空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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4人分だからこそ

 翌日。施設としては『観測者』と再会出来たことで一段落ついており、また仮初とはいえ平和な時間がやってきた。いつまた戦いに巻き込まれるかわからない上に、その戦いの火種は全く無関係なものではない。とはいえ、束の間の静かな時間は有意義に使いたいと思うのはヒトの(さが)である。

 

「何があるかわからないから、しばらくは私が近場をグルッと回ってくるわ。哨戒くらいはした方がいいでしょ」

 

 みんなで揃っての朝食中、ようやく本調子へと戻った戦艦棲姫が姉妹姫へと提案した。戦艦棲姫の火力ならば、万が一泥が近海にあったとしても吹き飛ばすことが可能であり、充分すぎるほどの熟練者であるために心配もほとんどない。

 だからといって安心してはいけないため、戦艦棲姫の哨戒には誰かしらがついていくことにはなるだろう。1人だとどうにもならなくとも、2人いれば解決出来ることが多い。3人になればもっとだ。

 

「じゃあ、よろしくお願いしていいかしらぁ」

「ええ、それくらいやらせてもらうわ。出て行くって言っときながら戻ってきて、なんだかんだまた長居させてもらってるんだもの。何かしらやっておかないと立場が無いわ」

「別に気にしなくてもいいのに。賑やかなのは楽しいわぁ」

 

 結局、戦艦棲姫は次の旅路を保留している状態。この施設ならば何も心配はいらないとは思うが、戦いを好まない者達のために、本調子に戻った今、自分が率先して動くべきと判断したようである。

 戦いが無いなら無いでいい。そうこうしている間に鎮守府が解決してくれれば尚更だ。安心出来るまでは、この施設のために行動するべき時期では無いかと考えている。

 

 それに喜ぶのはやはり春雨だ。ここ最近は海風や白露まで加入したことにより寂しさの発作は起きていないが、単純に仲間が増えるというだけでも喜ばしい。発作はさらに遠退く。

 

Nourriture(食糧)Stock(在庫)は大丈夫かしら。少なくなってるならExpédition(遠征)に行くわよ」

「そうねぇ。提督くんと大将さんから贈り物を貰ったりしてるから、まだ大丈夫ねぇ。それに、今ここから離れるのは少し怖いかもしれないわぁ」

「そう、それならいいわ」

 

 それを聞いたのはリシュリュー。この施設が100%の平和では無くなりつつあるため、コマンダン・テストの発作が立て続けに起きていることを憂いての発言だった。

 

 最後に運び込まれた白露が、超回復のおかげであっという間に本調子になっているおかげで、今でこそコマンダン・テストも体調を崩さずに済んでいるものの、またいつ巻き込まれるかわからない状況。

 一旦施設から離した方がいいのでは無いだろうかとも考えたものの、今こんな状態で施設から出ていくのも抵抗があったりする。単独行動というわけでは無いにしろ、ここにいることと、陸に行くの、どちらが平和かと言われれば、誰も答えられない。故に、まだ食糧が潤沢に残っているのなら遠征はやめておく。

 

「私達は、今まで通り過ごしていきましょう。提督くんが、私達の平和を守ってくれるって言ってくれたんだもの」

「そう言ってくれてんのに、こっちが信用せずに動くのもね。哨戒くらいはするけど、基本はあの人を信じるわ」

 

 昨日の鎮守府との通信で、提督が最後に言い放った言葉が、姉妹姫には強く心に残っているようだった。

 今でこそ敗走が続く鎮守府だが、だからといって諦めることはしていない。突破口は必ずあると、今でも常に対策を練り続けている。努力と根性なんていう精神論でどうにか出来る相手では無いが、気持ちが折れていないのならまだ負けていない。

 

「だから、今日からはまた、いつも通りに過ごすことにしたの。どうかしらぁ」

 

 中間棲姫の言葉に、全員が納得した。特に、元々あちらの鎮守府で過ごしていた春雨達は、提督の意思を尊重してもらえたことに心の中で喜んでいた。

 復讐の相手が定まったものの、今どこにいるかもわからないという叢雲も、今はいつも通り過ごすことには同意した。怒りは燻ったままではあるものの、多少なら冷静に行動は出来るようになっているため、無理して動き回って消耗するよりは、施設でその時が来るまで待ち構えた方が建設的と判断したようだ。

 

「それじゃあ、今日も作業をお願いねぇ。農作業は今日はお休みでいいわぁ」

「漁も今日は大丈夫よ。魚は大分あるから、これだけの人数いても充分振る舞えるわ」

 

 そうなると、やることは掃除くらいになる。施設内も施設外も、やるところは多い。

 

「あ、そうだ。じゃあまたMichelleを洗ってあげてもいいかしら。その時にシラツユもMichelleに紹介してあげたいわ!」

 

 ジェーナスの無邪気な発言だが、白露的にはそれが本当に大丈夫かわからなかった。

 ミシェルをミシェルにした張本人が白露である可能性が非常に高い。その姿を見たら、髪飾りを見たとき以上の発作を起こしてしまうかもしれないと思うと、本当に顔を合わせて大丈夫かと考えてしまう。

 

「あ、あのねジェーナスちゃん、白露姉さんはちょっとまずいかも……」

「どうして? シラツユも施設の一員、ならMichelleの仲間よ?」

「また発作を起こしかねませんが」

 

 春雨は抵抗があったが、海風にはその辺りの抵抗がない。白露がミシェルに不意打ちを喰らわせた張本人であると躊躇いなく言い放った。

 ジェーナスもすぐに察した。今でこそ白露はここにいるし、施設の全員から認められる存在になっているが、泥のせいでやらされていたことは変えようのない事実。そしてミシェルはその被害者の1人である。

 

「あ、あー……でも、顔を合わせないってとっても悲しいことだと思うの」

「そうかもしれないけど、そのミシェルって子が苦しむのはあたし的にも辛いんだよね」

 

 白露本人も悲しそうに笑う。白露としても、自分が嫌われるのは何ら問題が無いとは思っているようだが、自分のせいで他人が苦しむのは気分が悪い様子。

 

「んぐっ、これでもしミシェルが発作起こしたら、アンタも確実に発作起こすでしょ。無理言うんじゃないわよ」

 

 そこで叢雲もモフモフ食べながらジェーナスに言い放つ。

 ミシェルと白露を近付けたいと考えて行動を起こした結果、ミシェルが発作を起こしたとしたら、まず間違いなく自己嫌悪が膨れ上がってしまう。自分がこんなことを言い出さなければと考え、周囲に迷惑をかけた自分なんてに繋がり、そしてそのまま死を望む発作へ。

 

「んじゃあよぉ、白露ってわかんねぇくらいに変装してみたらどうよ」

 

 その話を聞いていた竹が提案。白露が白露とわからなくなるくらいに変装すれば、ミシェルも自分をそうした本人であるとは気付かずに済むのではないかと。

 髪飾りのように明確な物は、見た瞬間発作を起こした。だが、ミシェルの溢れた感情は『疑問』であるため、見た目から違う姿だった場合、白露を()()()()()()()()と判断出来なくなるかもしれない。

 

「んー、まぁ多分出来ないことはないよ。あたしは白露であって妹達でもあるから……」

 

 艤装を作るようにいろいろと自分を弄った結果、簡単ではあるが変装は成功した。

 今回はミシェルと一緒に行動することも考え、釣り好きだった村雨の姿を取った。下ろしていた髪は2つに結び、被っていなかった帽子も被る。それだけで大分白露っぽさが失われている。着ているものは一切変えていないのに、大分雰囲気が違った。

 

 やはり4人が混じり合っているというのは、記憶や技能だけでなく、雰囲気もらしい。そんな白露の姿を見て、春雨も海風も、白露ではなく村雨がそこにいると感じる程だった。

 

「んんっ、こほん、はいはーい、白露じゃなくって、村雨だよっ」

 

 声までしっかり似せてきた。声を聞いてもミシェルは反応してしまうかもしれないため、それを考慮した結果がこの声帯模写。姉妹であるため、最初からある程度声は似ていたところはあったが、いざ似せてみたら本人と言っても過言では無いレベルになっていた。

 

「混ざり合うってこんなことが出来るのね。ちょっと驚いたわ」

 

 これには飛行場姫も驚きを隠せなかった。見た目を弄ることが出来るのは、別に深海棲艦だからとかそういうのは全く関係ない。変装なんて人間でも出来る技能だ。だが、内から外から()()()()()()()()というのは、今は白露にしか出来ないことだろう。

 白露は白露であり、時雨であり、村雨であり、夕立である。白露はその基礎、主人格と言えばいいだろう。混じり合っているうちの1つの姿になるのは、意識さえしてみれば簡単なことなのかもしれない。

 

「あたしもこんなに簡単に出来ると思ってなかった。あ、大丈夫、モノマネしてるだけであたしは白露だから」

「そこは変わらないんですね。ちょっと安心しました。多重人格みたいな感じになっちゃうのかなって」

「いやー、それはまたちょっと違うね。だってあたし達、本当に全部混じり合っちゃってるんだもん、そういう意味では白露でも無いかもしれないね」

 

 たははと笑うが、結構重いことである。人格も記憶も何もかもが混ざり合っているというのは、突然あることないことを思い出して混乱することだってあり得るのだ。

 それなのに正気でいられる白露は、主人格となるに相応しい精神力を持っているといえよう。

 

「これならMichelleとも顔を合わせられるわよね!」

「大丈夫だといいけど、さっきよりはマシなんじゃないかな?」

「それなら、シラツユもMichelleと一緒に遊びましょ! みんなでbrushとか使ってMichelleを洗ってあげるのよ!」

「お、おー……なんか艤装を洗浄するみたいな感じだ」

 

 白露の変装に大興奮のジェーナス。これならミシェルが発作を起こすことも無いと大喜びである。

 

「それじゃあ、今日も1日よろしくお願いねぇ」

 

 日程は決まり、また1日が始まる。ここ最近は波乱だらけであった施設の朝も、久しぶりにのんびりとしたものとなった。

 

 

 

 

 予定通り、駆逐艦達はミシェルの待つ岸へと向かう。ただし、今回は松竹姉妹は戦艦棲姫の哨戒に便乗するため欠席。

 

「洗浄だからみんな水着ってことね」

「どうしても濡れちゃいますからね」

 

 向かっていく中でも、既に全員水着姿になっていた。白露も例に漏れず、見様見真似で水着に。両脚が艤装な春雨や、右腕が艤装な海風とは違い、白露は同じ白露型でも身体には何も無い。

 

「……アンタ、水着なのにマフラー取らないの」

 

 叢雲が訝しげに言う。白露は今から濡れる仕事だというのに、マフラーだけは身につけたままだった。

 

「いやー、これはあたしの中の夕立がそういうのだったからなんだよね。あの子、何するにもこのマフラー巻きっぱなしでさ」

「流石に雨合羽着ている時は巻いてませんでしたよ」

「でもそれ以外は巻いてたじゃん。だからかな、これ巻いてないと落ち着かないんだよね。だから気にしないで」

 

 頭は村雨、マフラーは夕立。そして水着は以前時雨が身につけていたパーカーとパレオ。そして肉体自体は白露と、姉4人の融合を水着姿でも披露。春雨と海風からしてみれば、少し複雑。

 しかし、海風は白露のそれにも反応はあったが、それ以上に春雨の水着姿を凝視していたことは言うまでも無い。

 

「とにかく、あたしもちゃんと施設の一員としてミシェルとお付き合い出来るように努力すっからさ、格好は言いっこなしでよろしくどうぞ」

「はいはい。仕事さえしてくれればいいわよ」

「ふふ、叢雲姉さんも、白露ちゃんのことしっかり認めてますもんね」

「薄雲、余計なこと言うな」

 

 相変わらずプリプリしている叢雲に苦笑しつつ、岸に到着。そこには既にミシェルが待ち構えており、ジェーナスが駆けていくと同時に喜んでいるように身体を震わせていた。

 

「Michelle、今日は新しいBuddy(仲間)を紹介するわ!」

 

 ジェーナスが引っ張るように白露をミシェルの前に連れ出した。若干緊張しつつも、抵抗せずに前に立った白露。

 

「よろしくミシェル。昨日からここの一員になったんだ」

 

 声をかけても、発作を起こす予兆は見えない。あくまでも新しい仲間だと思ったようで、歓迎するかのように身体を揺らした。

 ミシェルは発作も起こすことはなかった。()()()()()()()()とは思ってもいなかったようだった。

 

 

 

 

 ひとまずは乗り越えた白露とミシェルの問題。しかし、それは本当に正しい手段なのかはわからない。あくまでも、白露は自身を多少偽って接しているのだ。

 とはいえ、施設の平和はそれで保たれるため、白露は喜んでこの変装を受け入れていた。変装とも思っていないのだから。

 

 余計なことが起きなければ、この仲も壊されるようなことはないだろう。

 




何とは言わないけど、村雨>白露≧夕立>>>時雨くらいだと思っているので、多分水着姿には違和感ないと思います。
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