空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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その脅威を排除して

 その日の午後、鎮守府では計画通り、近海への絨毯爆撃が実行されようとしていた。

 急なことではあるが、今後の戦いのためには絶対に必要なことであり、ある程度の被害も止むを得ないものとして見ている。そのために大将にも連絡済みであり、かなり無茶な作戦も仕方ないということで許可してもらえた。

 そもそもこれが出来なければ鎮守府から出撃が出来ず、施設に行くことも出来ない。泥の脅威に怯えているだけでは先に進めないのだ。

 

「妖精さんにも指示を出しておきました。それに、東海に試作兵器も搭載済みです。爆雷としては高火力で、爆発した瞬間は武蔵さんの主砲に匹敵するくらいの衝撃が発生するでしょう!」

 

 イキイキとした表情で説明する明石。予算度外視で泥を全て吹き飛ばせる火力を考えた結果がコレなのだから、楽しくて仕方ないのだろう。元々考えていた広範囲対潜兵器を実現させ、さらにはそれを基地航空隊から飛ばせるとなれば、今回やりたいことにベストマッチしている。

 こういう時くらいしか弾けた研究成果なんて出せないため、明石はこれ以上ないくらいにテンションが高い。同期であり特に気にかけている大淀は、若干引いていた。

 

「地形への影響は?」

「極力無しで考えていますが、衝撃を考慮している時点で無関係とはいきません。ただでさえ普通の爆雷でも海底に跡が出来るくらいなんですから、そこは諦めてください。とはいえ、地盤沈下を起こそうとしているわけではないので、地震とかそういうのは気にしないでください」

 

 提督としてはその辺りが気になっていた。範囲攻撃の一番心配なことは、近海の自然を崩すこと。潜水艦の殲滅をしている時点で大きなことは言えないのだが、なるべくならば自然は現状維持にしておきたい。

 今回の大型爆雷は、何も海中を汚染するようなことはないとのこと。その海域には潜水艦が潜れないなんてこともなく、ただ単に大型化された爆雷という認識で問題ないらしい。

 

「全部隊に搭載したので、なるべく広めの編隊飛行をしてもらう予定です。それで、近海を一気に吹っ飛ばします。ただ、1つだけ問題が」

「何があるんだい?」

()です。こればっかりはどうにも出来ませんでした」

 

 爆発が大きいということは、それ相応の轟音が鳴り響くことになる。駆逐艦などが扱う爆雷は、よくいってもジュースの缶程度の大きさであり、それの爆発は海面を揺らすくらいなのだが、今回はそれの数倍はある威力だ。しかもそれが纏めて爆発する。

 耳を塞がないといけないというわけではなくても、とんでもない音が出るのは仕方ない。事前に知っておかないと、驚くどころの騒ぎではなくなる。

 

「あとは波ですね。津波とは言いませんけど、どうしても爆発で海面が揺れますから。多分魚雷が爆発した時以上の水柱が立ちますよ。しかも近海で」

「鎮守府への影響は」

「堤防などなどのお陰でそこまで被害はないでしょう。でも少し怖いのは工廠ですね。実行前にシャッター閉めておきます」

 

 大津波が起きるということもないのだが、それなりに大きな波が起きるのは否めない。

 当たり前だが、実行時に海に誰か行かせるようなことはしない。面白半分でもそれは命懸けになってしまう。海に向かうのは基地航空隊の妖精さん達のみである。

 

「では、最後の準備を。ここにいる艦娘の皆さんに()()()()()()()()()()()()()()()()()

「それは音と波のことでいいのか?」

「ええ、本当に大きな音がすると思うので」

 

 使った本人が言うくらいなのだから、それはもう余程のことなのだろう。最悪、音が衝撃となって鎮守府を揺らすまであるのだから、覚悟の時間も必要になる。

 

「なら、今から全体に放送する。それから30分後に実行でいいかい?」

「了解です。それで行きましょう。私は一応、妖精さんの状況がわかるように外には出ますので」

「危険の無いように」

「多分今なら半壊した執務室から見えますよ。提督も如何です?」

「……考えておこう」

 

 実際、結果がどうなるのかは自分の目で見ておきたいというのはある。ならば、執務室から見えると言うなら、そこで結末を見届けるのもいいだろう。提督という役職柄、その辺りは直に見ておく責任もある。

 

 

 

 

 予定通り全体放送の30分後、基地航空隊による近海への絨毯爆撃が開始される。その様子は鎮守府からも確認出来るような場所であるため、出歯亀というわけではないが誰もが窓の外で何が起きるかを今か今かと待っていた。

 こういうのには目がない江風と涼風は、開放されているという執務室へ。山風もほとんど無理矢理引っ張られるようなカタチで便乗させられた。

 

 執務室には提督と五月雨が破壊された窓の外を眺めていた。大淀は明石のストッパーとして工廠にいる。

 

「提督、そろそろかい!?」

「ああ、時間だ。ここから指示を出し、基地航空隊が発艦する」

 

 最終的な指示は当然提督の仕事である。そういうところの責任者は提督になるわけで、どれだけ無茶をしても最終的には提督の意思。

 

「五月雨の姉貴も見物かい?」

「秘書艦として、ね。でも何だか凄い音がするって聞いてるから、ちょっと怖いかな」

 

 などと話す五月雨の隣に山風がそそくさと移動。江風や涼風よりは隣に居やすい相手であるという認識。妹達が元気すぎて、山風には辛い様子。ここまでも引き摺られてきたようなものだし。

 

「それじゃあ、よろしく頼む」

 

 時間になったため、端末から基地航空隊の妖精さん達に決行の指示を送った。試作兵器の扱い方は明石がしっかりと教えており、絨毯爆撃の範囲も当然連絡済み。あとはその通りにやってくれれば終わりだ。

 妖精さんは基本的に、教えたことはその通りに寸分違わずに実行出来る程に器用だ。そのため、具体的な指示をしておけば確実にやってくれる。

 

「お、行った行った。確かにあたいらが戦ったのはあっちの方だね」

「あちらの方は念のためだ。本当にやりたいのは、鎮守府に限りなく近い場所になる」

 

 興奮する涼風に、提督が少し説明した。

 

 謎の潜水艦が泥を仕込むなら、あの戦場の真下ということはまずあり得ない。やるのだったら、より鎮守府に近い場所、むしろ工廠にまで潜り込んで設置するのが妥当。

 しかし、それが無いことは確定している。何故なら、提督と大淀が常に工廠に控えており、護衛ということで主砲メインの装備ではあったものの、緊急時のためにソナーも装備していたからだ。大淀は対潜に関してはあまり得手ではないのだが、その存在を確認するくらいは出来る。そして、何者も近付いてきた形跡が無いことは確認済み。

 いくらなんでもソナーに引っかからないなんてことは、異常な性能を持っている潜水艦だとしても無いはずだ。泥は感知出来ずとも、ヒト型は感知出来る。それは涼風自身も理解していることだ。浮上してくる謎の潜水艦は感知出来ていたのだから。

 

「ほーん、じゃあ大淀さんが感知しなかったから、その範囲よりも内側にはいないってことかい」

「ああ、それだけは問題ないだろう。念のため、工廠近くから対潜哨戒をしようとは思っているがね」

「なるほどなー」

 

 そうこう言っているうちに、妖精さん達が持ち場に着いたようである。爆雷を落とすであろう場所で旋回し、鎮守府に戻りながら爆雷を投下した。

 

 それは、鎮守府から見てもその形がわかるほどの大きさだった。ドラム缶程の大きさに詰め込んでいるようなモノなのかもしれない。爆雷の威力を知っている駆逐艦達は、そのサイズから何が起こってしまうのかは想像が出来た。

 

「そろそろだよな。そろそろだよな!」

「おうよ。あのタイミングだし、沈むのも早いよな!」

 

 とんでもない爆発が起こる。それだけで、江風と涼風はテンションが跳ね上がっていた。逆に五月雨と山風は、窓際から一歩二歩と下がる。

 

 そして、ドスンと音が鳴ったような気がした。海底までは到達していないが、かなり深いところで、今の爆雷が一斉に爆発したのだろう。海中なのだからまずは小さい音。

 しかし、ここからが本番。目に見えるところで海面が波打った瞬間、とんでもない爆音と共に、見たこともないような水柱が上がった。大型のクジラが現れても出来上がらないような光景に、もし泥があったとしても爆散して消滅しているだろうと確信出来る程である。

 

「うおっ……!? ここまで来るのか!」

 

 窓がない状態の執務室には、その衝撃がモロに入ってくる。音という力は並ではなく、そこに爆発力も上乗せされて、ただでさえ壊れている執務室の壁がミシリと音を立てた。

 ある程度は補強されていたものの、やはり半壊しているために脆さはある。部屋が倒壊するようなことは無くとも、修繕完了が遅れることはあるか。

 

「うわ、うわーっ、すげぇ! なンだありゃ!」

 

 江風が興奮して声を上げる。窓の外、爆雷の一斉爆破によって一気に海水が弾け飛び、真上に向かって舞い上がったことにより、海面には巨大な渦潮が発生していた。

 もしあの爆発で泥が消し飛ばされていなかったとしても、渦潮により粉々に粉砕されることになるだろう。

 

「あれだけのことは何度も出来ませんね……規模が大きすぎます」

 

 呆気に取られていた五月雨が呟いた。山風も無言で首を縦に振る。

 

「いろいろな理由であんなことは今回だけにしたいと思っている。何度も何度も出来る所業ではないよアレは」

 

 提督も流石にここまでのことになるとは想定していなかったようだ。資源のことは何も考えなくていいとしたものの、あまりにも規模が大きすぎた。

 実際、あの爆雷は1発でも本来の爆雷の数十倍の威力を誇っている。つまり、コストもそれだけ高くなるということ。あんなものを連発出来るのは、大本営くらいだろう。それでも回数は限られそうだが。

 

「お、おー、次は大雨だ」

 

 涼風が言うように、渦潮の場所に雨が降る。正確には雨では無く、舞い上がった海水がそのまま真下に戻っているだけなのだが、現場はどしゃ降りと感じるような水滴の量になっていることだろう。

 この威力でさらに海面が波打ち、もし爆発と渦潮を逃れてかち上げられた泥があったとしても、その衝撃でバラバラになるだろう。

 

 ただの爆雷で三度の対策を立て続けに行なう兵器となった。泥に対しては紛うことなき最高の対策となるだろう。絨毯爆撃はどうしても必要になるだろうが、それ相応の価値があると言ってもいい。

 

「基地航空隊に何か問題は……無いか、よし。ならば、これを有効手段として大本営に打診しよう。ここだけでなく、まだ泥が設置されている海域があるかもしれない」

「ですね。でも、あまり陸の近くでやるのは……」

「勿論控える必要があるだろう。我々の鎮守府はまだマシな方ではあるが、人里に隣接する鎮守府だって存在する。そんな場所でやろうものなら、大変なことになるだろうからね」

 

 実際はここから改めて泥が消滅したかの確認が必要になるとは思うが、あそこまで大規模に効果を発揮しているのなら、まず間違い無く全てが破壊されている。

 

「だが、根本的な解決にはなっていない。今は全て排除出来たが、また設置されたら意味がない。やはり、それ自体を撃破しなくては今後もこの脅威が続くということだ」

「そうですよね……その黒幕の居場所も見当がついていないのに」

「どうにかして探し当てるさ。そこは当然大将にも手伝ってもらう。人海戦術を取らざるを得ない」

 

 もうこの鎮守府だけの問題ではない。全ての鎮守府、人類に対する脅威でもある。力を合わせて対処しなくてはいけないのだから、誰だって協力してくれるだろう。

 

 

 

 

 この後に注意に注意を重ねて出撃した調査隊も、泥らしきモノの存在は確認することなく、作戦は成功に終わる。これでひとまずは出撃も可能となった。

 




とんでもない爆雷が開発されました。ここまでしないと泥をどうにかすることが出来ないということになるわけですが、人間と艦娘側も対策を得ることが出来たというのは大きめ。残りの問題は、既に侵蝕された者の対処。
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