空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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さらなる敵の存在

 午後からの哨戒は、漁の間に仲良くなった白露とジェーナスが便乗。残りの者はいつものようにゆっくりとした時間を過ごすことになる。

 毎日毎日戦艦棲姫と伊47が哨戒に行くため、たまには休んだ方がと話したこともあったが、2人とも好きでやってるんだから大丈夫だの一点張り。戦艦棲姫としては、旅に出ていない分を哨戒で補完しているというのもあるらしい。伊47は幸せアレルギーの件もあるため、こういうところで役に立ちたいとのこと。

 午前中に哨戒に出ていた薄雲と叢雲からは、施設に対して危険になりそうな情報は無し。昨日の春雨と海風の得た情報以上のモノは何も無かったと言える。

 

 その話を聞きつつ、哨戒に出ていた叢雲と薄雲を労うため、春雨と海風がリシュリューやコマンダン・テストから教わりながら作ったちょっと難しいおやつを振る舞う。今哨戒に出て行っている者達の分はちゃんと残しており、それでも叢雲の分は少しだけ多めという気の配りようである。

 

「ま、何も無いなら何も無いに越したことは無いけど」

「ですね。施設が平和ならまだマシですし」

 

 何も無いことに対しては怒りが燻る程度で済んでいる叢雲。表舞台になかなか出てこない古鷹に苛立ちはあるようだが、施設の平和が脅かされていないことについては良しとしているようである。

 

「出てくるならとっとと出てきてもらいたいもんだわ。確実にぶちのめしてやるってのに」

 

 とはいえ、古鷹は叢雲の中では自分の中で痛めつけなければ気が済まないくらいの怒りの対象。裏に黒幕がいるだろうが、それの姿がまるでわからない以上、矛先は古鷹に集中するのは仕方ない。

 

「この施設の場所はまだバレてないと思うから、ここで戦うことは無いと思うよ?」

「そうだけども、こっちから出向く可能性はあるでしょ。むしろ出向く。居場所がわかったら乗り込んでぶちのめす」

 

 想像しただけで湧き上がってきたか、それを抑え込むようにおやつを頬張る。甘味で落ち着こうとしているのは明らかなので、それを見越して量を少し多めにしていたのは言うまでもない。

 

「でも、もし泥を吐き出したとしたら……」

「わかってるわよ。そうなったらそうなった時に考えるわ。白露みたいならまだマシ。死にたがってるなら私が引導を渡す。ウジウジしてるなら……まぁどっちかに偏るようにボコるわ」

 

 意思をハッキリと持っているのなら許せる。だが、優柔不断にいじけているようなら、考えが纏まるまで殴り続けるという。かなり()()()やり方ではあるものの、叢雲のその考え方を誰も否定しない。

 白露が自分を殴れと言い出したのが、その考えに至る理由になったのかもしれない。恨みがあるのなら、気が済むまでいくらでも攻撃してくれて構わないと言ったのが白露だ。全員が同じ考えを持っているとは到底思えないものの、似たようなことを考える者は出てきそうではある。

 

「とにかく、私はある程度はここのやり方には従う。でも、アイツが気に入らない素振りをしたら、誰が何と言おうと私が引導を渡す。白露にも言ったように、誠実であることを見せてくれれば私はまだ怒りが抑えられるもの」

「姉さん……成長しましたよね」

「当たり前でしょ。私だって日々進化してるの。ただの暴れ回るだけの知性のない同胞(はらから)とは違うのよ」

 

 プリプリと怒りを振り撒きつつ、紅茶を一気に煽った。そして、ティーカップを薄雲に突きつけるようにお代わりを要求。薄雲は苦笑しながら紅茶を注ぐ。

 果たしてこれが成長と言えるのかはさておき、どういう形であれ、怒りが抑えられていることはいいことだ。最初の頃のままなら、顔を見た時点で怒りが爆発しており、白露には常に攻撃を繰り返していただろうし、今このようにティータイムを楽しむなんてことは出来やしない。

 

「成長というか、甘いもののおかげというか……」

「……否定はしないでおいてあげる」

 

 少なくとも、この施設で食べられる三食とおやつで精神的な部分が落ち着いているのは否めない。叢雲にも自覚がある。

 最初に薄雲からの暴露があったことで叢雲のキャラが決定したようなものだが、そのおかげで今の怒りを制御出来る叢雲が在ると思えば、その暴露も悪いことでは無かっただろう。叢雲はどう思っているかは知らないが。

 

 

 

 

 夕暮れ時に午後の哨戒も終了。戻ってきた白露は、相変わらず村雨に変装中。服などは一切替えずとも、髪型が変わるだけでも印象が大分違うため、遠目で見ると一瞬白露とは思えない。

 そろそろ夕食時であるために、残されていたおやつはまた後からということにして、今はその時間まで休息を取ることに。

 

「岸にはミシェルがいるからね。外に出るときは基本的に村雨の格好で行こうかなって」

「それがいいかもしれませんね。漁の時もずっとそうだったんですよね?」

「うん。ミシェルには嫌な思いさせたくないからさ」

 

 室内に入り、ミシェルの目が絶対に届かないところに来た時点で、結んでいた髪を下ろして白露に戻る。

 

「シラツユ、ミシェルととってもFriendlyになったのよ! Fishing(釣り)のときも協力して魚を追い込んだりしてね」

「あの子、ホントに頭いいからね。手伝ってくれるなら手伝ってもらうよ」

 

 ジェーナスも太鼓判を押すほどに友好関係を育めているようだ。

 

 白露も罪悪感は当然持っているのだが、それを表に出したらそれはそれで周りに心配をかけることになるだろうし、何よりミシェルがそういうところに勘付く可能性がある。

 それ故に、白露は基本的に本心を隠して生きていた。辛い思いを内面に秘めて、誰にも知られないように。その代わり、寝る前に訪れる姉妹の団欒の時間に吐き出せるだけ吐き出すということもしている。弱音は妹達にしか吐かない。

 結果的にストレスは溜めずに生きていけているので、心配するようなところは無かった。ミシェルとの関係も良好。叢雲との関係も悪くない。

 

「そうそう、さっき行ってきた哨戒でなんだけど、また気になることがあったんだよ」

 

 と、白露が本題に入る。今頃、戦艦棲姫が姉妹姫にも話しているであろうという哨戒で発見したモノについてのことである。

 

「春雨達、爆雷の痕を見つけたって言ってたよね」

「はい、ヨナちゃんが海底にそういうのがあったって」

「別の場所でも見つけたんだ。結構最近出来た爆雷の痕」

 

 今回哨戒に向かった場所は、春雨達が向かった前の戦場とは全く違う場所。回を重ねるごとに確認した範囲を拡げるためにも、同じ場所には行かないようにしている。

 

「本当にいろんなところで活動してるんですね……」

「だねぇ。あたしに残された少ない記憶でも、一ヶ所に留まってるってことは無かったかな。拠点の位置だけはどうしても思い出せないのが悔しいけど」

 

 それにしても、また爆雷の痕である。白露とは違う、対潜攻撃が出来る仲間が古鷹にいるのは間違いないのだが、2日連続で爆雷の痕となると、まるで潜水艦を優先的に狙っているかのように思えてしまう。

 実際は海上でも戦闘しているのかもしれないが、そこは綺麗さっぱり片付けられているというだけかもしれない。現に、白露達の痕跡が見つからなかったくらいなのだから。

 

「爆雷の痕……もしかして、潜水艦を()()()()……?」

 

 春雨の直感が目覚め始める。まだたった2回ではあるが、同じように2つの場所で同じような形跡が発見されたとなると、共通点を疑うのは必然。

 

「集めてるって、なんで?」

「そこまではわからないけど……でも、痕跡だけで言うなら、潜水艦ばかり狙ってるっていうことになるよね。ただでさえ、その、()()みたいなことも出来るみたいだし……」

 

 ジェーナスの質問に対して、徐々に声が小さくなりつつもチラリと白露を見た。一度確実に死んでいるはずの白露がここにいるわけで、敵側にはそれが出来てしまう技術があるということに外ならない。

 そうなると、対潜の痕ばかり見つかることは、()()()()()()()()()()()()ということにならないか。新たな仲間を潜水艦で作り上げるために、罪のない艦娘を始末して、それを持ち帰っては魂の混成に使用する。それが春雨の辿り着いた敵の目的。

 

「やりかねないなぁ……。艦娘のことを()()()()()()にしか見てない感じしたもん。ほら、あの古鷹さん、格がどうのこうの言ってたでしょ」

「ですね」

「艦娘は全部格下。格上の自分がどう扱おうが文句を言われる筋合いは無いみたいな感じだったよね。まぁ……あっち側にいた時のあたしはそれに同調してたわけだけどさ……」

 

 格下である艦娘は、自分達が事を成すための道具にすぎないと考えていてもおかしくはない。

 

「……それも泥のせい……なんでしょうか」

「あたしとしてはそうだと思う。泥にやられてた記憶があるから、断言……まではいかないけど、あの泥のせいでそういう考えにさせられるってのはわかるよ。だって今のあたしにはそんなの気分悪いって感覚しか無いもん」

 

 言ってて嫌そうにしている白露。そこには本心しかなく、心の底から嫌悪感を覚えている表情。そこに自分が与していたというのがさらに気分が悪いようである。

 

「そうなると……敵は最低3人以上の可能性がありますよね」

「そうだねぇ。古鷹さんと、対潜攻撃が出来る誰かと、殺し回って集めた潜水艦を使って作った誰かが最低いるって事になるか。潜水艦を素材にしてるんだから、当然潜水艦の力を持ってるに決まってるし」

「海の中から攻撃してくるような敵がいる……って考えるのが妥当ですよね」

 

 潜水艦そのものか、潜水艦の力を得た全く別の艦種か。むしろ古鷹が潜水艦の力を得ているなんてことすら考えられる。悪い方向でなら、いくらでも想像が膨らんでいく。

 

「あの、姉さん、それもしかして……夜襲をかけるためだったりしませんか」

 

 話を黙って聞いていた海風が不意に口を開いた。

 

 潜水艦といえば、他の艦種と違い、海の中での戦いをする者。ただでさえ昼間もその姿を確認するのは難しいのに、夜になると完全な隠密行動が出来るくらいになる。夜の潜水艦は手がつけられないというのが、艦娘の中でも常識となっていた。

 

「あり得る。それすごくあり得る。鎮守府にすぐに伝えないといけないくらいのことだよ」

「ですよね。夜襲を仕掛けて海上艦を引き摺り出して、それを下から一方的に狙うなんてこと、あちら側は絶対考えます。それが正しかった場合、格がどうの言ってる割にはやることが(こす)いと思いますが」

 

 春雨以外に対しては当たり前のように毒を吐く海風に苦笑しつつ、あらゆる可能性を潰すためにはこのことも連絡するべきだと行動に移す。姉妹姫の許可は得る必要があるため、すぐに向かった。

 

 

 

 

 敵の情報は少しずつ集まりつつある。それを全て踏まえた状態で、襲撃に備えていく。

 施設側もそのサポートが出来ているのは嬉しい事であった。鎮守府の平和が守られることは、施設の平和が守られることに繋がるのだから。

 




姫級の潜水艦型深海棲艦は、夜戦でも爆雷がバカスカ当たるんですよね……。
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