ジェーナスが侵蝕されてしまったことにより敵対。伊47は気を失っている荒潮を戦場から引き離すことにより、施設側の人員は白露と戦艦棲姫の2人のみ。対する敵側は、ジェーナスを加えた上に、龍驤、大鳳、コロラドの4人。
ジェーナスは仲間を甚振りたいという気持ちが先行したか、何かを言うまでもなく白露に襲い掛かり、残りの3人は戦艦棲姫を集中攻撃しようと画策している。
だが、戦艦棲姫は3人を相手にしても一切臆さない。相手が強力な3人の深海棲艦だとしても、負けるだなんて1mmも思っていない。
「生きて帰れると思わないことね。3人がかりでも、私は貴女達如きには負けないから」
かかってこいと言わんばかりに手をクイクイと動かす。多勢に無勢であるにもかかわらず、戦艦棲姫は余裕綽々。
だが、その表情は冷酷。怒りは最高潮に達し、本気以上の力を発揮することになるだろう。戦艦棲姫も金剛と同じく、怒りが限界を超えると静かになるタイプ。
「何それ。こんなヤツ私1人でもいいっての。リュージョー、タイホー、アンタ達は見てなさい。私だけでいいわ」
「やめとけやめとけ。調子乗っとると痛い目見るで。素直にうちらも手伝ったる。こういうんは、口だけや無いヤツや。慢心すんなコロ助」
「誰がコロ助よ!」
あちらが何をしていようが、戦艦棲姫はクスリともしない。来ないのなら、こちらからやってやると言わんばかりに、早速艤装が動き出す。
この艤装のおかげで1人ではなく2人として戦える。普通の戦艦棲姫ならば、艤装に全てやらせて本体は指示を出すのみだが、ここの戦艦棲姫は一味違う。
「漫才見ている余裕なんて無いのよ。でも、貴女はよくわかっているようじゃない」
艤装が巨腕を振りかぶり、真っ先に龍驤を狙った。この中で一番まずいのはコイツだと、戦艦棲姫も
当然だが、戦艦棲姫は目の前の3人を一切下に見ていない。むしろ、1人1人が自分と同程度、いや、上だとすら感じている。まず確実に、古鷹と白露を相手にした時以上の難敵。口ではああ言ったが、勝てる見込みはかなり低め。
だが、絶対に弱みは見せないし、見込みは無くても勝てると考えて戦う。今のような漫才をしていれば負けない。調子に乗って1人でやるとなれば、
「図体ばっかのヤツに、うちがやられるかい」
艤装の拳は軽々と避けられる。当たれば致命傷という質量だが、元より大振りであるために、そもそも当たるなんて思っていない。
「でしょうね。でも、一応こちらも2人なのよ」
避けた瞬間を狙った本体の一撃。拳の風圧を使ってヒラリと舞い上がり、その手に主砲を展開して砲撃。
先程も述べた通り、戦艦棲姫の本体は艤装に全てを任せ切るのだが、こちらは本体も当たり前のように攻撃に転じる。
その主砲は戦艦のモノと比べると非力ではあるが、並の重巡以上の火力は誇る。
「おっと、なんやお前もわけわからんことやれるんか」
「生きていくための手段として仕方なくよ。私は戦うのが嫌いなの。貴女達みたいに野蛮じゃないのよ」
戦艦棲姫の砲撃を、龍驤はギリギリで回避。想定外の動きをされたことで少し驚いたようだが、見てから避けている辺り、スペックは相変わらず異常。
事実、鎮守府襲撃で返り討ちにあってから、さらなる強化を施されている。単純な全ての能力が倍近くに跳ね上がっていると考えれば、凄まじい強化である。
「この、無視するつもり!?」
そこへすかさず杖を振り回すコロラド。骨側の打撃武器としての攻撃は、即座に対応した艤装がガード。砲撃でなければ、その強固な装甲で完璧に防御出来る。
だが砲撃は流石に厳しい。杖を逆側に向けた途端、艤装は海面に拳を叩き付けた。爆発のような水飛沫が弾け、それにコロラドを巻き込んだことで体勢を崩し、まともに砲撃させなくした。
コロラドは見た感じ、精神的に幼い。泥による侵蝕の結果が、こんなに我儘で目立ちたがりな子供のようになってしまったのかはわからない。だが、そこは付け入るところだ。
「きゃっ!?」
「無視なんてしないわ。でも考えてみなさい。1人に3人でかかってきておいて、貴女だけを見ているだなんて出来るわけないでしょうが。まぁ私は1人で2人分だけど」
言いながらも、次に視界に入ったのは大鳳。ほぼゼロ距離まで接近され、持っていたボウガンのような兵装を構えていた。
2人と違ってやたらと静か。冷静に物事を眺め、確実な一撃を叩き込もうとしてくる猛者。このボウガンも、撃ち方次第では艦載機の発艦にも砲撃にも使えるマルチ兵装。その時々で適切な使い方を即座に判断して使ってくる。
「貴女が一番怖いわ」
「それは褒められていると考えても?」
「ええ、それで構わないわ」
まずいのは龍驤だが、怖いのは大鳳。物静かに、何を考えているのかがわからない分、突然の攻撃がやたらと上手い。
今回放たれたのは砲撃。それを見越して戦艦棲姫は艤装と共にバックステップで回避。
やはり大鳳の砲撃もコロラドと同様に凶悪な火力。軽々撃ち放ったが、掠めただけでも大ダメージを受けそうな一撃。反動も相当なはずなのだが、ボウガンのような形状を片手で取り回しているにもかかわらず、お構いなしに連射する。
「空母が砲撃するんじゃないわよ。でもまぁ、何かが混ぜられてるってのは知ってるから、貴女達も戦艦の誰かが混じってるのよね」
「ご名答です。私には伊勢と日向が混ぜられています」
「あら、本当に礼儀正しいのね。好感が湧くわ。死んでもらうけれど」
そこまで律儀に教えてくるというのが逆に怖い。それだけ自分の力に自信を持っているということにも繋がる。
「ホンマ厄介なヤツや。ここで死んでもらわんと確実に面倒なことになるやろ。3人がかりで構へん。とっとと
「了解」
「雑魚に手間取ってる暇なんかないのよ!」
もう少しバラバラなチームワークを続けてほしかったと、戦艦棲姫は心の中で愚痴を吐く。だが、こうなってしまったものは仕方ない。そういうところをまとめ上げる辺り、やはり一番まずいのは龍驤である。
「好きにかかってきなさい。鎮守府の子達のように、今度は私が返り討ちにしてあげるわ。泣いて帰ることも許さない」
今ここで危機に瀕していることは、きっと誰かが気付いている。春雨の直感が働いて勘付いたか、ジェーナスが伝えた時に飛行場姫辺りが哨戒機を出しているはずだ。その望みを力に、戦艦棲姫は3人を受け持つ。
その裏側、白露はしつこく攻めてくるジェーナスを必死にいなしていた。相手が相手であるために本気がどうしても出せないでいたが、こちらも増援が来るまでの時間稼ぎに走っている。
「ヒャハハハ! シラツユ、一方的にやられてくれるのね! ならもっと悲鳴をあげて! お腹に響くくらいに気持ちのいい悲鳴を聞かせてよ!」
攻勢に出ているため、艤装は軽装。直接痛みを与えるというサディスティックな快楽のため、ガントレットで殴りつけている。白露は錨によってどうにか防御をし続けているが、艤装同士がぶつかり合う衝撃そのものが今のジェーナスには快感になるらしく、拳を振るう度に小さく声を上げた。
白露にはそんなことになっているジェーナスが見るに堪えなかった。かつての自分を見ているようで気分が悪く、救わなければならないと心が奮い立つ。
「ったく、この記憶が残るのが厄介だなぁホント! 救われても救われないのがタチが悪いね!」
錨を消し、艤装変化。背中の艤装が
白露の艤装をベーシックとすると、時雨の艤装は砲撃特化。背部に2門の大型主砲を備え付け、それが可変して両腕に装備出来るようになる。今回はまさにそれを実行。背部艤装を変形させ、両腕に装備。
白露は瞬時にそちら側に戦い方を移行し、近接戦闘から中距離戦闘へとスタイルを変更。
「一回、離れる
錨が届くような距離で両腕の主砲をジェーナスに向けて構える。ほぼゼロ距離で狙い撃つのは、ガントレットが届いていない露出した両肩。もし直撃したら、ジェーナスは両腕をもぎ取られる場所である。
仲間に対してそんな攻撃をすること自体、普通なら躊躇われることだ。そこは白露にもどうしても抵抗がある。だからこそ、ここで思考の切り替え。こういう時に一切躊躇しない夕立の性格を反映させ、仲間であろうが敵対したのなら殺さずともダメージを与える方針へ。
「当たるわけないでしょ! でも、そういう抵抗も最高に昂るわ!」
ジェーナスの艤装が軽装から重装へと切り替わり、白露の砲撃をいとも簡単に弾き飛ばした。
強固な球体艤装に完全に包まれたジェーナスは、大型とはいえ駆逐艦の主砲では傷一つつかない。
「それなら、こっちはどうかな!」
続けて、夕立の気質を利用して魚雷をその手に生成。魚雷発射管があるにもかかわらず、お構いなしに投げつける。強固な球体艤装をぶち抜くために、直撃させてその爆発を利用しようと考えた。
内部のジェーナスのことはまるで考えていない一撃。本当に突き破れたらその爆発でジェーナスも吹き飛んでしまいそうだが、知ったことではないという容赦ない雷撃である。
「わぁ、危ないわね。でもそれは
強固な重装甲の隙間から砲撃することで、その魚雷を爆破。そもそも届かせない。
砲撃では傷はつかないが、魚雷は回避ということは、魚雷ならば装甲を突き破れるということだろうか。つまり、魚雷なら通用する。
魚雷と同程度の火力ならば、あの強固な装甲を貫くことが出来ると考えるのなら、戦艦棲姫の主砲でも行けるだろう。だから真っ先に白露に向かってきたのかもしれない。
「もう、魚雷なんて全部木っ端微塵にしちゃうじゃない。相手が悶え苦しむところを見てじゃないと気持ち良くなれないわ。だから、もっともっと苦しむようにしなくっちゃ!」
あまりにもジェーナスからかけ離れた言葉。それと同時に、重装甲のまま突撃までしてきた。
装甲が大きくなっても鈍足になるわけではなく、ただ単に質量兵器としての体当たり。重装も攻撃に転換。
「ヒャハハハ! これなら簡単には死ねないわよね!」
「んなもん避けるっての!」
いくら速度が同じで質量が上がっていても、やっているのは真正面からの突進だ。それは見てからでも回避出来る。しかし、紙一重で避けようなんて思ってはいけない。
故に、白露は即座に海面を蹴って大きくそこから離れる。それは間合いを取るためというのもあった。
時雨の艤装を展開中であるため、近接戦闘は厳しい。だからといって村雨の錨を扱うのも自殺行為だ。そうなると、元の自分の艤装に戻すのがベスト。
「闘牛かっての!」
回避しながら、元に戻した艤装によって重装に向けて砲撃。回避した瞬間に軽装に戻られることを防ぐためだ。
ジェーナスもそれを見越して、軽装に戻ることは無かった。白露の砲撃はやはり傷一つつけることは出来ない。だが、間合いを取ることは出来た。
「もう、逃げ回るなら逃げ回るで別にいいのよ。でも、それならもっと
間合いを取ったところで軽装に戻ったジェーナスは、恍惚とした表情で自分の身体を抱きしめ、震えながらも白露を見つめる。その目からは、白露を甚振りたい、悲鳴を上げさせたいという気持ちが、嫌というほど滲み出ている。
むしろ、最初の頃よりも悪意が強くなっているようにすら思えた。侵蝕されたばかりの時よりも
「それは流石にゴメンだね。今のアンタの思い通りにはなりたくないよ」
「でもさ、このままで私に勝てると思う? 今の私、とっても凄いのよ? もう身体の中から力が湧き上がって湧き上がって仕方ないの。それもすっごく気持ちいいのよ! シラツユならわかるんじゃない?」
近しい経験を思い出し苛立つが、ジェーナスのためにもそれは表に出さない。
白露が知っているそれは、古鷹と艦娘を襲撃して嬲り殺した時に得たモノだ。悲鳴と絶望に染まった顔で昂り、力が湧き上がってくるような感覚を得た経験は、ジェーナス以上に知っている。当時は今のジェーナスのように、その悦びに身体を震わせていた。
だからこそ、今は嫌悪感しかない。そして、仲間がその場所まで堕ちてしまってことがそれを助長する。
「わかるけど、今のあたしには必要が無いよ。快感なんて以ての外。気持ち悪くて仕方ないよ」
「ざーんねん。勿体ないなぁ、こんなに気持ちいいのに。でも、もっともっと気持ちよくなれそう!」
ジェーナスの視線が白露から外れた。釣られるように白露もそちらを見る。
「ジェーナスちゃん……何その格好……それになんで白露姉さんと……」
「まさか……泥に!?」
ここで春雨と海風が戦場に到着した。だが、変わり果てたジェーナスを見たことで、その顔は驚愕に染まることとなった。