空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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施設の一員として

 鎮守府との通信を終了し、一旦は普通の生活に戻ることになる施設。ダイニングの外に待機していた仲間達は、通信が終わった途端に雪崩れ込むように部屋に入ってきて、白露のことを真の仲間として完全に受け入れていた。

 やはり、提督との再会で大泣きしたのが大きかった。感情をそのように見せる者に悪い者はいない。誰がどう見ても嘘泣きでは無いとわかる程だったのだから。

 

「いやはや、なんか恥ずかしいとこ見せちゃったかな」

「そんなことないわ! シラツユが()()()()じゃないってわかったもの!」

 

 泣きじゃくる姿を見られていたことに気付き頬を赤らめる白露だが、ジェーナスがフォロー。そういう姿を見せられるということは、本心から優しい者であると保証出来ると話す。

 

Soulagé(安心しました). 傷ももう治っているようですし、Décès()から遠退いてくれたのは、Je suis heureux(嬉しいです)

「えーっと、ちょくちょく何言ってるかわからないけど、サンキューサンキュー」

 

 コマンダン・テストも、白露のこの体質のおかげで調子を取り戻していた。最も死が近かった白露が、翌日にはピンピンしているのだ。

 今まで発作を起こす理由となっていた戦艦棲姫や春雨は、本調子に戻るまでに時間がかかったために不安は増す一方だったが、白露は全く違う。一切の不安が無くなるため、最初のダメージは今まで以上に酷かったが、それが嘘のように治っているため不調の持続力は小さいらしい。

 

Déjeuner(お昼ごはん)は歓迎会にするわ。期待しててちょうだい」

「わぁ、歓迎会! ゴチになりまぁす!」

「元気でよろしい。期待していなさい」

 

 今朝に復活したばかりなので、まともに歓迎もされていないため、リシュリューがちゃんと白露を仲間と見なすために少し豪勢な昼食を用意するとのこと。

 施設の仲間であるということをそういうカタチで表して、より意識を高めていくことにも繋がるだろう。白露が喜ぶのもあるが、施設のためにもなる。

 

「白露ちゃんは、今日は施設のことを知ってちょうだいねぇ。春雨ちゃん、海風ちゃん、任せていいかしらぁ」

 

 やはり最初から気心が知れている者に案内してもらう方がいい。春雨と海風は勿論と快諾した。

 歓迎会もそうだが、白露にこの施設の一員であることを自覚してもらう儀式みたいなものだ。特に白露は、海風と違ってここのことを何も知らない状態で加わるため、尚のこと案内は必要。

 

「それじゃあ、いつもとは違うタイミングだけれど、今日も一日よろしくお願いねぇ」

「うーし、んじゃあ俺達はいつも通り農作業な。叢雲もこっちで良かったか?」

「そうね、いつも通り畑でいいわ。薄雲、アンタは漁だったわね」

「はい。いつも通りジェーナスちゃんと。多分ヨナちゃんも向こうで待っていると思うので、またお昼に」

 

 深海棲艦はおろか、艦娘でも出てこないような会話が交わされていることで白露は若干混乱したが、春雨と海風から、ここはこういうところなのだと言われて納得せざるを得なくなった。

 

 

 

 

 案内といっても施設の中はそう広いものでもない。適当に歩いて回っているだけでもあっという間に見る場所が無くなる。

 

「いや、本当に農作業やってるなんて思わなかったんだけど」

「みんなそう言いますよ。ね、海風」

「はい……漁はまだしも、畑があることが一番驚きますよね……」

 

 案の定、深海棲艦の住まう島に畑があるというのが一番の驚きだったようだ。そして、先程までの真っ白なロングドレス姿とは打って変わって農作業用のジャージ姿の中間棲姫にさらに驚いた。あまりにも違いすぎて、別人かと疑ったレベルである。

 少し前までは喧嘩腰だった叢雲も、農作業の時にはジャージ。松竹姉妹も勿論ジャージ。もう深海棲艦とは言えない生活を営んでいることで、驚きながらも和やかな雰囲気に心が休まっていた。

 

「あたしもどれかに参加しなくちゃなんだよね?」

「そうですね。働かざる者食うべからずなので」

「オッケー。あたしは……漁かなぁ。ほら、村雨が釣り好きだったでしょ。あたしにもそれが備わってるからね」

 

 白露型の三女であり、今は白露の一部となっている村雨は、艦娘の中でも数人いる釣りを趣味とする艦娘だった。今やその記憶や思考も白露のモノとなってしまっているため、白露自身は素人同然なのだが、村雨のおかげでやり方が全てわかっている。

 今は亡き妹達のことも、自分のことだから当たり前のように話す。春雨と海風からしてみれば複雑な気分ではあったが、考えるだけで落ち込むよりはマシだろう。

 

「そういえば……漁のところにイ級がいたよね。ちらっと見ただけだから挨拶は出来てないけど、あの子も仲間ってことでいいんだよね?」

「はい、勿論。ミシェルちゃんって呼んであげてください。ジェーナスちゃんが名前を付けてあげたんですよ。……あ」

 

 ここで春雨は思い出した。ミシェルも春雨達と同じような犠牲者であり、そうしたのは白露である。

 自分の物である可能性が高い三日月型の髪飾りを見て、『疑問』の発作を起こしてしまっているくらいなのだから、自分をこの姿に追いやった白露の姿を見たら、それ以上の発作を起こしてしまうのではないか。

 

「あのー……姉さん、すごくその、不躾な質問をするかもなんですが……」

 

 この件は早急に知っておかなくてはいけないこと。もし知らずに2人を対面させたら、大変なことになりかねない。

 

「ん? どうしたー? 今のあたしにゃ怖いモノ無いから、いくらでも古傷えぐってくれて構わないよ?」

「いやまぁ多分えぐることになるので覚悟して聞いてもらいたいんですけど……」

 

 そう言われたら流石に覚悟しなければならない。白露も一旦歩みを止めて春雨の方を向く。

 

「……ミシェルちゃん、仲間だと思っていたヒトに沈められたことでああなったらしいんです。それで……その……」

「ああ、その犯人があたしってことか」

 

 流石の白露も、春雨が何を言いたいかは察しがつく。そして、白露にも()()()()()()()

 

「ドロップ艦を後ろから撃った覚え、あるよ。何も知らない子があたし達のことを仲間だと思い込んでるところをズドンと」

 

 白露はあまり表に出さないものの、白露は自分がやったその行いを悔いている。自分の意思ではなく、あの黒い泥の意思でやらされていたこととはいえ、その時の感情も感触も何もかもが自分のモノなのだ。

 

「そっか、あたしと顔を合わせると、嫌なことを思い出させちゃうかもしれないんだね。そうなると、あたしが釣りに出るのは控えた方がいいかもしれないね」

「そう……ですね。まずはジェーナスちゃんにも話をした方がいいかもしれないですけど。ミシェルちゃんはジェーナスちゃんの管轄なので」

 

 髪飾りで発作を起こしたとき、ジェーナスがミシェルをあやし、周りにも過去のことはもう捨てて今のミシェルを見てあげようと話していた。しかし、白露はその存在そのものが捨てたい過去を引き起こす要因になる。

 見ただけで発作を起こすのなら、白露とミシェルを対面させるのは憚られる。せっかく不要な過去を捨て去る決意をしたのに、また引き戻されるようなことがあるのはよろしくない。

 

「ホント、あたしって最低なヤツだったね。あたしでもぶっ殺したくなるくらいに」

 

 自分に対して苛立ちを覚えているようである。黒い泥に操られている時の白露は、本来の性格を完全に塗り潰した侵略者。あれは泥の性格なだけであり、白露ではないため、自分のことでも客観的に見ることが出来る。

 

「それを償うためにもさ、ここでいろいろとやらせてよ。本当に謝らなくちゃいけない相手はいろんなところにいるだろうし、もうこの世界にはいないと思うけど……」

「姉さんはやらされていただけです。確かに……その、いろいろありましたが、私達は姉さんのことを責めません。本当に悪いのは、姉さんを利用したあちら側なんですから」

「あはは、そう言ってもらえると嬉しいねぇ」

 

 笑顔は見せられるものの、内心ではかなりダメージは大きいようだ。それこそ、夜には悪夢に苛まれることにもなるだろう。

 春雨としては、そんな姉を放っておけない。姉妹だからというのも関係なく、寄り添っておかなければならない存在だと認識する。

 

「姉さん、今晩からは一緒に寝ましょう。独りは絶対寂しいですし、嫌なことがあっても頼れる誰かが側にいる方がいいです」

 

 白露の手をギュッと握った。それを見て海風が目を見開いたものの、実の姉に対しての行動だ。いくらなんでもこれに怒りを見せるのは狭量過ぎると自重。むしろそんな姿を見せたら春雨にどう思われるかわからないので、尚更自重。

 

「私、今は海風と寝ているんですけど、姉さんも一緒に。私も寂しいと発作を起こしてしまうので、姉さんが一緒だと心強いんです。勿論、海風も一緒にいてくれるだけですごく頼もしいからね? 頼りないってことじゃないからね?」

 

 しっかりと海風側にもフォロー。海風が自分に依存しているのは理解しているので、本心からの思いを告げる。それだけで海風は昂揚し、心の底から喜び、白露の前であるにもかかわらず春雨に抱き付いた。

 艦娘だった頃の記憶はしっかり残っている白露からしたら、こんな海風の仕草は初めて見るものであるため、それはそれで驚くことになる。

 

「私は絶対に春雨姉さんの隣を譲りませんが、春雨姉さんは挟んだ方が心身ともに温まると思うので、白露姉さんは私とは逆側を担当してください。春雨姉さんには温もりが必要なんです。悔しいですが、最高の温もりは私1人では賄えません」

「そ、そっかー、じゃあそうさせてもらおうかな。確かに、あたしも夜はちょっと不安かもだからね。自分のことじゃないのに自分のことな嫌な思い出がこれでもかってほどあるから、独りはやっぱりキツいや」

「心優しい春雨姉さんからの温もりは、それだけでも幸福感に繋がりますので、悪夢なんて見なくなります。今の白露姉さんには、偉大なる春雨姉さんの温もりが必要なんでしょう」

 

 春雨のことを話す時はやたらと饒舌になる海風の圧に押されつつも、妹達が自分のことを心配してくれているのを感じ、素直にその気持ちを受け取ることにした。

 

「ひ、ひとまずだね、あたしの今後の方針として……えぇと、ミシェルちゃんだっけ、あの駆逐イ級にはなるべく近付かないってことと、夜はアンタ達のお世話になるってことでいいかな」

「はい、大丈夫です。姉姫様も妹姫様も、それくらいなら確実に許可してくれます。ここはかなり自由主義なので」

 

 楽しく生きることが出来るのなら何をしてもいいというのが施設の方針だ。辛いことがあるのなら仲間を頼ればいい。夜なんて特にそういうことが必要になってくるのだから、許可を取る必要がないレベル。

 

「ミシェルちゃんのことに関しては要相談ですけどね。ジェーナスちゃんと、姉姫様、妹姫様にいろいろと話をしてみましょう。今は少し忙しいかもしれませんけど、相談にならいつでも乗ってくれますから」

「そうしようかな。いやホントここのヒト達は優しいヒトばっかりだ。今のあたしもそうだけど、深海棲艦にもいろいろいるんだなぁ」

 

 しみじみと語る白露。自分もその一員となることを自覚し、それを喜んだ。

 

 

 

 

 白露は正式に施設の一員として受け入れられ、ここで楽しく生きていくことを許された。

 今までやらされてきた虐殺行為の罪は、嫌でも逃れることは出来ないかもしれないが、それはあくまでも泥のせい。今の白露は、他の者と同じように艦娘としての心を取り戻した優しい同胞(はらから)だ。これはもう誰も否定はしない。

 




これにて白露は施設の一員として仲間となりました。ミシェルとの対面は先延ばしにしていますが、なるべく会わないという方針で。そこはジェーナスに仲を取り持ってもらうことで解決したいところですね。
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