駆逐艦達が龍驤を相手に苦戦している裏側では、金剛達戦艦が古鷹を対応する。鎮守府側は武蔵が筆頭となり、その力を分析しながらも
「撃つぞ。避けろよ」
宣言してから、武蔵が古鷹に向けて開幕の1発。金剛や比叡では扱うことすら出来ない51cm連装砲を惜しみなく使い、一撃で消し飛ばすような超火力の一撃を軽々と放つ。
これに関しては新兵器でも何でもない、武蔵に装備されている主砲である。これが武蔵の当たり前。この火力あってこその、最強の戦艦。
「わざわざ宣言するなんて、やはり貴女は慢心しているのではないですか?」
流石にその一撃は避けられたが、その衝撃だけでも相当なものであり、回避も大きくしなければフラつくほど。古鷹もそれを察したか、かなり大きめに移動した。
「私は私の弱さを知っている。今にも震えてしまいそうだ。だからこそ、虚勢を張って強く見せているだけさ。貴様のように本当に慢心しているものと一緒にしないでもらいたい」
武蔵の皮肉は止まらない。舌戦を続けながらももう一撃。当然回避方向に向けての砲撃であるが、向きを変えていないため、そのままの動きで軽々と避けられ続ける。
「大柄では動きも遅いものですね。そんな攻撃では当たりませんよ」
「無論、理解している。最強と謳われようが、私には劣るものが幾つもある。それを補うのが仲間だ。何のための仲間だと思っているんだ貴様は」
その回避方向。待ち構えるように比叡が突撃していた。もう主砲ではなく刀剣を扱うつもりで、接近戦を仕掛ける。
「気合、入れてぇ! 斬ります!」
今までよりも軽く、今までよりも硬く、今までよりも鋭いその2本の刀剣を振り、武蔵の主砲を回避し続ける古鷹の懐に飛び込んだ。超至近距離であるために、簡単には避けられないはず。
しかし、古鷹には尻尾のような艤装という質量兵器が存在する。それは攻防一体に使える深海棲艦ならではのモノであり、さらには先端には主砲やら甲板やら何もかもが配置されている万能な一品。
「やられませんよ、その程度では」
比叡の斬撃に合わせて身体を捻り、猛烈な勢いで艤装を振り回した。そんなものをモロに喰らったらタダでは済まないことは誰が見てもわかる。
だが、比叡は退かない。その勢いを眼前に見せられても、突き進む力は衰えない。
「受けてぇ! 払いぃ!」
その質量兵器の一撃を、両手に握りしめる刀剣2本で真上にかち上げる。今まで以上に強固な装甲となったおかげで、この膂力に任せた強引な回避方法でも、刀剣が折れることなく繰り出すことが出来た。
全ての勢いを殺すことは出来ずとも、致命傷は確実に避けられる。さらに言えば、こんな形で回避されるなんて思っていないため、古鷹にも僅かに驚きが見えた。
「あら」
「からのぉ! 叩き斬る!」
かち上げた刀剣をそのまま振り下ろす。2本の刀剣でそのまま袈裟斬りにする流れではあったが、瞬時に反応した古鷹は、尻尾の艤装をかち上げられた衝撃をそのまま利用し、強引にこの斬撃の届く範囲から飛び退いた。
さらには、もう一度身体を捻って尻尾を振り回し、同時に砲撃まで放った。超至近距離であることは変わらないため、その一撃は比叡にはかなり厳しい。砲撃を斬り払うためのタイミングもかなりシビア。
「っらいっ!」
だが、比叡は一味違った。そんなタイミングであろうがお構いなしに、その砲撃を斬り払った。
タイミングを合わせるために数歩ほどバックステップしたことが功を奏した。嫌でも間合いを取ることにはなるが、やられるよりはそちらの方が確実に有利にことを進められる。
当然、鎮守府側は古鷹のスタミナ不足疑惑の実証のために、勝つ戦いではなく負けない戦いを優先している。多少の怪我なら入渠で治るために、勝ち目があるときは突っ込むという戦術もあるのだが、そんな戦い方は絶対にしない。
それ故に、どれだけ有利でも一歩引く覚悟を持った状態でここにいる。古鷹が何を言おうとスタンスを変えない。戦いが長引くことに、何の焦りもない。
「突っ込まないんですね。懸命ですが、それで私に勝てるとでも」
「Yes. これで勝つんデスヨ。私達は!」
砲撃を斬り払った比叡の隙を埋めるために、金剛が間に割って入る。ここも、ダイレクトに古鷹を狙った方が確実ではあっただろうが、そうしていたら比叡が危険だったかもしれないし、金剛自身にもまずいことが起きていたかもしれない。
誰もが安全に、かつ戦いが長引いても勝利に繋がる動きというものを判断するのなら、金剛が比叡の前に立つことは必然。
「ただの盾役が何を」
「ただの
ここで金剛は今までにない動きを見せる。盾を構えたまま、先程の比叡と同じように古鷹に突撃したのだ。
主砲も構えず、ただ盾を前にしての突進は、また違った形の接近戦。比叡の刀剣による戦いと比べると大分強引で雑ではあるが、これは金剛で無ければ選択が出来ない戦い方。
盾という大型の艤装による圧力は普通ではなく、目の前が埋まる程では無いにしろ、視界がかなり狭まる。金剛の猛進を押さえられなければ、その背後にいる比叡が何をしてくるかが見えない。
「下がっていいのか? 金剛の盾に押されれば、私の火力の餌食だぞ」
そこへ武蔵も砲撃を重ねた。金剛には当たらず、古鷹には掠める程度の絶妙な位置を狙って。ダメージは確実に与え、微妙に下がると直撃。大きく下がることを強要するような、意地の悪い一撃。
どちらが侵略者なのだと首を傾げてしまいそうな言動なのだが、その実、武蔵もここまでやらなければ古鷹を確実に斃すことは出来ないと感じていた。不意打ちはしないと最初に明言しているために、やることなすこと発言するという不思議な戦い方にはなっているが。
「まったく。戦艦が寄ってたかって」
武蔵の思惑に乗ることは嫌だと思いつつも、大きく回避するため、先程の比叡のように強めのバックステップ。むしろ金剛により前に進ませて、同士討ちを誘発させようと目論んだ。
自分にギリギリ掠めるくらいということは、進ませれば金剛にも掠める、むしろ直撃するまであるということに外ならない。ならば、策士には策に溺れてもらおうと心の中でほくそ笑んだ。
しかし、古鷹の想定とはまるで違う方向へと向かう。金剛は
「……? もしや貴女は」
「
むしろ、武蔵の砲撃に直撃しに行くような姿勢に、古鷹は少なからず動揺した。顔にも口にも出さないように隠したが、今の金剛の行動は明らかにおかしい。
だが、金剛は躊躇なく進んだ。むしろ、自分から砲撃の前に躍り出るような愚かな行動。古鷹がそう思うのも無理はない。
だからだろう、武蔵がニヤリと笑ったのは見えていない。
「Burning Looove!」
響き渡る掛け声と同時に、金剛はその砲撃を
わざと武蔵の砲撃の前に身を晒したのはこのため。最初から、武蔵は古鷹を狙っていたわけではない。金剛が砲撃の方向を盾によって曲げる戦術を、古鷹に簡単にバレることなく実行に移すためだった。
武蔵は演習終わりにサラトガに対して、金剛は何処か
金剛は
だからこそ、金剛はこんな非常識な戦術の訓練にも快諾し、たった1日でモノにしている。武蔵もそれには驚くしかなかった。深海合金に改装されたそのシールドだからと言っても、武蔵の砲撃を受け止められるかどうかは一度も試していないのに、出来ると信じて訓練に勤しんだのは、やはり何処か壊れているとしか言えない。
「なっ……」
来ると思っていなかった砲撃が自分へと向かってくることに、ついに驚愕の声を漏らした。ほとんど不意打ちのようなものではあるが、それはただの想定外の攻撃。何も文句が言えない、正統派で致命的にネジの外れた渾身の一撃。
故に、古鷹も咄嗟に出せる限りの全力を出した。今まで以上に速く強く身体を捻り、その砲撃を無力化しようと尻尾を振るう。頑丈さだけで言えば、金剛の盾と同等かそれ以上。それが砲撃を跳ね返せるのだから、この尻尾でも跳ね返すことは出来る。
「無茶苦茶、しますね……!」
そして、そこに全ての思考を注ぐことで成功させる。武蔵が放ち、金剛が捻じ曲げた砲撃は、古鷹の尻尾によりあらぬ方向へとさらに捻じ曲げられ、ダメージを与えるには至らなかった。
だが同時に、比叡が金剛を飛び越えるような形で前に出ていた。
「まだまだぁ!」
「届かせませんよ、その程度は」
比叡の射程は刀剣であるがために短い。少し下がるだけでその斬撃の範囲から逃がれられる。全力で砲撃を打ち払った後の隙を見せることなく、むしろ真下に魚雷を放った衝撃すら利用してさらに離れる。
攻防一体となるその雷撃により、比叡の猛進を食い止め、間合いを取る。咄嗟にしては最善の一手。
だが、金剛の盾は、まだ輝く。
「比叡! 行って!」
「了解ですお姉さまぁ!」
ここで比叡は、金剛の盾を壁代わりにして踏み台とした。そのタイミングを完璧に合わせて、金剛が全力で押し出す。
それはまるでバネのように比叡に驚異的な押し出す力を発揮し、古鷹のバックステップよりも速く比叡を撃ち出した。
「どりゃあああっ!」
一閃。その斬撃は、確実に古鷹の胴を斬り裂く。
はずだった。
「まだやられはしませんよ……!」
古鷹の右腕がガチガチの装甲に包まれ、その斬撃を完全に防いでいた。
今までは重巡ネ級のような尻尾の艤装のみを使って戦っていた古鷹の、
斬撃を受け止めたわけではなく、滑らせるようにガードしたことによって、完全に無傷でその一撃を喰らわずに終わらせていた。
「ほう、それが貴様の本気か」
間髪入れずに武蔵が砲撃を放つ。今なら金剛も比叡も古鷹から離れているため、砲撃に何の躊躇も無い。
「ええ、こちらはあまり出したくないんですがね!」
対する古鷹は、艤装に包まれた腕を武蔵に突きつけるように伸ばした。その瞬間、武蔵に匹敵するであろう砲撃がそこから放たれる。海を割るかのような砲撃の応酬はその場でぶつかり合い、ちょうど中間と言える場所で爆発した。
「なるほど、なるほど。その姿から重巡ネ級だと思っていたが、貴様は重巡ではないな。
今の古鷹の見た目は艦娘の時から変わらず重巡洋艦だろう。しかし、やれることがあまりにも幅が広い。それも混ぜ合わされた艦娘達の力を最大限に発揮しているからだろうと考えられていたが、そもそも古鷹は艦種そのものが変化している。武蔵はそこに気付いた。
尻尾の艤装の形状も、今古鷹が身に纏っている衣装も、その全てが重巡ネ級。しかし、実際はネ級と違う場所があった。本来のネ級の艤装は
尻から艤装が生えている深海棲艦はそれなりにいるし、艦娘から深海棲艦へと成り果てた存在であるために、艤装の位置などに多少の差異があってもおかしくはない。
「ええ。私には戦艦が混じっています」
「だろうな。混ざった結果、貴様はネ級ではなくレ級に成り果てたか。その戦艦が手練れだったのか?」
「そうですよ。誰が混じっているか教えておきましょうか?」
改めて尻尾を振り回して、全員と間合いを取る。
「貴様に混じっている艦娘に見当はいくつかついている。基本は重巡洋艦だろう。最上と鈴谷だな」
ここは大将の憶測。しかし、その思いに至るものはいくつかある。雷撃が得意な重巡洋艦となると、改装により甲標的まで扱えるようになる最上。艦載機も扱える重巡洋艦となると、改装により軽空母となれる鈴谷。
しかし、それだけでここまでの力を得るとは思えなかった。そしてあの龍驤の存在だ。軽空母なのに主砲や魚雷まで当たり前のように使うことを考えれば、艦種など関係ない。白露という前例だけならばそこに繋がらなかったが、この場で繋がる。
「ご名答です。ですが、1つ足りません」
「それがその戦艦とやらか」
「ええ」
もう見下すような笑みはない。格下とすら見ていない。
「私の最後の1つのピースは、戦艦榛名です」