調査隊が施設の者達と合流する前に突出してきた白露と交戦。それを
「あたしはそんなもんじゃあ、負けんのさぁ!」
そして、島風を叩き潰すかのように主砲を振り下ろし、同時に撃つことで一撃の下で沈めてやろうと画策していた。
撃たれる直前の艦娘は、それはもう絶望的な表情をする。それを見るために。
しかし、島風は絶望なんて感じていない。むしろ、笑っていた。
「視野が狭いんじゃないの?」
白露の真後ろには、自慢の槍を振りかぶった叢雲がいた。
「
そして、全力でそれを薙ぎ払った。狙いは宣言通り胴。上半身と下半身をお別れさせるための、渾身の一撃。
「っざけんなぁ!」
ここで白露のスタイルが変質。その薙ぎ払いを動体視力のみで見極め、島風ではなく叢雲の方へ主砲を瞬時に向ける。そして、槍を主砲で受け止めつつ、叢雲の脚を撃ち抜くために即座に砲撃。
その砲撃をギリギリのところで回避した叢雲だったが、体勢が崩れる羽目になる。白露はその隙を見逃さず、叢雲を引き剥がすために新たに生成した錨を振り回した。当たれば儲け物。外しても槍が届かない位置まで移動させる。
案の定、叢雲はしっかりと回避。槍の間合いから離れる羽目になった。
「チッ……勘がいいヤツ。そういうのは春雨だけでいいのよ」
悪態を吐きつつ、アイコンタクトで島風に『やれ』と伝える。島風もその意を汲んで、即行動。叢雲に注意が行っている白露に対して、容赦なく連装砲ちゃんが飛びかかる。
「わかってんのさ、それくらい!」
言葉とは裏腹に、その攻撃も冷静に対処。まるで背中に目があるかのように小さな動きで回避した白露は、振り向き様に主砲を島風に突き付ける。
「そういうのは、No thank youデス」
そこに立ち塞がるのは金剛だ。島風と白露の間に割って入るように立った瞬間、艤装が
それは、仲間達を守るために特化された艤装。両サイドの装甲が前方へと移動し、シールドとして白露の砲撃を完全にシャットアウト。金剛も無傷である。
「うへ、そういえばそんなのあったねぇ金剛さん」
「この艤装の仕掛けを知っているということは、私の知る白露デスネ。ならば、こちらの手段は全部お見通しってことデスか」
その金剛の上から跳んできた比叡。金剛と同じように艤装を変形させた結果、それはどの艦娘も持ち得ないウィングとなり、さらにはそれを取り外したかと思えば、近接戦闘用の刀剣となる。
空は飛べないが、跳躍力を増すためのサポートにはなり、そしてそれが強烈な一撃を誇る武器だ。金剛が守るのならば、比叡が攻める。姉妹としての役割分担も完璧。
しかし、この機能を使うにはそのための整備が必要。前回の調査の時には使用出来なかったが、今回は迎撃も考えた戦闘用。この機能もしっかり解禁。
「知ってるよ。比叡さんが
そこへ白露は、とんでもない手段に打って出た。太腿付近に装備した魚雷発射管から魚雷を数本引き抜き、突撃する比叡に向けてダイレクトに投げつけたのである。
魚雷が海中で無くミサイルの如く飛んでくるなんて考えていなかった比叡だが、その手に持つ刀剣により、見事に信管のみを叩き斬る。
その間に白露も大きく間合いを取って仕切り直しとした。叢雲は容赦なく突っ込もうとしたが、それは魚雷に阻まれる。
「滅茶苦茶するなぁ! その思い切りは白露だけど!」
「でも、瞬時の判断は時雨みたいデスネ。それに、錨は村雨デスヨ」
ここで金剛も春雨と同じように白露が何かおかしいことに気付いた。手合わせすることで、敵の内面がある程度わかる。それが熟練者でありエースである金剛の実力。
突然、回避性能が上がり、物事を冷静に判断し始めている。最初は叢雲の突撃をギリギリまで気付いていなかったのに、気付いた瞬間から動きが確実に変わった。
「ったくさぁ、あたし1人に寄ってたかって恥ずかしくないわけ? しかも勝てないんだから」
「別に恥ずかしくなんてありませんよ」
ここまでしたことで、春雨達も合流。前回の戦いの時よりは怒りは抑えられているが、相変わらず変わり果てている白露の姿を見ていると、気分が悪いようで眉を顰めていた。
そしてその隣、海風。春雨の意思を汲み取っているかのように苛立ちを隠さず、白露に対しては敵意のみを表していた。
「っと、来たね春雨。それと、あの時に勝手に繭になった海風じゃん。無事に孵ったんだねぇ」
「おかげさまで」
素っ気なく返答をする海風。そんな態度を見て、白露は首を傾げる。自分の知っている海風ではないと言わんばかりに、ニチャと笑った。
「あっはは、海風もちゃんとぶっ壊れてくれたねぇ。でも、あたし達が欲しい感じの壊れ方じゃないかな。だったらもういーらない。春雨と一緒にここで死んでもらおうかな」
「簡単に出来るとお思いで?」
「出来るでしょ。成り立ての素人に負けるわけないじゃん」
ケラケラ笑うが、目は全く笑っていない。
「それに、そろそろこっちも仲間が合流すんの。今は多勢に無勢だけど、すぐに形勢逆転だから」
白露が言う通り、水平線付近に古鷹率いる深海棲艦の群れが現れていた。それと同時に、とんでもない数の艦載機も群れを成して戦場に向かってきている。
その一部は古鷹のモノであり、他は全て周囲のイロハ級。どれもが実力が上な、フラグシップと呼ばれる上位体だ。
「あれは抑えきれない……! 空襲来ます!」
その数の艦載機を出されては、制空権の確保は不可能だ。千歳と千代田の艦載機は、墜とされることは無かったにしてもその数に圧倒され、あっという間に侵攻を許してしまう。
あちらの空襲は、白露がその場にいてもお構いなしに行なわれるようだった。それは白露も承知の上。むしろ、自分に敵のターゲットを集中させて、そこを空襲で狙わせるまであったようにすら思える。
白露が猪突猛進なのを止めることなく、むしろ利用して一網打尽に使ってしまおうという古鷹の非情な作戦なのかもしれない。そして、白露を信用しているからこそ出来るとんでもない作戦でもある。
「あたしはあの程度避けられるけどさ、アンタ達はどうなのかな」
意地の悪い笑みを浮かべて、白露は空襲を待ち構えた。
空襲は対策をしないと一掃されておしまいである。雨のように降る爆撃は回避以外にどうにかする手段が殆どない。対空砲火をしようにも、今出来る面々を総動員しても全てを撃ち墜とすのは厳しいだろう。
しかも、眼前に
だが、ここで新たな乱入者。施設側の友軍からの追加戦力。
「お前らはアイツに専念してくれよ」
「対空なら、私達が得意だから任せて」
戦場の真ん中に突っ込んできた松竹姉妹が、2人同時に対空砲火を始める。その量は想定以上であり、敵艦載機群を次から次へと墜としていった。
空から降るであろう爆撃も、密度の高い対空砲火の前では着弾する前に爆発。破片だけが降り注ぐのみとなる。
「あたし達も……対空砲火……!」
ここで山風達も打って出る。白露相手にはかなり厳しいかもしれないが、制空権の取り合いには参加出来る。力が及ばないなんてことは無い。
あれほどまでに強力な力を持つ白露や、未だに実力が未知数な古鷹には手が届かなくても、その周りにいるイロハ級ならやれるはずだ。いくらフラグシップであろうが、今までの戦闘経験から問題なく撃破出来る。防空が済んだら次はあちらだと、的確に指示。
「なになに、また援軍? いやはや、ホント懲りないねぇ。でも、まだまだこっちの方が数が多いし、ちゃんと合流しようかな。古鷹さんはあたしよりもっとヤバいからね」
そんな想定外な戦力を一瞥して、一旦退くことを選択した白露。しかし、それを逃がそうだなんて誰も思っていない。
「退かせるわけないでしょう」
即座に動き出したのは春雨と海風である。暴徒に堕ちた姉を制裁するために、2人揃って突撃開始。
「おっとぉ、まだまだ歯向かうのかな? 前は相討ちなんてしちゃったけどさぁ、春雨アンタ手の内見せてんじゃんさぁ!」
低い体勢からの突撃は事前に予測している白露は、最初から魚雷を乱発してきた。
春雨相手に最も有効なのは魚雷。脚が無い状態で戦っているのだから、これはどうしても避けられない。
横に避けられないレベルに魚雷を密集させられると、春雨にとっては殆ど詰みである。砲撃によって眼前の魚雷を破壊する以外に回避する手段がない。
そして、それは春雨の行動を固定化させることに他ならない。魚雷を対処するのにその時の力を注ぐということは、別のことが疎かになるということ。無論、寸前で脚を生やして跳ぶという荒技もあるのだが、それは魚雷の破壊以上に無防備になる。その隙を狙えば春雨は簡単に倒せると踏んだのだろう。
それが春雨しかいなければ、であるが。
「春雨姉さんに何をしようと言うんですかね」
その魚雷への対策は、海風がしっかりとやってのけた。
春雨の邪魔をするものは全て敵であると考える海風には、その魚雷すらも攻撃対象となる。白露よりも優先順位が上がり、春雨に害を与えそうなモノのみを確実に破壊した。その爆発によって発生する水飛沫すら、春雨の害にならないように砲撃で散らしていく徹底っぷり。
「貴女の相手は、春雨だけじゃありまセーン!」
「そうです! こちらにはまだまだ戦力がいます!」
当然、春雨だけに任せるわけがない。金剛と比叡も白露に向けて攻撃体勢。金剛はシールドを変形させて砲撃によって魚雷を一掃。その爆炎を突き抜けるように比叡が刀剣を握りしめて突撃。
「アンタには恨みしか無いのよ! 春雨の手を煩わせることなく、私がぶち殺してやるわ!」
叢雲も同時に突撃。向かってくる魚雷は島風が的確に除去し、叢雲の道を作る。
誰が通ってもいいという、まさに多勢に無勢な戦い。春雨、比叡、叢雲の突破によって、白露は窮地に立たされる。
はずだった。
「やっぱり、突っ込ませるのはよろしくなかったですかね?」
その攻撃をする直前、突如速度を上げてきた古鷹が白露の隣に出現。尻の辺りから生えた凶悪な艤装を力一杯振り回すことで、突撃してきた3人をいなしつつ、白露の首根っこを掴んで一時的に避難させる。
その艤装による薙ぎ払いは、比叡の刀剣や叢雲の槍を叩き折りかねない質量であったため、嫌でも止まらざるを得なくなる。小柄になっている春雨の顔面狙いな部分もあったため、突撃はどうしても出来ない。
「まったくもう。自分でやれるって言うから突撃させたのに、なんですかこの体たらくは」
「ごめんって。でもほら、あたしのところは主戦力集まってきたからさ、一掃出来るでしょ」
「ただただ結果オーライなだけですよね。もう、後からお説教ですよ」
「えーっ!? 古鷹さんのお説教長いから嫌だなぁ」
敵の前だというのに、やたらと余裕のある物言いである古鷹。白露の方に視線を向けているため、酷いことに春雨達には
しかし、隙すら見えなかった。ここで同じように突撃したらやられる。そんな雰囲気まで醸し出され、怒りに呑まれている叢雲ですら、その場から動けないでいた。
「さて、と」
白露にある程度話が出来たことで、改めて春雨達の方を振り向く古鷹。その表情は穏やかなのだが、これでもかというほどの敵意がぶつけられる。
「今から鎮守府を襲撃に行くつもりだったんですけど、途中で出会ってしまったのなら仕方ないですよね。貴女達を前哨戦とさせてもらいましょうか」
ニコリと笑うと、片目が雷光のように輝いた。