戦場に鎮守府の面々がついに到着。押され気味だった戦艦棲姫達は、この援軍のお陰でより活力を得ることになる。元々負けるつもりはなかったし、敗色濃厚というわけでもなかったが、ここでの後押しは非常に心強い。
戦艦棲姫は自身の艤装との連携を再開することが出来た上に、比叡が参戦してくれたおかげで、相手をしているコロラドに対してかなりの有利を得ていた。
「ヒエー! なんなんですかこのヒト! 杖の先っぽに主砲ですか!?」
「ええ、だから注意しなさいよ。当たったら終わりと思いなさい」
「りょ、了解ですっ。それごと斬りますから!」
早速比叡は艤装を変形させて2本の刀剣をその手に。コロラドが近接戦闘を仕掛けてくるようなので、対応して自分もとしたようだ。
しかし、コロラドのそれは杖であり主砲。振り回しながら、超至近距離で砲撃を放つとんでもない兵器だ。いくら戦艦だとしても、直撃は致命傷、掠るのも重傷となる可能性は非常に高い。
それ故に、戦艦棲姫もそこだけはすぐに忠告した。せっかくの連携なのだから、比叡にも怪我を負ってもらいたくはなかった。
「私を斬るですって? はっ、冗談はやめてちょうだい。たかだか艦娘如きがやれるとでも?」
「当然です! そのために私はここに来ているんですから!」
「あっそ。ならアンタから終わらせてあげるわ! 自分の発言を後悔なさいよ!」
話しながらもいきなり杖を比叡に向ける。それは勿論主砲側だ。距離としてはかなり近いため、ここで狙われると回避は至難の業。
だが、比叡はお構いなしに真正面から突き進み、直撃も厭わずに間合いを詰める。
そんな比叡に対して、コロラドはおろか、戦艦棲姫も目を丸くしてしまった。まず間違いなくそんな行動をする者はいない。艦娘の駆逐主砲ならまだしも、深海棲艦化したことにより火力が跳ね上がっている戦艦主砲相手にこの勢いなんて、度胸があるとかそういう話ではない。
「でぇあああっ!」
そしてこの声。凄まじい圧をかけながらの突撃で、艦娘のことを格下だと思っているコロラドを微かにでも退がらせた。
「なんなのコイツ!
だが、それでたじろぐだけで終わらないのがコロラドである。しっかりと主砲で比叡の胸に狙いを定めて撃ち放った。
避けなければ一撃で命を奪い、かつ、避けづらさを重視する身体の中心を狙う、咄嗟とはいえ完璧な照準。普通ならこれは回避不能。
だが、
「斬り払ぁい!」
軽く身体を倒したかと思いきや、宣言通りその砲弾を真っ二つに斬り払い、さらには
砲撃を斬り払うだけならば、その軌道上に刃を立てれば可能かもしれない。しかし、縦方向にもう一度斬るというのは神業に近かった。
「からのぉ!」
呆気に取られた瞬間、比叡は既にコロラドの懐に入っていた。戦艦ならではの巨大な艤装で突っ込んできているため、風圧すら感じるそれに、コロラドは我に返る。
このまま斬られたら間違いなく上半身と下半身がお別れすることになる。しかも比叡が持っている刀剣は2本だ。簡単には避けられない。
「どりゃあああっ!」
「させないわよ! 艦娘如きの攻撃でぇ!」
しかし、そこは魂の混成をされた深海棲艦コロラド。杖を消してから即座に展開し直すことで、比叡の斬撃を食い止められる位置へと移動させた。
比叡の刀剣も深海合金を組み込んだ強固な刃なのだが、コロラドの杖は純正の深海棲艦の艤装な上に主砲の性能を兼ね備えているため、それに輪をかけて硬い。ギンと激しい音と火花が散ったものの、互いに無傷。刃こぼれする事も無かったが、杖に傷がつく事もなかった。
「もう少し自分を大事にしなさいよ」
その鍔迫り合いが発生した瞬間、戦艦棲姫は主砲を構えてコロラドのみに狙いを定めていた。
比叡の陰になるような場所、ギリギリ衝撃波すら比叡に与えないような絶妙な位置から、コロラドのみを
「させないわよ!」
だがやはりコロラドはまだまだ
さらにはまた再展開を繰り返してベストなポジションに配置した杖から、比叡に向けて砲撃を放つ。
「効かなぁい!」
そして、比叡は鍔迫り合いによって拮抗していた力のバランスが崩れた事でつんのめりかけたが、即立て直してその砲撃を斬り払う。しかし今回は斬り払った砲弾が比叡の腕を掠めて小さな傷を作った。
まだこの斬り払いは、無傷まで持っていける技能ではないのである。正面から斬ったところで、そのままの勢いで二手に分かれて貫かれるだけ。あくまでも斬るのみ。
それを解消しているのが、2本の刀剣による連撃。1本目で砲弾を斬り、2本目で払う。これによって自分への被害を最小限に抑えているに過ぎない。
「寄ってたかって鬱陶しいわね!」
「さっきまで私に3人がかりで向かってきたのは何処の何奴よ。寝言は寝てから言いなさい」
理不尽なイチャモンをつけるコロラドに、次は艤装が追い討ちをかける。もう逃がすつもりはないと言わんばかりに跳び、掴みかかるかの如く残されたもう片方の拳を握りしめて振りかぶる。
「どうせ貴女も混じってるんですから、これでどっこいどっこいなんでしょう! 数に有利も不利もなぁい!」
さらには、艤装と連携するように比叡も飛び出していた。だが、刀剣は1本となり、もう片方の刀剣は艤装に仕舞い込まれたと同時に主砲へと変形。艤装の形状を半々とすることで遠近両用とした。
どちらかに偏った運用ばかりしていた比叡には、このやり方は少しだけバランスが悪く感じていたが、この短期間で扱い方を学んでいた。
「ったく、このコロラドが! 野蛮な連中に! 負けるわけないでしょうがぁ!」
コロラドも数人分の力をコントロール出来る戦艦だ。武器は杖だけではない。
背中から何を思ったか
そして、その隙間から杖を突き出し砲撃。攻防一体の攻撃に、流石にまずいと感じたか比叡も艤装も一旦退く。艤装はハサミから強引に腕を抜いたため、削がれるような傷が付いてしまった。
「かったいですねぇ! なんですかそのカニの甲羅は!」
「エビのハサミ……? 貴女に混じってるの、もしかして
核心を突く戦艦棲姫の言葉に、コロラドはフンと鼻で笑いながら答える。
「ええ。私には
「なるほど、そういうこと。だからそんな華奢な身体でも杖の先にある主砲なんてものを無反動で撃てるわけね。厄介極まりないわ」
だが、妙に幼稚なその思考回路で使いこなせているかもわからない。ただ使えるものを使えるように振り回しているのみ。
ならば勝てる見込みはまだまだあるだろう。それに、隣に仲間がいるのだ。1人じゃない。
一方、大鳳と戦う白露。援軍として現れた島風と武蔵と連携し、たった1人の装甲空母を追い詰めようと必死に立ち向かう。
その大鳳は、どれだけ敵が増えようとも無表情で全てをいなしていく。今の段階でやれることは、ボウガンのような艤装から放たれる戦艦主砲並みの砲撃と異常なスペックを持つ艦載機。そして、掴まれたら終わりであるほどの膂力。
遠近共にシンプルに高スペックである上に、感情を見せずに淡々と攻撃をしてくるために付け入る隙もない。
「やたらと速い駆逐艦と、武器を好き勝手変える駆逐艦、それと……」
白露と島風の攻撃をいなしながら戦況を分析している大鳳。その目からして、駆逐艦はそこまで問題として考えてはおらず、最重要は武蔵であると睨んでいる。
実際、この攻防の中でも、武蔵の一撃だけは絶対に喰らってはいけない高火力。深海棲艦のそれとほとんど変わらない主砲を、これでもかというほどに連射してくる。そこに仲間がいるのにだ。
「余程、仲間を信用していると見えますね。それに、信頼されています。貴女が折れれば、貴女方は確実に瓦解する」
「ほう、いい読みだ。だが、それは間違っているな」
白露からの錨は当たり前のように掴み、それを振り回すことで白露ごと処理。しかも、それを島風にぶつけるように対処するため、1人の攻撃を2人に返すという頭脳派な戦いを繰り広げている。
それでも、武蔵はまるで動じない。勝ちを確信しているように微笑みながら、2人に当たらないように砲撃を繰り返した。
「私が倒れても、誰も動じんよ。いや、むしろ逆に力を増すだろうな。貴様などでは及びもつかない程に。だが安心しろ。そうなることはあり得ない」
「断言するんですね」
「ああ、私はこの程度では倒れない。貴様がどれほどの力を持とうが関係ないんだ。それに、そもそも私だけを見ていると足を掬われるぞ。なぁ!」
その言葉に応じるように、吹っ飛ばされた白露は倒れることなく海面に足をつくと、島風と共にさらに前へ。
「あたし達も負けない!」
「おうっ! こんなところで倒れたら、速くないもん!」
初めての連携であるために最初は少し息が合わなかったが、そこはどちらも熟練者。今は白露自身と時雨のスタイルの混合であり、冷静な判断と統率力を兼ね合わせた連携に最も適したモノ。対する島風は仲間思いからの読解力で白露のことを理解していき、自分が前に出るとしても白露にも影響を与えすぎないくらいの攻め方を心掛けている。
今や、昔からの仲間だったのではというくらいに息が合っていた。島風が狙われれば、白露が即座に対応し照準を引き剥がす。白露が狙われれば島風が即座に対応し雷撃で未然に防ぐ。
「そうですか。確かに3人が3人、厄介なようです。ですが、私も3人分ですから、後れは取りません。それに、そもそものスペックは幸いにもこちらの方が上です。対応させていただきます」
それだけの攻撃を集中しても、大鳳はまるで崩れる様子はない。在り方は歪んでいても、真正面から正々堂々とその力を見せつけるように全てに対応するため、むしろ一番厄介なのではと武蔵も考える。
今までの敵のタイプとはまた違った存在なのが大鳳だ。他者を罵るような物言いもせず、小狡いようなこともしない。冷静に、あくまでも冷静に物事を処理していくある意味機械的な行動。悪意の塊による歪みで感情そのものを失っているようにすら見えた。
「なるほど、あの3人の中では貴様が最も怖いと見える。穴が無い。だからこそ、ここには私と島風が助けに入るべきだったようだ。この配分は間違っていないな」
「へぇ、そうなんですか」
「ああ、それを身体に教えてやろう。我々がここを任される理由を、なぁ!」
ここで武蔵も突撃。砲撃を捨て、その拳に力を込める。本来艤装側に備え付けられる主砲が、今この時のみその腕に装着された。
その主砲は火力だけでは無い。
「計算や直感では抗えないほどの、圧倒的な力を見せてやろう!」
そして、その拳を大鳳に叩きつけんが如く振り下ろした。並の拳では無い。これも直撃すれば致命傷といえる、殆ど鈍器による渾身の一撃だ。
流石にまずいと思ったか、大鳳は表情を変えずとも大きく下がった。そのついでにボウガンから武蔵に対して砲撃を放とうとするが、そこは白露がしっかりカバー。鎖のついた錨を振り回し、武蔵の隙を補う。
大鳳からの反撃の隙を与えない、3人がかりの突撃。防戦一方に追い込まれれば、必然的にジリ貧に出来る。
「っ……」
「もう考える暇など与えん。それに、私ももう考えん。こんなに頼もしい仲間がいるのだ。考える必要もない! 貴様を斃すまで、正面からぶつかり続けてやろう!」
その武蔵の言葉に鼓舞され、白露と島風も一層力が入った。ここまで信用されているのだから、期待に応えたい。そのためには、仲間を信じて突撃する。これだけでいいのだ。
戦いは続く。だが、劣勢では無い。心も後ろを向くことなく、彼女達は常に前を向き続けて挑んでいく。