空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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姉妹姫の気持ち

 深海棲艦化により春雨が手に入れた力は辿()()()()()であると、『観測者』は本人に伝えた。しかし、その表現が曖昧すぎて、誰も理解出来ず、首を傾げるのみである。

 単純に辿り着くと言われても、何処に辿り着くかはさっぱりわからない。例えば、何かのゴールに辿り着くのか。それとも行きたいところに行けるのか。直感とそれが結び付くようには思えず、考えれば考えるほど謎が深まるばかり。

 

「答えは自分で見つけてくれたまえ。そうでなければ、君自身の力にならない」

「は、はい、わかりました。ありがとう……ございます」

 

 訳はわからなかったが、『観測者』が言いたいことは理解したつもりだった。確かに答えばかりを聞いていたら自分で考える力は衰えてしまう。ただでさえ、春雨の持つ力はそういったショートカットをしてはいけないような力な感じがした。直感的に。

 自力でその答えに辿り着いた時、『観測者』の言う真の覚醒というモノに近付けるのではないだろうか。

 

「春雨姉さん、私にはわかります。春雨姉さんは常に他の姉さん達に追いつけるように努力してきたじゃないですか。きっとそのことです」

 

 そこに海風がここ最近の勢いで春雨の手を握りながら話し出す。

 

「春雨姉さんは改二の実装をされていなくとも、あの実力者集団な姉さん達に追い付ける程の力を手に入れていました。それはその域に辿り着いたと言っても過言ではないでしょう。つまり、目指しているところに必ず辿り着けるということではないでしょうか。流石です私の敬愛する姉さん。だからこそ私は尊敬しているんですが、もっともっと敬うべき相手だと確信しました」

 

 怒涛の勢いで話しているが、要所を掻い摘んでしまえば、春雨の望む領域に辿り着ける力なのではと海風は考えたようである。

 

「海風の言う通りかもしれないねぇ。あたし達、春雨のサポートはすっごい頼りにしてたから。ほら、夕立って結構突撃癖あったでしょ。それをどうにかしてくれるの、多分春雨だけだったしさ」

 

 海風の言葉に白露も同意した。妹の名前を出すものの、今やそれは自分の記憶でもあるため、そういう意味でも春雨に感謝しているようだった。

 

 確かに艦娘時代、1人だけ改二実装がされていないにもかかわらず、改二実装済みの姉達に当たり前のようについて行っていた春雨は、努力のみでその域に辿り着いたと言える。

 そのときの経験が、深海棲艦化によって特性として顕現しているのかもしれない。前例が無いために何とも言えないが。

 

「白露姉さんもそう思いますよね。『観測者』様が認める程なんですから、春雨姉さんの努力は最大限に報われているのだと思います。艦娘の時の努力がこの身体になっても役に立つだなんて、やはり春雨姉さんは偉大ですね。本当に素晴らしいです。最愛の春雨姉さんはそういうところまで」

「オッケー海風、ちょっと落ち着こう。春雨の素晴らしさは後からあたしがたっぷり聞いてあげるから。話が進まない」

 

 こういう時に冷静な時雨の気質が役に立つようで、一人でヒートアップしていく海風に対して冷ややかにツッコむ。まず間違いなく白露ではこんなことをしないため、ここは記憶と思考が入り混じっていることを如実に表していると言える。

 

「さて、では私はこれでまた観測に戻らせてもらう。話さなくてはならないことは話せたのでは無いだろうか」

 

 白露が海風を止めたことで、『観測者』がここで切り上げようとした。

 しかし、それを許さないとでも言わんばかりに飛行場姫が待ったをかける。

 

「いや、まだ話すことはあるわよ」

「ほう、何かあったかな」

「世間話くらいしていきなさい。アンタは全部知っているかもしれないけど、アタシ達は話すこと自体が楽しいの。お茶を用意するから、多少はここで寛いでもいいでしょ」

 

 要点だけを曖昧に話してくる『観測者』に対して苦言を呈しつつ、もう少しここにいろと強めに訴える。

 以前に消えた時もあまりにも急であり、別れの言葉すら言えなかった。今回はそれを言えそうではあるものの、あまりにも素っ気なさすぎて再会したという感動すら持てない。時間が許す限り適当に一緒に過ごすことで、今までの埋め合わせをしてもらいたいのである。

 飛行場姫がズケズケと言うのも、中間棲姫が自分からそういうことを言うタイプでは無いからだ。こういう時は、妹が率先して姉のために動く。

 

 対する『観測者』は少し困った表情をする。中立であると謳っているのに、ある一箇所に長く留まるというのはあまりよろしくない。

 しかし、一度空っぽである中間棲姫を育てたという経歴がある以上、今更何を言ってるんだというのもある。飛行場姫はそれを間違いなく口に出す。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 そう呟いた途端、従者の2人は『観測者』の両手を引いて、お茶会に行くことを強制した。中立である『観測者』の従者の割には自由気ままに感情を出して行動している2人に、小さく溜息を吐きつつ諦めたような表情を見せた。

 

「わかった、いただこう」

「最初からそう言えばいいのよ。それに、他にもいろいろ聞きたいことはあるしね。その子達のこととか」

「彼女らは私のアシスタントさ。そうだな、道化と呼んであげてほしい」

 

 道化と呼ばれた従者の少女2人は、最初の『観測者』のように一礼をした。まるでパフォーマンスをするような仕草は、道化と呼ぶように少しピエロのような雰囲気を醸し出す。口を利かないのも、()()()のためかもしれない。

 見た目も深海棲艦にしてはカラフルであり、男の深海棲艦である『観測者』と同様、少し異質なイメージがあった。まるで、どの勢力とも違うということを表しているようにも見える。

 

「じゃあ道化達も一緒にお茶にしましょ。お姉的には、コイツと1対1(サシ)の方がいいかしら」

「妹ちゃん、私はそこまで高望みはしないわぁ。一緒にお茶が出来るだけでも嬉しいんだもの」

 

 中間棲姫はいつになくニコニコとしていた。やはり、『観測者』との再会は喜ばしいものであり、念願であった。

 

「それじゃあ姉姫様、『観測者』様との団欒をお楽しみください。ずっと話がしたかったんですよね。私達はお邪魔しませんので」

「あらあら、そんなに気を遣わなくてもいいのに」

「私達は初顔合わせですけど、姉姫様は数年ぶりの再会ですから。積もる話もあるでしょうから」

 

 その表情からいろいろ察し、春雨側から一歩引く。2人きりになりたいとまでは思っていないだろうが、そこは余計な話が出ないように、姉妹姫だけに任せることにした。

 過去に共に過ごしていた者同士、ほんの少しの時間だけでも楽しんでもらいたい。

 

 

 

 

 姉妹姫と『観測者』一行がダイニングに入っていったのを確認し、各々いつも通り好きなように午後を楽しむ時間。一番ヒトが集まるダイニングを使ってもらっているため、春雨は私室に入った。姉妹姫のお茶会が終わるタイミングはおそらく直感的にわかるため、何処にどういようが問題はない。

 ちなみに、ジェーナス、薄雲、叢雲はミシェルのところへ。ミシェルは何があるかわからないため『観測者』にも顔を合わせずにいたので、その埋め合わせに。他の面々もいつも通りである。

 

「流石は完璧な春雨姉さんです。姉姫様の心情にいち早く気付いて一歩退くなんて、私にはすぐには思い付きませんでした。ヒトの気持ちを即座におもいやることが出来る優しさに感服しますね。私も敬服する春雨姉さんのようになれるように日々一層努力しなければ」

「あ、あはは……私はそこまで考えてなかったんだけどなぁ」

 

 部屋に入るなり詰め寄るように手を握って怒涛のように言葉を投げかける海風。最近この圧もどんどん強くなっているような気がするが、気のせいだと思いたい。

 

「辿り着く力ねぇ……春雨ってば、そういう才能あったんだねぇ」

 

 白露もしみじみと話す。深海棲艦化の影響が顕著に出ている白露と違って、春雨のそれはとても曖昧。説明した者がそういう言い方をしたからというのもあるが、即座にピンと来るような力ではない。

 

「才能……というか、私にもまだよくわからなくて」

「そりゃそうでしょ。艦娘の時にはなかった力なわけだし。あたしだって超回復とか言われてもビックリしたもん。ま、いつも通りにしてればいいんじゃない?」

「そう……ですね。そこまで気にしないことにします」

 

 ただ勘が強いというだけでは収まらないのは理解出来たものの、こういうのはおそらく、意識すればするほどうまく使えなくなるような力だ。慢心は良くないのと同じように、普段通りに過ごすことが大切。

 

「海風は何かそういう力はあったりしないの?」

「私はわかりません。こうなってからの戦闘経験が白露姉さんとのそれしかないですし。義腕の形を変えることなんて、素晴らしい春雨姉さんでも出来ることですから」

 

 インナーに包まれた義腕を見せる海風。これは艤装と同じであるためにその場で形状を変えることが出来たに過ぎない。とはいえ、それを咄嗟に思い付いたというのは一種の能力と言ってもいいかもしれない。

 別に深海棲艦化したからといって、全員が全員、そういう特別な力に目覚めるというわけではない。もしかしたら誰も気付かないくらい小さな力かもしれないが。

 

「そういう力があれば、もっと春雨姉さんのお役に立てるんですが……まだまだ未熟です」

「そんなことないよ。海風は本当に頼りになるから。あの戦いの時も、海風がいなかったら姉さんは救えなかったんだからさ」

「春雨姉さんにそう言ってもらえると、海風は生きていて良かったと実感出来ます」

 

 春雨に褒められるだけでも気分が昂揚しているようである。満面の笑みで春雨の隣に座る。しっかり義腕ではなく生身の腕を春雨の腕に絡めて。

 

「今頃、姉姫様は楽しんでるかな。なんかいっぱい話したいことがあったと思うし」

 

 ダイニングの方を見る。当たり前だが私室からその様子を確認することなんて出来やしないのだが、アットホームな場面がそこで繰り広げられていることを祈っている。

 

「あの『観測者』ってヒト、すっごい胡散臭さあったけど、信用していいんだよね?」

 

 そこは白露も思っていたようで、包み隠すことなく堂々とその言葉を口にした。流石に真っ直ぐすぎる言葉に春雨は苦笑せざるを得なかった。

 

「大丈夫ですよ。だって、あの人が姉姫様をあの性格に育て上げたようなものなんですから。中立とは言ってましたけど、そこは常識的なんだと思います。……深海棲艦の常識って何かなとは思いますけどね」

 

 姉妹姫はともかく、『観測者』は中立という立場であるためか、相手のことをあまり考えていないようにも思えた。しかし、その教育のおかげで中間棲姫は今の性格へと成長している。自分には問題があっても教育は得意という稀なケースなのかもしれない。

 

「春雨姉さんがそう言うんですから、あのヒトは信用出来ると思います。何せ、春雨姉さんがそう言うんですから」

「わかったわかった。海風、春雨絡みになると途端におかしくなるよね。同じこと2回言ってる」

「それだけ春雨姉さんを愛しているということです。おかしくないです。これが当然なんです。相手は偉大な春雨姉さんですよ?」

「はいはい。春雨はスゴイネー」

 

 とにかく、『観測者』が信用出来るかどうかというのは、信用出来るという方向で収まる。話し方が曖昧で、最終的なところは相手に考えさせるというだけだ。キザったらしい部分は、もうそういう性質なのだと思うしかない。

 

「白露姉さんには春雨姉さんがどれだけ偉大かを叩き込まなくてはいけないようですね。ではお教えしましょう。私を救ってくれた春雨姉さんの素晴らしさを」

「それ、本人の前で言うのやめてくれるかな……」

「春雨姉さんが望まないのなら海風はやめます」

 

 春雨に対しては従順すぎる海風は、何処か危うさもあった。

 

 

 

 

 姉妹姫と『観測者』一行のお茶会が終わるまで、それなりの時間を要した。やはり、積もる話がそれほどまでにあったということである。

 




今回は海風劇場が激しい。
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