春雨と海風が合流し、白露も加わったことで、侵蝕されたジェーナス1人に対して3人で当たれるようになった。
「ヒャハハハ! 3人がかりで立ち向かってくるのね! でも、私の方が強いわ! みんなみんな、私の前で無様に死んで、私を気持ち良くして!」
心底愉しそうに狂気の笑みを浮かべるジェーナスだが、いきなり向かってくることはしない。自分を抱きしめてひとしきり快感を味わった後、ニヤニヤしながら何かを思いついたように3人から離れていく。
「でも、先にやらなくちゃいけないことがあるわ。Hey,
1人でも自分の方が強いと言いながらも、あえてここで引くという判断が出来る辺り、狂っていても冷静である。それに、これが一番春雨達が嫌がる手段であるということも即座に理解出来ていた。
ジェーナスが龍驤にある話なんて、すぐに察することが出来た。姫の器、中間棲姫が住まう施設の場所を教えるためだ。万が一の時のことまで考えて、先んじて情報提供をしようと動き出す。
それはさせまいと動き出したのは白露だ。夕立の気質をさらに前面に押し出して、獰猛な獣としての戦い方へ。
「させない
その手には数本の魚雷。重装でもぶち抜くことが出来る火力をこれでもかというほど投げ付け、足を止めると同時にダメージを与える算段。
さらにはそこに春雨も動く。いつも姉の行動を見続けていた春雨だからこそ、直感も相まって今の白露が夕立の気質を利用していることに気付いていた。
前へ前へと仲間達すらも置いていく程に突き進む夕立のサポートは、同じ速度で後ろから追いながら砲撃により回避方向を妨げること。
「ヒャハハハ! そんなので私は止まらないわ! 無駄な足掻きよ!」
しかし、相変わらず砲撃は重装で跳ね返し、魚雷は隙間からの砲撃で爆破。止まらないどころか、速度が落ちることすらない。
「ならば、嫌でも捕まえます。これ以上、春雨姉さんの手を煩わせないでください」
そこにすかさず海風が突撃。その右腕を鎖に変形させ、さらにはその先端に錨を生成。村雨の扱っていた錨を自分のモノとしてジェーナスに絡みつかせる。
「おっ、海風ナイスっぽい! それなら次はっ」
白露がスタイル変更。魚雷が消えて、同じ錨がその手に現れる。
「はいはーい! あたしも手伝うよ!」
最も錨を上手く使える気質の村雨に。海風と同様に錨を振り回した後、思い切り投擲してジェーナスに絡み付かせた。
「わぁ、面白いことするのね!」
しかし、2人して引っ張ろうとした瞬間に、今度は絡みついていた重装が消えて軽装に。引っ張れていたはずの部分が失われて、海風と白露はその反動で後ろへ倒れ込むことに。
だが、その時には春雨が前に出ていた。本来のスピードに追加し、突発的に脚を生やすことによるブースト。春雨が出せるMAX以上のスピードが出て、一気に手が届く範囲まで突撃。
「ハルサメ、まずは貴女が死んでくれるの? 惨たらしく、顔を歪めてくれると嬉しいな!」
「ごめんね、それには付き合えないよ」
そして、脚を刀剣に。白露に対しても行なった、救うための刃を作り出し、ジェーナスに向けて蹴り上げるようにして斬り払う。
「ダァメ。私、その辺のやり方全部知ってるのよ? その場で見てたわけじゃないけど、
その斬撃は、重装の時と同じ強度を持つガントレットでしっかりと受け止めていた。頑強な装甲に、春雨の刃では傷もつけることが出来なかった。
それでも、春雨は止まらない。動揺することなく、次の一手に出る。まずは逃がさないことを念頭に、ここに食い止めるために。それには多少なりの痛みも必要だ。
「今は見逃してあげるって言ってるんだから、素直に言うこと聞いといた方が命が長くなると思うんだけど? そんなに苦しみたいのかしら。私としては万々歳だけどね!」
一撃を受け止めた直後に、グリーブに包まれた足で強烈な蹴り。ここまで直接攻撃を繰り出すタイプではないと驚きつつも、まるで
脚を一瞬だけ生やすことで小さくバックステップしつつ、着水と同時にもう一度脚を生やし、蹴り終わった後のジェーナスに突撃。
「猛烈なAttackは嬉しいけれど、そんな挫けないような顔は、私としてはNo thank youよ。もっともっと、苦しんでほしいわ!」
寸前で重装に変化。勢いよく壁にぶつかるような衝撃になりそうだったが、失われた脚の表面で艤装を蹴り、ダメージ無しで着水。少しだけふらつきかけたが、小さく回転することで身体を安定させる。
「本当はこんなことしたくない。でも、やらないと救えない。ジェーナスちゃん、必ず救うから。絶対に、救うから!」
春雨はジェーナスを睨みつけた。その姿は球体の艤装で見えずとも、狂気に染まったその目を見つめるように。
その時、春雨の瞳がまた
それを見たジェーナスは、初めて危機感を覚えた。今の春雨は何かが
今のジェーナスには、春雨はここで排除しなくてはならない『辿り着く力』を持つ者としての認識しかない。仲間という意識は完全に消え、痛めつけることも殺すことも何の抵抗は無い。だが、
それこそ、
「私はそんなこと望んでいないわ。だって、こんなに気持ちいいんだもの。みんなの顔が絶望に歪むのが、痛みで悲鳴を上げるのが、全部私の
泥によって歪められた、ジェーナスからは考えられない言葉。そして、より一層龍驤との合流に本腰を入れる。
「それ自体が歪められてるんだ! 本当のジェーナスちゃんを取り戻すために、私は!」
それが悲しくて仕方なかった。だが、それも救うための決意に変えて、春雨はより力強くジェーナスを見据える。
そして、より強い決意が漲ったその瞬間、春雨には
「えっ」
当人が一番驚いていたが、それが何かはすぐにわかった。そして、何をするべきかも。
そうするためには、ジェーナスの動きを完全に止める必要がある。しかし、春雨だけではそれが出来そうにない。ただでさえ相当な力を持っていたジェーナスが、泥によるブーストにより手がつけられなくなっているのだ。
だが、今の春雨には仲間がいる。信頼出来る味方が、すぐ側に。
「海風、白露姉さん! ジェーナスちゃんの動きを止めて!」
思い立てば即時行動。自分の目的を伝えずとも、姉妹は何の疑いもなく実行してくれる。お互いにお互いを信頼し合っているのだから。
言いながらも春雨はその動きを止めるために砲撃を開始。重装であるため全く効く気配が無いのだが、多少なり動きを止めることは出来ている。
「任せてください。そんなジェーナスさんはこの世から消えてもらいます。でも、死んでしまったら春雨姉さんが悲しみますから、慈悲深い春雨姉さんのためにも、生かして殺します」
「物騒なこと言うね。まぁいいか、まずは任せてよ。3人がかりならいくらでも行ける」
改めて2人がジェーナスに突撃。砲撃は重装によって阻まれることが確実であるため、ある程度の威力が確定している火力、もしくは搦め手によって動きを止める手段を用意する。
白露が出来そうなのは錨だけだが、海風はその右腕の変形によってかなり万能な動きが出来る。ここは、海風も春雨ではなく白露と組んだ方が春雨のためとなることが瞬時に理解出来た。結果的に春雨のためとなるのなら、一時的に春雨から離れる。それくらい、海風には苦でもない。
「まずは合流を止める。海風は春雨側からお願い」
「了解です、しぐ……間違えました。白露姉さん」
「今は時雨の気質で計算してるから、あながち間違ってないよ」
最も冷静沈着に物事を捉えることが出来る時雨の気質を表に出して、ジェーナスを確実に追い込むための策を練った。海風には出来ることが広いおかげで、策は幾つでも思いつく。
海風が一瞬間違えるほどに、今の白露の雰囲気は時雨を再現していたようだ。それだけこの戦いは白露の中での総力戦。
自分と同じように堕とされた仲間は、絶対に救いたい。そんな気持ちが白露にも全力を出させている。
「海風、まずは重装にさせないことが大事……なんだけど、もうなっちゃってるね。アレが一番厄介だからね。軽装に戻したいかな。もう一度捕まえよう」
「脱がせるならそれがいいでしょう。逃さないようにするためにも」
再度錨を展開し、2人同時にジェーナスへと投げつける。当然絡み付かせて動きを止めるため。先程は重装から軽装にされたことで絡みつきが外されたが、今回は逆にそれを狙った攻撃。
「それはさっき効かなかったの忘れちゃった?」
「覚えてるからやってもらったんだよ」
その2つの錨の隙間を通るように、春雨が同じように突撃していた。重装で跳ね返した春雨の突撃と、軽装で回避した海風と白露の錨による拘束。それが同時に繰り出されたことで、選択肢を大きく狭める。
春雨の狙いは、あくまでもジェーナスの動きを止めることだ。重装ならば錨の鎖で確実に動けなく出来るが、軽装である方がやりたいことがやれる。
やっていることはさっきと全く同じ。しかし、その攻撃は何かが違った。特に春雨。目から漏れる白い光は、未だに消えない。
「ハルサメ、貴女が一番危ないわ。何か違う。さっきと違う。だから、さっきとは違う
相反する行動を同時に求められたことで、一瞬だがジェーナスが混乱した。しかし、最善を取るのなら撤退しながらの重装がいいという結論に達した。それを口にしてから実行に移す。
軽装だと、春雨の刀剣による一撃をまともに受けてしまいかねない。その一撃は、体内の悪意の塊を吐き出させる可能性が非常に高い、
「縛るのはいいけど、縛られるのは嫌よ。だから、すぐに離れてよね!」
さらには、錨の鎖を握る白露と海風に主砲を向ける。重装の状態でもその隙間から砲撃を放っていたが、今回は重装の上から主砲を出現させて狙いを定めた。
鎖を握っているために回避は簡単には出来ず、それを避けるためには鎖を離すなり錨を消すなりしなければ不可能である。
「ハルサメにはもっと酷いのを上げるわ。これが一番嫌でしょう!」
さらには真正面の春雨には雷撃。脚を消している春雨には魚雷が最も効くことも見越して、ありったけの魚雷を撃ち放った。
今のジェーナスの魚雷は並ではない。本来のサイズよりも一回りは大きく、火力も高い。それが何十本と一斉に襲い掛かる。
だが、春雨は嫌な顔すらしない。むしろ、それこそ待ってましたと言わんばかりに回避することなく
「ちょっ、自殺行為!? そういうのは気持ちよくないわ! もっと苦しんでくれないと!」
流石にそれは予想していなかった。白露も海風も既に錨と鎖を消して回避に移っていたのだが、本来やろうとしていた撤退が出来ないくらいに驚いてしまった。
白露も海風も、春雨がそんな行動を取ると思っていなかった。思わず救いにいこうとした海風だったが、マスク越しのその瞳には、絶対的な自信が感じ取れた。白く輝く瞳は、真っ直ぐジェーナスを見据えていた。
「ジェーナスちゃんを救うまでは死なないよ。傷もつかない。だって、
凄まじい雷撃のど真ん中、1つ間違えれば終わりのその海上を、まるで舞うように突き進む。ここしかないというその1点を踏み、時には脚を生やし、時には跳び、時には回る。
神業とも言えるそのステップでジェーナスに触れられる位置まで来た春雨は、ある1点を見据えた。そこはパッと見、普通の装甲。周囲と同じ、強固な艤装。
「ここ」
そこを突くように脚を上げ、一瞬、ほんの一瞬だけ脚を生やす。
タァンと、撃ち抜くような音が響き渡った。それは魚雷はおろか、砲撃よりも弱い衝撃。
それなのに、ジェーナスの重装は、その1点を中心にヒビが入っていく。
「な、なんで……」
そして、ジェーナスの姿が見えるくらいにまで破壊された。