空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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強者

 深海棲艦による鎮守府襲撃。その戦いの火蓋は切られた。

 

 まずはこの場に現れた新参、龍驤。夜でも扱える深海棲艦の航空戦力は、千歳と千代田の新兵器による迎撃により、現在制空権拮抗。

 本来、空母1人でここにいる状態で制空権が拮抗となったら、なす術が無くなる。使えるのは機銃くらい。艦載機のない空母は、悪く言ってしまえば木偶の坊だ。しかも、鎮守府側は数的優位もある。

 だが、龍驤は一味も二味も違う。そもそも出会い頭に島風に対して主砲を放っているくらいだ。今度は少し長い袖口から魚雷まで放たれた。

 

「空母って何だっけ!?」

「……少なくとも魚雷は使わない」

 

 当然眼前で放たれた魚雷くらいなら、至近距離でも回避が出来る。最も近い位置にいた島風も、それは見てから大きく回避。島風に応えた山風は、島風が回避したところを見計らって、魚雷を砲撃で爆破する。

 

「わかっとるやろ。うちはお前らと違っていろいろ出来るんやで」

 

 立て続けに主砲を構える。見た目は駆逐艦の主砲でも、威力が並ではないのが深海棲艦。先程の1発も、島風だから回避出来たものの、その火力は普通では無かった。

 主砲も魚雷も空襲も、何もかもが掠るだけで重傷を負いそうな威力。慎重に行かねばいけない。

 

「ほな、さっさと終わらせよか」

 

 主砲の連射が始まる。命中精度はそこまで高くないようだが、とにかく量が多く、反撃に出られないくらいに弾幕を張ってきた。

 さらには、その射程が地味に長く、艦載機を扱っている千歳と千代田にまで影響を与える。一度飛ばしてしまえば艦載機の妖精さんが自分の意思で動いてくれるものの、戦場から離れられないのが空母。その砲撃はなんとか回避していくしかない。

 

「なんなのアレ! こっちは制空権争いで手一杯だってのに!」

「羨ましい限りね……発艦後の無防備をケア出来るなんて!」

 

 龍驤はあくまでも軽空母。千歳と千代田と同じ艦種である。なのに、やれることが多すぎた。本来やれないことばかりをやってくる。

 

「おうおう、羨ましいなら自分から屈してくれても構わんのやで。丁寧に殺して、素材として持っていったる」

 

 当てつけのような言葉を発しながらも、その攻撃の手が緩むことはない。丁寧に殺すというのもただの建前。艦娘を見下しているからこそ、まるで虫を潰すかの如く好き勝手に始末しようとしているのが嫌というほどわかった。

 実際、たった1人に向かっているのに、艦娘達は反撃に出ることが出来ないでいた。乱射される砲撃もだが、合間合間に魚雷も交じっているのが問題。進もうにも進めず、下がるか横に行くかの2択しか与えられない。

 

「やっべぇな、あの量。山風の姉貴、どうすンのさ!」

「……隙を探してる。魚雷は壊して」

 

 江風の焦ったような言葉に、山風は冷静に返答。しかし、こうしながら龍驤の隙を探していても、まるでわからない。ここが隙だとわかっても、それをすぐさま埋めるように砲撃が放たれてしまうため、結果的に隙ではなくなる。精度がない分、乱雑で何処に来るかわからないような砲撃であるため、先を読むことも出来ない。

 

「これは……本当に厄介だね。潜り抜けることも難しそうだし」

 

 鎮守府近海であるが故に参戦している秘書艦五月雨も、この猛攻には回避で手一杯になってしまっている。疲れを見せることなく、自分に向かってくる攻撃だけ的確に回避と迎撃をこなしているのだが、やはり前に進むことが出来ないでいた。

 

「とまぁ、うちはこういう雑なことがやれるわけなんやけど、こういうのはあんまりなぁ。ちゅうわけで、こういうのの合間に、精度高いのいれんねん」

 

 突然、乱射がピタリと止まる。瞬間、一番手近であった江風に、龍驤が行なえる全ての攻撃が集中的に向かった。魚雷が真っ直ぐ、砲撃は回避方向を塞ぐかの如く、そして艦載機すらも千歳と千代田が食い止めていたところから数機がスルリと抜け出して上空から襲い掛かる。

 進めない。避けられない。下がれない。八方塞がりな状態での凶悪な一撃に、江風はほんの少しだけ思考停止してしまった。どうすればいいのかわからず、次の一手が導き出せず、どうすると考えた時にはもう遅い。

 

「江風ぇ、歯ぁ食いしばれい!」

 

 そこに飛び込んだのは、涼風だった。その一瞬の間も忙しなく動き続け、江風のピンチに即座に反応した。

 今この状態でやれることはたった1つ。強烈な体当たりで強引にその集中砲火から抜け出させること。そして、勢いを止めないことで、それによる自分へのダメージも回避する。

 

「っがっ!?」

 

 鈍い音はしたものの、龍驤からの攻撃が当たった音ではなく、涼風と江風が衝突したことで艤装同士がぶつかり合った音である。そして、そのまま突き抜けたため、涼風もそれほどのダメージを喰らうことは無かった。衝突のダメージならば、気にするほどのことではない。

 涼風の咄嗟の判断のおかげで江風は助かった。しかし、突然のことだったのでまだ思考停止が続いてしまっている。そんな江風に対して、涼風は思い切り叩くことで正気を取り戻させた。

 

「しっかりしろい! 次は助けられるかわかんないぜ!?」

「わ、悪ぃ涼風。つーか、よくあンなタイミングで動けたな」

 

 今の涼風の動きは、明らかに今までと違った。まるで、江風が狙われ、動けなくなることが見えていたかのようなタイミング。

 

「北上さん直伝の、()()()()()()()っつってな。あたい、そういう才能あるんだってさ」

 

 涼風が教え込まれたのは、目の前の戦いに勝つ方法ではなく負けない方法。つまり、誰も死なない、死なせない戦い方。

 涼風に見出したのは、長年の艦娘生活で培われた『空間把握能力』である。

 

 夕立に次いで猪突猛進な性格であるために、真正面以外が疎かになりやすい江風や、感情の機微を敏感に感じとる代わりに、少々後ろ向きで自身への脅威にのみ強い反応する山風と比べると、涼風は格段に視野が広かった。

 それが顕著に出たのが、夜間演習中。夜という戦場は嫌でも視界が狭まり、演習でも比較的被弾箇所が多くなるのが普通。それなのに、涼風は昼と同じようにその場を乗り越えていたのである。

 北上はそこをたった1日で伸ばし、戦場を見通す力へと成長させた。結果、自分だけではなく仲間の危機にもいち早く察知出来るようになったというわけだ。

 

「あたいにゃ一応だけどここの戦場()()()()()()()()、新兵器様々だねぇ」

 

 そして、涼風に与えられた新兵器は、高性能な水上電探。本来ならあり得ない見張員内蔵のそれは、昼夜問わずに最高の視界を提供する至高の一品。さらに、今の涼風はそれを最大限に活かすため、缶とタービンの同時接続による高速化までしている。

 代償として魚雷を装備出来なくはなっているものの、涼風自身が主砲による迫撃に特化しているために支障はない。むしろ、装備が極端化しているおかげで、かなり尖った戦術に寄せることが出来る。

 

「あたいが引っ掻き回す! 頼むぜぇみんなぁ!」

 

 江風を救ってもまだ止まらない。すぐに切り返し、集中砲火を放った直後に硬直した龍驤に向かって突撃を始める。

 だが、引っ掻き回すためと言うだけあって、突撃するも自爆しようとしているわけではない。そもそも攻撃を当てるつもりもない。超至近距離であろうが、回避に専念するつもりだ。

 

「ほーう、それでうちをどうにか出来る思うとるん?」

「思ってないね。でも、あたいにゃ仲間がいんだよ!」

 

 そう、涼風は当然、1人でどうにかしようとしているわけではない。ここには沢山の仲間がいる。

 

「涼風! 私も続く!」

 

 同じように突撃を始めたのは、なんと五月雨である。同じように缶とタービンで高速化された五月雨は、涼風とは逆の雷撃特化。2人で1人分となれるように、前に前にと出て行く。

 五月雨も最古参ならではの知識と経験、そして()()()()()器用さにより、秘書艦という鎮守府内でいえば艦娘の頂点の立ち位置にいながらも、最上級のサポート役と化す。それが自分とはタイプが違う者であっても、完璧なサポートをこなしてしまう。

 

「何人おっても関係ないで」

 

 再び主砲による乱射とばら撒くような雷撃が始まる。絶対に近付かせないという意思を嫌というほど見せつけて、引き剥がしたところで先程の集中砲火に転じる。おそらくこれが龍驤の必勝パターンなのだろう。勝率が相当高いのか、まずはこの戦法を優先的に使用するようである。

 

「おんなじことしかしないのかい?」

「せやな。今まではこれだけで皆殺しに出来てん。雑魚ばっかでなぁ」

 

 流石にもう見続けているだけあり、近距離まで詰めた涼風と五月雨でも充分に回避が出来る。確かに弾幕の密度は高いが、缶とタービンによる高速化が出来ている2人には、大きめの回避も容易。

 

「だが、お前らはこれだけじゃあ無理なんやろ。今までの連中とは話が違うのはよう理解出来た。なら、レベルアップや。お前らはここでしっかりと潰したるから覚悟しや」

 

 瞬間、艦載機が増えた。千歳と千代田の2人がかりでもギリギリ拮抗だというのに、それでも実は手を抜いていた。

 この龍驤も古鷹と同じように、手を抜きつつ相手に絶望を味わわせる戦術を使ってくる。対抗出来ると思わせて、さらに上から押し潰すように圧倒的な力を発揮するのだ。その方が()()()()()から。

 

「おう、さっさと全力出しなよ。アンタが手ぇ抜いてるのはあたいら百も承知なんだ」

「そうですよ。そちらのやり方は嫌ってほどわかってるんですから。私は話に聞いているだけですけど」

 

 涼風はわかるが、五月雨もこの戦場のノリに乗っているのか、少しだけ挑発的な言葉を放った。

 五月雨だってクセの強い者が多い白露型の一員。あの白露や夕立の妹であり、やんちゃな江風の姉。心の中には熱いモノを秘めているのは間違いない。さらには数年秘書艦をこなし続けた胆力も備わっている。

 

「ほうほう、まぁでもお前らはまだ格下っちゃあ格下や。避けることしか出来へんみたいやもんなぁ」

「アンタ、ちょっと無礼過ぎ」

 

 龍驤の真後ろ、超高速で走り回った島風が、今だというタイミングで砲撃を放っていた。

 涼風と五月雨が翻弄する間に、島風が後ろから撃つ。これもアイコンタクトでしっかり意思疎通をした作戦。

 

「おう、速いやん。でもなぁ、それはうちもやねん」

 

 振り向くこともなく島風の砲撃を回避した瞬間、まるで古鷹のように目が輝いたかと思ったら島風の腹にその脚が食い込んでいた。

 

「おうっ!?」

「さっき言うたやろ、うちはいろいろ出来るんやって」

 

 まさかの徒手空拳。その威力は死ぬほどではないものの、砲撃を装甲越しにまともに喰らった時のような衝撃が島風を貫き、大きく吹き飛ばす。

 

 近距離、中距離、遠距離、全てを網羅している強者。近付いても格闘。中距離は主砲と魚雷。そして遠距離は空襲である。余裕そうに見えて実際本当に隙がない。速さで翻弄しようとしても対応される。

 

「仕切り直しといこや。まだまだやれるやろ。殺しちゃおらんからな」

 

 島風のダメージは軽くはない。だが、骨などに影響は無い。まだ戦える。そこでさらに手を抜いていることで、力を見せつけて絶望させようという魂胆が丸わかりである。

 

 

 

 

 まだまだ戦いは始まったばかり。しかし、まだ勝ち目は見えてきていない。

 




支援絵をいただきました。ここに掲載させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/94687105
MMDアイキャッチ風リシュリュー。道の駅で野菜を売っている美人外人がいるらしい。
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