空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

172 / 506
同じ境遇の者

 叢雲の通信妨害の件が納得の行くカタチで終了した頃、鎮守府では少し久しぶりに大将が訪れていた。端末による通信だけでなく、直に話して現状を把握するため。また、少し延びていた演習艦隊の派遣をもう少し延ばす手続きのためである。

 島風と宗谷は調査のために最初から長期派遣の方向で鎮守府に籍を置いていたが、現在の演習艦隊である武蔵、サラトガ、北上、大井の4人も、今回の件を重く見た大将が改めて派遣というカタチに変更するという。

 

 執務室は家具職人妖精さんの力により修復が完了していたため、話もそこで。提督の側には秘書艦である五月雨が、大将の側には同じく秘書艦である吹雪が付き従う。

 

「ありがたい話ではあるのですが、そちらの戦力を減らしてしまって大丈夫なんですか?」

 

 最強の戦艦である武蔵まで派遣に出してもらったことは非常にありがたいが、それで大将の鎮守府が戦力不足になって……なんてことがあったら笑えない。

 そのため、大将から言い出したことではあるものの、本当にそれでいいのかを提督が尋ねる。

 

「あら、心配してくれるのね。でも大丈夫。うちにはまだまだ艦娘はいるんだもの。1部隊分抜けたとしても、継戦能力は衰えません」

 

 対する大将は、ふふふと上品に笑いながら返す。ここに6人置いたからといって、戦えなくなるようなことはまず無い。規模も練度も違うからこその、大本営直属の鎮守府である。むしろこういうことがあれば、率先して自分の艦娘を派遣するくらいには余裕があるようにしてあると語った。

 

「今回の件、大本営でも特に重く見ているの。貴方にだけ背負わせるわけにはいかないわ」

「ありがとうございます。素直にその厚意を受けさせていただきます」

「ええ、そうしてちょうだい。それと、予算の件もある程度は大丈夫だから、明石に多少好きにやらせても問題ないわ」

 

 むしろそちらの方が驚いた。今の明石の研究は、最悪の姫の中身への対策。最前線の艦娘を守るための手段を見つけるために奮闘している。言動に多少難はあれど、明石も人間と艦娘を守るために全力を尽くしているのだ。大将はそこをしっかりと評価している。無論、その研究の良し悪しは判定してはいるが。

 今の研究、艦娘と深海棲艦を切り分けて判定するセンサーなども、問題無しどころか研究を推奨するくらいであった。予算に関しても斡旋してくれるほどであり、好きにやらせていいというのだから、相当の期待が明石の背に乗っている。

 

「泥を感知する電探やソナーは、なるべく早く完成させてもらいたいもの。こちらとしても全力で支援して、その作成のノウハウを鎮守府内で共有したいと思っているわ」

「そうですね。泥がまた別の海域に設置されている可能性は充分にあり得ますから」

「ええ、今は全鎮守府に警戒を呼びかけているのだけど、それだけで対処出来るのなら苦労はしないもの。それに、実力不足が見えていない子達が慢心から飛び込んで全滅……なんてことだって考えられるわ」

 

 かつての叢雲が所属していたような、手柄のために艦娘を蔑ろにしているような鎮守府なんかは、そういうことをリスクも考えずにやってしまいそうである。それだけは絶対に避けなくてはならないのに。

 

 今の全体公開の情報は、泥による侵蝕と深海棲艦化のことである。白露のことはまだ非公開ではあるが、古鷹に関しては全鎮守府に知られていること。それが古鷹であるとは誰も知らないが、この鎮守府で今までにないことが起きたということで共有されている。

 深海棲艦を倒したら泥を吐き出し、正気に戻った。その深海棲艦は艦娘の記憶を有しており、しかし身体は深海棲艦のままだった。生死の境を彷徨った後、何とか危機を乗り越えたところで、然るべき処置としてとある施設で安静にしている。吐き出された泥は、古鷹の証言によって艦娘を侵蝕する。ここまでが何処の鎮守府でも知っていることになる。

 なのに、これだけ知っておきながら、そんなもの自分達には関係ないと一切慎重にならずに戦う輩というのは無くならない。まさに慢心。敵に餌を与えるだけとなりかねないのに。

 

「今はこちらも雌伏の時よ。今までやられてきた分をお返しするためにも、ね」

「はい、その通りですね。この鎮守府が基点となるのは光栄です」

「貴方達は戦闘面でね。こちらでもいろいろと情報を集めているわ。古鷹のこととか」

 

 鎮守府の面々は大将の艦隊により鍛えられ、敵部隊に対抗する力を手に入れている。その裏側で、大将があらゆる情報をその情報網を駆使して調査し、黒幕に繋がるモノを何でもいいから探し出す。

 そしてこれは、あらゆる鎮守府の協力を得ることが出来るところまで来ていた。未知の深海棲艦であり、その手段が前例の無い侵蝕という方法となれば、何処もかしこも危機感を覚えるというモノ。

 

「古鷹のこと、何かわかったんですか?」

「ええ。古鷹の中に混じっているという榛名、最上、鈴谷が同時に消えたような事件が過去にあったかどうかを調べたの。そうしたら、ちゃんと見つけたわ」

 

 大将が合図をすると、隣に控えている吹雪がカバンの中から何枚かの書類を取り出した。提督と五月雨が覗き込むようにそれを確認したところ、そこにはある意味大惨事な事件の全容が記載されていた。

 哨戒で発見された姫級深海棲艦、戦艦棲姫討伐の際に、古鷹を含む部隊がその戦艦棲姫共々行方不明になったというもの。あまりにも不可解であり、捜索をしても見つけることが出来ず、戦死ということで処理されていた。

 

「そこの鎮守府は今でも活動中。当時は相当堪えたようだけれど、その時の失敗を糧に、むしろ戦果を挙げているわ」

 

 その鎮守府は所謂、『艦娘はヒトのカタチをする兵器である』という考えで活動しているところ。それでも部下の艦娘達を大切に扱っているのは変わらない。部下を纏めて失ったことを大いに悔やみ、今後そんなことが無いようにとより一層の研鑽を積んだとのこと。

 

 艦娘をヒトとして見るか兵器として見るかは永遠の命題ではあるのだが、堀内提督もあちらの提督も、お互いの在り方を否定せず、良さも悪さも理解した上で共存出来ている。

 そのやり方はどちらも正しい。それ故に、相手に対してどうのこうの言うべきことでは無い。そう弁えて、干渉もほぼしていないような状態だ。

 

「私はその提督……大塚という男に話を聞こうと思っているわ。海域の詳しい場所は知っておくべきでしょう」

「そうですね。もしかしたら黒幕がそこに近い場所を陣取っている可能性があるということですし」

「そういうことね。それに、そこで古鷹が泥にやられたということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()もあるわけじゃない」

 

 それこそ、その鎮守府内には()()()()()()()()()が交じっていても不思議では無いのだ。古鷹の時は即座に行動を起こして行方不明となったが、あえて潜伏させるという選択をしている可能性も充分にあり得る。

 同じ場所で何人も行方不明になれば、人間や艦娘でも不審と見て撤退的に調査するだろう。だが、黒幕はそれを避けて行動していると思われる。部下を増やすことも必要だが、最優先は器の確保。それ故に古鷹を支配し、一箇所ではなくばら撒いた場所で仲間を増やしていた。

 堀内提督がここまで徹底的に調査し、ましてや器である姉姫と接触することが出来ていることは、黒幕にとっては未だに気付けていない想定外であろう。

 

「泥の対策が出来上がり次第、直接見に行きたいところね。それまでは通信で話を聞いてみようと思うの。あちらも、古鷹の件と繋がりがあると言えば、協力してくれるでしょう。古鷹自身と話をするかどうかはさておき」

 

 その時に失われた古鷹が深海棲艦化して虐殺を繰り返し、つい先日にその呪縛から解き放たれて正気を取り戻したと言われても理解出来るかはわからない。むしろ、古鷹のことを今どう思っているかは何とも言えないところである。

 

「状況が整えば、僕もお付き合いさせてください。根幹は別でも、お互い同じ立場ですから」

「そうね。敵の行動によって部下を失い、それが深海棲艦と化して戻ってきているという点では、貴方も彼も同じね」

 

 艦娘の見方は違えど、堀内提督も大塚提督も黒幕のせいで部下を失ったという点では同じだ。そして、そこから奮起し次へ繋ごうとする信念も同じ。やり方は違っても、お互いを認められるのなら仲良くもなれるはずだ。

 

「それじゃあ、次は今後のことを話しておきましょう。私がここに来れる機会もそう多くないもの。やれることは今のうちに全部やるくらいで」

「はい、お願いします。まだ先は長いでしょうから」

「ええ。慎重に、確実に、被害を拡げることなく終わらせるためにも」

 

 その対象は、姉妹姫の治める施設のことも含まれている。誰もが平和な海を目指すため、力を合わせて進んでいくのだ。

 

 

 

 

 一方、これからも派遣というカタチで鎮守府に滞在することが決定したことを他の艦娘達にも伝えている大将の艦隊。

 

「ということで、だ。我々はもう少しだけ貴様達の戦いに付き合わせてもらうぞ。とは言っても、貴様達を鍛え上げ、より戦いやすくするために尽力させてもらうだけだがな」

「演習、訓練、サラ達に申し付けくださいね。求められたモノ以上のそれを差し上げますので」

 

 武蔵とサラトガの言葉に湧く艦娘達。戦力増強ではなく、より力を得るための演習相手としての体裁ではあるのだが、また前回のように鎮守府が襲撃を受けるようなことがあった場合は、拠点防衛にも力を貸してくれるという。

 鎮守府から出て黒幕を撃破する作戦が発動した時は、その力を防衛に回し、それこそ最悪の姫のような陽動作戦を取られた場合でも鎮守府を守ってくれる。心強い援軍と言えるだろう。

 

「これでより一層、金剛と比叡を鍛えられるというものだ。ハッハハ、楽しみだなぁ! 特に金剛は、()()()()()を常時出してもらわなくてはならんからな!」

「Ah, 武蔵、そのことはなるべくSecretでお願いしマース。私としても、あまり表に出したくないことデース」

「ならば、穏やかな心であの力を発揮出来るように特訓しなくてはなぁ。そうすれば、貴様は私をも超える逸材となるだろうよ。それが楽しみで仕方ない!」

 

 戦闘狂の気質がある武蔵に目をつけられ、金剛は小さく溜息をついた。怒り任せに古鷹を死に至らしめようとしたあの時の自分は、あまり外に出したくないと金剛も思っているようである。

 しかし、未知の力を持つ敵を圧倒する程の力はやはりコントロール出来るようにはなっておきたいというのはある。特訓には否定的では無かった。

 

駆逐艦(ガキ)共はあたし達が見ることになるんかね。ああ面倒臭い」

「そう言いながら、ここから離れることを惜しんでいましたよね北上さん」

「大井っち、余計なこと言わない」

 

 駆逐艦達の特訓は、やはり北上と大井が率先して行うようである。涼風の視野の広さを見出したところもあるが、他にもいろいろと手を出したいところはあったらしく、まだまだ時間が足りなかったと大井にだけはボヤいていた。

 

「そんじゃあ、あたいらにもっと戦い方教えておくれよ!」

「そうだそうだ! 江風ももっと戦えるようになりてぇ!」

「ああもう喧しいなぁもう」

 

 口ではそう言いながらも、北上の表情は明るい。涼風と江風に言い寄られても、別に苦ではないようである。

 一方、大井は少し離れて見ている山風の方へ。

 

「山風、貴女は私が鍛えてあげる。貴女の強みは涼風とは違う視野の広さなのはわかっているわ。私が北上さんに対して使っている技法、全部叩き込んであげるからそのつもりで」

「っ……うん、わかった。よろしく……お願いします」

 

 ペコリとお辞儀して、大井に頼る山風。あのアイコンタクトも無しに北上の欲しいところに攻撃をする大井の技法は、山風にとっては今後必要になるはずだ。

 調査隊の隊長として、より広い視野と行動力が欲しい。そしてそれを身につけることで、当時の海風に追いつき、むしろ乗り越えるくらいになれればいい。山風はそう思った。

 

 

 

 

 鎮守府はさらに勝利に向けて進んでいく。古鷹を救出したことで、話はより前へ向かうだろう。

 戦いはまだ佳境にすら入っていないが、士気は高い。

 




堀内提督と同じ境遇を違うカタチで乗り越えた者、大塚提督の存在が示唆されました。今すぐではないですが、そのうち登場することになるでしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。