調査隊が施設から帰投中、ついに古鷹と白露による襲撃を受けることとなる。そして、それを虫の報せで勘付いた春雨達も、調査隊の救援をするために施設から向かっていた。
「感知、出来てるわ。山風達は捉えてる」
こういう時に叢雲の感知の力はとても役に立つ。OFFに出来ないデメリットはあるが、常にそれを知り続けることが出来るため、その範囲内に何者かが入った瞬間に気付くことが出来る。常時ONで無ければこんなにすぐには反応出来ない。
「反応は山風達だけ?」
今回の悪寒も調査隊が襲撃を受けることを予知した結果だと考えていた春雨は、叢雲に問うた。調査隊が施設を発って、そこまで時を待たずに虫の報せが届いたので、まだ襲撃を受けているとは思っていない。
しかし、あちらのスペックが並ではないことも理解している。特に古鷹は、戦艦2人に空母2人を相手取っても悠々と戦ってのけた挙句に、疲れすら見せずに白露を連れて帰ってしまった。まだまだ実力が未知数。
そんな相手なら、こちらよりも遠くとも、こちらより速く調査隊に接近していてもおかしくない。なるべく状況を把握しておきたかった。
「今のところはない。いや、あれは千歳さんの艦載機か。哨戒はしてるみたいよ」
「なら、すぐに合流しよう。なんか嫌な感じが止まらない……」
春雨はまだまだ何かを感じ取っている。得体の知れない何かというよりは、迫りくる脅威を先んじて感知しているような、そんな感覚。
春雨の直感は、いいことよりも悪いことに反応しやすいネガティブな能力のようだった。
「姉さん、大丈夫ですか?」
「うん、それは大丈夫。なんていうか、肌が粟立つ感じっていうか。嫌なことが起きそうっていうのがわかる感じ」
「それで私がこうなることを感知したんですね。流石は姉さんです」
こんな状況でも海風は変わらない。しかし、春雨の言うことは全て正しいと考えるのなら、調査隊が危険な目に遭うことが確定しているようなもの。春雨第一であっても、妹達のピンチは望んではいない。むしろ、自分と同じようになるなとさえ思っているくらいだ。
春雨が急ぐように、海風も山風達が無事であることを祈って海を駆けた。深海棲艦と化した身体は、艦娘だった時よりも速く、そして軽い。艤装も春雨と同様に異形化しているが、むしろ使いやすさまで感じるほどだった。
「先に聞いておくんだが」
ここで竹が2人に問う。松も竹と同じ意思のようで、同じ表情をしている。
「もし調査隊が襲撃を受けたとして、だ。それは春雨と海風の姉ちゃんなんだよな?」
「……うん、多分」
「
叢雲は古鷹と白露にやられたせいで深海棲艦化しているし、怒りに呑まれているため聞くまでもないとした。だが、春雨と海風は違う。躊躇しないかも知れないが、それでも相手は実の姉だ。それでも本当に戦っていいのか、ここでちゃんと聞いておいた。
春雨は白露と相討ちするくらいに激戦を繰り広げたわけだが、海風はその場で繭となっただけ。もしかしたら、別の方向で発作を起こしてしまいかねない。いくら春雨を裏切った敵であると認識していたとしても、一応はつい最近まで慕っていた相手なのだ。
「……うん、構わない。あの白露姉さんは、そうしないと止まらないくらいに壊れちゃってる。生きている限り、周りに害を振り撒き続けるんだと思う」
「姉さんに同意です。あの姉さんは、艦娘の記憶を持っていたとしても、今は殺戮を楽しんでいます。それは生かしておいちゃダメですよ」
春雨も海風も、白露を沈めることを良しとしていた。春雨は自分の手でやろうとしたのだから、もう覚悟が出来ている。自分の手で決着をつけたいとか、そういうのもない。今回は逃がすつもりはない。
海風も、春雨がそう言うのなら即断。そもそも、春雨に害を与える存在と成り果てているのだから、痛い目を見せようとは考えていたが、自分でも言っているように殺戮を楽しむような輩を野放しにしておけない。
「了解、2人の気持ち、理解したわ。私と竹も、全力で戦うから。もしかしたら、手柄を取っちゃうかもしれないわね」
「それならそれで。あの姉さんを野放しにするわけにはいかないから」
松の言葉にも力強く返答する。あの白露を止めてくれるのなら、誰がどうしてくれても構わない。そういうことで自分を納得させて。
「っと、来たわ。調査隊以外の反応!」
声を荒げる叢雲。合流前に、
「アイツら、2人だけじゃないわ。雑魚共を束ねて向かってる!」
「鎮守府を襲うからかな。なら、尚更人数がいた方がいいね」
こんな状況でも、冷静に物事を判断していく春雨。ここはやはり、鎮守府でも屈指の駆逐隊のサポート役として、仲間達を見続けてきた実績があった。いざ戦場に立てば冷静でいられる。
そんな春雨を、海風は尊敬したのだ。だからこそ、春雨に追いつけるようにと、冷静沈着に考えられるように努力し続けていたのだ。
「先に合流しちゃおう。あっちがそれだけ多いなら、こっちもバラバラでいる理由無いし」
「そうですね。鎮守府のみんなと力を合わせて
一層速度を上げて、春雨達は調査隊と合流すべく突き進んだ。嫌な予感がしっかり当たっていたことに気を病みつつも、むしろ事前に知れたのだから良しとしなくてはと心を強く持って。
一方、調査隊。向かってくる自分達に向かってくる2つの深海棲艦の部隊の存在に気付き、迎撃の準備をしていた。
このまま逃げ帰ったら、鎮守府にそのまま全てを持っていってしまう。そこに所属する艦娘全員で対処すれば、撃退は出来るだろう。
しかし、鎮守府自体が攻撃を受ける可能性は非常に高い。艦娘が無傷でも、鎮守府という居場所を破壊されるかもしれないのだ。そして、そうなった場合、最も危険なのは、一番上に立つ非戦闘員である提督。白露があちら側にいる以上、
頭が失われた組織は脆い。鎮守府の襲撃は、そこも狙っているのではなかろうか。
「……よし」
そこで、山風が決意したような表情を見せた。いつも後ろ向きで、他人の表情を窺っているような仕草が多い山風が、今はハッキリと隊長としての意思を表に出している。
「施設側の部隊……
全員に聞こえるように、出来る限り大きな声で指示を飛ばした。
「了解! このまま施設側に移動すれば、早く合流出来るわ!」
「でも古鷹達の行動もやたら速い! 早く行かないと先にかち合うよ!」
2つの深海棲艦部隊の状況を確認している千歳と千代田から、逐一それを発信してもらい、確実な行動を選択する。
「こっち……!」
合流を目指すのならば、施設側に戻るのが一番手っ取り早い。しかしそれでは鎮守府から離れることにもなる。鎮守府への被害を確実に失わせることは出来るが、万が一の時に撤退がしづらくなるのは考えもの。
そのため、施設から少しずつ離れながらも施設側の友軍へと近付き、かつ敵深海棲艦の部隊からは離れる、鎮守府と施設の中間を取る航路を選択。離れているわけでもなく、近付いているわけでもない。しかし、敵からは離れて、施設側の友軍とは近付く、最善の道。
「ええっ、また白露が突出してきてる! あの時と同じ!」
しかし、その選択を簡単には許してはくれないようだ。前回の襲撃と同じように、敵部隊から白露が1人だけ離れて、先制攻撃のために突っ込んできているらしい。
周りには古鷹だけでなく、イロハ級まで加わっているにもかかわらず、お構いなしに自由に戦場を駆け巡るその姿は、まさに狂犬だった。
そんな姉を、山風は知っている。白露も暴走気味なことがあったがここまでではない。ここまで落ち着きがないのは、夕立。
「相手が白露なら、私が迎撃する。山風、私が
そう言って金剛達よりも前に出たのは島風。前回の戦いで白露の動きを分析しているため、自信があるかどうかはさておき、最善の戦いが出来るはずだと信じていた。
実際、島風にはそれだけの才能がある。一目見ておけば、その動きを何度も反芻するように思い返し、その対策を頭の中で練り上げ、さらにはそれを実行するだけの力があるのだ。それすらも上回ってきそうなのが今回の敵なのだが。
「無茶しちゃダメですヨ!」
「大丈夫! 1人で戦う気なんて、さらさら無いから!」
金剛に注意されるが、当然身の程を弁えている。仲間を守るために前に立ち、同じ志の者達と手を取り合う。島風は、今回も一緒に
かたや戦艦でかたや駆逐艦ではあるが、だからこその連携も出来るだろう。島風は戦場を引っ掻きまわし、金剛と比叡が大火力にて敵を殲滅する。古鷹には通用しないかも知れないが、少なくともイロハ級の一掃には余裕が出るくらいだ。
「さぁさぁ、来なよ、白露!」
島風が叫ぶと同時に、水平線の向こうに白露の姿を確認した。それ以外の敵はまだ視認出来ない位置。
相変わらずのとんでもない速度である。こうなると空母の2人は戦力外となってしまっても仕方ない。艦載機からの攻撃はことごとく外れるだろうし、艦娘自身が狙われてしまう。
故に、速さには速さをぶつけるのが的確であると島風は考えた。艦娘の中であれば、自分が一番速い。それは自負している。そして、施設側の友軍からは春雨や叢雲。
1人に対して3人がかりになってしまうが、命懸けの戦いに四の五の言っていられない。あちらは自分の存在すらも武器にして、精神攻撃で揺さぶりながら圧倒的な力を見せつけてくるのだ。人数差はあれど、こちらは正々堂々のスタンスを崩していない。
「見ぃつけたっ! やっぱりいるよねアンタ達ぃ!」
水平線の向こうにいると思った時にはさらに速度を上げていた。ぐんぐんと近付いてくる白露は、既に魚雷を放ち、主砲すら構えていた。
挨拶がわりの攻撃を島風に浴びせかけ、さらに突き進もうと勢いを止めようとしない。
「速い、速いよね。でも、私の方がもっと速いんだから!」
対する島風は、その砲撃も魚雷もしっかりと回避し、白露の突撃を迎撃するべく同時に突撃を始めていた。
白露が搦め手を使ってくることは、春雨との相討ちのときに見ている。戦闘のスタイルが突如変化することも。
「アンタは眼中に無いんだ! また春雨が来たりしないわけ!?」
「何それ、春雨にやられたから気分が悪いってこと? 妹に負けちゃったから」
「あっはは、それもあるかな。でもさぁ、弱いヤツより強いヤツと戦いたいじゃんさぁ!」
あくまでも島風のことは格下として扱っているようだ。しかし、手を抜くこともない。格下であろうが、全力で叩き潰すのが、今の白露のやり方のようである。
何故なら、圧倒的な力で相手が絶望する姿が見たいから。艦娘の頃の白露からは考えられないくらいに残酷な思考。
「そういうの、良くないと思うよ。自分より上の相手なんていくらでもいる。だから仲間が大切なんだから。そうだよね、金剛姉ちゃん! 比叡姉ちゃん!」
「Yes! 相手が例えpowerfulであろうとも!」
「気合、入れて! 突き抜けます!」
相手が白露であろうともお構いなしに、島風の後ろから金剛と比叡が同時に砲撃。島風はそうしてくれるとわかっていたかのように回避し、その砲撃が白露にのみ命中するように仕込んだ。
「なめんな格下ぁ!」
しかし、白露はそれを当たり前のように避けた。今この時だけは島風よりも速度が出ていた。しかも、その回避は前に進む回避。退くこともなく、回避したはずの島風との距離を詰める。
「あたしはそんなもんじゃあ、負けんのさぁ!」
そして、島風を叩き潰すかのように主砲を振り下ろし、同時に撃つことで一撃の下で沈めてやろうと画策していた。
撃たれる直前の艦娘は、それはもう絶望的な表情をする。それを見るために。
しかし、島風は絶望なんて感じていない。むしろ、笑っていた。
「視野が狭いんじゃないの?」
白露の真後ろには、自慢の槍を振りかぶった叢雲がいた。
「
そして、全力でそれを薙ぎ払った。