空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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平和の維持

 戦艦棲姫先導の哨戒を終了し、施設へと戻ってきた一行。この哨戒によって確認出来たのは、以前戦艦棲姫が潜んでいた無人島の近くで、新たに戦闘があったことくらい。それ以外は平和な海であり、施設に害を為すモノは無さそうということである。

 しかし、その戦闘があったというのが大問題。伊47が発見した爆雷の痕から、古鷹以外にもまだ()()()()の何者かが存在していることが確定した。戦艦棲姫は駆逐艦ではないかというその存在により、潜水艦があの場所でやられていることはわかった。

 

「なるほどねぇ……白露ちゃんは正気に戻ったけれど、他にもまだまだあちら側にいる子というのはいるのねぇ」

「ええ、少なくとも1人はいるのが確定ね。それ以上いそうな気はするけど」

「困ったわねぇ。とりあえず提督くんや大将さんには伝えておいた方がいいわよねぇ」

 

 戦艦棲姫から話を聞いた中間棲姫は、真っ先に連絡することを思い付く。施設の場所はまだあちらに知られていないが、鎮守府の場所は知られており、そもそも襲撃に向かおうとしていたことだってあるのだ。

 今でこそ白露はその呪縛から解放されて施設の一員となっているが、だからといって後は古鷹のみというわけではなかった。仲間がどれだけいるかは今はわからない。それこそ、鎮守府のように沢山の同胞(はらから)が所属しているかもしれない。敵の戦力は、未だ不明。

 

「鎮守府襲撃の時は、確か古鷹と白露、あとはあまり知性を持たない子達を使って向かっていたのよね」

「白露ちゃんから聞いているのはそうねぇ」

「なら、またそいつを使って鎮守府を襲うつもりなのかしら」

 

 飛行場姫も会話に加わる。飛行場姫としても鎮守府のことは心配しており、なるべく多めの情報を提供したいと思っている。

 今回の情報は、施設よりも鎮守府に必要なものだ。まだ日が暮れるまでには時間があるくらいなので、今すぐに連絡をしてもいい。

 

「これはすぐに連絡しましょう。まだ夕飯の準備まで時間があるわよねぇ」

「ええ。そこは大丈夫よ。今すぐでもそこまで迷惑にはならないはず」

 

 時間的にもおそらく問題はない。あちらからもこの時間に連絡があったことがあるくらいなのだから、こちらからしても大丈夫だろう。

 

 

 

 

 ダイニングに集まり、鎮守府に連絡。今回は元鎮守府所属の3人も便乗。白露は知っていることは少ないものの、もしかしたら話しているうちに何かしら思い出すことがあるかもしれない。

 

「提督くん、今良かったかしらぁ」

『ああ、大丈夫だ。あと、今日は大将も相席出来る』

『用事があって、私もここにいるの。3人で話をするのは初めてね』

「あら、それなら尚更都合がよかったわぁ」

 

 画面の向こう側に提督と大将がいることに少し驚くものの、どうせ後から大将にも話すつもりでいたので、その手間が無くなったのは良かった。

 逆に、白露は大将までいることに驚きを隠せない。今回の件が相当大事になっていることを今更ながら思い知る。そもそもあの戦場に島風がいたことがそれに繋がるのだが、泥による洗脳中はそこまで細かいことが考えられなかった模様。

 

『それに、いつも通り五月雨もいる』

『こちらには吹雪もね』

「なら、大分大人数になっちゃうわねぇ。こちらも、はい」

 

 タブレットを動かして、春雨達の姿を見せた。元気そうに暮らしている3人を見たことで、提督はまた一安心する。

 画面の向こう側にいる五月雨も、姉妹がそこにいるのは嬉しいらしく、また、情報共有という話し合いのように見えて、ただの談話な空気感も強いため、何も気にすることなく姉妹に対して小さく手を振った。春雨達もそれに対して同じように反応する。

 

『それで、今回の話は何なんだい?』

「そうね、これは早急に知ってほしかったからすぐに連絡させてもらったわぁ。戦艦ちゃん達が施設の近くを哨戒してくれたんだけれど、そこでちょっとおかしなものを見つけたのよぉ」

 

 戦艦棲姫からの又聞きみたいなものなのだが、現場にいた春雨と海風の証言も基に、その時の話を再現する。海底に爆雷の痕があることと、戦艦棲姫が海からまた別の敵の存在の記憶を読み取ったこと。この2点を重点的に伝えた。

 提督も大将も、古鷹以外にもまだ敵がいるというのはある程度予想はしていたのだが、ここまですぐにそれがわかるとは思っていなかったようである。さらにはおそらく駆逐艦だという憶測まで来た。

 

『対潜性能の高い駆逐艦なのか、()()()()()()()()()その力を得たのかはわからないが……厄介であることには変わりないか』

『古鷹だけでないことがわかっただけでも充分でしょう。そう来るとは思っていたんだもの』

 

 そして、鎮守府側で話していたことも施設側にも伝えられた。古鷹は実はスタミナ面に難があるのではないかという予想の件である。

 それを聞いた白露は、言われてみれば確かにと少し納得したように頷いた。

 

「あたし、よく突撃してたでしょ。それ、まぁ性格的な問題もあるんだけど、古鷹さん絶対に許してくれるんだよね。叱られた覚えもあるんだけど、まず真っ先にあたしに行かせるの。文句言う割には」

 

 性格的な部分、と自分で言えたのは、白露としての性格の中に夕立の性格が混ざり込んでいる自覚があるから。他人のような自分の特性が把握出来ている証拠。

 だが、今ここで冷静にことを思い返すことが出来るのは、時雨の特性。感情に乱されることなく、その時の状況がきちんと見えている。

 

「あれって、あたし使って体力温存してたってことなのかな」

『可能性はある。そのため、現在こちらでは持久戦狙いの訓練をしているくらいだ』

 

 それが正しいかどうかはわからない。しかし、やたらと格を言ってくる今の古鷹にとって、艦娘達は格下の存在だ。その格下に対して一向に勝てないとなれば、話が変わってくるだろう。認識を改めるか、慢心したまま撤退をするか、それはわからない。

 だが、それでも()()()()()()を続ければ、確実に鎮守府は守り続けられる。それであちらがムキになってきたらまたどうしたものかとなるかもしれないが。

 

『勿論、それだけで勝てる相手ではないと理解はしているつもりよ。でも、それが出来なければ勝つにも勝てない。せめて負けないようにして、そこから徐々に追い詰める』

 

 大将の眼光が鋭くなる。その表情は、大本営所属の大将というべき勇ましいモノ。これを持つからこそ人の上に立つことが出来るのだと感じられる強さ。

 

『以前にも話したが、今回は我々に任せてくれ。奴らはまたこの鎮守府を狙ってくるだろう。それは、絶対に君達の手を煩わせるようなことにはしない』

『ええ。だから、朗報を待っていてちょうだい。貴女達の平和は、私達が守りましょう。その前に私達の平和を掴み取らなくてはいかないけれど』

 

 今まで負け続きだった鎮守府も、決して折れることなく立ち向かおうと前向きだ。こんなことで心が折れていたら、世界の平和を求めることなんて出来やしない。

 提督達がこうだからこそ、艦娘達も非常に前向き。勝ち目が無いと思えるほど強大な敵であっても、負けていないのならまだ戦える。勝つまでやればいいのだ。

 

「ありがとう。その思い、私達にも届いたわぁ」

「でも、本当に気を付けてちょうだいよ。アンタ達に死なれたら、アタシ達も気分が悪いんだから」

『勿論だとも。僕達は皆の平和を維持するために戦うんだ。それは()()()()も例外では無い』

 

 施設の平和を維持出来たとしても、精神的にやられてしまっては意味がない。心身共に平和であるからこそ、世界の平和は守られたことになる。

 それは、鎮守府の誰かの命を犠牲にして得たものではいけないのだ。だからこそ、完勝を目指して日々鍛えている。

 

「提督、今もみんなは訓練中なんですか?」

 

 小さな疑問をぶつける春雨。ここに大将がいるとしても、メンタルケアの観点から、こういう場所でも山風達がやってきていてもおかしくはなかった。しかし、今回はそんな気配が何処にも見えない。

 

『ああ、ここからなら少し見えるだろうから、みんなの努力を目にしてもらおうかな。大将、良かったですか?』

『ええ』

 

 あちら側もタブレットを持ち上げ、カメラを窓の外へと向けた。そこからは海が見え、そこで行なわれている演習がしっかりと見えた。

 

 今回の戦いで中心となるであろう金剛と比叡、防空という観点からも確実に出撃することになるであろう千歳と千代田、そして最も今回の敵との交戦歴がある山風達()()()()()()()()()は、春雨達としては見慣れない相手と演習をしていた。

 その相手というのが、大将の主力ともいえる最強の戦艦、武蔵と、装甲空母へと改装されている海外の空母、Saratoga(サラトガ)。そして、雷撃の名手と名高い重雷装巡洋艦である北上と大井。

 この4人を大将が連れてきた理由は、単純に古鷹の性質を鑑みてである。甲標的を使った先制雷撃、空母と同様の航空戦力、そして重巡洋艦とは思えない程の高火力。その全てを同時に相手しても負けない力を得るために考えられた最善の演習艦隊。

 古鷹だけではないとわかった今でも、そもそも4人の状態から演習がスタートしているため、敵に増員があったとしても対応出来るようにはなっていた。

 

「相手は4人でも……7人がかりで拮抗してますね……」

「ううん、あれ、こっちが押されてるよ」

 

 海風から見れば拮抗だったようだが、春雨から見たら数の優位があるにもかかわらず、鎮守府側が押されているという状況だった。

 新装備の試験というところもあるため、まだ完全に使いこなせていないのかもしれない。それ以上に、大将の演習艦隊がとんでもない実力者の集まりであるというのもある。

 実際、金剛と比叡は2人がかりでも武蔵相手にギリギリ。千歳と千代田も2人がかりでサラトガとギリギリ。山風達は北上と大井に完全に翻弄されているくらいである。

 

『古鷹はあの4人を1人に凝縮しているようなものであると私は判断したの。実際は違うのだろうけど、擬似的に再現するなら、私の艦隊ではあの子達が一番適切だと思ってね』

『艤装そのものによる突撃だけはどうにもならないにしろ、人数差というところでそれを補っているわけですね。本当に助かります』

『2日から3日、あの子達に貴女の艦隊を鍛えてもらうつもりよ。それで良かったわよね?』

『はい、ありがとうございます』

 

 この演習艦隊は島風や宗谷と同じように少しの間鎮守府に滞在することになるらしい。大将本人はどうしても自分の鎮守府に戻らなくてはいけないようだが、艦娘はそこそこ自由に動けるのが功を奏した。

 短期間の詰め込みみたいなものになるのだが、やらないよりは全然マシ。むしろ、この短期間で一気に力を上げるためには、それくらいしないと難しいというのもある。

 

「こちらからは応援しか出来ないけれど、健闘を祈っているわぁ」

『ああ、待っていてくれ。朗報を届ける』

 

 自信はあっても慢心はしていない。堅実に、確実に、負けない戦いを繰り返すのみだ。

 

『そうそう、1つだけ聞いておきたいのだけれど、いいかしら』

 

 ここで最後に大将が中間棲姫に質問。

 

『今回の古鷹……それ以外にもいるのでしょうけど、その子達、もし、万が一白露と同じように()()()()()()()()()()()()あった場合、どうすればいいのかしら』

 

 勿論沈めるつもりで戦わなければ勝てるものも勝てないだろう。しかし、白露という前例が出来てしまったため、同じように沈む瞬間に泥を吐き出して正気に戻る可能性もある。そうなった場合の処遇は正直人間側では判断が出来ない。

 

「生きているのなら、こちらに連れてきてくれて構わないわ。そうで無かったら……丁重に葬ってあげてちょうだい。その子の意思に任せます」

 

 白露は生きるという意志が強かったおかげで助かったところはある。しかし、そうなってしまったことで死を望んだ場合は、無理強いはしない方向で考えたようである。

 

『わかったわ。なら、助けられるなら助けます』

「ええ、こちらでも受け入れられるようにはしておくわぁ」

 

 

 

 

 決戦の時に向けて、準備は続く。

 




大将の演習艦隊は4人とはいえガチ。ここに潜水艦がいようものなら、演習でも嫌われるタイプなのでは。
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