「戦艦さん、助けるよ!」
「一番いいタイミングよ。頼らせてもらうわ」
龍驤達が連携を学び始めてしまったことで、艤装もカウントして2人である戦艦棲姫はどうしても押され始めていたが、白露が乱入したことで佳境を迎える。
「
白露と面識のある者は古鷹しかいないくらいだ。そのため、龍驤達も話にしか聞いていない。龍驤はたまたま別個体の白露を知っているが、コロラドはそれすらも無かった。大鳳も軽く一瞥する程度。
冷たい視線を受けても、白露はその勢いを落とさず、出来る限りのスピードで戦艦棲姫の隣に立つ。艤装の手が破壊されているのを確認して驚いていた。
「うわぁ。あたしがやっちゃった時よりは軽いけど、大丈夫?」
「問題ないわ。ねぇ?」
艤装の方も小さく頷く。この程度のダメージなんてことないとでも言わんばかりだ。それには白露も笑顔を見せて親指を立てた。
「それより、ジェーナスは」
「春雨がどうにかしてくれた。全員無傷で、泥も完全に吐き出させてる。溢れたのはあたしが撃って吹っ飛ばしておいたから」
その言葉を聞き、龍驤が反応する。普通なら魂を侵蝕している悪意の塊が、どんな手段を使ったかはわからないが引き剥がされているというのが驚きだった。しかも、一度ならず二度までも。
ちなみに龍驤達は古鷹も解放されていることをまだ知らない。龍驤は謎の潜水艦に連れられて逃げ帰っているので、結末を見ていないからである。そのため、古鷹は死んだものと考えている。
「話にゃ聞いとったが、辿り着く力っちゅーのは、そんなことも出来るんか。そりゃあ姫さんが真っ先に潰せ言うわ。生きててもらっちゃ困る。大鳳、コロ助、ここはお前らに任すで」
流石にもう看過出来ないと、ここまで来て龍驤だけは春雨を追撃するために動き出す。
チラリとそちらを見たら、落ち込んで泣きじゃくっているジェーナスをあやすように抱きしめている春雨の姿が目に入る。今なら無防備みたいなものだ。
「なんや、あんだけ無防備なら、ちょいと艦載機放るだけで終わりやな。さっさと始末を」
「させると思ってんの? あたしが妹を見殺しにするとでも」
既に白露が動き出していた。龍驤の目論見を看破していたかのように、既に砲撃を放っている。当たるかどうかはさておき、その行動をやめさせる必要があった。
はぁ、と小さく溜息を吐いてそれを軽々回避するが、その瞬間に戦艦棲姫の艤装が殴り込みにきていた。大振りであろうがお構いなし。春雨を狙おうとした不埒者を成敗するために、自らに目を向かせるように迫撃する。
「そんなにアイツが大事かい。そりゃあそうだわな。辿り着く力はお前らにとっては切り札みたいなもんや。手放したくないやろな」
「アンタ達みたいに短絡的な損得勘定じゃないんだよ!」
そんな馬鹿になっていた自分が情けないと吐き捨て、艤装と連携するかのように白露も錨を振り回しながら突撃していた。
艤装の攻撃がさらりと避けられたとしても、その隙を狙って動く。
「春雨の力なんてどうでもいいんだよ。あたしの妹だから、みんなの仲間だから、それだけでいいでしょうが! 利用しようなんて思っちゃいないのさ!」
「くっさ。なんやその感情論。それで勝てるんならいくらでも言っとき」
しかし、白露の攻撃は龍驤を庇うように飛び出してきた大鳳が防いでいた。錨を直接掴み上げ、握り潰そうと力を込める。
実際、大鳳には
「春雨はなんかよくわからない力持っちゃったけど、ただの寂しがりやの女の子だ! あたし達が近くにいてあげたいってだけなんだよ!」
すかさず白露は魚雷を掌に展開して大鳳に投げつけた。ここで爆発したら白露も大ダメージを受けかねないが、四の五の言っていられない。春雨を守るため、龍驤を止める。
「物騒な攻撃ですね。ですが、効率的かもしれません。勉強になります」
その魚雷も大鳳は自分に当たる前にキャッチ。信管に触れることなく全ての勢いを消し去った後、その有り余る膂力を使って放り投げた。事もあろうに、それもまた春雨の方向へ。龍驤だけではない、大鳳も春雨のことを狙っている。
「させっかい!」
自分で放った魚雷なのだから、自分で対処すると言わんばかりに、即座に自らの主砲で撃ち抜いた。
本来海中で爆発するものを大気中で爆発させたものだから、凄まじい音と衝撃が発生。だが、春雨を守るために戦う白露は、全く勢いを止めることはなかった。
「私を無視するだなんて、いい度胸してるじゃない、
「何を言ってるの。貴女の相手は私でしょう」
その白露を止めるために、今度はコロラドが動き出そうとしていたが、それは戦艦棲姫が食い止める。
先程、龍驤は艤装が無ければコロラド1人でもどうにか出来ると言っていたが、戦艦棲姫は全く弱くはない。こんな状況でも希望は捨てていないし、むしろ負ける気なんてカケラも無い。その気持ちだけで本当に勝ちに行けるくらいの実力者。
「ほら、私1人ならボコれるんでしょう? やってみなさいよコロ助」
「はっ、それが望みなら叶えてあげる。無様に死ぬがいいわ!」
挑発に乗りやすいコロラドの特性を利用して、戦艦棲姫は1対1の状況に持っていけた。小さくほくそ笑んだのを、コロラドは見えていなかった。
うまく戦いやすい状態に持っていけている。数だけで言えば同じ数になれたのだから、うまくこれで耐久出来れば、そのままスタミナ不足に持っていけるはずだ。
それに、時間を稼げばもう1つ期待出来るものがある。それの到着の時間は、
「あれあれあれー? もしかして
この戦場にはあまり似つかわしくない、とても軽い声色。龍驤には今最も気に入らない声。
「その声……忘れへんぞ。北上ぃ!」
艤装との競り合いを放棄するほどに、一気に怒りが頂点に達した龍驤は、混じっている駆逐艦の力を最大限に発揮して突撃を始める。
その姿に、白露を食い止めている大鳳も、戦艦棲姫とぶつかり合うコロラドも、目を見開いて驚いた。ここまで余裕のない龍驤を見たことが無かったのだろう。
「おうおう、切羽詰まっちゃってまぁ。この前の負けがほんっとうに堪えたみたいだねぇ」
「じゃかあしぃわダボが! 今日はそのクソ生意気なツラ歪ませたらぁ!」
「やれるもんならやってみなよ。でも、アンタの攻撃はあたしには届かない。アンタはもう、
戦場に現れたのは、北上だけではない。その北上の前には、山風を筆頭とした白露型の妹達が揃っている。五月雨は秘書艦業務があるために参戦は出来なかったが、北上としては
それほどまでに、この3人は北上、延いては演習艦隊の皆に鍛えられている。かつての白露達トップの駆逐隊に勝るとも劣らない実力を手に入れていた。
「吐かせ! うちがそんな
「……うるさい」
すかさず砲撃を放ったのは山風。突撃してくる龍驤に容赦なく撃ち込み、その行動を止める。狙いは脚。殺すわけではなく、ただそこに
しかも、この砲撃は1発しか撃ってないように見えて
「おまっ、それ別のヤツのやろが!」
その一撃を、龍驤は知っている。鎮守府襲撃の際、大井が放った1音で2発放たれる砲撃。凄まじいコントロールと瞬発力が無ければ再現出来ないような、技と言っても過言ではない砲撃。
山風は大井からそれを学び、そしてそれを実践したにすぎない。しかし、元々の力があるからこそ再現出来たのだ。山風の力は、爆発的に上昇している。
「誰の技だろうが、勝てりゃいいンじゃね?」
そこに容赦なく突撃していたのは江風である。相変わらず主砲を
さらに、その主砲は
「小賢しいガキがぁ!」
「あっという間に余裕無くなっちまったねぇ。そんなに北上さんにやられたのが気に入らなかったのかい!?」
そしてさらに、涼風も突撃していた。その手には当たり前のように魚雷を携え、海中ではなくダイレクトに投擲。爆発したら致命傷になるのは確実であり、直撃してもその重みでかなりのダメージになる。
北上から最も鍛えられたのは涼風だろう。持ち前の視野の広さを伸ばされ、さらにはこの魚雷による多種多様な攻撃手段を叩き込まれたことで、古参ということもあり山風や江風以上に動ける存在へと成長した。
「このっ、鬱陶しいわ!」
「こっちのセリフ。わざわざ罠まで仕掛けようとして、本当に……鬱陶しい」
忌々しそうに呟く山風。確実に殺すような気持ちで、涼風の投げつけた魚雷を撃ち抜く。間近で爆発したことで、龍驤はその爆炎に巻き込まれることになり、途端に劣勢となり始める。
「まぁ相性ってのがあるんだろうねぇ。あっちのヒト達とは相性が良かったみたいだけど、あたしらにはこれだけやられちゃう。精神的にもキてるんじゃない? 鎮守府襲ってきて返り討ちにされてるから、身体が負けること覚えちゃったんだよ多分」
そう言う北上も、以前のトラウマを呼び起こすように魚雷のスクリューを回しながら龍驤に近付いていた。これでまた背中を抉ってやるぞと言わんばかりである。
「はっ、何が相性や。そんなもん」
「あるんだよねぇ。アンタのちっちゃなおつむじゃわからないかもしれないけど。ジャンケンって知ってる? 子供でも知ってることだけど、アンタは知らないだろうから教えてあげようか?」
一度勝っているというのもあるが、北上は龍驤に対しての言葉の圧が非常に強い。口撃には口撃をぶつけるのだと言わんばかり。煽る割には煽り耐性が低い龍驤には、これがまたやたらと効く。
「見てみな。あたしらだけじゃないよ。他にも救援入ってるからね」
そう、援軍は北上達だけではない。
例えば白露。大鳳と相対するところに加わったのは島風。そして、
「ほう、戦艦が混じった装甲空母か。やり甲斐があるなぁ!」
武蔵である。攻撃力と防御力を兼ね備えた大鳳に対して、最も効果的な圧倒的な力。島風もその全ての攻撃を回避するために相性は悪くない。
「お姉さまはヨナちゃんと合流して保護しました。なので、戦艦さんにはこの比叡が、気合、入れて、助けます!」
そして戦艦棲姫には比叡。艤装も含めて3人でコロラドと戦うこととなる。近接戦闘も可能な比叡が加わったことで、杖による打撃も余裕で対応できるようになった。
「このクソガキ共、ちぃと人数増えたからといい気になりおって」
「何言ってんだよ
人数まで当てられたことに驚く龍驤。白露や古鷹も本人込みで4人分であるため、当てずっぽうのようにも考えられるが、北上は確信を持ってそれを言い放つ。
「気付いたのはあたしじゃないよ。山風だ。誰が誰かはわかってないみたいだから、あたしが手を差し伸べただけ。とりあえずアンタの中身は特定したから」
「……ほう?」
「答え合わせしてみる? 龍驤、五十鈴、不知火、あとは……島風」
軽空母である龍驤を素体に、対潜性能が非常に高い軽巡洋艦五十鈴と、駆逐艦の中では最も徒手空拳が得意であろう不知火、そして回避性能がトップクラスである別個体の島風が入ったことで、今の龍驤は完成している。
この中でも特にわからなかったのは不知火。駆逐艦の候補は多数いたのだが。ここで不知火と断定出来たのは、やはり龍驤が出来る以上の格闘が出来たことが大きい。というのも、ここは大将にも調査してもらったというのもあるが。
「……正解や。ようわかったな」
「こっちには仲間がいるんでね。アンタ達みたいな自意識過剰じゃないんだわ。わからないことは仲間を頼るし、自分の弱さも知ってんの。だから、強くもなる。アンタ以上にね」
ここからが第三ラウンド。人数も増えたことで、勝率は一気に上がる。