鎮守府の部隊が施設に到着し、移送されてきた古鷹は施設の一室に運ばれ、残りの者達は中間棲姫に案内されて施設の中へ。交流会と称した現状把握の会を開く。ここで情報を共有し、互いのこれからを話し合う予定だ。
流石にここまで大人数が一度に訪れたことがなく、全員が入れるような場所は無い。そのため、主要となるであろう大将の艦隊をメインとし、提督の艦隊は山風と金剛が代表として参加。施設からはやはり白露型の3人。そして、念のためと全員が入ったダイニングの入り口には戦艦棲姫が待機。
「先にするべきだと思ったが、今自己紹介をしておこう。私は武蔵。この艦隊の長を務めさせてもらっている」
「あらあら、ご丁寧にどうもぉ。ご存知の通り、私のことは姉姫と呼んでちょうだいねぇ、武蔵ちゃん」
「ほう、ちゃん付けとは。もしかしたら初めてかもしれん。ハッハハ、これはいいな!」
豪快に笑い飛ばす武蔵。一目で中間棲姫を気に入ったようである。大将が任せるだけあり、相手が深海棲艦であろうが何だろうが、敵では無いのなら即座に仲良くなる。島風と近しい存在か。
「Hello, 航空母艦サラトガです。ムサシの
次はサラトガが挨拶。武蔵の補佐というだけあって、真逆の丁寧さが窺える態度に、姉妹姫共々好感触。握手を求められて、抵抗もなくそれに応じた。
「あたしは北上、んで、こっちは大井っち。この2人の部下みたいなもの。まぁよろしくー」
「もう、北上さんったら……。大井です。深海棲艦が相手と聞いて少し驚きましたけど、むしろ人間より手を取りやすくて助かります」
そして北上と大井。相手が誰であろうとも態度を変えることはなく飄々とした態度で接する北上と、それを補うように親身にサポートする大井に、姉妹姫はなるほどと納得するような態度。
この2人に関しては、松竹姉妹に近しい何かを感じ取った。今ここにはいないが、実際松竹姉妹はこの2人の関係性に強い反応を示していたのだから間違いない。
「まずは情報共有と行きましょう。とは言っても、こちらに提供出来る情報は無いのだけれど」
話をすぐに進めるため、飛行場姫が切り出す。基本的に聞きたいことといえば、古鷹を救うに至った夜襲のこと。春雨が虫の報せを受けたが、全てを鎮守府に託したその戦い。
結論は既に提督から聞いているため、勝利に終わったことは理解している。何者が襲撃したかも。だが、ここで戦場に立った本人達からの言葉を聞いておきたかった。
「古鷹に関しては、何も言うことは無いだろう。なぁ、金剛?」
「Yes. あの子はもう私達の仲間デース。対策とかも何も必要ありませんし、聞きたいことがあれば本人から聞けばいいデース」
「だから、問題は山風や北上が交戦したという龍驤と、それを助け撤退した潜水艦に集約されるだろう。特に潜水艦はまずい。私の力業でも、海中はどうにも出来ん」
現在残っている脅威は、龍驤と謎の潜水艦の2人。特に後者は、一切気付かれることなく鎮守府近海に忍び寄り、古鷹の証言だけではあるが泥の設置を行なった。
つまり、泥は
「白露姉さん、その潜水艦のことって、何か知っていたりしますか?」
ここであえて白露にその情報を聞いてみる海風。そこで無遠慮に行けるのは、春雨にそんな辛い質問をさせないため。
「うーん、あたしが向こう側にいる時のことって結構ぼんやりなんだけど、その時に潜水艦がどうのこうのって話は聞いた覚えが無いんだよね……。でも爆雷落とした覚えはある」
「じゃあ、あの潜水艦が出来上がる過程に参加していたと」
「かもしれない。でもそれなら、斃した子を拠点に運んでいくはずなんだよなぁ。なんでかその記憶だけは抜けちゃってるんだけど」
そこの部分だけがスッポリ抜けている。あちら側に都合の悪い記憶は、あの泥が引き摺り出して持っていってしまうかのように。
だからこそ、呼称が『悪意の塊』なのかもしれない。最悪の姫の中身に都合がいいように侵蝕した者を弄り回し、使えなくなったら都合が悪くならないように捨てる。まさに悪意。
「そう考えると、その黒幕ってのはマジ性格悪いねぇ。正々堂々と戦わないで、他のヤツ使ってやりたい放題。使えなくなったらさっさと捨てて次のヤツを侵蝕って」
「だからこその最悪の姫……ですかね」
「あはは、言えてる言えてる。戦い方が最悪だからってことだね。大井っち冴えてんねぇ」
元々は最悪の姫の中身。過去にあった大きな戦いで、他の深海棲艦とは違う搦め手を使ってきた屈指の頭脳派。賢いというか、
「……これからは、泥も気をつけなくちゃ」
山風がボソリと呟く。ただでさえ回避が相当困難な海中の泥が、今後は何処かに設置されているかもしれないと考えると、まともな戦闘もままならなくなる可能性がある。もう機雷のようなものだ。
ただの機雷ならまだしも、それに取り込まれたら最後、
味方が減り敵が増えるなんて絶望的すぎる。これだけは絶対に避けなくてはいけない。
「……その、何というか、ごめんなさいねぇ」
不意に中間棲姫が謝罪する。
「何を謝る必要がある。貴様は何もしていない。むしろ、我々に力を貸してくれる仲間じゃあないか」
「大将さんには伝わっていると思うけど、私は
そのままズバリを問うた。ただでさえ深海棲艦というのは艦娘と敵対するモノなのに、何故ここまですぐにと。
提督とは、中間棲姫がそういう存在なのだと知る前から関係を持ち始め、お互いに信頼し合った状態で真実を知ったために、どうであれ関係は変えないという結論に達したわけだが、まだ初対面の武蔵がここまで呆気なく信用するのは何故か。
「我々がここに来させてもらったのは外でもなく、貴様達をこの目で見ることなのだが……いや何、まるで心配が無いではないか。強く、正しく、美しい。なんてわかりやすい
「ムサシは少し言い方が
何も疑うことなく、姉妹姫は人類にとって艦娘にとって無害であると即断していた。実際そうなのだが、まるで躊躇がない。中間棲姫はあの最悪の姫の器。それを知ってのコレである。
「私が言うのはアレだけれど、何故そこまですぐに信用してもらえるのかしらぁ」
そう聞かれた武蔵は、何かを考えることもせず、とんでもないことを言い出す。
「何故と言われてもな。私は
流石にこれは姉妹姫共々目を見開いて驚いた。
ここまで簡単に信用出来るのは、武蔵が最悪の姫を知っているからである。資料で知っているとかではなく、直接面識があり、激戦を繰り広げ、そして
その時は確実に斃したと思っていたが、実は生き残っていたと聞いて驚愕したのも武蔵である。手応えはあったし、元々持っていた陸上施設が消滅するところも確認している。そこまでやったのだから、もういないと考えるのは普通だ。それなのに、器と中身で分離して生きているだなんて考えてもみなかった。
「あたし達もその戦いには出てないんだよね。多分、ここにいる面子だけで言うなら、武蔵さんだけだよ」
「そうですね。私も、島風も、その時から鎮守府にいましたけど、その戦いには参加していません。サラトガさんと宗谷さんはまだその時には生まれていませんでした」
雷撃が得意な面々は、陸上施設型相手には少し不利。そのため、他の面々で最悪の姫を直に見ているものはいない。結果、武蔵の証言のみが信じられるものになる。
そして、武蔵はそのヒト柄から、あまりにも豪快すぎて嘘をつくことが出来ないくらいの単純さも持ち合わせている。そんな武蔵が、中間棲姫は最悪の姫ではないと断言すれば、それはもう正しいと思うしかない。
「私はこの中でも最も最悪の姫を知る者だろう。だからこそ言える。貴様は、姉姫はヤツとは完全な別人だとな」
実際にどんな存在だったかを知っているのなら、この中間棲姫が完全に別人であることなんて一目瞭然。こんなにおっとりもしていないし、社交的でもない。高圧的で、艦娘に対して殺意しかない空気しか無かったと、武蔵は語る。
「私は貴様達に全幅の信頼を寄せよう。他者のことを一番に考え、今まで敵であった古鷹に対しても何の疑問もなくその門戸を開く姿勢、私は気に入った。私からも仲良くしてもらいたいと願うぞ」
改めて握手を求める武蔵。驚きをまだ引きずっている中間棲姫だが、納得はしていたため、握手に応じた。力強く、頼りになる手とその温もり。
自分達は本当に恵まれていると実感する。最初に発見されたのが、深海棲艦との共存を是とする提督の使者。そして、そのまま大将も同じ志を持つ者。そうで無かったら、この施設は終わっていた。
「だが、流石の私もこの施設に関しては驚いた。右を見ても左を見ても姫級だなんてな」
「サラもです。ここまで姫級が並ぶのは、今までに見たことがありません。話を聞いていても驚いてしまいますよ」
見た目は艦娘であっても、その実力は一線を画している。そんな姫級の深海棲艦が住まうこの施設は、見る者が見れば核を落としてでも潰さなくてはいけないと考えてしまうくらいの超危険区域としてしまいかねない。
事前に話を聞いており、絶対に敵対しないとわかっていても、その数に驚いてしまう。それこそ、中間棲姫と飛行場姫、それに戦艦棲姫までが並んでいるだけでも脅威だというのに。
「貴女方が敵だったらと思うとゾッとしてしまいます。でもこんなにもFriendlyで、とってもLovelyなんですもの。仲良くしたいと考えるのはNaturalです」
サラトガもニコニコしながらこの光景を受け入れている。敵ならば存亡がかかるくらいの脅威だが、味方ならこれほど頼りになる者達もいない。
「やっぱ敵対より仲良くっしょ。その方が面倒臭くないからさー」
「北上さんはこう言ってますが、戦わずに仲良く出来た方が世の中が楽しいと考えているヒトなので」
「大井っちさぁ、ちょいちょい放り込んでくるよね」
「私が北上さんの一番の理解者ですから。駆逐艦のことを鬱陶しがっていても、ただただ可愛いだけですもんね」
大井の言葉に北上が恥ずかしげに頭を抱える。ここの関係はこういうものなのだと理解出来た。
「ともかく、だ。我々はこの施設のことを気に入っている。如何に深海棲艦であろうが、志は同じ、平和を目指す者だ。そんな者達をただ種族が違うからと蔑ろにする理由があるか。いや、無い。むしろ、種族しか見ずに敵だ味方だを決めるなど、時代遅れも甚だしいとさえ思う。だろう?」
「そうねぇ。武蔵ちゃんの言う通りだわぁ。だからこそ、私達は人間さんともお付き合いをしているんだし、艦娘さん達ともこうやって話が出来ているんだもの」
「ああ、だから姉姫、貴様は自分の生い立ちなぞ考えなくていい。最悪の姫の器だろうが関係なかろう。貴様は貴様だ。最悪の姫でなく、姉姫だ。身体ではなく、心で見る。それでいいだろう」
ニッと笑って拳を突き出す。それに対してどうすればいいのかはわからなかった中間棲姫だが、飛行場姫は察したようで、そこに拳を突き合わせた。
「アンタ、男前ね。気に入ったわ」
「おいおい、こんないい女を捕まえて男前とは何事だ。だが、悪くない」
こちらはこちらで気が合うようで、これだけでお互いの信頼を勝ち取った様子。
「ところで妹姫よ。貴様、なかなかの手練れだな? どうだ、私と手合わせなんて」
「お断りするわ。アタシはお姉を守るためだけに戦うの。余計なことはしない。それに万が一夕食が作れなくなったらどうしてくれるのよ」
「ハッハハ、そいつはすまなかった。だが、気が向いたら頼む。さらなる高みに向かいたいのだ。まだまだ私は弱いのでな」
不敵な笑み。だが、飛行場姫はあえて乗らずに終わりにした。
大将の艦隊からの信頼も掴み取り、施設はより強い絆で結ばれていく。これだけ強い繋がりがあれば、何があっても負けることは無いだろう。
武闘派武蔵さん。妹姫様とガチの殴り合いしたら、どちらが勝つんでしょうね。かたや叢雲の槍を素手でひん曲げてますけど。