夜の鎮守府を襲撃する深海棲艦。その筆頭は古鷹であり、新たな仲間である龍驤を連れてきていた。その龍驤の力もあり、夜だというのに空襲から始まり、提督がまだいた執務室が爆撃を受けたが、タイミングよくそこにいた五月雨が対空砲火を放ったことで最低限の被害で済み、現在は精鋭が迎撃に出撃したところである。
「ほな、自己紹介も終わったところで、やろか。うちらがここに来た理由、お前らわかっとんのやろ」
「……そんな群れで来てるくらいだから、あたし達を潰したいってこと、だよね」
先行した島風に次々と追いついてくる。まずは山風が龍驤の前に現れ、そこから江風や涼風もそちらへ。
以前まではその後ろにいる群れの対処に出ていたが、今は鎮守府近海。作戦海域に出撃しているわけではないため、所属の艦娘が一斉に対処にあたる事が出来る。故に、山風は今回の明確な敵に相対することが出来た。
「
龍驤にあたる者が駆逐艦ばかりであることに苦言を呈する龍驤。島風を筆頭に、五月雨も含めた残された白露型が龍驤の相手をすることになる。5対1と数的優位は手に入れているが、それでも甘く見れないのが今回の敵。元艦娘の深海棲艦は、まず間違いなく何かしらの要素を混ぜ込まれている理解が出来ない個体。
ただでさえこの龍驤は甲板である巻物を主砲に変えて砲撃を放ってきたほどである。軽空母が扱えない主砲を当たり前のように使ってくるのだから、最低限駆逐艦の何かが混ざっていることは確定。
「まぁええか。どんだけ束になろうが、うちは簡単にはやられん」
巻物を広げて、艦載機を一気に発艦。本来空母が艦載機を飛ばさなくなる時間帯であることなどお構いなしに、搭載機全てで眼前の駆逐艦を殲滅しようと繰り出した。
この時間帯で夜戦が出来る空母は普通はいない。それを見越した人員選択は、古鷹の考えである。圧倒的な力、さらには抗いようのない手段を用いることにより、絶望を感じさせながら沈めるという意地の悪い策である。
だが、鎮守府は夜の襲撃を見越した演習も繰り返しているのだ。当然、
「流石は大将ね。こういうことを想定した新装備だったわけか」
「ホントに! お姉、行けるよ!」
「それじゃあ、千代田、一緒に行きましょう! 攻撃隊、発艦!」
その龍驤の艦載機に合わせるように、千歳と千代田が
千歳と千代田に与えられた新兵器。それは、夜間でも艦載機が扱えるようになるための装備。夜間作戦航空要員と呼ばれる妖精さんと、夜間に飛び立つことに特化した艦載機を組み合わせることにより、深海棲艦と同等の技術を扱える。
そこにさらに、艦載機自体にも強化が入っていた。深海棲艦の艦載機はそれ自体が生命体と言える一種の無人機であるが、その反応速度に追いつけるようにするために、全艦載機が複座型。大量の艦載機の全てに対して妖精さんが2人配置されることにより、通常以上のスペックを引き出していた。
「制空権は私達がどうにかするわ!」
「だから、本体は任せた!」
2人がかり、さらには最新鋭の新兵器を使ってようやく拮抗かやや不利に持っていけるくらいなのだが、それでも充分。駆逐艦達の戦いの邪魔を最小限に食い止めることが出来ているため、戦いを有利に進めることが出来るはずだ。
「ほほーう、なかなかやるやん。普通ならうちは八方塞がりになっとるなぁ。空母が艦載機止められちゃあ、ただの木偶の坊やもんなぁ」
言いながらもまだ余裕は失っていない。先程主砲を扱っていることがわかっているのだから、艦載機を止めただけではどうにもならないのは理解している。
「ま、耐えられるだけ耐えぇや。艦載機が全部墜ちるんが先か、お前らが全員死ぬんが先か、競い合ってみようやないか」
「アンタが終わるって可能性は考えていないんだ。慢心しすぎじゃない?」
皮肉っぽく島風が吐き捨てる。そんな言葉を聞いても、龍驤はスタンスを変えることは無かった。
「そらそうやろ。うちが負けるわけが無いんやからなぁ」
少し長い袖口から魚雷が放たれることで、龍驤との戦いは始まった。
一方、古鷹と相対するのは金剛と比叡。前回の戦いでは辛酸をなめることになったが、今回はそうはいかないと、気合を入れてこの場に立っていた。
「貴女方は前回私に屈したと思うんですけど、懲りませんね」
「私達の
「そうですか。余程賢くないと思われますね。残念です」
微笑みは崩さない。艦娘は格下であるという絶対的な信念があるのか、どうあっても自身に敗北が無いと確信しているようである。
金剛と比叡のみならば、まだ難しかったかもしれない。装備は深海合金により強化されてはいるが、技術に関してはまだ2日の詰め込み。完全に使いこなせるとは言い切れない。
だからこそ、こちらにはさらに心強い援軍がいる。
「ほほう、確かに古鷹だ。随分と様変わりしているようだが、イメチェンにしては似合わないのではないか?」
金剛と比叡に挑発をするような言動をする古鷹に対し、こちらもまた余裕のある態度を崩さない武蔵がヌルリと現れる。
「おや、貴女はこの鎮守府のヒト……では無いみたいですね」
「見てわかるものなのか」
「はい。雰囲気が違いますし、そもそもそちらの戦力は白露さんに全部聞いていましたから」
なるほど、とケラケラ笑う武蔵に、怪訝そうな表情を浮かべる古鷹。
古鷹の中では、勿論武蔵であっても格上になることはない。まだ自分のことを知らないにしても、こうまで余裕そうにしている姿を見るのは、少々気に入らないようである。
「私もここの連中から貴様の話は聞いているぞ。なんでも艦娘のことをやたらと見下し、格がどうのと
値踏みするような目で古鷹をジロジロと見る武蔵に、より表情が渋くなった。武蔵の方が逆に自分のことを見下しているのでは無いかと感じているようだ。
しかし、古鷹の余裕も切れない。常に艦娘を下に見ているため、何を言われてもそのスタンスを変えることはない。
「残念ながら事実ですから。過信ではなく現実。現にそちらの方々は、私に手も足も出ませんでした。一度ならず二度までも。そして今回が三度目です」
嘘は言っていない。故に、古鷹が崩れることはない。二度の戦いにおいて、疲労を与えられることもなく、ただただ圧倒するのみである。撤退の理由は、援軍として春雨達深海棲艦の友軍が現れたからに過ぎない。
艦娘のみならば、撤退する必要もない。さらには連れてきているのが手練れの龍驤。白露とは違う。それがさらに慢心に火をつけていた。
慢心しても圧倒出来るほどの実力を持っているからこそのこの傲慢さなのだが、本来の古鷹が見たら卒倒してしまう程の変わりよう。その全てが、魂を侵蝕している泥の効果だと思うと非常に残念である。
武蔵はその古鷹を知っているために、ここまで調子に乗っている古鷹を見ていると笑いが止まらないらしい。
「ハッハハ、なるほどなるほど、古鷹の皮を被った愚か者だとは聞いていたが、ここまでとは。これは面白い。笑える」
「好きなだけ笑ってくれて構いませんよ。その笑いは後悔に変わりますから」
「ほほう、貴様は私も格下として見ているのだな。それもいいだろう」
笑みはそのまま、古鷹を見据える。その目は一切笑っておらず、並の者ならその眼光だけで震え上がってしまいそうなほどの鋭い眼光。
「事実、私も戦力としては貴様に及んでいないだろう。私とて最強の戦艦と持て囃されたものだが、まだまだ上がいると理解している。私は平均的な力が最強、艦娘の中で頭抜けているのかもしれないが、まだまだだ」
「よく理解しているじゃないですか。身の程を知っているヒトは、長生きしますよ」
「ああ、私は私の
ほんの少し、敵の前だというのに、過去を懐かしむような瞳を見せた。
武蔵も過去は自身の力に過信していた時期があった。最強と謳われ、仲間達から持ち上げられ、傲慢になりかけていた。今眼前にいる古鷹のように。
それを諌めてくれたのが、あの大将である。表には出さなかった慢心を突き付け、武蔵のような戦艦相手にも一切お構いなしに説教をした。それは武蔵の心を解きほぐし、慢心を砕き、心身共に最強の戦艦へと歩ませることになった。そして今の武蔵はここに在る。
「理解出来ませんね。勝てないとわかっていて、何故立ち向かうのか」
「貴様は何を勘違いしている。私は自分の弱さを自覚しているが、勝てないだなんて一言も言っていないぞ。いくら貴様が格上であろうが、それ以上にこちらの方が上だ。貴様が見下している金剛も比叡も、私にとっては偉大な戦艦さ」
金剛と比叡に笑みを送る。それは大きすぎるくらいの支援。最高の後押し。
「予言しよう。貴様はここから、我々には
面と向かって断言する。不敵な笑みはそのままに、逆に古鷹を見下すかのように。
それが面白くないのは当然古鷹だ。格下の艦娘達がどれだけ囀ってもまるで気にならなかったが、ここまで強く断言されては気分が悪い。いつもの余裕な態度は崩していないが、わかるかわからないかくらいの苛立ちが表に出ていた。
「そうですか。まぁ言うだけならタダですしね。好きなだけ好きなように言えばいいでしょう。ですが、そこまで強く言うんですから、何か根拠がおありで?」
「勿論だとも。話にしか聞いていなかった私が、貴様と相対したことで確信出来た。貴様は弱いよ。私よりもな。それに、金剛や比叡には到底及ばない」
完全に挑発である。もう今の戦場、舌戦では武蔵の独壇場。
「戦力では及ばないと言ったばかりじゃないですか。なのに、私が負けると? そんな貴女方に?」
「ああ。戦力
何度でも何度でも上から捩じ伏せるような発言に、古鷹は大きく溜息をついた。
「慢心を知る私は貴様の弱さが痛い程に理解出来る。力に呑まれた者の宿命だろう。強大な力を得たと同時に心を歪まされたことで、今のようになってしまったんだろう。哀れ、実に哀れだ。なんて可哀想な奴なんだろう。なぁ、古鷹?」
「もう結構です。面白そうだから弱者の言葉を聞いていましたが、それはもう負け惜しみか何かでしょう。勝てない相手に向けて言う言葉じゃあありません」
「さっきから言っているだろう。負けんよ、我々は。いや、私がいなくとももう負けん。金剛と比叡だけでも、既に貴様に優っている」
古鷹の目はもう笑っていない。ここまでコケにされて、黙ってはいられない。だが、挑発に乗って十全の力を発揮出来なくなるほど弱くはない。
「何処がですか? 何処が私に優っていると?」
「決まっているだろう。二度もコテンパンにされても折れず、ただ勝つためでなく他者のために身を擲てるだけのモノだ。貴様にはそんなもの無いのかもしれないな。だから理解出来ない」
握り拳を、自分の胸にトンと当てる。
「
カッと目を見開き、武蔵が全ての主砲を古鷹に向ける。
「不意打ちなんてしない。我々は、我々らしく貴様に勝つだろう。そうだろう、金剛、比叡」
「Yes. 私達はもう負けまセーン。そのためのTrainingだったんデスから!」
「はい! 二度と嫌な思いはしません! させません!」
艤装を変形させ、金剛は盾を展開し、比叡は刀剣を握りしめた。
お喋りはここまで。古鷹も痺れを切らす頃合い。
武蔵の独壇場はここまで。ここからは、仲間達の力を合わせて、強大な敵に立ち向かう。
火蓋は切られました。まずは舌戦、次回からは本当の戦い。