気がつけばそこは── 作:ようせいさん
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結論から先に言わせてもらうが、オークションに出品されたのは、こちらが思い描いていた盾ならぬ鉄を武装した妖精ではなかった。
文字通り鉄の盾ではなく
二度あることは三度あるとはよく言ったものだが、まさか俺が馬車の中で言ってしまった事が、本当に起こるとは思いもしなかった。
つまるところ俺があの時言ったせいでフラグが建設されたということだろう。くそ、言わなきゃ良かった。
でも、言わなかったところで、この結果は変わらないという事は理解している。
人並みのそれもサイズ感のあるやたら豪華な檻に閉じ込められた村正のじっちゃんを見た時、驚きのあまり俺は思わず、おじいちゃん!?って、毎年開催する夏のイベントストーリーを読んで別の意味で驚かされるあの感覚で、つい声をあげてしまった。
どうやらその声は村正には聞こえていたのか、モグラ叩きのモグラもびっくりな反応速度で「じじいで悪かったな」と怒鳴られてしまった。
檻から出られない事を知りながらも、怒りが収まらないのか威勢よく何度も何度も鉄格子を蹴り立てていた。まるで猛獣でも囚われているんじゃなかろうかと錯覚するほどの暴れっぷりだ。
それを見たロリンチちゃんは、たまげたと言わんばかりに片手を頭に置いて、こう言った。
「どうしてこうも面白い状況になってるんだろうね、異星の神の使徒ってやつは……」
全くもって、同意見です。
傍観者としてのFGOプレイヤーのネタにされるリンボ然り、目の前の村正然り……
会場内は例の予言の子に胸を躍らせていた筈なのに、予言の子と何も関係がない村正が出た瞬間にこれじゃない感を醸し出し始め、オークション最後の目玉商品が台無しになりかけていた。
オークションが始まる前つまりは村正が隠蔽されていた時は、賞金レート額がかなりの高額──1000万位から始まるんじゃないかと思っていたのだが、やはり予言の子ではないせいか、そんな馬鹿みたいな金額から始まりはしなかった。
それでも村正の鍛治師としての腕を買っているのか、欲しがる妖精は少なからず居るようで、序盤は皆様子見として100万程で始まった。
それでも高いあたりこの場にいる妖精達は皆金持ちなのだろう。
100、200、300、と順にいったところで、しばらく様子見していたオベロンはこれはいけると確信したのか先程の300を倍にし、それにさらに100を足した700万でついに勝負に出た。
これでようやく決着かと誰もがそう思った。俺も思った。
700万という破格の値段で購入される村正とは一体……
──瞬間。聞き覚えのある声の妖精が1000万を叩き出した。
これには流石のオベロンも競り合いの負けを予感したようで、すぐ様降りようとした。
だがそれをキャストリアは良しとしなかった。
なぜなら──彼女は負けず嫌いだからだ。
相手が1000万を叩き出したからなんなのだ。
ならば上からねじ伏せるまでだ、なんて雰囲気でオベロンが持っていたマイクを取り上げ、相手の倍の金額、つまりは2000万を出すと高らかに宣言した。
これは熱い。いいぞ、もっとやれ。
先程1000万を叩き出した相手はどうくるのかと、様子見でもするのかと俺はキャストリアの顔を伺うのだが、どうやら今の彼女の頭の中には馬鹿みたいな金額を出した相手に対し、絶対に負けないという事しか詰まってないのか、面倒だと一言呟いた刹那──こちらが否、オベロンが出せる最大の金額、7000万をついに宣言してしまった。
え、もうこれ以上を出されたら負けでは?とオベロンに目線を寄せるのだが、どうやらオベロンもこちらに視線を寄せてきてこう訴えかけてきやがった。「彼女は猪なのか!?」
もう知らん。俺は知らんぞ。
オベロンがキャストリアに主導権を握られたせいだからなと、哀れみの視線を送り返し、とりあえずもうこれ以上は無理だとそれは滾りまくっているキャストリアを宥めにかかろうとした頃。
これをさらに上回る金額を宣言した相手側。
よくこちらの金額をゆうに超える程のお金を持っているなと感心しつつ、宣言した金額を聞いてみれば一億。俺の耳は腐ってしまったのだろうかと、頼りのロリンチちゃんを見るが、かぶりを振られた。
一億。これはもう負けでいいだろと、燃え上がる火事を鎮火すべくキャストリアと言う名の炎を消火しようとするが、俺程度の水ではキャストリアの中で発生した火災は止められなかった。
「なっにおう、まっけないぞー!そっちがその気ならこっちは──オベロンの土地を担保に一億100万ポンドだぁーーーーっ!!」
彼女は一億という名の限界速度へと達し、ついにはオベロンの土地を担保にするという荒技まで駆使して、一億100万ポンドという速さの向こう側へと至ってしまった。アクセルシンクロ?ちょっと何言ってるかわかんないです。
どデカい金額の流れを横目に、それが行き交うあまりの速さに冷や汗が流れ落ちる。
これがオークションなのか、と若干誤解しそうになるが、実際のオークションも相手が出せない金額をこちらがマウントするかのように叩きつけて諦めさせて勝ち取るというのが常套手段だから、あながち間違ってはいない気がするのは何故だろう。
でも相手側はここまで粘ってくるキャストリアに多分戦慄を覚えていることだろう。
ちなみにお隣のオベロン閣下は「狂っているのか!?」と言い出す始末。その横でロリンチちゃんは口元を隠し、いかにも笑うのを堪えてる感を出していた。
笑ってないで助けて下さい、カルデアの技術顧問。
オベロンの土地売ったらそんなに行くの?とついつい気になったので聞いてみれば、オベロンは、
「僕の土地を売ってもそんなに値段はしないよ!?せいぜいが100万程度さ……って、間違えても売らないでくれよ!?」
これでついにオークションに決着が付くかと思いきや、司会者がもう手に負えないと言って主催者側に助けを求めた。それに答えた主催者側は言う。
『これ以上となるのであれば買う側には財力だけではなく品格も求められる』のだと、残った対戦者二人をまるで誘き出すように盤上へと呼び込んだ。
罠だなって思っていても今のキャストリアは俺ですら止められないのだ。もう誰にも止めることなどできぬ、絶対勝利の金獅子と成り果ててしまったのだから……
ボーイミーツガール小説ばりに、キャストリアは俺の手を引いて、為されるがままにステージ台へと連れられてしまった。
気付けば俺たち二人は、いかにも目立つ立ち位置の台の上で、並み居る妖精達の視線を集中して浴びる事になっていた。
でもそれらを前にしても、俺は不思議と怖くなかった。なんでだろう。似たもの同士と俺は勝手に思ってはいるが、そんな彼女と一緒にいるからだろうか。
多分、俺の手を握るキャストリアもそう感じているのだろうか。この手を握る彼女の力が少し強まった気がした。
彼女の翡翠色の双眸には熱き翠の炎が宿る。
まるで俺と一緒に戦おうと言わんばかりに、その双眸は揺らめく。
「一人だと心細かったんですよ!でも、○○とならこの勝負わたし達の勝ちだ!」
ダメです!
それフラグっ!?なんてこの雰囲気の中でそんな事言えるわけもなく。
俺たちが盤上へ上がったのをきっかけに、相手側もようやくこの妖精達の視線集まるステージへと上がってきた。
その相手側の姿は──どこからどう見てもこのオークション会場に来る前に一度あったあの赤髪の妖精そのものだった。
赤髪の妖精が纏う雰囲気は、彼処で一度見ていたからよく分かる。下手な妖精が持っていいものではないという事だけは確か。
触れれば切れるナイフの様に、心を許した相手以外は気に入らなければ切り殺すという、そんな雰囲気を持っていたのだから。
あの時、嫌な予感がしてついキャストリアをガードベントもとい身代わりにしてしまったが、あの判断は恐らく間違いではなかったと今は確信して言える。もしも、なんて思ったら俺は間違いなく殺されていた筈。その事に、あの時まともにそれを感じていたキャストリアなら気付いているはず。
そんな中、主催者側が赤髪の妖精の名を告げる。
レディ・スピネル。
又の名を──妖精騎士トリスタン。
妖精騎士ガウェインときて、次は妖精騎士トリスタンときたか。前に一度三人の妖精騎士について知る機会があったから名前までは知っている。
だが、こうも連日して妖精騎士と遭遇するなんて思いもしない。しかもそれが昼間の妖精ときた。
思わず互いに顔を見合わせて苦笑いと冷や汗を浮かべる俺とキャストリア。
もしかしたら次に会うのは妖精騎士ランスロットじゃないのかと先行く未来に不安になりつつも、相手側の紹介を終えた主催者側は今度は俺たちの事を紹介し始めた。
「対するは、女王陛下と同じく独学で魔術を扱い、あのウッドワスの包囲網から奇跡的に生き延びた本物の『予言の子』。見て下さい、その手にはあの『選定の杖』が。……そして『予言の子』に付き従う者こそ外の世界からの来訪者、汎人類史からやってきた
どこか悪意ある表現で見事に正体バレをかましてくれやがりました主催者側には悔い改めてと願いながらも、俺自身もテンションがかなり変な方向になりつつある事を自覚する。
それはそうだろう。
妖精騎士ガウェインと同じ妖精騎士が、今目の前にいるのだから。
心臓の鼓動は通常時よりも、やや早く脈打つ。
ドクリドクリと音を立てているのが分かる。
今度は間違えない。
二度と取りこぼさないためにも。
この場を、どうにかして俺は切り抜けなければいけない。今度こそあの藤丸立香の様に……
俺の意思を汲んだかどうかはさて知れず、主催者側はキャストリアと妖精騎士トリスタンの価値を同格とみなし、優劣を競うことができないと嘆くが突然俺にターゲットを切り替えたのか、どちらに価値がありますか?なんて変化球を投げてきた。
どっちかなんて、そんなもん決まってる。
──アルトリアいや、キャストリアだ
見ず知らずの妖精と、友達の妖精どっちを選ぶかなんて当たり前のことを聞いてくるな。
そう主催者側の声が聞こえてくる方を睨みつける。
当然相手側は価値が無いと俺に言われたも同然な訳で、「ぶっ殺すぞ、テメェ!」って言われるのはごく自然のことだと……思いたいです。
その言葉とともに今も溢れんばかりの殺気が、俺の肌をピリピリと痺れさせる。
あのガウェイン戦とは、また違った恐怖が俺を追い立てるように襲う。
怖くない、と言えばそれは嘘になる。
だが怖いなんて言ったとして、俺が救われるわけでもないというのが現実だ、実に厳しくできてる。
現実が優しくできているのならそもそも俺がこの世界に来ることが間違ってると言えるがそれはさておき。
そして主催者側はついに決着の内容を決めた。
それは魔術。魔術の扱いを競う。それが決着の内容。
より魔術に優れたものが勝てる戦い。
あのマーリン魔術が使用可能なキャストリアにとっても有利な勝負になったという事は言うまでもない。
結果はこちらの勝ち。それも圧勝だった。
相手側の敗因は一つ。手持ちの魔術品の品切れだ。
その隙を突きマーリン魔術で妖精騎士トリスタンをいとも容易く打倒する事に成功してしまった。
妖精騎士トリスタンは己が敗北したという現実を受け入れず再戦を激しく希望するが、それは虚しく主催者側には響かなかった。
それどころか、主催者側は謹慎中にこんな場所に来ている事を女王様にチクりますよ?と、先生へチクり魔並みの事を言って、この場からすぐに追い返そうとした。
しかも言葉巧みに妖精騎士トリスタンを帰らせるように誘導するものだから、この主催者側、相当出来る類の者であることが窺える。
勝者がキャストリアとなった事により、たった今から村正はキャストリアの所有物となる。
よって彼を拘束していた檻は消え失せ、自由に翔ける鳥の如く翼の代わりに、腕を天へ伸ばし背筋をしゃんとする千子村正。
首を軽く鳴らして「どうなってんだ」と一言。
その仕草がやけにじじ臭いものだから、不審に思ったキャストリアは俺に耳打ちする。
「(○○、○○。見た目若々しいのに中身おじいちゃんですよ!この人!)」
「おい!聞こえてんぞ、誰が中身おじいちゃんだ!合ってるけど!」
否定するのかしないのか、出来れば俺的にはっきりして欲しいです。
「まあ、なんだ……捕まってた身としては助かったが。おまえさん、よく敵対する側の儂を助けたな」
──たとえ、助ける相手が敵対してたとしても、俺は俺だから。きっと助けてたと思う……
それにキャストリアのお陰という事をさりげなくつけ加えつつも、俺が本心に思ってる事を伝えた。
きっと藤丸立香でもこうしていた、はずだ。
「ほぅ……藤丸立香。おまえさん──
あの時とどこか変わったか?」
村正のその言葉に。
俺は一瞬、この体全体に鳥肌が立つ思いをした。
既にロリンチちゃんに以前の藤丸立香ではない事はバレているというかバラしたのだが。
それも一番知られたくもない奴ら──異星の神側のサーヴァントにその事がバレかけている。
いや──今はまだ。彼は考察段階に入っただけに過ぎない。その事には、まだ辿り着いていない。
鳴り止まぬ心音を深く沈ませるように、そう自分に言い聞かせた。
「……いや、儂には関係のない事だしな。悪い、忘れてくれ」
それからは席に座って村正が解き放たれるまでの一部始終を見守っていたオベロン達がこちらへと急いでやってきた。恐らく、心配になってここまできたのだろう。
一対四。
見るからにこちらが優勢なのだが、なにせ相手は異星の神が召喚せし三騎のアルターエゴの内の一騎
千子村正だ。油断はできない。そう思っていた矢先、オベロンが動いた。
なんと、お互いのモルガンを倒すという目的を利用して、一時的な協力関係を築いてしまった。
こんなんでいいのかと思いつつ、少しの間だが異星の神の使徒である村正が、頼もしい仲間になった。
字数少なめ。
朝の7時に投稿したかったがやむなくこの時間帯になっちゃった。
続けるべきか?
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続ける
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続けなくてもいい