空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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画面越しの再会

 叢雲と和解したわけではないが、施設に住うことは良しとされたことにより、ひとまずは全員の前に出ることとなった。時間もちょうど朝食時。新たな住人の歓迎はその場で行われることになる。

 

 今まで敵対していたというのもあるのだが、住人の誰もが白露も事件の犠牲者であることは理解しているため、ぎこちないものの受け入れる姿勢ではあった。春雨と海風の姉なのだという事前情報があるおかげで、多少なりはとっつきやすい。

 とはいえ、元々は完全に敵対していた相手。槍持ち時代の叢雲と違い、理性を持った状態で侵略を選択していた経歴を持つのが白露だ。その時とはもう全く違うと言われても、どうしても警戒心は取れない。

 

「えーっと……今日からよろしくお願いします?」

「ええ、貴女を歓迎するわぁ。行く当てが無いのだし、ここには妹達もいるんだもの。ここが一番居心地がいいはずだから、ここの一員として生活してちょうだいねぇ」

 

 鎮守府には戻ることは出来ず、外に出ても何をしていいかわからない。ならばこの施設に身を寄せるのは当然だと、中間棲姫は既に歓迎ムード。飛行場姫も、姉の考えを尊重しながら同意。

 勿論ぎこちなくとも全員歓迎の心持ちであるため、仲間としての認識は出来ている。

 

「そういえば……貴女もみんなと同じような溢れた艦娘……なのよねぇ?」

 

 中間棲姫が聞く。元艦娘の深海棲艦ならば、そうなってしまった条件というのは基本的に同じなはずだ。

 この場にいる元艦娘達は、何かしらの感情が溢れ出したから深海棲艦と化している。海風は若干特殊な例になったものの、その溢れた感情による発作のトリガーを持ってしまっているのも共通。

 今の白露は、正直()()()()()()()()()ではあった。春雨は白露達が死んだと思っていたが、現にこうやって深海棲艦化して生きている。しかも、一緒に死んだ3人の妹と融合しているような状態で。ただ溢れただけではこうはならないだろう。

 

 とはいえ深海棲艦化した元艦娘なのだから、発作の条件だとか、苦しむ環境などがあるのではないかと考える。施設ではそういうものを先に知っておいて、発作を起こしたら全員で助け合うのが常だ。

 こういう場でそれを聞くのはマナー違反な気はしたが、白露の境遇からすぐに馴染めるようにするためにあえて話題にした。

 

「あたしはその、溢れたっていうのがよくわからないんだよなぁ……」

「あら、そうなの?」

 

 しかし、白露にはその辺りすらもわからないという。自分が何故こうなっているのか。そもそも自分から泥が溢れ出したことすらピンと来ないらしい。

 

 侵略者として活動しているときの記憶がぼんやりとしか覚えていないせいで、自分が何故こうなっているかという部分はスッポリと抜けてしまっていた。

 その辺りはおそらく、春雨の一撃によって身体の外に排出された黒い泥が持っていってしまったと考えるのが妥当である。白露にとって悪い記憶すらもぼんやりにして、黒幕にとって損になる情報は綺麗に抜けてしまっているという、なんとも敵側に都合のいい状態になっている。

 

「貴女の治療中に多少は調べさせてもらったのだけれど、もうカタチとして成立しているからわからなかったのよねぇ。なんの感情が溢れたのかしらぁ」

「感情が溢れる……かぁ。ちょっとわからないなぁ」

「それって重要なわけ?」

 

 先んじて朝食を食べ始めていた叢雲が、中間棲姫に言い放つ。

 

「私に重要なのはそいつが気に入らないことをするかしないかだけよ。何が溢れてようが知ったこっちゃないわ。発作を起こしたらそれ相応に対応してやればいいだけでしょ」

 

 言いながらも食べることはやめない。白露のことで食事を邪魔されるのが気に入らないと言いそうなくらいである。

 だが、その言葉で中間棲姫は、確かにそうねと話題を切り上げる。今の白露はそういうものなのだと納得し、発作が起きたときに改めて介護することでどうにかすることにした。死に至るような発作はまず起きないため、常に誰かが側にいれば大丈夫であろう。

 

「なら、私と海風が姉さんの側にいるので大丈夫です。まだ姉さんには謎が多いですけど、妹2人でサポートしますので」

「春雨姉さんがやると言うのなら、私も勿論全力でお手伝いします」

 

 ある意味、白露にまだ眠る謎を解明するためにも、春雨と海風が離れないようにするということで決着がついた。

 

 

 

 

 朝食後は各々施設での作業に入ることになるのだが、その前にやらなくてはいけないことがあった。白露の知っていることを全て話してもらうことである。

 これは鎮守府側にも白露が無事に目を覚ましたことを伝えつつ、わかる限りの敵の情報を伝えるために設けられる場だ。

 その席についたのは、いつも通り姉妹姫と、白露。その白露のために春雨と海風も同席し、必要あるかどうかはわからないが、ダイニングの外に残りの面々が待機。

 叢雲はここでの言動も白露の判定に使う気満々。他の者達も、白露が信用に値するかを見極めるために、ここでの言動を確認するつもりである。ここにいないのは、アレルギーが発症しそうな伊47と、この場に来れずまだ顔すら合わせていないミシェルのみ。

 

「提督と話すのか……ちょっと緊張しちゃうなぁ」

「大丈夫ですよ。いつも通りに接してくれます」

「それはそうなんだけど、まぁちょっといろいろとあるんだよ」

 

 そうこうしている内に、中間棲姫がさくっと鎮守府に通信を始める。出た途端にガタガタと鎮守府側から音が聞こえ、少し焦っていたような表情の提督が映った。

 

『す、すまない。あまりにもタイミングが良くて、驚いてしまった』

「あら、そうなの?」

『こちらからかけようとしていたんだ。白露の容態を聞きたくてね』

 

 白露が正気を取り戻していることは、鎮守府も報告されているために理解済み。ただし、生きるか死ぬかの瀬戸際であったことも聞いていたため、一晩明けた今、様子を聞きたかったらしい。

 

「そのことを話すためにこちらからもかけようと思っていたの。先に結論から行きましょうかぁ」

 

 タブレットを持ち上げて、カメラを白露の方に向けた。昨日まで瀕死の重傷を負っていたはずの白露が、完全に無傷でそこにいることを知り、提督は喜びと驚きが入り交じった複雑な表情を浮かべた。少なくとも悪いことではないため、大きく息を吐いて落ち着いた後、いつも艦娘達に対して浮かべる笑顔に。

 

『よく、戻ってきてくれた』

 

 一言。これが全ての感情が詰まった言葉だった。対する白露も、涙目で小さく頷いた。

 

「先に伝えておきましょうかぁ。白露ちゃんの特性は超回復。致命傷でなければ、一晩で完治出来るそうよぉ」

『なるほど。昨日のうちに致命傷をどうにか乗り越えたおかげで、今は完治してここに座ってくれているわけだね』

「ええ。私達も驚いたわぁ」

 

 少し恥ずかしそうに顔を赤らめる白露だが、今はまだ口が開けていない。やはり緊張しているのか、もしくは何か別の感情を持っているのか。

 ここで春雨の直感が光った。白露の持つ感情は、悪い感情ではない。別に表に出す必要がないものであるだけで、何かを企んでいるわけでもないと、直感的に理解した。だから、白露がこうしているのも放置。

 

『白露、話せる範囲で構わない。何があったんだい』

 

 提督が聞くと、白露は真剣な表情に。仲間内ではおちゃらけることも多いが、作戦事項の通達などの仕事に関わることになるとこの表情になる。自分の、妹達の命が左右されるのだから、真面目に聞くのも当然。

 

「……大分ぼんやりのところは多いけど、話せることは全部話す。少し長くなるかもしれないけど」

『ああ。ゆっくりでいい。疲れたら休んでくれていい。話したくなければ話さなくていい。君のやりたいようにやってくれ。戻ってこれただけでも、僕としてはとても嬉しい』

 

 今は画面上に提督しか映っていないが、音だけは何者かの泣き声を拾っていた。それはどう考えても秘書艦である五月雨。死んで敵になってしまった白露が今この場にその時と同じ思考を持って戻ってきたのだ。感極まってこうなっても仕方ない。画面内に入れないのは提督の優しさである。

 春雨も貰い泣きしそうになったが、話の腰を折らないように耐えた。今は白露の話だ。自分はあくまでも、隣に立って白露が別人でないことを判定するだけ。

 

「大分抜けてるところもあるし、春雨達に聞いたから知ってるってところもあるから……それが絶対っていう保証も出来ないけど、聞いてね、提督」

 

 そこからはゆっくりと、自分の身に降りかかった全てのことを語り始める。全部を語れるわけでもなく、本当に欲しい情報は少ないかもしれないが、白露が知る全てを曝け出す。

 隠し事なんて1つもしていない。それが自分を信じてもらう手段と理解して。

 

「あたしは……あの時確かに死んだ。死んだはずだった。痛くて寒くて眠くて、()()()()()()()()も覚えてるもん。でも、気付いたらこうなってた。そこから今までは本当にふわっとした記憶しかない」

『……侵略者として動いていた時の記憶、だね』

「うん……他人事みたいにしか思えないんだけど、自分でやった感触も残ってる。感情も。血の温度とか、悲鳴とかで興奮していた自分がいたのは確かなんだ。今はそんなの気持ち悪さしか感じないけど、あの時は本当にそうだった」

 

 侵略者だった自分の記憶も朧げに残っており、その時にやったことを淡々と話す。感情を押し殺しながら、自分の()()()()を語るその姿は、神に懺悔する罪人にも思えた。自分の本来の意思とは捻じ曲げられたその行動を、自分のことのように語る白露が、本当に可哀想であると、この話を聞く者は思った。叢雲ですらだ。

 叢雲は未然に防がれたため白露のような思いをすることは無いのだが、伊47に止められていなかったら、調査隊の誰かの命を奪っていたかもしれない。金剛には怪我をさせているのだから、白露ほどではないが罪悪感があってもおかしくはないのである。それを上回る怒りに苛まれているのも考えもの。

 

 提督も白露がやらされていたことを聞いて言葉を失っていた。自分の部下である艦娘が虐殺の限りを尽くしていたかと思うと、かける言葉も思いつかなかった。故に、白露に対してそうかとしか反応が出来ないでいた。

 

「でも、なんでそんなことをするようになったかだけは、いくら頭を捻っても思い出せないんだ。妹達があたしの中に入っちゃってるのもわかってるけど、どうやってこうされたのかは全然……」

『つまり……今の白露は白露だけではない、ということになるんだね』

「うん。時雨も、村雨も、夕立も、あたしの中にいる。その記憶も、考え方も、戦い方まで、全部あたしが持ってる」

『そういう意味では……君達白露型姉妹は全員、ここにいるわけだ』

 

 画面外に五月雨がいることはわかっていたが、さらに外側には山風達も待機しているらしい。

 白露のことが心配で、早く施設に連絡をとってほしいとせがんでいたとのこと。そのタイミングで施設から連絡が来たことが、最初のバタバタに繋がるようだ。

 

『白露……それに、時雨、村雨、夕立』

 

 提督に呼ばれて、ビクンと震える白露。4人の名前を呼ばれたのに、その全てが自分を呼んでいるものに思えるのは、思考も融合してしまっている証拠。

 話しているうちに俯いていた白露が、呼ばれたことで顔を上げる。その画面には、慈悲深い笑みを浮かべた提督の顔があった。

 

『改めて言おう。よく戻ってきてくれた』

 

 堪えきれず、白露の目から大粒の涙が零れ落ちた。それはおそらく、4人分の涙だ。もう二度と会えないと思っていた提督に、画面越しとはいえ顔を合わせることが出来た上に、今までやってきたことを咎められるわけでもなく、ただただ帰還を喜んでもらえる。

 

「……ただいま、提督」

 

 それだけ言って、白露は我慢出来ずに大泣きしてしまった。4人分の感情の昂りが一気に押し寄せたことで、いつもなら耐えられそうなものも耐えることが出来なかった。

 

 今までのやらされてきた非道を嘆く涙と、あり得なかった再会を喜ぶ涙で、白露の顔はグシャグシャになった。

 

 

 

 

 こんな白露を否定することは、誰も出来なかった。加害者でもあり被害者でもあるが、今はどう考えても被害者の1人。

 そんな白露は、もう施設の一員だ。朝食の時にぎこちなかったみんなの態度は、これをきっかけに改善されていくだろう。

 




支援絵をいただきました。ここに紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/94285489
MMDアイキャッチ風比叡。金剛と対となるポーズで、背中合わせになるデザインですね。守りの金剛に対して、攻めの比叡ということで、この勢いを作中でももっと見たいものです。
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