魂の混成が行なわれた古鷹に混じり合った艦娘の正体が発覚した。含められていたのは古鷹を除いて3人。内2人は武蔵の口から語られた大将の憶測であり、改装によって甲標的が扱えるようになる最上と、改装により軽空母へと姿を変えることが出来る鈴谷。ここは正解であったが、もう1人は想定外の名前。
「榛名が……貴女の中に?」
「はい。貴女の妹さんですよね。金剛さん、比叡さん」
笑みはもう浮かべておらず、その感情の荒ぶりを表すように片目がビカビカと輝いている古鷹は、当てつけのように金剛に言い放った。
戦艦榛名。金剛型高速戦艦の3番艦である。古鷹は戦艦が混ぜ込まれたことにより、見た目は重巡洋艦ではあるのだが、戦艦の力を持ち合わせていた。
結果、模倣していた深海棲艦も重巡ネ級ではなく戦艦レ級。強大な力を持つ、最強最悪のイロハ級である。古鷹は、艦種すら塗り替えられていた。
「そう、デスカ。榛名が……」
それを聞いて、金剛は自然と眉を顰める。侵略者の中に自分の妹が混ぜ込まれているという感情は、今までに感じたことのないくらいの複雑なモノだった。何と言っていいのかわからない。悲しむべきなのか、怒るべきなのか。ただ、何も感じない程薄情ではない。
比叡も同様だった。だが、こちらはどちらかと言えば怒りの方が強い。何もしない金剛の手前、自分が暴走するわけにはいかない。歯を食いしばるように耐え、怒りを抑え込む。
「ならば、その魂を鎮めるために戦いマス。そんなカタチで使われるなんて、榛名も苦痛でしょうからネ」
「はい! 比叡も賛成です!」
あくまでも冷静に、だが心を燃やして、改めて古鷹を見据える。その金剛の瞳は、心すら見透かすかのような澄んだ瞳。武蔵が言ったように、何があっても絶対に折れない者の目だ。
対する古鷹は面白くない。笑みはやめたものの、妹が自分の中に含まれているのだという発言で、多少は動揺してもらいたかった。
だが、そういう精神状態であることが確認出来たため、本気を出したのは正解であると確信もした。舌戦で優位に立つことは不可能であることを理解し、その力量により優位に立つことに努める。絶望は、精神ではなく肉体で教え込むことだって出来る。
「と、いうことだ。折れないだろう、その姉妹は」
「嫌というほどにわからされましたよ。なら、もう何も話すことは無いでしょう。ここからは、出したくもない本気を出させてもらいます」
そう言った瞬間に、尻尾の艤装から溢れんばかりの艦載機が発艦。尋常ではない数が夜空を埋めていく。
それと同時に、右腕に生成した本来の艤装を武蔵に向け、さらには金剛と比叡には魚雷を放つ。
「いいだろう、好きにするがいい! だが、我々も正々堂々と手段を選ばん!」
「何を突然」
「戦艦に制空権を求めるな! それならば一方的にやれるとでも思ったのだろうが、こちらにも
今まで姿を現さなかったサラトガが、この戦場にぬるりと現れる。夜の闇に紛れるような黒い制服で、トミーガンのような形状の甲板を構え、古鷹から発艦された艦載機に向けて、同様に艦載機を発艦させた。
千歳と千代田が扱うモノと同様のそれは、数では古鷹のそれに劣っているものの、性能は充分に争えるほどのものを持っている。
「制空権はサラの子達が抑えます。皆さん、空は気にせず!」
「流石はサラだ。金剛、比叡、変わらず行けぇ!」
武蔵は変わらず主砲を構え、あくまでも金剛と比叡のサポートに回る構え。近接戦闘が出来ないとは言わないが、この戦いのメインはあの2人なのだから、基本的には邪魔立てなどしないと裏方に回る覚悟でいた。
鎮守府の防衛なのだから、この鎮守府の艦娘が前に出るのは当然である。武蔵の中ではそれが先立っていたが、今の古鷹を構築するパーツに榛名が使われていると知った今、尚のこと2人に決着をつけさせたいと考えた。
榛名の思考、記憶、
幸いにも、金剛も比叡も後ろ向きな感情は1ミリも出てきていない。むしろ、榛名がそこにいるというのが原動力にすらなっていた。折れない心はより強く、燃える心はより熱く、ここで古鷹を終わらせるつもりで、より前に出る。
「貴女の中に榛名が在ると言うのなら、私達がその蛮行を終わらせなければなりまセン!」
「いないとしてもぉ! この比叡の刃でぇ! ぶった斬りまぁす!」
戦法は何も変わらない。金剛が盾を、比叡が刀剣を使い、真正面からぶつかる。
その進路を塞ぐ雷撃は軽々と飛び越え、横にも後ろにも行かない。前へ、もっと前へと突き進む。
「貴女方を格下として見るのは、もうおしまいです。艦娘にもこういう輩がいるのだと、嫌と言うほどに理解させられました。今までは歯応えのない者達ばかりでしたが、貴女達は違う。全身全霊をかけて、ここで死んでもらいましょう」
ならばと、雷撃に砲撃も加えて金剛と比叡を食い止める。武蔵からの砲撃は完全に無視。当たらないように避けるのみで、視線は近い2人へと完全に移行した。
武蔵の放つ砲撃は、火力こそ最強クラスではあるものの、装填やら何やらで連射が簡単には出来ない。そのため、最高の瞬間を狙った一撃を的確に放つ必要がある。しかし、本気を出した古鷹は、それを見ることなく避けた。
「貴女方だけでも私には負けないと、あのヒトは言っていましたね。では、本当にそうなのか試してみましょう。私の全てを、貴女達にぶつけます」
もう手も抜かないと宣言した。今の古鷹の、侵略者としての本気がここで発揮される。慢心を消し、余裕を無くし、持てる力を全て使い、金剛と比叡を叩き潰すと、片目の輝きはより強くなった。
「だから、ここで終わってください。本当に、本当に、貴女達は障害にしかならない!」
艤装に包まれた右腕を突き出し、同時に砲撃を放つ。その威力は突き出した勢いも加えられたより強いものへと昇華する。
「いいでショウ。ならば私達は!」
「それを受け止めぇ! 眠らせてあげまぁす!」
その砲撃は、先陣を切る比叡が速度を緩めることなく叩き斬った。
もう当たり前のように刀剣を攻防一体に扱えるのは、深海合金を組み込まれたおかげだろう。以前ならば数回斬り払った時点で刀剣が使い物にならなくなっていたが、今はこれほどに酷使しても刃毀れ1つしていない。
同様に、金剛の盾もである。武蔵の砲撃を弾き飛ばしても、凹んですらいなかった。大将は試作兵装と言っていたが、ここに持ってこられたのは完成品と言っても過言ではない。コストがとんでもないために量産は出来ないが、この戦果は後に繋がることになるはずだ。
「相変わらずめちゃくちゃですね!」
「アンタに言われたくはぁ、なぁい!」
比叡の射程に入った。もう真正面からの攻撃は回避すらしない。超至近距離の雷撃は自分すらも巻き込むため、この距離に詰められたら砲撃か徒手空拳以外の選択肢が無くなる。
古鷹は格闘に自信があるようなものではない。並よりは使えるという程度であり、それも魂の混成ありき。
「離れなさい!」
「断るっ!」
どうにかして間合いを取ろうと放ったゼロ距離の砲撃を、比叡は衝撃を受けつつも紙一重で躱した。そしてさらに前へ。
先程はその艤装によって阻まれたが、今度はそうはいかないと、砲撃を放った瞬間に狙いを定めて胴を一文字に斬り払う。
だが、そちらには尻尾の艤装が対応。先端がバケモノの頭のようになっているため、その斬撃を噛むように刀剣に噛み付く。
「ぐっ!」
「このまま噛み砕く!」
そして、その顎の力を使って刀剣を破壊しようとしつつ、右腕の艤装で比叡を殴りつけた。
ただの拳で殴るならまだしも、あちらも強固な艤装。しかも腕を包み込むほどの塊だ。適当に当たっただけでもダメージが大きいのに、それが見事に顔面に食い込む。
「ぎっ!?」
「なんて頑丈な……でも、本体を先にやってしまえば……!」
「させると思ってるんデスカ?」
比叡とは逆側に金剛が移動していた。比叡の頑丈さと気合を信じ、古鷹を確実に倒すために盾を押し出す。
盾は守るためだけにあらず、これこそ攻防一体の兵装。先程も構えながらの突撃を繰り出したが、それは武蔵の砲撃を弾くために前に出たようなもの。だが、今回はそれすらもなく、ただただそれで押し潰すために前に前にと突撃。
「こちらも……!」
比叡を殴っている余裕などない。金剛のこの質量兵器に押し潰されたら、いくら強靭な肉体であろうがひとたまりもない。
故に、尻尾で比叡の刀剣を押さえつつ、身体を捻りながら右腕でその突撃を強引に食い止めた。砲撃も同時に繰り出したことにより、金剛の勢いを押さえ込む。本来なら盾ごと金剛を沈めることが出来ていただろうが、ゼロ距離で受けても盾は壊れない。勢いが失われた程度。
「比叡! 気合、入れてぇ!」
「行きまぁす!」
艤装に噛まれている刀剣を
あくまでも刀剣は主兵装として扱っているに過ぎない。比叡は本来、戦艦である。武蔵には及ばないが、重巡洋艦を優に超える威力を持つ主砲だって扱えるのだ。
刀剣に思考を向けさせ、金剛に右腕を使わせて、ここで本来の戦艦としての力を発揮する。今ここで放てば、古鷹だけでなく金剛にも、むしろ比叡にも被害が出るだろう。しかし、そんなことを躊躇している余裕はない。
「こんな、近くで……!」
「当たれぇ!」
そして、その主砲はガラ空きとなった胴に狙いが定められた。今ここで古鷹が躊躇わずに尻尾の艤装から砲撃をしていれば、また違った結末になっていたかもしれない。
しかし、ここで古鷹がとった行動は、あまりにも想定外だった。
「
その声色は、その瞬間だけは、古鷹の中に入っているであろう
榛名の魂が使われているという事前情報があるからこそ、この言葉、この声色に真実味が出てきてしまっていた。
実際に榛名の記憶、榛名の思考が残されているかはわからない。白露という前例があり、それだと思考も記憶も全てを残していてもおかしくはない。
古鷹は、最低最悪の一手を放った。泥に侵された魂が選び取った、人類の敵と言える思考回路の選択。
「なっ……」
ほんの少しだけ、比叡は撃つのを躊躇ってしまった。姿形は違う。全く違う。なのに、その声だけで主砲の狙いもブレてしまう。
「姉妹が中に入っているというのは、こういうカタチで役に立つんですね。白露さんに学ばせてもらいましたよ」
そのほんの少しの躊躇が命取り。ここで改めて刀剣を食い止めていた尻尾の艤装が強引に動き回り、さらに比叡の体勢を崩した。もうこうなってしまっては、砲撃しても古鷹には当たらないだろうし、刀剣もまともに扱えない。
だが、この一手は、
「それはダメ。本当にダメ」
盾が開いたかと思った瞬間、猛烈な勢いで金剛の腕が古鷹の顔面を掴んだ。
「榛名の真似をしたよネ。わざわざ、私達に一番効くからって考えて」
その目は一切笑っていない。古鷹の頭をギリギリと締め付けながら、徐々にその身体を持ち上げていく。
あまりのことで、古鷹は金剛を撃つことも出来なかった。こめかみに走る激痛と、格下と思っていた艦娘からのこの攻撃に、動揺が隠しきれていなかった。
「妹の魂を冒涜するな」
金剛はキレていた。かつて、『鬼金剛』と呼ばれていた頃のそれを、表に出しているかのようだった。