海風と白露との戦闘を観察し、考えたことで、1つの仮説へと辿り着いた春雨。それは、白露が姉4人の混じり合った存在であるという仮説をさらに超えた、
戦い方からして、白露のようで白露ではない。姿形から記憶までが白露なのだが、何処か違和感があった。常に姉達を見続けてきて、さらには直感という五感ではない6つ目の感覚による特定であるため、それが確定であるとはハッキリと言うことは出来ない。
「まずは倒す。その後に考える!」
海風の後ろから、春雨も突撃。ここからは2人がかりで白露を止めることになる。
白露の目は、2人がかりかと非難するような感情がこもっていた。海風と
しかし、その目からはまだ余裕が失われていない。負けるかもしれないという感情は何処にもない。そもそもそんな感情が破綻しているという可能性すらある。
「んっんー!」
「海風! ごめんお待たせ!」
2人の戦いに乱入する春雨。勿論脚は生やしていないため、低い姿勢から主砲を構えながらの突撃である。そこから脚を生やして急に伸びるという一撃を、前回の戦いで喰らっている白露としては、春雨が近付いてきたら間合いを取るという認識になっているようで、海風からも離れることに。
しかし、離れながらもしっかりと魚雷を置いていっている辺り抜け目無い。春雨にはそういう置き土産が危険であるため、海風が間髪容れずに破壊した。結果的に、白露は大きく離れて2人を見据える位置にまで退いていた。
白露としても、春雨と海風が組んだ状態というのは多少警戒しているらしい。負けるとは全く考えなくとも、遊んで勝てる相手でもないと判断出来ているようだ。
「海風、白露姉さんの中に5人目がいるかもしれない」
「5人目……!?」
「うん。どう考えてもおかしいもん。白露姉さんじゃなさ過ぎる」
海風の隣に並び立った時にボソリと呟く。今までの経験則で仮説とはいえ説得力のある言葉になる。
「ならアレは、白露姉さんの姿形を使ってる別人ってことですか?」
「あと記憶もね。そうなんじゃないかなって、私は思ってる。そもそも、姉さん達の力を全部使ってくるでしょ」
「確かにそうですね……あの錨は村雨姉さんのですし、そもそも突撃を多用するのは夕立姉さんです。それに、妙に冷静なんですよね……時雨姉さんみたいに」
海風にも思い当たる節があるようである。直接ぶつかり合ったことで、あの白露がやはりおかしいとわかったようだ。
海風だって、白露達とは演習を繰り返している。春雨ほどではないが、4人の特徴は身体に叩き込まれているのだ。それもあって、白露の戦い方が
「多分、多分だよ。私がふと思ったのはさ、白露姉さんがいないと、他の3人が言うこと聞かないんだ。で、その白露姉さんを
春雨の考えたことが正しければ、あの白露は白露であって白露でない。というよりは、見た目も戦い方も姉妹だが、
白露の姿形と記憶、そして1番艦としての在り方を全て奪い取って暴れる何者か。それが今の白露の正体。
あくまでも憶測だと付け加えるが、春雨が言っている時点で海風にはそれが100%正しい情報となる。
「そうですか。なら、アレは一切の躊躇も遠慮も必要なしに沈めてしまっても構わないということですね。そもそも抵抗なんてありませんでしたが。春雨姉さんに仇なす者は全て万死に値するので」
そして、これである。白露ではないという疑惑が出てきたことにより、余計に抵抗が無くなった。
元々白露に対しては敵対の意思以外無かったのだが、見た目と記憶が白露であるだけの別人とわかれば、その怒りと憎しみは余計に増すというもの。
「私としても、この憶測が当たっているなら気に入らないね。姉さんの存在を冒涜してる。使えると思ったから使ってるんだろうけど、気分が悪いね」
「姉さんが気に入らないというのなら尚更です。姉さんにその首が差し出せるよう、共に頑張らせてもらいます」
海風が発揮する力はこれにより100%になる。春雨が嫌うものは、自分も嫌うものだ。その思考はより過激に、殺意のみに呑まれているとすら思えるものになってしまっているが、
白露をここで撃破するのは変わらない。アレが白露でないというのなら、尚のことここで終わってもらわなくてはいけない。姿形も記憶も利用されて、悪虐非道の限りを尽くされるのは、気に入らないを通り越して呆れてしまう。
その白露は、話は終わったかと言わんばかりに据わった目で2人のことを見つめていた。ただボーッと待っていたわけではない。確実に勝てるようにするために、ある程度は作戦を立てていたのだろう。そういうところは時雨。
「行こう、海風!」
「はい、姉さん!」
2人同時に白露に向けて砲撃。これが戦いを再開させる合図となった。
その砲撃はさも当然のように潜り抜け、白露は改めて2人を殺すために動き出す。そこに妹への情なんて一切感じられない。まるで踊るようにステップを踏みながら、攻撃を全て躱して逆に撃つ。
そして、口枷の下は不気味な程に口角が吊り上っていることだろう。2人相手でも全く臆すことなく、むしろ余計に愉しんでいるようだった。妹を殺すという背徳的な快楽は、何ものにも代えられない至上の幸せとなりつつある。そのせいで、春雨と相討ちをする程だった力は、この期に及んでより一層高まっている。
「前より……強い……!」
それをすぐに感じたのは、やはり互角だった春雨だった。砲撃にしろ、雷撃にしろ、その全ての精度が前回戦った時よりも上がっている。むしろ、戦えば戦うほど上がっていく。
砲撃をしようとすれば、それに合わせるように砲撃を重ね、まともに狙いを定められない。魚雷を放とうとすれば、それも同じように重ねて狙いが合う前に魚雷同士が接触して爆散。そしてそれを、春雨と海風2人分に対応していた。
白露は
だから、いろいろな戦場に出して育てようと古鷹は連れ出しているのかもしれない。その暴走気味な突撃癖に文句を言いながらも、何だかんだ笑って済ましているのは、あくまでも
ここで倒さなければ、どんどん手がつけられなくなる可能性が高い。ただ戦うだけで、どんなものよりも強くなっていくだなんてインチキにも程がある。
「海風、畳み掛けるよ」
「はい!」
2人同時の攻撃もいなしてしまう白露でも、今はまだ互角レベルだ。おそらく、一度見た攻撃を覚えてしまうようなもの。春雨の突然脚を生やしての体当たりももう効かない。むしろ、最初から警戒しているせいで届かない。
こういう場合に一番効果的なのは、今までに見せていない攻撃だ。白露のこうなってからの戦闘経験は知らないが、少なくとも艦娘相手には強力な耐性を持っているようなものだ。つまり、この白露を倒せるのは、艦娘とは逸脱した行動が出来る
おそらく、今の白露には施設で療養している戦艦棲姫でも厳しいかもしれない。戦い方を知られてしまっているのだから。
「海風、出来るなら……艦娘の時とは違う攻撃、出来るならしてみて。白露姉さんが見たことがないようなヤツ」
「うえっ!? が、頑張ってみます。愛する姉さんがそういう指示をしてくれるのなら、私はなんだって出来ますよ。私は姉さんの妹、海風なんですから!」
春雨の指示は相当な無茶振りである。しかし、海風はやる気満々。今までやったことがないようなことをやろうと思考を巡らせる。
海風としてはまずやらないような徒手空拳なんてものも見せているが、それは効かなかった。おそらく、そういう手段に出る相手は何人もいたのだろう。誰がやろうと似たようなものなので、効かないのは当然の話だったかもしれない。
「知らないこと、思い付くこと、
海風は思案する。艦娘のときには無くて、深海棲艦と化した今あるもの。それは。
「……右腕」
艤装化した右腕である。春雨で言えば、出し入れ自由な両脚。艦娘だからか、深海棲艦でも割と稀なモノだ。
「……そうか、これなら!」
そこで海風は思い付いた。インナーで隠しているとはいえ、右腕は完全に艤装として構成された義腕。それは今まで使っていた腕を想像して作られた腕である。だから、今まで使っていた通りの腕が出来上がり、今まで通りに動かせる。
ならば、この腕を
春雨からの無茶振りによって思考回路が活性化したようだった。春雨の指示で無ければここまでの効果は得られなかっただろう。依存がこういうところで役に立った。
「姉さん、海風行きます!」
姉に見られているのなら、どんな苦行でも楽しんで喜んで実行出来るだろう。モチベーションは今までに感じたことがないくらいに高かった。昂揚が激しく、後ろを向くことは一切無い。
白露が自分から接近してくることが多いので、右腕を試すタイミングはいくらでもある。特に、錨で殴りつけてくる瞬間。この時は白露も無防備に近い瞬間があった。
そしてそれは、すぐに訪れる。魚雷に魚雷を重ねられて水柱が立ち昇った瞬間、それを突き破るように白露が突撃してきた。春雨よりも前にいた海風は、当然その餌食となる。
「んっんー!」
目元が完全に命を奪ったと確信したように歪み、片手には主砲を、そしてもう片手には錨を握りしめ、同時に攻撃を繰り出した。
海風は当然、放たれた砲撃を回避することに専念する。しかし、回避方向には振りかぶられた錨。回避の勢いも合わせて、その攻撃は致命傷に近い衝撃となるだろう。それが直撃したら、であるが。
「やらせるわけないでしょう! 姉さんの前で!」
やられたら春雨が壊れる。そんなことは考えずともわかる。故に、海風は負けない。
白露の錨が海風を薙ぎ払おうとした瞬間、海風の右腕が瞬時に変化。インナーを突き破り、
「んんっ!?」
「艤装はイメージの力。制服も同じ。だったら、ここも同じ! 私は姉さんを守る、盾となる!」
その盾は錨を弾き飛ばし、白露の体勢を見事に崩すことに成功。
「姉さん!」
「ありがとう海風。海風がいなかったら、私そんなこと思い付かなかった。海風のおかげだよ!」
その白露の隙を見逃すわけがない。海風が腕を盾にして食い止めたことで、春雨にも次のイメージが出来ていた。
突発的に脚を生やすことで、驚異的な速度で白露に突撃。そして接触するかもしれないという瞬間、春雨の脚は比叡の持っているような
「姉さん、永遠に、眠ってぇ!」
そして、脚を大きく振り上げることにより、白露の胴を斬り払った。