空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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白露の特性

 翌朝。目を覚ますと同時に春雨は行動を開始する。以前にジェーナスに注意されたために独りで行動することは控えているが、今は春雨が動こうとした時点で海風が必ず隣にいるため、寂しさが刺激されるようなことはない。それもあってか、ジェーナス達も春雨に対しての心配事は緩和されている。

 

「姉さん……起きてるかな」

「どうでしょう……あれだけの怪我だったわけですし……」

 

 激痛に半日近く苛まれた後、疲れ果てて眠ってしまったのだから、まだまだ眠り続けるというのが妥当だろう。

 入渠という最もお手軽な手段が使えないのだから、体力の回復にはそれ相応の時間が必要だ。丸一日寝た挙句に、それでも体調が戻らないまである。

 

「今もグッスリだったりして」

「フラフラで起きてるかもですかね?」

「どっちもあり得そうだね」

 

 不安は無くとも、無事であるかはまだわからないため、足早に白露の眠る部屋に向かった。

 

 部屋の前には相変わらず戦艦棲姫の姿が。まずあり得ないだろうが、白露が当然目を覚まして外に出ようとしたら、力尽くで部屋に押し戻すためである。まだ本調子とは言えないというのに、優しい深海棲艦である。

 廊下でも艤装を使って眠っていたおかげか、しっかり身体は休まっていたようである。野宿のスペシャリストであるため、布団が与えられているだけで普段よりも気持ちよく眠れたらしい。

 

「おはよう2人とも」

「おはようございます、戦艦様。姉さんの様子は見ましたか?」

「いいえ、まだよ。でも中で小さく声が聞こえたわ。寝言なのか独り言なのかは知らないけど」

 

 白露はよくわからない寝言を言うようなタイプではある。あまりにもベタな『もう食べられない』まで披露した過去があったりする。そのため、寝言くらいなら驚かない。

 普通にそういうことを言っているということは、絶好調と言っても過言ではないだろう。だが、まだ傷が完全に塞がっているわけでも無さそうだし、少しの間は部屋から出られなそうだ。

 

「姉さん、起きてますかー?」

 

 あまり大きな音を立てないように、その部屋にそろりと入っていく春雨と海風。部屋の中は暗くはなく、窓から日の光が入ってそれなりに明るい。

 

 そして、その部屋の真ん中。そこには白露が()()()()()()()()

 

「おーう、おはよう2人とも」

「なんて格好してるんですかぁ!」

 

 この春雨の第一声はごもっともである。まだ眠っているかとか本調子は程遠いだろうとかいろいろと考えていたのに、その張本人は窓に向かって全裸で仁王立ちである。絶好調にも程があった。

 

「いやいや、起きたら服脱がされてるし、着るもの無いからさぁ」

「だとしても!」

「それどうやってやんの? 艤装みたいに作ってんの?」

 

 自分の今の状態を全く気にしていないような仕草。白露の壊れ方はこういうものなのかもしれないが、艦娘の頃から夕立と突拍子もないことをやったりしていたので、こういうことをしていてもこれが白露なのではとも思えてしまうくらいである。

 それはそれで諦めるとして、今の白露には違和感があった。元気なこととか全裸であることとかではなく、思っていた姿と違う部分があった。

 

「え、あの、姉さん……()()()()()()()()()()

 

 そう、胴にバックリと出来ていた傷口が、たった一晩で()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ひとまずは全裸のままではアレだということで、白露に服を着せることに。傷が無いのなら、服を着るにも支障は無いだろう。

 春雨と海風が懇切丁寧に服の作り方を教えたことで、ようやく体裁として整った白露。体内に薄く艤装を這わせられただけあって、制服も即座に思い通りに作れたようである。しかし、本来の白露とは少しだけ違っていた。

 

「えっと……姉さん、それは……」

「無いと落ち着かなくてさ」

 

 白露は身につけていなかったマフラーが作られていた。それは艦娘の時の夕立がいつも巻いていた物と同じ物である。水着の時ですら身につけていたくらいのお気に入りだった。

 さらには、制服自体は白露の物を再現しているのだが、その内側にはかなり複雑な形状のインナーが形成されていた。それは艦娘の時の村雨が愛用していた物で、その抜群のスタイルを余すところなく表していた。

 それに、胸につけていたリボンは何故かネクタイに。それは艦娘の時の時雨がよく使っていた物。そういうところもあって時雨はボーイッシュな艦娘だと評判も良かった。

 

 つまり、白露は1人で4人分を再現している。落ち着かないと言っているくらいなため、記憶どころかセンスや趣味まで混ざり合っているようだ。

 

「なんだろうね……まぁ大体わかってるんだけどさ。あたしの中にみんながいるんでしょ」

 

 混じり合っているということを如実に再現した姿となっていたため、春雨も海風も少し複雑な気分になっていた。

 外見は完全に白露なのだが、服の一部をそうやって変えていることで、何処となく4人が入り混じった存在ということが嫌でも理解出来る。

 

「一晩寝てさ、なんか自分のことがちょっとわかったよ。あたし、今みんなの分の記憶も持ってるんだね」

「そう……ですか」

「多分ね。だって、あたしの知らない記憶があるからね。多分この記憶は時雨のだなー。で、これは村雨で、あれは夕立。あたしが知らないことがわかるんだもんよ。おかしな話でしょ」

 

 混ざり合っていることを自覚出来ているようである。だから制服もそういう改造をしている。妹達と共にあるのだと自覚するために。

 

「だからかな。夢、見たんだよね。みんなが出てきてさ、()()()()()って」

 

 少しだけ目が潤んでいた。それは本当に夢だったのかはわからない。しかし、今は亡き妹達から、笑顔で託されたのだから、それを叶えないわけにはいかない。

 

 自分が春雨を逃がして沈んだことまでは覚えている。妹達が一緒に散ったことも、ちゃんと覚えている。自分も含めて、やり切ったのだと思いながらも死にゆく恐怖に苛まれながら、それでも前向きに。

 だからこそ、昨晩は妹達が夢枕に立ったのだと白露は考えている。何故自分がこの身体になったのかはまだ理解していない。それでも前向きに進んでいけるだろう白露に、妹達は全てを託したのだ。

 

「……妹に恥じない第二の人生が送れるかはわからないけどさ、後を任されたんだから、前向きに生きていくよ」

「私達もサポートします。ね、海風」

「はい。春雨姉さんと一緒に、白露姉さんのこともしっかり見ていきますよ」

「あはは、ありがと」

 

 どうも海風の言い方に引っかかるものがあったようだが、妹達が自分のことを思いやってくれることに感激していた。自分の中にいる妹共々、いい関係に恵まれていると実感する。

 

「あたしさ、気付いたらこの身体になってたって感じなんだよね……死んでから救出されるまでのこと、ふわっとしか頭に無いんだ……」

「そうなんですか……」

 

 古鷹の下で悪虐非道の限りを尽くしていた時のことを、ぼんやりとしか覚えていないという白露。その辺りのハッキリとした記憶は、吐き出した泥と一緒に外に出てしまったらしい。

 なので、過去のやらかしについては、他人事のようにすら思えてしまうのだと語る。自分がそんなことをやっていたと感じず、しかしながらその時の感触と感情を朧げながら覚えているという最悪な状態。

 苦笑しながらも自分の在り方は受け入れているようである。そうでなければ即座に服や艤装を作り出すようなことはないし、そもそも深海棲艦化自体で混乱するはずだ。ぼんやりと覚えているおかげで、その辺りへの錯乱は比較的少なめの様子。

 

「やらかしは帳消しにならないし、どうしたもんかな……」

 

 しかし、その間にやらかしたことに関しては、どうしたものかと頭を抱える。白露の手にかかって散ったものは当然ながらいる。むしろ、この施設には叢雲という生き証人すらいる。

 

「……あ、そうそう、傷のことだよね。朝起きたら無くなってたよ。多分……まぁぼんやりとしか覚えてないんだけど、あたしがこうなったことで手に入れた()()なんだと思う」

 

 深海棲艦化した際に発現する特異な力。春雨の直感や叢雲の感知のようなモノが、白露にもあるという。

 それが、超回復。死にかけの状態からの復帰には時間がかかったが、もう心配が無いとわかった途端に身体が一気に回復した。あれほどの重傷もたった一晩で回復してしまうくらいなのだから、その力は相当なモノだろう。ある一定のラインからなら休息が入渠みたいなモノとなる。

 戦艦棲姫にやられてから割と早い段階でまた出撃して、春雨と相討ちした後も数日後にはピンピンしていて、そして今もコレだ。その場で回復することはなくとも、ゆっくり休めば半日と経たずに全回復してしまう。

 

 この身体があれば、いくらでも侵略行為が出来るだろう。古鷹もそれを理解した上で戦場に駆り出させ、虐殺行為を是として好き勝手やらせていたのだろう。呆れた口調で突撃を咎めていたものの、こんな身体だからこそ容認もしていたと考えるのが妥当。

 しかも、やられればやられるほどに強くなるおまけ付き。そちらがまだ残っているかはわからないが、敵側であれば間違いなく厄介極まりない力だ。

 

「こんな身体だから……そこら中に喧嘩を売って、やりたい放題やって……ホント酷いヤツだねあたしは」

 

 苦笑は崩していないが、妹達のことを思い返しているときよりも涙目になっていた。ヘラヘラしているわけではなく、そうやって笑い飛ばさなければ、ストレスで押し潰されてしまいそうになっている。

 

「姉さん……今の姉さんは、あの時の姉さんと違う、私達の知ってる姉さんなんですよね」

「勿論……とは言い切れないけど、あの時とは違うと思うよ。やりたいって思わないし。ていうか、あんなこと反吐が出るし」

 

 あの時の行動に抵抗があるというだけでも充分。他人事のような自分のやらかしたことに対して嫌悪感が持てるのなら、二度と同じことをやることは無いだろう。

 

「でも、奪った命は戻ってこないんだよ。ふわっとしか覚えてなくても、あたしがどれだけやったかわかってんだからさ……。ここの叢雲もそのうちの1人ってこともね。だからまずは、叢雲に謝らなくちゃいけない。謝っても許してもらえないことはわかってるし、余計に焚きつけちゃうかもしれないけど、やらないよりはやった方がマシだと思う」

 

 自分のやったことと向き合うつもりはある。それがいくら黒い泥のせいだったとしても、自分の意思では無かったとしても、やったのは自分の身体だ。出来る限り償う。

 

「叢雲もそこにいるんでしょ。なーんとなくわかるなぁ。多分これ、夕立の勘の強さかな。あの子、犬みたいに匂いがどうのこうの言ってたくらいだし」

 

 扉越しに声をかける。春雨と海風が振り向くと扉が開き、そこには白露の言った通り叢雲が立っていた。薄雲とジェーナスも側に立ち、突然飛び込んで白露に襲いかかるのでは無いかとヒヤヒヤしていた。

 

「……そろそろ、我慢出来ないわよ」

 

 成長した叢雲は、多少なり怒りが制御出来てはいる。しかし、白露はそもそもこうなる元凶だ。ここまで耐えることが出来ているだけでも上出来過ぎた。

 

「うん、あたしは叢雲にどうやって償えばいいかなって考えたけど、まだ時間もそんなに経ってないから、物凄く簡単なことしか思い浮かばなかった」

「へぇ……で、アンタは何をしようっていうの?」

 

 叢雲の苛立ちは最高潮。いつでも艤装を出して殺しに行けるという心持ちで白露を睨みつけている。手が出ない分、随分と心が強くなってはいるのだが、我慢の限界は近い。

 

「あたしの身体、死なない程度の傷だったらゆっくり休めばすぐに治るみたいなんだよね。死んじゃう怪我でも、あたしが頑張って耐えることが出来ればこの通り」

 

 制服をめくり、インナーを一時的に消すことで、胴にあった傷が綺麗さっぱり無くなっていることを見せる。叢雲が息を呑んだのがわかった。あれだけの酷い怪我がたった一晩で失われているなんて思ってもいなかったから。

 

「ということはさ、あたしには死なない程度にどれだけでも出来るってことなんだよね」

 

 白露は一歩前へ。叢雲は拳を握る。

 

「だから……あたしが叢雲にやってあげられることは、たった1つだけ」

 

 さらに一歩進み出て、小さく息を吐いた後、意を決したように言い放った。

 

 

 

 

「今日から毎日、死なない程度にあたしをボコボコにしてよ。毎日、気が済むまで」

 




今の白露は4人分体現スタイル。制服自体は白露ですが、中には村雨インナー。夕立マフラーに時雨ネクタイ。時雨に関しては、外見的特徴があまり無くてネクタイを採用。あの髪飾りは、時雨だからこその物なので不採用。
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