鎮守府との対話が完了。調査を進めるために、また昼から来るということになった。その時は、ミシェルの出処で発見された三日月型の髪飾りを持参し、それを見せることで何かしらの反応を見せるかどうかの確認がメインとなる。
ミシェルがその髪飾りを知っているのなら、駆逐艦卯月である可能性が非常に高くなる。そうなった場合は、近隣鎮守府などでの卯月の轟沈事例を洗い出すことになる。それから、古鷹達の目的にまた繋がるかもしれない。
「そうなのね、Michelleの素性がもしかしたらわかるかもしれないのね」
その話を春雨と海風から聞いたジェーナスは、少し驚きつつも喜んだ。
ミシェルに一番肩入れをしているのは間違いなくジェーナスである。駆逐イ級の姿でも、ペットではなく友達として扱っている辺り、特に可愛がっていることがわかる。毎日のように食事を届けているし、午後は大概一緒に遊んでいるくらいだ。実際、ミシェルもジェーナスには特に懐いている。
そんなミシェルが本来何者なのかがわかったら、より親密になるつもりのようだ。姿形はまるで違うとしても、生まれ方は完全に自分の同じ。施設にいる元艦娘達と同じなのだ。異種ではなく、同種。まさに
「そのウヅキというのはどんな子なのかしら。私でも仲良くなれそう?」
「私達はちょっとわからないかな……うちの鎮守府にはいなくて。でも、
「確かに! 今のミシェルがあれだけ懐いてくれてるんだもの。それで充分よね!」
ミシェルがその艦娘だからといって何か変わるかと言われればそんなことはないだろう。ミシェルはミシェルであり、元が卯月であっても今はあの姿なのだから、何であろうがそこまで関係がないのである。
あのイ級が、何かの異変が起きて春雨達のような姫級に変異するというのなら話は変わるが。
「あのミシェルちゃんも、私達のような被害者なんでしょうか……」
「そうかもしれないんだよね。ミシェルちゃんも何かの感情が溢れ出してあの姿になったってこと、あり得るよ。私は、何となくだけどそんな感じするんだ」
最近勘がいい春雨が言うと、妙に真実味が湧いてくる。海風は心酔しているからまだいいとして、ジェーナスからしても春雨のこの直感は信じているところは大きい。
「ハルサメは、ミシェルってどんな感じに見える? ただのイ級じゃないとは思うんだけど」
不意にジェーナスが春雨に問うた。対する春雨は、少しだけ頭を捻った後、思いついたことをそのまま口にする。
「何となく、何となくなんだけども、ミシェルちゃんって繭っぽさはあるよね。ちょっと前まで海風も繭だったわけだけど、その時の海風とミシェルちゃんって、ちょっとだけど
それが第六感に頼った春雨の見解。以前に飛行場姫が叢雲に話したモノと近しい言葉である。
繭と雰囲気が似てるということは、
「ふぅん、じゃあ、ミシェルからウヅキが孵ったりするかもしれないってこと?」
「そういうわけじゃないけど……そんな感じに見えるなって思っただけだよ。あくまでも、勘だからね?」
「姉さんがそう言うのですから、ミシェルちゃんはそういうものなのかもしれませんね」
海風は即賛同。春雨の言うことは絶対であるために否定をすることは無い。勘だろうが何だろうが、春雨が発言すれば、海風の中では白も黒になる。
「ま、どうであれMichelleは私達の
どうであれ、ジェーナスのミシェルに対する感情が変わることは無い。他人のことを第一に考えるのだから、どんなカタチになろうとも友達だ。ミシェルも嫌がる様子が無いのだから尚更である。
「そうだね。ミシェルちゃんが元々誰だったかは、正直そこまで問題じゃないよね。私達には」
「はい。あの敵に繋がる情報を齎したとしても、あの子はあの子ですね」
その情報は、ある意味施設にはそこまで必要のないモノだ。鎮守府が今起きている事件を追うために必要というだけであり、ただ一緒に暮らしていくだけなら殆ど不要なモノ。
この施設の者が、その境遇がどうであれ知らないままでも付き合っていけているのだから、ミシェルも例外では無かった。
調査隊が施設に到着したのは、昼食は不要と言っていただけあって昼過ぎ。今回はミシェルの件をさらっとやるだけという名目上、日帰りということになっている。
やってきたのは前回の調査隊の面々。そこから海風を抜いただけのメンバーである。宗谷は相変わらずクルーザー。
「ちょ、調査隊、到着……したよ」
「ええ、お疲れ様ぁ。待ってたわぁ」
隊長として、中間棲姫に頭を下げる山風は、初めての大役を任されたからか少し緊張していた。いつもは海風がやっていたり、海風が不安定だった頃は金剛や千歳が代わりにやっていたことだが、今回からは山風がしっかりやっていこうと頑張って前に出ようとしている。
それもこれも、海風の後を継いだというのが大きい。仄かな想いを寄せていた相手がその立ち位置から退くことになってしまい、自分がその場所に収まったことで、その役割を全うしようと張り切っていた。
とはいえ、中間棲姫の後ろにいる海風の方に意識が行っていたのは言うまでもない。そちらの方にはいち早く江風と涼風が行っていた。
「海風の姉貴、あンま変わってなくて良かったぜ!」
「ホントなー。見た目は春雨姉くらいで終わっててよかったよ」
「あはは……こっちの腕は姉さんの脚みたいに艤装なんだけどね」
「うおー、マジで艤装だ。硬ぇ!」
インナーに包まれているものの、動かすたびに少し違う音がなる右腕を見せると、興味深そうに江風がベタベタ触る。肌とは違う硬質な感触に、変に興奮していた。
そんな姿がチラついたことで、山風が少しだけ不機嫌になったのを、中間棲姫は見逃していない。
「山風ちゃん、貴女もお姉さんのところに行くといいわぁ。今回の調査の件、海風ちゃんのことも、でしょう?」
「えっ、あ……うん」
調査任務の内容は2件。1つは髪飾りとミシェルの関連性の調査。そしてもう1つは、深海棲艦化した海風の詳細調査だ。
通信というカタチで内面がほとんど変わっていないことは確認済みではあるものの、1回や2回でそれが本質的なモノなのかは判断が出来ない。それに、時間経過でより壊れていく可能性だって捨てきれないのである。
実際、春雨がそれを体験している。艦娘達に見つけてもらったから今の精神で落ち着けているが、施設で落ち着いていたことによって、本来の居場所のことを『まぁいいか』で済ませてしまいそうになっている。海風もそうなってしまう可能性は充分にあった。
それを防ぐためにも、定期的に施設に会いに来て、調査という名の交流を続ける。そうすることで、海風は艦娘らしさを失わずにいられるようになるだろう。勿論、それは春雨もだ。
「Hey, 山風ぇ。ここは私達に任せて、海風に挨拶してきなヨー。そっちも任務なんだからサー」
金剛にも後押しされたことで、山風は一礼だけして海風の方へとむかっていった。
隊長としてはそこまで許された話ではないかもしれないが、この任務、3つ目の隠された理由として、山風のメンタルケアもあった。
海風を失って、心を強く持とうとした山風だったが、一緒に暮らしているのとたまに会えるのとでは精神的な部分がまるで違う。一時期の海風のように憔悴しているわけではないが、やはり落ち込んでいるところはあった。空元気を見せる時もあったので、提督がすぐにでもこの任務を作ったわけだ。
「ごめんネ姉姫。山風もやっぱり不安定なんデス」
「そうよねぇ。そこは仕方ないわぁ」
山風の不安定は周知の事実。いつも通りに接しつつも、内心ではそれを気にかけている。勿論それは山風も気付いているが、今は甘えさせてもらっていた。
「そうそう、貴女達には先に伝えておかなくちゃねぇ。比叡ちゃん」
「はいっ!?」
突然声をかけられて声が裏返った比叡。
「この前、力を貸してほしいって言ってたじゃない」
「は、はい、言いました! 鎮守府の襲撃を仄めかされたので、是非ともと」
「その件についてね、大将さんに話を持ちかけたのよぉ」
「ひ、ヒエー!?」
大将の名前が出されたことで、自分の発言が非常に大きなことになってしまったのではないかと驚いてしまった。
比叡だからといってヒエーと悲鳴をあげるのはどうかと思いつつも、中間棲姫は続ける。
「結論から言えば、この件はまだまだ保留なのよねぇ。大将さんもわかっていてくれたのだけれど、私達深海棲艦が鎮守府に近付くというのは、とても危険なことだもの。私達にとっても、貴女達にとっても」
大将も同じような考えに行き着いていたようだった。
島風と宗谷から古鷹と白露については聞いていたようで、それを相討ちとはいえ撃退した春雨がいる施設側に支援を求めるのは当然考えている。
しかし、そもそも施設は戦場から離れて隠棲している者達の住まう場所だ。その者達を戦場に駆り出すわけにはいかない。そして、もし出てくれたとしても、鎮守府の防衛ということは陸に限りなく近付くということ。理解者は僅かであるというところから考えると、深海棲艦と与している鎮守府というだけで批判の的になり、最終的には守るべき人間からの弾圧で鎮守府そのものが崩壊しかねない。
大将がどうにか出来る手段を考えているそうだが、今のところはかなり難しいというところで纏まっている。鎮守府と施設は手を取り合えるのに、周りがそれを許さないのならば、今はどうにも出来ないのである。
「比叡、今は私達の力でアレをどうにかする方向で考えるネ」
「はい……こんな大事になるなんて……」
「いいえ、貴女の考え方は全く間違ってないわぁ。でもごめんなさいねぇ。私達にも、やれることとやれないことがあるのよぉ」
唯一無二の力を持ち、おそらく古鷹と白露を撃退出来るほどの力を持つであろう姉妹姫であろうとも、深海棲艦であるというだけで人類は淘汰しようとするだろう。それだけは避けなければならない。
そもそも2人はここから動けないのだから、救援には向かえないのだ。
「だから、まずは貴女達の責務をお願いするわねぇ。そろそろミシェルちゃんもこちらに来てくれるからぁ」
話しているうちに、ジェーナス達がミシェルを連れてこの場へと現れた。ついさっきまでミシェルの洗浄をしていたらしく、やっていた駆逐艦達は全員水着姿で水浸し。代わりにミシェルは太陽光で装甲が輝くほどに綺麗になっていた。
「Sorry. せっかくミシェルのことをしてくれるなら、ちゃんと綺麗な姿がいいかと思って、急だけどミシェルを綺麗にしていたの!」
「Wow. みんなに洗ってもらったんデスネー。Michelle, とっても綺麗デース」
金剛に言われて、嬉しそうに身を震わせるミシェル。綺麗になるのは嬉しいらしく、洗浄中も終始気持ちよさそうにしていたようだ。
「それじゃあ、本題に行きましょうカ。宗谷、お願いしマース」
「はい、こちらですね」
クルーザーから降りてきた宗谷の手には、前回の調査で発見された三日月型の髪飾りがあった。
「これが、前回の調査で発見した現物です。海を漂っていたので大分汚れてしまっていますが……あえてそのままにしてあります」
戦いに巻き込まれたかのように傷がついた髪飾りを、ミシェルの見える位置に掲げる。
これで反応を見せたら、ミシェルはそれに対して何かを知っている、もしくは
「Michelle, これが何かわかる?」
ジェーナスもミシェルに問うが、珍しくミシェルがジェーナスの声に反応しなかった。宗谷の掲げる髪飾りをじっと見ている。まるで、
そして、
「え、み、Michelle……!?」
初めて見せる反応。感情を身体で表現しているミシェルが初めて、
ミシェルの謎がそろそろ解き明かされそうです。