌が立ちまくった。
また、この国では人間の数が女王とやらに管理されているのだとか。だから位の低い妖精には人が供給されないらしい。
ちなみにこの村にいる妖精達は、餌である人が供給されず、段々と落ちこぼれていった成れの果てなんだという。というか妖精にも位とか落ちこぼれとかあるんだな。
種族が変わっていても、俺たち人間とはそんなに大差ないことに驚いた。
さて、ここで問題です。
餌である人が供給されないここの妖精達に、人を与えたらどうなるでしょうか?
答えは簡単。依存する奴は依存先の者を手放さないように──彼らは俺を掴んで離そうとはしない訳で、今よりももっと大事に扱われる事になる。
ここで俺がやらかした事の重大性を分かり始めた。
「○○?手が震えて……」
キャストリアに指摘されて、ようやく俺は自分の手を見るのだ。かたかたと震え上がっており、震えるその手で抑えようとしたが、それでも震えは止まる事がなかった。
──なんでだ……
「…………大丈夫。大丈夫ですよ」
彼女が俺の震える手を両手で包み込むように握りしめ、何度も何度も大丈夫だと語りかけてくれた。
その手は暖かく、誰かを包む優しさを感じた。
すると、手の震えが自然と収まっていた。
震えが止まった頃、外では妖精達が戦う音が聞こえ始めていた。
外で何が起こっているのか、分かりたくはなかった。でも先程のキャストリアの説明から少なからず、察しはついていた。
この状況をいち早く分析しどうするべきかを考えたトリストラムは、ここからすぐに立ち退くべきだと告げる。
だがここから無事に出れたとして、果たして俺たちにいく宛があるのだろうか。
「ここを抜け、ブリテンの丘陵地帯へ行きましょう。丘を出たら国道があります。どの街に出ればいいかは、その後考えましょう。ですが、そのためには、まず外にいる見張りをどうにかしなければいけません……」
「私とキャストリアだけで無力化できる相手でも数でもありませんしね……妖精はどんなものであれ強力な精霊。人に太刀打ちできるものでは……」
暗い雰囲気がさらに暗くなる中、一筋の希望の光がやってきた。
「……よかった。みなさんまだ無事でしたね」
そこには妖精の少女がいた。
──前に見た時とは一部分変わってはいたが。
変化はとてもわかりやすいものだった。
片目が正体不明の闇のようなナニカに侵食されている、といったモノだ。アレを見た時、それはもう大丈夫なのだろうかと心配になった。でも今は少女の片目を侵食するナニカを気にするどころではない。
ひとまず妖精の少女から現在の村の様子を、一体村では何が起こっているのかを教えてもらった。
だが村の悲惨さを知っても尚、未だに信じられない自分がいる。だからテント越しに、彼らにバレないよう外をチラリと見やる。
俺の視線の先には、以前とは比べ物にもならないほど、変わり果てた妖精達が居た。
誰が俺という人間を手にするかなんて、本来なら話し合いで片付けられる物であるはずなのに、お互いを傷つけ争う事でしかそれを解決しようとはしない。己が生き残るために、例え他を殺し蹴り落としたとしてもだ。
自身が名を無くさないように、記憶をこれ以上無くさないために、なんとしても俺という人間を手に入れるのだというモノが見えた。
なんだよ、これ。
俺が人間だと知った途端、なんでこうなるんだ。
胸が、酷く──痛む。
「ダメです……もう以前のみんなじゃありません。血に酔い、どんどん凶暴なカタチへと変化しています。──いま、わたしが忍び込んできた場所へ。まだ布の張りが甘いので外へ出られます。森の外へは、わたしが案内します!」
妖精の少女に案内されるがまま、俺たちはこの村から逃げる事に成功した。
▽
「……早く、早く……村のみんなより、早く……」
「もっと、距離を離して……みなさんを、つれていければ……」
「……あと少し、あと少しなの……」
「ああ、風の匂い……懐かしい、ソールズベリーの土の匂い……」
「もうすぐ森を抜けられるんだ……もうすぐ……もうすぐ……」
「美しいブリテン、懐かしいブリテン……まだ、名前があった頃の、わたしの世界……」
「ふふ……ふふ……あと少し……あとすこしで……」
妖精の少女に手を引かれ、走る。
少女の手は氷のように冷たい。
以前感じた少女のおどおどした雰囲気は無くなっており、燃ゆるあの村で見た狂い争う妖精たちのような雰囲気をどこか醸し出しているように見える。
一度瞬きをして、もう一回少女を見ると、いつも見かけている少女の雰囲気だった。
気のせい、なのだろうか……?
走り続ける中、少女の息が徐々に荒くなってきている事に気がついた。それはまるで何かに身体を蝕まれているような息の荒さで……
不安になりながらもただ走ることだけを考え、俺の手を引き、一直線にひた走る妖精の少女の背中をじっと見つめていた。
少女は俺の手を握る力を強めてきたため、なんだろうと思い、少女の顔を横目にする。
目を濁しながら頬を赤らめつつも、その口元は三日月のようにニヤけていた。
この時、少女の様子が徐々に可笑しくなってきているという事にいち早く気がつくべきだったのだと今でも思う。
少女は走るのをやめ──
──歩くのをやめた。
そして掴んで離さないよう先程まで強く握りしめていた俺の手を、糸が切れたようにパッと離し、そして──バタリと倒れた。
「あ……あ、ああああああ……!!」
何が起こった。
何があったのか。
歩みを止め、霧が覆うこの森の地面で倒れた妖精の少女を見る。
少女の片目を侵食していたナニカが──
テントの中で見た時よりもさらに広がっていた。
もう顔半分はソレに侵食されており、首から胸元あたりまで、そのナニカに喰われていた。
キャストリアは少女の異変にいち早く気が付いたのか、すぐさま駆け寄ろうとした。
だが。
「しっかり!か、体が痛むのですか!?なら、なら少しは……!」
「……うるさい。うるさい。
……さわるな、わたしにぃ!
──さわるなぁぁあああああああ!!」
俺とキャストリアを見て、あの頃が懐かしいと小さく微笑むあの少女の姿はそこにはもう居なかった。
そこには居るのは、
──あの村の妖精の如く、凶暴になりつつある少女のみ。
「いたい……いたい、いたいの……」
「何百年もずっっといたいの、何百年も、ひとりだったの……」
「できないことばっかりおしつけられて、無理なコトばっかり溜まっていって……」
「今までたすけてくれなかったクセに、一度も……見てくれなかったクセに……」
溜まり切った水風船が破裂するように、彼女の感情は爆発する。
「いまさら、いまさら……!よかったことなんて…………」
「バカじゃない、気がつかないの?だまされたのよ、あなたたち!」
「わざわざ連れてきたのだって、あなたたちを独り占めにするために決まってるじゃない!」
「あああ、わたし、なんで……」
「つめたい……つめたいよ……」
「ああ、あああああ……!」
──まって!いますぐに……
こちらへ手を伸ばす少女へ。
雪のように冷たく、溶けて消えてしまいそうなその手に。
俺は手を伸ばす。
今すぐにでも手を握ってあげたいと思った。
少しでもその冷たさを俺の手で和らげられるのならばと。
「──いけ、ません……!」
伸ばした手を掴もうと、彼女の元へ向かおうとしたのを、キャストリアが持つ不思議な形状をした杖に行手を遮られた。
──なんで、なんで……!
分かっていた。分かっていたのだ。
なんとなく、あのナニカに侵食されていたのを見たときには分かってしまったのだ。
もうあの妖精の少女は救えないということを。
それでも──
「……構えてください。──彼女は妖精ではなくなりました……!」
助けないと。
今も悶え、苦しんでいるあの少女を。
姿が変わってもあの少女は少女なのだから──
「あれは、モースです。語ることも聞くこともできなくなった生命。ただそこにあるというだけで世界を汚す黒い藻──妖精を殺す、ブリテンの呪い」
「もう、彼女は私たちが知るあの妖精の少女ではないんです……!」
目を伏せ、唇を噛み締め、何かを堪えながらも、彼女は言う。
もうあの少女はこの世界には存在しないのだと。
──…………やるしか……ないんだな。
その問いに彼女は頷いた。
──ならせめて…………
「援護お願いしますね、○○」
俺達は、モースいう影が伸びたバケモノに成り果てた一人の妖精の少女と対峙した。
▽
「まだ、力が残っているようですね。……なにか言いたいことでもあるのでしょうか……?」
戦闘は一対三だったからか、それなりに余裕を持って勝利を勝ち取った、と思う。
だが俺の精神は、その勝利を喜べるほどの余裕を持ち合わせてはおらず、むしろ瀕死に陥っていた。
救いは──ない。
キャストリアは何も言わず、ただ何もせずこちらを見つめるモースの様子を伺っていた。
なにかモースが喋ろうとした瞬間、見知らぬ誰かが俺の横を過ぎ去り、トドメの一撃を振り下ろした。
「失礼、無礼を許して欲しい。この一撃は、君たちには重荷に見えたからね……」
「ゴメンね。安らかにお眠り。次はどうか報われますように……」
一撃を振り下ろしたソイツは、あの少女のように背中から蝶の翅を持っていた。以前見た翅は傷だらけだったが、彼が持つそのモノは鮮やかな色を多く持ったとても綺麗な翅だった。
肩の丈ほどある銀色の髪の上には星のようなティアラを被っていて、服装は昔話に出てくる王子が着ていそうなモノを身に纏っている。
「やあ、はじめましてかな
「僕の名はオベロン!人理に呼び出された英霊にして──この異聞帯で君たちを助ける運命を担う、ただ一人のサーヴァント。人呼んで妖精王オベロンさ!どうだい?カッコいいだろう!」
嫌な予感は、前からあった。
アルトリア・キャスターにとてもよく似てる子に、たまたま間違えて付けてしまった名を持つキャストリアに、トリスタンにそっくりな姿のトリストラムを名乗るモノ。
それにこの手の甲に宿る盾模様の赤い令呪。
不思議と分かる今着ているこの服装の使い方。
あげればキリがない程には、情報はあったと思う。
でもそれに気づいてしまえば、俺は後戻りできなくなってしまう。そんな気さえした。
でも俺はもう後戻りできなくなるところまで来てしまった。気がつかなくてはいけない。
ここがその世界なのだということを。
ああ、ここがそうなのか。
第六異聞帯。
妖精円卓領域。
──アヴァロン・ル・フェ。
配信直前で寝落ちして、その話を見ることができずにいたが、配信内で説明されたあの冒頭の話は少し覚えている。
ようやく、この俺がいる世界は。
FGOの世界なのだという事を嫌というほど理解させられた。
──さいっあくだ……
ねぇ、なんで妖精の少女をモースにしたの?
ねぇ、なんで序盤でアレを見せるの?
ねぇ、なんでこんなにも辛いんだ……?
つらいよぉ、いたいよぉ。
まあ、一番辛いのは二部六章がエピローグ手前で止まってて、八月四日まで見れないってことなんですがね()
続けるべきか?
-
続ける
-
続けなくてもいい