空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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謎の潜水艦

 仲間達の力を合わせて、龍驤を追い込むことに成功した。しかし、いざトドメというタイミングで突如、海中から魚雷が放たれた。

 その爆発に巻き込まれないように一時的に龍驤から間合いを取り、誰も被害を受ける事はなかったが、その爆発が止んだ時には、龍驤の側には今まで戦場にいなかった深海棲艦が立っていた。

 

「誰……あれ……」

 

 山風がボソリと呟く。龍驤を救うように現れたのだから、ただの深海棲艦ではないというのは誰にでもわかること。しかし、それは誰も見たことがない姿をしていた。

 

 海中から現れたため、その姿は明らかに潜水艦だ。主砲などは持たず、恐ろしく身軽。魚雷発射管のような装備すら見当たらないのは、艦娘の一部の潜水艦にもある特徴。おそらく自分の力で作り上げているであろう服も、艦娘が扱うスクール水着とは違う随分と切れ込みの深いハイレグ競泳水着であるために、()()()()()()というわけでは無さそうである。

 深海棲艦の潜水艦特有のシュノーケルのようなパーツが顔の半分を埋めているせいでその表情は読み取れない。そしてそれを除いたとしても、その顔は知り得る限りの潜水艦娘とは違う顔をしていた。見覚えがあるようでない。何にも当てはまるし、何にも当てはまらない。故に、それが誰なのかがさっぱりわからない。

 

「古鷹さんはもうダメ。助からない」

 

 ボソリと龍驤に呟く謎の潜水艦。視線をそちらに向けると、金剛が比叡の刀剣を使って古鷹を袈裟斬りにした後だった。確実な致命傷であり、如何に回復能力が強力な深海棲艦といえど、あれは無理だと断じることが出来るレベル。

 龍驤は少なからず驚いていたが、やられてしまったものは仕方ないと即座に割り切る。救う必要も無いと切り捨てたとも考えられる。

 

 見たこともないような金剛の表情に、自然と震えてしまう駆逐艦達だが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

「龍驤さんはまだ助かる。撤退」

「ちっ……まぁええ。うちも散々や。古鷹があかんくなったなら、うちくらいちゃんと戻らへんと迷惑かけることになるやろな」

「ん」

 

 その潜水艦は立ち上がることが出来ない龍驤の首根っこを掴み上げた。そのまま曳航して帰る気らしい。

 

「乱暴にすんなや」

「負けておいて文句言わない」

 

 龍驤に文句を言われても素知らぬ顔で返す潜水艦。2人は仲がいいのか悪いのかもわからないが、少なくとも仲間同士であることは確実。

 

「ちょいと待ってくれないかね。勝手に割り込んできて撤退とか、はいそうですかとは流石に言えないでしょ」

 

 そんな2人のやり取りに、北上が口を出す。当然、ここまで追い込んだのに逃がそうだなんて思ってはいない。ここで逃がしたら、確実に後々面倒なことになる。

 しかしその潜水艦はちらりと北上の姿を見るだけ。その言葉に対して返答は無い。北上や他の者達のことを格下として見ているようには見えないものの、むしろ()()()()()()()くらいにしか考えていなそうな表情。それは充分に格下として見ているに値しそうではあるが。

 

「そもそも、アンタ何者なのさ。こっちはそいつに勝ったんだ。それくらい特典くれても損は無いと思うんだけど?」

 

 そう言われても感情の無い瞳を向けているだけ。返答はやはり無い。

 

「……アンタもしかして……()()()()()()()()()()()()()?」

 

 思いついたことを適当に言葉にした。春雨のような直感が働けば確実性が持てるのだが、現れたばかりの深海棲艦の素性なんてすぐに思いつくようなことなんて無いだろう。

 実際、施設からの連絡によって潜水艦が仕留められているのは聞いている。今目の前にいる謎の潜水艦がその結果であろうと考えるのは容易。しかし、それが誰なのかが本当に見当がつかなかった。

 そこから思いついたのが、()()()()()()()()()()()()()()()()というパターン。しかし、根幹に泥があるため、あちら側に与している。何もわからないけど本能的に侵略者気質であり、同類である龍驤には仲間意識を持っているということになるか。

 

 直感ではなく、過去の情報と現状から鑑みた解答である。それが正解かはさておき、妥当性から導き出したモノである。

 

「早よ帰った方がええ。お前はまだどっか不安定やからな。アイツらの言葉に耳貸すな」

「ん」

 

 龍驤の言うことはちゃんと聞き、何をするでもなく、龍驤を引っ張って戦場から撤退しようとする。

 それをただ見届ける程優しくない。逃がすわけにはいかないと、まだダメージが少ない山風と涼風が動き出す。特に山風は体力を消耗している程度で無傷だ。大井は怪我を負った北上から離れるわけにはいかないと、2人に任せた。

 

「逃がすかっての! 山風姉!」

「わかってる。あたしも、逃がすつもりはない」

 

 潜水艦といえど、今は海上に上がってきている。ならば、爆雷ではなく主砲でも充分通用する。

 むしろ、潜水艦もだが龍驤を生かして帰してはいけない。ここまで追い詰めたのだから、ここで終わりにしないと後々確実に厄介なことになる。今回で鎮守府側の手段をほぼ全て見せつけてしまっているため、対策だって取られるだろう。そうなると、根本的な実力差で勝ち目がまた薄くなる。

 この戦いでここまで持っていけたのはチャンスなのだ。それをどうにか手元に置いておかなくては。

 

「もっかいだ!」

 

 先程龍驤にやったように、涼風が魚雷を投擲。狙いは曳航されようとしている龍驤の顔面である。そしてすぐさま山風も主砲を構え、その魚雷を撃ち抜こうと準備する。

 しかし、今回は謎の潜水艦もいる。龍驤は相当消耗しているが、潜水艦は一切無傷で消耗も見えない。

 

「だめ」

 

 見様見真似か、謎の潜水艦も涼風のように魚雷を投擲。それが見事にぶつかり合ってしまい、山風が撃ち抜くまでもなく空中で爆散した。

 潜水艦の魚雷は、海上艦が扱う魚雷よりも火力が高いモノが多い。それが深海棲艦のモノとなれば尚更だ。予想以上の爆発が発生してしまい、それだけで龍驤と潜水艦の姿が見えなくなってしまう。

 

「煙を晴らすよ」

 

 これではまずいと、山風が機転を利かせて主砲を連射。爆炎を撃つことにより、その煙をすぐに晴らした。撃つ方向が撃つ方向なので、そこにいたままならば敵の2人に掠めるくらいはしてくれる。

 

 しかし、煙が晴れた時には、そこには誰もいなかった。今は夜であるというのもあり、潜水艦の気配は全くわからなくなる。

 

「逃げやがった。曳航してんのにめちゃくちゃ速かったよあの潜水艦」

 

 戦場の全てを見通せる涼風がそういうのだから、もう追いつけない場所にまで行ってしまっているのだろう。ただでさえ今は夜なのだ。その場所はわかっても目視は出来ない。文字通り、闇に消えていってしまった。

 

「……逃がしちゃった」

 

 ここまでやってコレかと、山風が少し落ち込む。

 

「いやいや、アンタ達は充分やってるよ。痛た……まぁ誰も死んでないなら充分さ。今はさっさと鎮守府に戻る方がいいね」

 

 怪我人は多い。戦いが終わったのだから、早々に事後処理が必要。 ここにいる者でも、北上や江風はダメージが大きい。すぐにでも入渠しなくてはならないだろう。先んじて曳航されていった島風も、今頃はもう入渠しているはずだ。

 

「あの潜水艦の動向が気になりますしね。今まで何処にいたのか……涼風はいつからわかったの?」

「あたいが気付いたのは魚雷が向かってきてることだけなんだよね。だから咄嗟に叫んだけど、本体が何処にいたのかはマジでわかんなくて」

「隠密行動……よね。夜の潜水艦なんて、下手に隠れられると本当に何処にいるかわからなくなるし」

 

 今まで何処で何をやっていたかはわからないが、この戦場に出てきたということは、身を隠す必要が無くなったということに外ならない。つまり、やるべきことをやったわけだ。

 

「……まさか、鎮守府に何か……」

「かもしれないね。さっさと帰るのが吉でしょ。あー、でも向こうのことも気になるか。古鷹は斃したみたいだし」

 

 遠目に見ても、古鷹を撃破したことは見えている。鎮守府も心配だが、もう1つの戦場も心配。むしろ、この戦場を維持するために深海棲艦の群れを相手取ってくれていた鎮守府の仲間達もまだ戻ってきていないくらい。

 龍驤が撤退したことで群れもいなくなっていそうではあるが、まだ心配事は山積みである。

 

 

 

 

 一方、金剛達の戦場。古鷹を袈裟斬りにしたことで金剛はいつもの調子を取り戻す。

 

「比叡、これ返すネー。勝手に使っちゃってゴメンネ」

「は、はーい」

 

 元に戻ってくれたことを喜びつつ、だがあの時の怒り狂う金剛を見ているために、複雑な表情をしていた。

 

「あれは致命傷だ。確実に()っただろう」

 

 武蔵とサラトガも金剛と合流。そこで斃れ伏す古鷹を眺めていた。

 金剛の一撃を受けたことでそこから動けず、ビクビクと震えている。痛みに耐えながらも、反撃をするために立ちあがろうとしているのはわかるが、もう力すら入っていないようである。

 

 しかし、ここで古鷹に異変が起きる。

 

「っ、ぐぶっ!? おぼっ!?」

 

 白露と同じような反応をし始め、口から血が混じった泥が吐き出された。命の危機に瀕すると、体内から泥が吐き出される仕様になっているのかもしれない。つまり、この死の間際に古鷹は艦娘としての意識を取り戻そうとしているのだ。

 泥にも意思があることは既に知っている。古鷹は使()()()()()()と判断して外に出てきているのかもしれない。

 

「ごふっ、げほぉっ……っお……」

 

 止め処なく吐き続けた後、もう出ないところまで来た時、古鷹の瞳はあの時の白露のように負の感情が一切ない綺麗なものへと変化していた。本当に抜けきったことを表している。

 代わりにその近くには泥溜まりが出来上がっていた。何処にこれだけの量が入っていたのだと思えるほどの量である。

 

「……えっ……私……」

 

 ここも白露と同じ。正気に戻ったことで、自分のやってきた今までの行いがどれほどのものだったのかを思い返してしまっていた。死に体なのにもかかわらず混乱し始め、散りゆく命をより一層使おうとしてしまっている。

 そんな姿を見た金剛は、すぐさま古鷹に駆け寄る。今までの感情は何処かに投げ捨て、古鷹を()()()()()身体が勝手に動いたようなもの。

 

「古鷹! 正気に戻ったんデスネ! すぐにそこから引き離しマース!」

 

 怪我人ではあるが、その場に居続けるのはまずい。そのため、少し乱暴ではあるが、金剛は古鷹をお姫様抱っこのカタチで抱き上げ、すぐにその場から離れた。

 そしてすぐに武蔵にアイコンタクト。やらなくてはいけないのは、この場にある泥溜まりを霧散させることだ。ここに置いたままでは、施設の伊47のように近くを通った艦娘を襲い、その魂を侵すだろう。それだけは絶対に避けなくてはならない。

 

「任された。私の火力ならば、霧散させることも出来るだろう!」

 

 金剛がある程度離れたことを確認した瞬間、容赦なくその海面に主砲を放った。泥はその場で爆散し、何発か喰らったことで完全に消滅。微塵も残っていない状態に。

 

「よし、これで安心だな」

「Yes. 後腐れはありまセーン。あとはこの子、古鷹だけデース」

 

 金剛に抱かれている古鷹だが、潰えていく命の中、今までやらされてきた凄惨な現実に向き合わされることとなり、あらゆる負の感情が溢れ出していた。

 これで古鷹が艦娘だったなら、確実に溢れて黒い繭となっていただろう。しかし、古鷹は既に深海棲艦だ。泥が溢れるようなことはなく、ただただ心が壊れ続けるだけ。

 

「なんで、私、なんてことを……いや、いやだ、なんで」

「落ち着いてくだサーイ。古鷹、私から1つQuestionがありマース」

 

 金剛から受けた恐怖も心に刻まれてしまっているのか、声を聞いただけでビクンと震える。

 

「償うために生きたいデスカ? それとも、解放されるために死にたいデスカ?」

 

 非情な質問である。何も元に戻っていないのならそんなことを聞くまでもなく沈めていただろうが、今の古鷹は艦娘古鷹の思考だ。それを決めるのは本人である。

 致命的なダメージを与えた手前、この質問は今更かもしれない。しかし、これは白露のときの焼き直しが出来る可能性はあった。白露は意地で自分の命を繋いだが、それはあの超回復の特性があったからに外ならない。古鷹にそれが出来るかどうかは、本人次第。

 

「……私は、私は、真実を知りたい、だから、生きる、生きる……!」

「Okay. よく言いましタ。なら、意地でも命を繋ぐんデス。やった私が言うのはおかしいかもしれないデスが、頑張ってくだサイ」

 

 壊れかけの古鷹も、生きるために気合を入れ直した。それでももうダメな可能性はあるが、やれることは全てやらなくては。

 

 

 

 

 鎮守府夜襲はこれにて決着。まだ謎は残っているものの、ひとまずは乗り越えることが出来た。

 一部鎮守府は破壊されてしまったが、誰もが命を残しているのだ。これは勝利と言っても過言では無い。

 

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