空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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辿り着く真相

「まず1人」

 

 そして追い討ちをかけるように比叡に主砲を放つ。1発や2発ではない。瞬間で何発も連射し、肉片も残さないと言わんばかりに的にし続けた。

 

「比叡!」

 

 金剛が叫びながら艤装を変形させ、即座に比叡の救援に向かう。いくら古鷹の砲撃が強力であろうとも、金剛のシールドは戦艦の砲撃も食い止められる程に強固。古鷹の乱射であろうとも、傷は付くだろうが全て防御することが出来るはずだ。古鷹を攻撃するのではなく、比叡を守ろうとするのは、金剛の性格上であろう。

 しかし、既に何発も砲撃が放たれている。金剛が守りに特化している代わりに、攻めに特化している比叡には、その数発でも致命傷になりかねない。

 

「この比叡! お姉さまより先にぃ! 散ることはありませぇん!」

 

 爆炎の中から、力強い比叡の声。しかし、少し苦しそうな声色である。

 爆音で聞こえづらいが、古鷹の砲撃を自慢の刀剣で必死に斬り払っていた。攻撃は最大の防御とは言ったものだが、斬り払いはそれとはまた違う技能だ。やればやるほど腕を痛めることになり、また、爆炎や爆風はどうにも出来ず、肌を傷付けていく。

 

「無茶しちゃダメデース!」

「すみませんお姉さま! でも、比叡は無事ですから!」

 

 金剛が救援に入ったときには、比叡の持つ刀剣は折れる寸前。もう少し時間がかかっていたら、耐久力が保たなかった。金剛のシールドと同じ素材で作られており、相当頑丈だったはずなのだが、本来の使い方ではないせいか本当にギリギリだった。

 比叡自身も満身創痍に近い。見えている肌は傷だらけで、服もあらゆる場所が破れている程だ。髪も焦げたり、頭から血を流していたりと、見た目も痛々しい。比叡の技量があったからこそコレで済んでいたが、そうで無かったら今ので死んでいた。

 

「あらすごい、ちょっと感心しちゃいました。よくもまぁそんな細いモノで私の砲撃をどうにか出来ましたね。ビックリです」

 

 笑顔の内容が若干変わるものの、見下しているのは変わらない。驚いたのは本当のようだが、それだけ。

 古鷹にとっては、比叡の努力と結果もその程度にしか感じない。まるで曲芸を見た後のようである。

 

「っと、勿論ダメですよ」

 

 その隙を突いて再び突撃していた叢雲には、尻尾の艤装から砲撃、魚雷、艦載機による同時攻撃。砲撃を潜ろうとしても、魚雷が避けられない。逆も然り。上すらも艦載機が許さない。その全てを避けようとするのなら、前に進むことを諦めざるを得なくする。

 

「見下すな!」

 

 叢雲はそのどれとも違う選択肢を選び取る。砲撃も魚雷も跳び越え、低空飛行の艦載機を槍で叩き落としつつさらに上へ。古鷹の艦載機が頑丈であることを逆に利用し、棒高跳びでもするかの如く上空へと舞い上がる。

 そこで槍ではなく艤装に生成した主砲で、下の古鷹に向けて乱射。さらには槍を古鷹へと向けて、砲撃をしながら重力を使っての突撃。回避を捨てた代わりに攻撃力に全部乗せた、諸刃の剣。

 

「見下してなんていませんよ。特に同胞(はらから)は、艦娘よりは上に見ています。ですが、誰も私に届いていないので、どうしてもそう見えてしまうのでしょう」

 

 その叢雲の攻撃ですら、軽くいなしてしまう。砲撃は艤装によりガード。叢雲本人の質量は、まるで闘牛でもしているかのように、艤装を狙わせて自分はさらりと回避。そして、叢雲が着水したと同時にその背中を蹴り飛ばした。

 本来の古鷹に、接近戦の心得なんて一切無い。そもそも艦娘が接近戦をすること自体が稀ではあるのだが、少なくとも艦娘古鷹という個体がその手段を選択することはまずあり得ない。なのに、当たり前のように脚が出た。

 

「なんだか、昔の自分見てるみたいで腹が立つんだよね!」

 

 叢雲が蹴り飛ばされる瞬間に、島風が連装砲ちゃんを操り、自分の魚雷も含めて4点同時攻撃を敢行。逃げる方向を無くした全方位からの攻撃で、どれが当たっても致命傷を与えられる一撃。

 

「そうなんですか? でも、私は貴女とは違いますよ?」

 

 だが、やはりその攻撃は届かない。連装砲ちゃんの砲撃は案の定尻尾に弾かれることで島風本人の魚雷を避けるだけとされ、その魚雷も軽く跳び越えるだけで終わり。

 

「やはり艦娘は脆い。だから赤子の手を捻るように殲滅出来てしまうんですよ」

 

 そして、スピードに自信を持つ島風に対して、同等もしくはそれ以上のスピードで接近し、腹に拳をめり込ませる。

 ここで撃たない辺り、本気でやっているにもかかわらず、まだまだ遊んでいるようにすら思えた。

 

「貴女達は仲が良さそうですし、仲良く死んでみましょうか」

 

 その後、島風を叢雲のように蹴り飛ばし、2人揃ったところに艦載機による空襲を集中させた。まともではない爆撃が2人に降り注ぎ、比叡以上の爆炎に包まれてしまう。

 

「簡単に! やられるかぁ!」

「ったりまえ!」

 

 槍を振り回しながら艤装からの主砲を高角砲に切り替え、ギリギリのところで持ち堪える叢雲。島風も連装砲ちゃんを使ってギリギリの防空へ。

 

「私が救いマス! 少しだけ耐えて!」

 

 そこに金剛も加わる。比叡が危険であるが、現状押し潰されかねない2人は比叡以上に危険な状態。しかも、対空砲火に専念してしまったら本人の防御が疎かになってしまう。追加の戦力が無ければ持ち堪えることすら出来ない。

 金剛が全く攻撃に参加出来ない状況を作り出されている。1人が守りに徹しなければ、身を守るだけでもギリギリ。攻めに転じても軽くいなされてしまっていた。

 

 

 

 

 白露が間に入っていたために横目にそれを見ていた春雨は、トラウマを刺激されるような感覚を覚えた。

 古鷹のあの砲撃で、姉がやられている。それを知っているからこそ、古鷹が攻撃をする様を見せるだけで、嫌な気分になる。

 

「姉さんだって、あの古鷹さんに、ああやってやられたんですよ。何も感じないんですか」

 

 そのトラウマを振り払うように、忌々しげに呟く春雨。睨み付けるような視線で白露を見つめるが、古鷹が元々の仲間達を攻撃する様子を見ても、何も感じていないような仕草。自ら嵌めた口枷があるために余計なことも言わず、今の心の内を口に出すこともない。

 

「なんなのこの感覚……やっぱり4人分……でも変だ。()()()()()()()()()、少なからずアレを見て何も感じないわけがない」

 

 相対しながらも、春雨は冷静に白露のことを分析していた。

 

 前回の戦いで、白露は本人含めた姉4人分の力を、まるで自分のモノであるように扱っていた。春雨のような再現ではなく、まさに本人の如くである。

 そこから春雨は、あの白露は4人が()()()()()()()()であるという仮説を立てていた。白露の中に残り3人の技能を詰め込んだのではなく、そもそもアレが4人をグチャグチャに混ぜて出来上がったモノなのだと。どうやればそんなことが出来るかはわからないが、直感がそう告げている。

 

 しかし、それだけでは証明出来ない部分があった。それが性格だ。混ぜ合わせるだけならば、多かれ少なかれ艦娘として持っていた何かが残っていてもおかしくない。特に春雨の姉達は個性的であり、混ぜ合わされてもそこが如実に外に出てしまいそうなくらいの存在感だ。

 なのに、それが殆ど見受けられない。全ての技能が混在している代わりに、致命的な何かが失われているような、そんな感覚。

 

「姉さん危ない!」

 

 考え事をしていると、戦闘が疎かになってしまう。海風が春雨の危機をいち早く察知して、引っ張るようにその場から退避させる。

 瞬間、簡単に視認出来ない位置からの魚雷が爆発した。体勢の低い春雨をえぐるように突き進んでいたそれは、一撃で粉砕するほどの威力。

 

「ご、ごめん海風」

「あんなことになった白露姉さんを思うくらい慈悲深い姉さんですから仕方ないです。どれだけでも好きなだけ考えてください。私が愛する姉さんを確実にお守りしますから」

「ありがとう。ちょっと気になることがあるから」

 

 いつになく饒舌。戦場という限られた場で、姉の命を救うという状況に軽く酔っているが、その分力を発揮するので誰も咎めない。春雨のやることなすこと全てを肯定するのは、精神的な依存によるもの。

 そして、姉を攻撃した白露に対して姉という以上に()()()()()()()()()()()という認識を持っている。姉とは呼んでいるものの、既に姉としても見ていないかもしれない。

 

「その答えに私が繋ぐことが出来るかはわかりませんが、少なくとも姉さんが痛い目を見る必要はありません。私が必ず、アレをどうにかします。考えて、考えて、考え抜いてください。それがこの戦況を一変させる光となるのでしょう」

 

 春雨を肯定し、讃え続けた後、白露の方へと向き直る。その瞳は恐ろしく冷たく、敵どころかゴミを見るような目である。艦娘の頃の海風からはまず想像出来ないような表情に、白露の目は妙にニヤついたようなモノに。

 

「姉さんを困らせますね、貴女は」

 

 冷たく重い声。

 

「万死に値します。私の光を曇らせる者は、この世にいる必要はありません」

「んー、んっふふ」

 

 そんな物言いを聞くのも初めてのことだろう。口が隠れていても、その表情は満面の笑みを浮かべていることを示していた。

 

「故に、私が貴女を殺します」

 

 その冷酷な表情から、ノータイムで主砲を構えて放った。狙いは一撃で死を齎す顔面。その顔を見せるなと言わんばかりに。

 そう簡単にはやられるわけがないと、白露は軽く避けた後に前に跳んだ。海風との間合いを一気に詰め、接近戦を仕掛けるのはやはり夕立の戦い方。しかし手に持つのは錨。これは村雨。

 

「姉さんもそれで殺すつもりなんですか。尚更許しません」

 

 瞳が燃え上がったと思いきや、海風の拳が白露の顔面にめり込もうとしていた。接近戦すらも選択肢にない海風からのその一撃は、少なからず白露を動揺させる。

 だが、口枷は艤装と同じ材質。余計なことを喋らないようにするために嵌めたそれは、顔面を守るためにも作られている。拳を叩き込んでも破壊すら出来ない。故に、避けることすらしなかった。

 

「んっんっ」

 

 いくら深海棲艦化して膂力が上がっていても、白露も同じだ。拳が叩き込まれようが、首を捻じ切るほどまではいかない。

 拳を顔面で受け止めた後、目元が確実に意地悪い笑みに歪み、ゼロ距離で海風の腹を狙った。この位置なら避けられないと考えて。

 

「そういうことをやることくらいお見通しなんですよ。貴女の意地の悪さからして!」

 

 しかし、海風はそれを読んでいる。撃たれる前に脚を蹴り飛ばし、体勢を崩した。さらには踏みつけるかのように脚を振り下ろすかなり乱暴な一撃。

 

「んっ」

 

 無論、白露も一筋縄ではいかない。その脚を逆に蹴り飛ばし、海面を軸にブレイクダンスのような要領で回転して立ち上がる。そういうことをやるのも夕立。

 

 それを見続けている春雨は、考えに考えて、白露が何かを探る。姉4人を見続けてきた春雨だからこそ気付けることがあるはずである。

 そして、辿り着くところがあった。

 

「あれ……?」

 

 確かに姉の動きをそのまま自分のモノにしてしまっているところはある。そして、それの軸になっているのは他ならぬ白露だ。個性的な妹達でも、白露の指示にはちゃんと従う。姉だから、いっちばーんだからというだけではなく、白露自身のカリスマ性がそれを現実としていた。あれだけ妹達の力を使っていけるのは、()()()()()()()()というのが答えだろう。白露で無ければあんなカタチにはならない。

 しかし、その使い方の中に、白露ではない()()()()()を感じ取った。白露が妹の力を使うのなら、もう少し丁寧に扱うだろう。いくら性格が変わっていたって、姉であることには変わりない。しかし、その扱い方は全てを道具としてしか見ていないとすら思える。()()()()が挟まっているような感覚。

 

「……5()()()!?」

 

 ここで春雨の直感が1つの答えに辿り着いた。白露の中に他の姉達がいるというのは、何となくわかった。金剛もそれに気付いていた。しかし、さらにそれを統括、()()する5人目の存在には気付かなかった。そこに春雨は辿り着いたのだ。

 その5人目が何者であるかはわからない。しかし、それが全ての元凶であることはわかる。それが失われれば、元には戻ることはないが話は通じるようになるのではないか。そう考えた。

 

 それをどうするかはまだわからないが。

 

「どうであれ……どうにかしないと話は始まらない、よね!」

 

 考えが纏まったわけではないが、動かないとどうにもならない。故に、春雨は一旦行動する。殺す殺さないは一旦置いておいて、白露を止めなければ次の段階には進めない。

 

「まずは倒す。その後に考える!」

 

 海風の後ろから、春雨も突撃。ここからは2人がかりで白露を止めることになる。

 

 

 

 

 春雨が気付いた、白露の中にいる5人目の存在。それが今回の事件の鍵になることは、この段階では春雨すらも辿り着けないことである。

 

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