気がつけばそこは──   作:ようせいさん

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リンボ構文で一生笑ってる。

忘れもしませぬ、あれは拙僧が丁度妖精國ブリテンに行っていた頃──


五話

 

 

「もう、聞いておくれよ!」

 

ダ・ヴィンチちゃんもといロリンチちゃんは今までの体験した出来事を愚痴るようにして語った。

霧で俺が憑依する前の藤丸立香とマシュの二人とはぐれた後、間に任せて歩いてたんだそうな。

海岸越しに歩いて東に向かっていたところ、このソールズベリーに流れ着いたのだと言う。

 

そして色々とあってこの酒場の店主の元でバイトしながら、情報収集していたんだと、店主と漫才を繰り広げつつも、俺の──いや藤丸立香の無事を大いに喜んでいた。

 

俺、藤丸立香じゃないんだけどね、なんてこの状態で言ったらどうなることやら。考えたくもないのだが……

 

何気にオベロンが既にロリンチちゃんへ挨拶を終えているのを見て、やる事が早いなと思った。

そしてキャストリアもロリンチちゃんへ挨拶をするのだが、

 

「はじめまして、ダ・ヴィンチちゃん。私はアルトリア・キャスター。森で○○と知り合いまして、色々あって○○さんの持ち主として……その、一緒にいさせてもらってます」

 

彼女は、俺がカルデアの人達に隠さなくてはいけない今にも爆発しそうな爆弾を、ものの数秒で見事大爆発させてしまった。

あー、やっちゃったか……

 

「なにそれ、面白ろ〜い!それなら立香君も安心だ!

 

 

 

──後で個人的に話があるんだけど、いいかな?」

 

ロリンチちゃんはキャストリアの話にくすくすと笑いながらも、俺のすぐ側に近寄り、耳元でそう囁いたのだ。流石カルデアの技術顧問だ、と冷や汗が止まらない。

 

恐らく彼女がそれに気づいたのは、キャストリアが言ったときのあの名前だろう。あれ以外にも気づかれる点は幾つかあっただろうが、一番はキャストリアの自爆だ。藤丸立香ではない俺の名前で言ったのだ、そりゃあ関係者なら嫌でも気づく。

 

仕草とか、言動とか、彼と俺とでは違う。だから、彼らと今後行動しているうちにいつかはボロが出て、そうじゃないかと気づかれてもおかしくはなかったと思う。まあそれが早まっただけに過ぎない。

でもこう言うのって時間をかけて徐々に分かるものなのだが、そんなのアリか……?

 

仕方ないと思いながら、この後連行されるだろうという事を覚悟しつつも、話に耳を傾ける事にした。

 

「ありがとう、アルトリア。ある程度は我々の事情を聞いてると思うけど、その上で──藤丸君に手を貸してくれたのかい?」

「──実を言うと、半分もわかってないんですが……○○が()をついていないのは分かりましたし、それに──面白そうだなって」

「そっか。なら大丈夫だね。じゃあ藤丸君、これまでの話を頼んだ!」

──え……あ、はい!

 

ロリンチちゃんに促されるまま、俺は俺が目覚めた彼処からここに至るまでの話を、正直話をまとめるのは下手くそだが、俺なりに簡潔かつ丁寧に語らせてもらった。

 

「なるほどねー。護衛ありがとうトリスタン。それにオベロン、アルトリアもありがとう。──さて藤丸君の説明で、分かったことは四つある」

 

『まだブリテンの事をよく知らない』、『マシュの行方はわからない』、『でも、マシュが無事なのは確か』、『後、オベロンは無一文』の四つ。

 

ロリンチちゃんはあの説明の中でわかった事を四つにまとめたが、最後のオベロンが無一文というところをヤケに強調して言ったせいか、さっきからそう言われた本人は不満そうな顔を浮かべている。

 

「これだけハッキリしているんだ、今後の対策はすぐに立てられる」

「でも我々がすべきは頭なく移動することじゃない。なのでここソールズベリーを拠点に、情報を集めて、立ちはだかる問題を一つずつクリアしていこうじゃないか」

「最優先事項は『マシュの捜索』だ」

 

分かりやすく、どこからとも無く取り出したホワイトボードに目的とやる事を書き出してくれたロリンチちゃん。

なるほど、と感心しながらも、俺は今はいない藤丸立香の為にも最優先事項とされるマシュの捜索を達成するという事を。

 

藤丸立香の代わりとして──それを最初の目的にする事にした。

 

でも拠点はどうするんだと思っていたら、俺の表情を読んだのかロリンチちゃんは、

 

「ああ、拠点の事なら私に任せてくれ。この酒場はね、宿屋も兼ねてるんだ。……といっても人が作った宿屋を真似た建物なんだけどね」

 

と、宿屋を知らなかった店主にそれを提案したという事、その対価として二階の部屋三つほど徴収したという事を、まるで美談のように笑いながら言うモノだから、こればっかりは俺も苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

流石、カルデア技術顧問。

やることなすこと無駄がない。

藤丸立香とマシュの二人とはぐれても尚、一人で行動を起こし、いずれ二人と合流する事を想定した上で、この異聞帯における拠点をもう既に作っていたというのだ。もはや凄いとしか言いようが無かった。

 

第六特異点においてもそうだったが、ダ・ヴィンチちゃんが居れば大抵の特異点や異聞帯も、ある程度は楽に攻略できていたような気がする。

まあ、あの時も、今も、特別な事情だったからこそ彼女が参戦しているのだとは思うが……

 

この先に何が起こるかは、二部六章配信手前で寝落ちしてしまった俺には分からないが、なんとかなると思う。

 

俺の知る藤丸立香は、どうしようもなかった状況を、現地の仲間達と共に何度も何度もひっくり返してきた。奇跡とも言えるような必然を、引き起こして。

この身体に恐らく眠っていると思いたいが……せめて主人公が帰ってくるまでには、その奇跡を起こさせる準備を、俺が代わりにしなくちゃならない。

 

それが──彼の代わりとして、俺がするべき事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

オベロンは俺たちとは別行動をすると言って後をロリンチちゃんに託し、藤丸立香率いるカルデア一行が来た事によって、変化が起きたとされるブリテン全体の情報を収集すべく酒場を後にした。

 

「頼りになるけど、ずいぶんマイペースなサーヴァントなんだね。──さてと、みんな今日は歩きづめだったんだろう?欲張って三つ押さえておいてよかったよ。ぜひとも二階の部屋を使って使って」

 

俺で一部屋、トリスタンとロリンチちゃんで一部屋、アルトリアで一部屋と、もう既に部屋割りは決まっていたようで、ロリンチちゃんに促されるまま俺たちはそれぞれの部屋へ行く事になった。

 

もちろん俺はロリンチちゃんに連行される形で部屋に連れられた訳だが。

 

今は、どうしてこうなったんだろうって。

 

 

「なるほど、君の事情はよく分かった。

 

──その上で、今はいない藤丸立香君の代わりとして我々に力を貸してほしい」

 

暫くの間、隠そうとしていた藤丸立香の不在と、俺の存在。そして俺が、カルデア側の事情をある程度知っているという事。それらの情報をどこで手に入れたかは言えなかったが、大体のものはこの場で全てゲロった、というか吐かされた。

 

それはもう刑事ドラマ並みとまではいかないが、彼女らしい誘導尋問に上手いこと引っかかって。

なんて我ながらアホだなとは思う。

全てが伏線だったとかそんな無理ゲーやめてくれ。

こんなん勝てるわけがない。

 

一度こうゆうのやってみたかったんだーと、きゃっきゃと喜んでいるロリンチちゃん。

まあロリンチちゃん相手に隠し通そうとするのは無理だった、というわけだ。

 

元より藤丸立香の代わりになるかは分からないが、彼が戻ってくるまでの間──俺は彼の代わりとなろう。それが、他の誰にも出来ない、今の俺の役目だから。

 

──こんな俺で良ければ……彼が、藤丸立香が帰ってくるまでなら。彼の代わりが務まるかは分かりませんが、俺の出来うる限りを尽くします。

 

「……ありがとう、かな。まあ君も知っている前提で話すが、こちらとしては願ったり叶ったりだ。──さて、ここからが本題となるんだが。隣の部屋に居るトリスタンも交えて、二人には私がここで調べ上げた情報を共有しておきたい……」

 

 

 

 

 

 

トリスタンを交え、ロリンチちゃんが独自で調べてきたとされるブリテンで知った情報を共有する事になった。その中には気になる情報が幾つかあった。

 

俺が気になった情報の一つ、予言の子についてだ。

予言っていう類のものが当たるなんて事、俺は信じちゃいないが、こんな世界だ。

 

俺がいた現実において予言なんて数撃てば当たるとはよく言ったものだし、実際数ある予言の中には当たっていないものもある。

 

だがしかし、この世界には過去未来現在を見通す魔眼なんてものが平気で存在している。なんなら、確定された未来を見ることすらできてしまうのだから、この世界における予言を馬鹿にしてはいけない。

 

ロリンチちゃんは言うにはこの予言の子とやらがモルガンを打倒するための希望するなのだと。

一応掻い摘んで教えてもらった予言の内容を聞いてはいたが、何か引っかかるような気がしてならない。

 

『今から十六年後、救世主が現れる。選定の杖に導かれ、真の王が戴冠する』

『六つの鐘が響くとき、偽りの女王は倒される。妖精と人間を従えて、偽りの歴史を終わらせる』

 

その救世主とやらが恐らく予言の子なのだろう。

救世主は選定の杖に導かれ、真の王の戴冠。

六つの鐘に、偽りの女王は倒され、偽りの歴史が終わる。偽りとは一体……

 

 

カルデアの目的はこの異聞帯──妖精國ブリテンの何処かで起きている汎人類史に影響しかねない謎の崩壊を止める事と、打倒ビーストの対策として、ロンゴミニアドの兵器の回収またはその製造法を調べあげる事。それさえ果たせたならば、この異聞帯から離れ、最後の異聞帯へ乗り込む、それだけだ。

 

そして俺と出会いここまで連れてきてくれたあの妖精王オベロンは言っていた。

この異聞帯を救う事こそが、汎人類史を救う事になると。この國を支配する女王モルガンを倒せば、救われるのだと。

 

予言と、モルガンの打倒。この二つがどうにも引っかかる。

 

本当にモルガンを打倒すれば、この異聞帯から観測された崩壊を止める事ができるのか?

まだ得体の知れない何かが、この異聞帯にはあるのではないか。

 

それに真の王の戴冠だ。

これが示すのは予言の子、もしくはそれに連なる他の誰かが、新たな異聞帯の王として君臨し、カルデアと敵対する事になるかも知れない事。

杞憂かも知れないが、こう言う可能性もあるという事だけは覚えておこう。

 

空想樹を失った異聞帯とはいえ、まだ──何かあるのだ。

 

まあこれ以上考えても仕方ない、

考えるのはやめだ。

 

「モルガンとの交渉もだが、もちろん今はマシュとの合流が先決だ。君も色々とあった事だろう、だからこそ休息は必要だ。まずは休んで体力を回復して……それからだ。明日からは忙しくなるぞ〜」

 

──……色々と、ありがとうございます。

 

ロリンチちゃんなりに俺を気遣っての事だろうなと、トリスタンとともにこの部屋から出て行くその後ろ姿を見てそう思った。

 

 

藤丸立香は、この身体にはいない。

いつ帰ってくるかもわからない。

それなのに俺は、彼が帰ってくるまでその代わりを果たそうとしている。俺に彼の代わりは務まりそうもないのにな……

 

──久々の、柔らかいベッド……

 

本来なら考える事がたくさんで眠るなんて無理に近い筈なのにこの身体は正直のようで、ベッドに入り横になった瞬間、プツリとテレビの電源が切れるかの如く、俺の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

それは果たして夢なのか現実なのか分からない、不思議なところで、

 

──俺は藤丸立香と思わしき青年と出会った。

 

俺がゲームを通し、見てきたあの藤丸立香だ。

だが、彼は第二部の黒の極地用カルデア制服ではなく、第一部の、白を主体としたあのカルデア制服を着ていた。

 

初めて顔を合わせた。

見慣れた顔つきに、何処ぞの正義の味方と似たようなボサボサした黒い髪。

大空のように青く澄み切ったその双眸は、さまざまな英霊を受け入れる広い器を表しているように見えて、これが藤丸立香なのかと感心させられたような気がした。

 

そんな彼を見て、俺はどうしようもなく死にたくなった。なんで俺なんだ。なんで俺だったんだ。

今も尚、世界を取り戻そうと翻弄していた彼を、俺と言う存在が……

 

その場で崩れ落ちる俺を見た彼は、怒ることも悲しむこともせず、ただ俺の側に近寄った後自身も座り込んで、まるで自分自身を励ますかのように肩をポンと軽く触れてくれた。

 

この俺に対して嫌な顔一つせず、にこやかに微笑む藤丸立香の表情を見て思った。

 

なんで怒らないんだよ……

 

普通なら俺に微笑むどころか、罵倒や怒りといったものが来る事を予想していたというのに。

だが、彼はそれをしなかった。

 

──なんで……

 

この時、今まで言葉を話さなかった彼はようやくその重い口を開いた。

 

 

「だって、俺は、俺だからさ……」

 

──なんだよ、それ。そんなのアリかよ……

 

「ありよりの──あり!」

 

雲一つない、澄み切った青き空を思わせる笑顔。

誰に対しても分け隔てなく対応する彼は──藤丸立香は、やっぱり藤丸立香なんだろう。

これはどんな英霊も好きになる訳だ。

 

「色々あって辛かったかもだけど、別に俺は消えたわけじゃないから気にしないでほしい……って言っても気にするよね。だって同じ俺だし……」

「オレは、俺に言いたい事が沢山あるだろうけど──実は話せる時間、もう残されてないんだよね!」

 

あははと、割と深刻な事を言っている筈なのに、一ミリたりともそう感じさせないくらい笑いながらも彼は続けた。

 

「使えるのは三回きりだけど、これを渡しておく。前の俺が、俺に託してくれたものなんだけどさ……」

──なにを、言って……

 

藤丸立香はある物を俺に渡し、決して無くさないように握り締めさせた時には、既に彼の身体は徐々に薄く、散りかけていた。

 

──待って、待って欲しい!

──まだ言わなきゃいけない事とか沢山ある!

──それに、それに!

 

 

──カルデアのマスターは、

 

──マシュの先輩は、

 

 

──俺なんかじゃない、お前なんだ!

 

 

消える彼の手を取ろうと咄嗟に手を伸ばすが、遅かった。伸ばしたその手は虚空に振りかざされ、そこに居たはずの藤丸立香は──もう居なかった。

 

 

 

 

「…………意味わかんねぇよ、藤丸立香──」

 

この不思議な白い空間に取り残されたのは、黒のカルデア制服を身に纏った俺だけだった。

酷い虚無感が、俺を襲い、意識を失わせた。

 

 

 

 

 

 

──……なんだ、夢、か…………

 

知らない天井で目が覚めた。

見た夢の内容はもう忘れてしまったが、何かとても重要な何かを、渡されたような気がする。

 

──ん……?

 

なんだろうと、起きているにもかかわらず何かを大事そうに握り締める右手を見つめた。

感触的には硬い石のような物だ。

 

夢で、俺は何を渡されたんだっけ……?

疑問に思った俺は右手を開き、手のひらの上に乗るそれを見てしまった。

 

そこには

 

 

──三つの聖晶石が虹彩を放ち、存在していた。

 

かつて見ていたあの虹色の輝きとは全くと言って異なるそれは、何色にも染まるキャンバスのように純白だった。

 

この三つある白の聖晶石。

これは一体何なんだろうと、朝早く起きてしまった俺はその存在に頭を悩ませる事となった。

 

──藤丸立香、アンタは俺に何をして欲しいんだ

 

柔らかな素材でできた枕に顔を埋め、俺は今はいない主人公に縋るようにそう言った。

 

 




▽白い聖晶石
藤丸立香に託された通常とは異なる色の聖晶石。
前の俺に託されたと夢の中の藤丸立香は言うが──?
数は三つ。何に使用するものかは──不明。

続けるべきか?

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