空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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駆逐艦達の意地

 時は少し遡る。古鷹がまだ榛名が混じっていることを暴露する前。

 

 新たな敵、龍驤と戦うのは駆逐艦達。軽空母である龍驤の航空戦は、同じように夜戦が出来るようになった千歳と千代田がどうにか食い止め、残された白露型と島風によって本体を叩く。

 しかし、龍驤も魂の混成がされた深海棲艦であり、艦載機を飛ばしながらも当たり前のように砲撃と雷撃を繰り出してきていた。さらには、仲間達との連携で背後を取ったはずの島風の砲撃は見ることなく避けられた挙句、お返しと言わんばかりに格闘によるダメージを負うことになった。

 見た目は小柄で駆逐艦のような外見であっても、持っている力は尋常ではなかった。ただ強いだけではなく、万能。この一言に尽きる。

 

「島風、大丈夫かい!」

 

 涼風が声をかけるが、大丈夫だと表すように手を挙げる。腹を思い切り蹴られてしまったものの、骨まではやられておらず、ただただ強い衝撃を受けただけにすぎない。

 それだけ龍驤は駆逐艦達のことを下に見ていた。余裕しかない表情で、まだまだ疲れすら見えない。古鷹にあったスタミナという懸念点を持っていないようにも見える。

 

「うちが手ぇ抜いてやったから死なんで済んだんや。もうちょい楽しませてくれんか」

「……そういう慢心は、足を掬われる」

 

 一部始終を見ていた山風が、心底忌々しげに呟いた。涼風と五月雨、そして島風が大きく動きながら龍驤の行動パターンを確認し続けたのだが、やはり隙は無かった。

 

 雑に攻撃しているように見せかけて、その実、恐ろしく精度の高い攻撃。乱射のようで、的確にこちらの隙を作るためにわざと外していたに過ぎない。それ故に、弾薬燃料もかなり節約されていた。まるでこちらが長期戦を狙っているのを把握しているような長期戦狙い。

 そうなると、実力が上の方がより長い時間戦うことが出来るようになる。今の段階では、龍驤の方が圧倒的に上。

 

「残念ながら、お前らみたいな駆逐艦(ジャリ)に掬われる足は持ち合わせとらんねん。それに、掬う力も無い奴が言うたらアカン。束になっても、うちの足はビクともせんぞ」

 

 言いながらクルリと一回転すると同時に全方位に魚雷を放つ。回避方向まで見越した雷撃を避けるには、それ自体を破壊するしか無い。さらには、今古鷹との戦いの真っ最中である金剛達の方にまで流れていってしまっているため、それは特に対処が必要。

 

「あっちの魚雷はあたいが片付ける!」

 

 それに即反応したのは涼風だ。戦場の全てが見えているというだけあり、龍驤が放った瞬間に自分の目の前にある魚雷を片付けて、別の戦場へ向かう魚雷を破壊するために行動する。

 他の者達は、自分に向かってくる魚雷を即破壊し、龍驤への攻撃を優先した。涼風なら魚雷の破壊も任せることが出来る。そう信じているために、何の躊躇いもなく行動に移すことが出来た。

 

 回避方向がそれしか無い状態にされたのだから仕方ないのだが、その魚雷は明らかに火薬量が多く、破壊した瞬間の爆発が通常よりも大きい。つまり、水柱がかなり大きく立つことになる。

 

「っ……涼風、気をつけて! 全員動いてぇ!」

 

 何かに気付いた五月雨が叫んだ。その瞬間、涼風のいる方向から爆音が鳴り響いた。

 

 この水柱は明らかに目眩しである。破壊しなくてはいけない場所に放ったことで、次の一手へと繋いだ。

 龍驤からしたら、今ここにいる者の中で最も鬱陶しいのは涼風だ。今まで手を抜いているとはいえ必勝パターンのような流れを簡単に突破するような者は、早々にいなくなってもらいたいということだろう。

 

「邪魔すんじゃあないよ!」

 

 爆音に紛れて涼風の声も響く。水柱で視界を塞がれても、新兵器の電探のおかげで、龍驤の次の行動は多少なり把握は出来ている。()()()()()()()()()()()()()()()()くらい想定済み。

 

 しかし、その精度が普通ではない。龍驤だって水柱で視界が塞がれているはずなのに、さも当然のように涼風を狙い撃った。回避しなければ直撃するような場所を。

 真後ろから見ずに島風の攻撃を避けたように、そもそも目に頼ることなく周囲を見渡すことが出来ているのではないか。それこそ、今の涼風と同じように。

 

「っぶね!」

「おう、避けるんやな。やるやんけっ!」

 

 その砲撃はどうにか避けることが出来た涼風だが、辛うじてだったせいで腕に掠めてしまった。傷と言える傷ではないために問題は無いものの、その一瞬は大きな隙となる。

 そこを狙って、龍驤は恐ろしい速さで涼風に接近していた。他はもうどうでもよく、真っ先に始末する必要があると考え、砲撃に追い付くのではと思える程の速さを発揮していた。

 

「はっや!?」

「魚雷を処理したのは褒めたる。でもな、時には仲間を見捨てることも必要なんとちゃうか。そのせいで、お前はここで終わるんやからなぁ!」

 

 ここでまたもや格闘。雷撃を避け、砲撃を避けたところにとなると、それすらも回避するのはかなり難しい。ましてや、駆逐艦達に格闘の心得なんてあるわけもなく、()()()()にぶつかってこられたらどうにもならない。

 龍驤も素人ではない。先程の島風に対しての蹴りは、まだ殺す気が無かったので手を抜いていただけだ。本気で蹴り飛ばしたら、涼風はまず間違いなく再起不能になる。鎮守府近海であり、入渠がすぐに出来るとはいえ、一撃で致命傷にされたら意味がない。

 

「うちの蹴りで真っ二つにしたらぁ!」

 

 瞬時に予測は出来たとしても、そこから回避に転じるための行動には即座に繋がらない。どうしても隙が生まれる。その瞬間を狙われてしまった。

 回避は出来ないため、どうにかダメージを最小限に抑えなくてはいけない。しかし、駆逐艦の艤装は小さく、身体そのものも小さい。ガードしきれるようには思えなかった。

 腹を蹴られたら、その言葉通りになってしまいかねないため、犠牲にするなら腕。それでも主砲が持てないくらいにはされるだろう。だが、背に腹はかえられない。死ぬよりはマシ。

 

「涼風ぇ!」

 

 その瞬間。激しい衝突音と共に、龍驤の姿が涼風の前から消えた。

 

 涼風の危機を救ったのは、限界以上の速度を出した島風。水柱で周囲が見えなくなったところで、最後に見えた龍驤の姿から涼風を狙うのでは無いかという予想はついていた。

 だが、島風は裏に回っていた都合上、撃とうとするとその直線上に涼風本人がいた。回避されたら涼風を余計に傷つけてしまう可能性がある。

 そう考えた瞬間、身体が勝手に動いていた。涼風を救うにはこれしか無いと、爆発的な踏み込みと共に龍驤へ突撃。他の者を傷付けず、()()()()()()()()()()()()()最善の手段を選択した。

 

 ほとんど無意識ではあったが、仲間のために尽力するという島風の気持ちが、限界を超えた力を発揮した。

 

「うおっ!? どっから来た!」

 

 それだけのことをしても、龍驤は吹っ飛ばされたことで涼風を蹴り飛ばせなかったくらいでノーダメージ。島風も大きなダメージでは無いものの、あまりにも咄嗟のことだったために脚を痛めてしまった。

 

「お前かい島風! お前は二度と疾んな!」

 

 すかさず主砲でフラつく島風の脚を撃ち抜く。

 

「っあああっ!」

 

 ギリギリのところで回避したために脚を失うことは無かったものの、強めに掠めてしまったために肉を削がれるようなカタチになってしまい、まともに立ち上がれなくなってしまう。これでは完全な足手纏いになってしまうだろう。自慢のスピードも出せず、浮き砲台くらいしか出来ない。

 しかし、島風はそれを悲観していない。あのままでは涼風が確実に始末されていた。それをどうにか出来たのは喜ばしいこと。自分は死んでいないのだから、この程度の怪我など安いものだ。

 昔の自分ならスピードを奪われて錯乱していただろうと思いつつ、痛みに耐えながら笑みを浮かべる。まだ余裕があるのだと見せつけ、自分を囮に使う。

 

「何わろてんねん。先に始末したろか」

「へっ、出来るものならやってみなよ。私には仲間がいるんだから、簡単には出来ないよ」

 

 強がりなのは誰にだってわかる。しかし、この島風の言葉は、ここにいる者全てを鼓舞した。

 

「そうです。島風ちゃんはやられません。私達がいますから!」

 

 そこに割り込んだのは五月雨。水柱が無くなったことで視界が開けたため、島風を守るために龍驤の前に立つ。

 

「ほーん、お前らの中では島風と涼風くらいしか腕のあるのはおらんと思うんやけど、自信満々やんけ。慢心ちゃうか?」

「好きなように言ってくれていいです。でも、事実ですから」

 

 五月雨の後ろ。そこから飛び出すように現れたのは江風。マントを棚引かせて、その目を輝かせながら、一番近付けるタイミングを狙っていた。

 残された駆逐艦の中で最も近接戦闘を学んだのは江風だ。先程までは乱射によって近付くことが出来なかったが、ここまで来たら行ける。

 

駆逐艦(ジャリ)がうちに殴りかかろうって言うんか」

「テメェらがこういうことばっかやってくるから、江風が特訓したンだよ!」

 

 そして主砲を()()()()()、砲撃を放ちながら殴る。砲撃は当然空砲であり、後ろに被害が出ないように考慮済み。その衝撃も込みで、ただの駆逐艦では出せない威力の拳が繰り出される。

 無論江風にもその反動があり、一撃を繰り出すごとに腕が壊れていくことになる。しかし、その回数を増やせるように筋トレなどを繰り返し、この戦場でも何度か使えるようにはしていた。

 

「うおっ、マジかコイツ。んなことようやろう考えるわ」

 

 しかし、諸刃の剣を振っても龍驤は軽々キャッチ。片手で受け止めたかと思えば、お返しと言わんばかりに逆の手で江風の顔面を殴り飛ばす。

 その速さは並ではなく、さらには顎を狙ってきたために、直撃で脳を揺らされた。

 

「かふっ……!?」

「わざわざ同じ土俵に立ってやったんやで? 感謝しぃや!」

「でも、私にも近い!」

 

 そこへさらに五月雨が懐に入り、その腹に主砲を構えていた。この位置から撃てば、防ぐことも出来ずに腹に風穴が空く。ゼロ距離を通り越してビタ付けのようなものだ。絶対に回避出来ない。

 

「させるかい! ダボがぁ!」

 

 しかし、トリガーを引く前に強烈な蹴りが五月雨の腹に食い込んでいた。よりによって爪先が捩じ込まれ、内臓を傷付ける程の衝撃を受ける羽目に。力も抜けて、砲撃は不発に。

 

「っあっ!?」

「わちゃわちゃわちゃわちゃと、いい加減離れやぁ!」

「うるせぇ! ここでアンタは始末しないとダメなんだよぉ!」

 

 次は涼風。正面から江風と五月雨が猛攻を繰り広げた隙に、真後ろに回り込んで抱きつくように首を絞める。いわゆるチョークスリーパーのカタチに持ち込んだ。

 幸いなことに、龍驤は背部に大型の艤装は持ち合わせておらず、こういうことが可能。邪魔なものは腰に接続された基部だが、その程度なら何も問題にはならない。

 

「ぐがっ、お前、何してくれんねん!」

 

 しかし、江風を殴り飛ばした腕をそのまま下げ、その肘を涼風の腹に捩じ込んだ。その威力も相当なもので、首に回した拘束が弛んでしまう程。

 

「くはっ!?」

「言うたやろ! 駆逐艦(ジャリ)が束になろうが、うちはやられんってなぁ!」

「そんなこと知らない」

 

 ここまで来て、真打ちと言わんばかりに山風が主砲を放った。3人の姉妹が龍驤に纏わりついているような状態でも構わず、その誰にも当たらないであろう頭に向けて。

 感情の機微に敏感な山風は、とにかくヒトを見る目だけは他の追随を許さない程である。そこから伸ばされたのが、このスナイプ。寸分違わぬ一点を綺麗に撃ち抜くために、心血を注いできた。

 

 最終的にこういうことになるだろうと予測した提督の指示。誰かが最高のスナイパーになることは決定付けられていたが、それを山風が自分から引き受けた。

 まだ成長途中であるため、今回の砲撃には少しだけ躊躇いはあった。だが、今やらなければ意味がないと、決死の覚悟で撃つ。

 

「うおっ!?」

 

 しかし、やはり心の奥底では抵抗があったのだろう。僅かに軌道は上に逸れ、小さくしゃがまれたことによって回避されてしまう。

 

「やってくれるなぁ山風ぇ!」

 

 涼風の顔面を殴りつけて引き剥がし、江風も振り払う。そして五月雨と島風を蹴り飛ばした後、山風を睨み付けた。

 だが、明確な殺意をぶつけられても山風は怯まない。むしろ、同じように睨みつけ、主砲を構え直す。

 

「お前が先に死にたいんか。そうかそうか。ならお望み通りに……っ!?」

 

 龍驤の言葉が途切れる。そして視線がゆっくりと下に。

 

 その腹には、魚雷が深々と突き刺さっていた。

 

 

 

 

「あー、やっぱりダイレクトにぶつけたらちゃんと爆発してくれないかー。結構いい手だと思ったんだけど」

「魚雷は海中を走らせてこそ、ですよ。妖精さんが混乱しちゃってます」

「だよねー。普通の使い方してないから、誤作動みたいなのしちゃったかな」

 

 そして現れたのは、北上と大井。言葉は軽いが、目は一切笑っていない。

 

「でも、殺さずに痛めつけられるってことじゃん。これは都合がいいかもね」

「またそんなことを……北上さんがもう少し早く来ていれば、あの子達がここまで傷付くことも」

「アイツらの鎮守府なんだから、アイツらが守らにゃダメでしょ。本来あたしは手を出すつもりも無かったよ」

 

 そんなことを言いながらも、やる気満々。小さく息を吐いた後、龍驤を見据える。

 

 

 

 

「まぁ、美味しいとこ貰っちゃうようで悪いんだけど、あたし達もここから参戦するわ。アイツ、ぶちのめしてあげようか」

 

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