空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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完膚なきまでに

 大鳳とコロラドの戦いが続く中、龍驤との戦いも進む。龍驤の中に他に3人がいることは確定しており、その力もおおよそわかっているため、それに対抗するための行動を取り続けることに専念する。

 調査隊の隊長は山風だが、この場では北上が指揮を執る。駆逐艦のことをウザいウザいと言う割には、今回に関しては自分から山風達を従えるつもりでここに来ているのだから、やはり子供好きであることは否定出来ない事実。

 

「寄ってたかって、鬱陶しいっちゅーねん!」

「どの口が言うんだろうねぇ。鎮守府に深海棲艦の群れを連れてきておいて。まぁ今までもそういう(こす)い手しか使ってこなかったんでしょ。そうじゃなきゃ勝てないんだもんねぇ」

 

 北上の煽りは一切止まらず、常に言葉を投げかけつつも、駆逐艦達と共に龍驤に圧をかけ続ける。特に江風は完全に近接戦闘一本に絞っており、山風の砲撃や北上と涼風の雷撃の隙間を狙って直接殴りかかっているのだから、余計に勢いが増す。

 それがとにかく龍驤の癇に障っているようだった。北上に対しての苛立ちは募る一方なのに、それに輪をかけるような江風の行動は苛立ちを加速させる。龍驤の敗北の中には、江風に直接殴られるというものもあるため、北上には及ばないものの江風にも怒りの矛先は向いていた。

 

「そもそも、馬鹿みたいに他人を煽っておきながら、自分がやられたらムキになって暴れ回るとかガキかって話なんだよ。まだこの駆逐艦達の方が大人だ。ただのワガママなクソガキなんだよアンタは」

 

 これでもかと言うほどに煽り続け、さらには魚雷を投擲。鎮守府での戦いと同じことをしているに過ぎないのだが、それすらも敗北に繋がる行為であるため、龍驤の精神はどんどん追い込まれる。

 

 しかし、大鳳とコロラドを纏めていた司令塔の役割を与えられていただけあり、それだけで完全に崩れることはない。顔に怒りを表しながらも、その行動の精度はそこまで下がっていなかった。

 江風の近接戦闘はヒラリと避けつつカウンターを狙い、山風の砲撃はそのタイミングをズラさんがために砲撃を合わせる。雷撃には自らも魚雷を放つことで、確実に自分へのダメージを軽減していた。

 

「言わせておけば調子に乗りおって。まぁ好きに言えばええ。結局は実力でひっくり返るんやからなぁ!」

「やってみなよ。アンタが成長してるってんなら、あたしらはそれ以上に成長してんだ。そうだよなぁ、駆逐艦(ガキ)共ぉ!」

 

 北上の鬨の声が響いた瞬間、駆逐艦達の圧がさらに上がる。山風の砲撃はさらに精度が上がり、毎度毎度の砲撃が1発で2発放たれる連射に。涼風の雷撃は仲間達の隙間を縫うような軌道で龍驤へと向かい、江風の突撃はその全てを邪魔することなく龍驤の死角を突くような動きとなる。

 だが、龍驤は未だに使っていないモノがある。鎮守府での戦いでも、千歳と千代田に食い止められ続けていた艦載機。今この時も常に高高度からの監視を続けているため、死角は無い。江風の挙動は全て筒抜けであり、どれだけ精度が上がろうがしっかりと回避。

 

「うちは空母やぞ。今まで加減してやっとったが、もう知ったこっちゃあらへん。ここで皆殺しや!」

 

 宣言通り、主砲を巻物へと変化させ、一気に全機発艦。それを殆どゼロ距離で受けることになった江風は、まるで鳥の群れに襲われたかのように艦載機に突撃を繰り返され、さらには機銃による射撃まで放たれる。

 

「っべぇ! 一時撤退だ撤退!」

 

 その射撃は掠る程度で回避したものの、これでは近接戦闘は無理だと判断したか、逆手に持っていた主砲を本来の向きに持ち替え、眼前に迫る艦載機を撃ち墜としながら下がる。

 その艦載機は殆ど群れだった。艦娘の扱う艦載機とはまるで違う、殆ど生体兵器のようなモノであるソレは、龍驤の周囲を飛び交いながらも射撃を繰り返し、一部が上空へと舞い上がったかと思えば、即座に爆撃を開始。

 

「ハッハハ! お前らなんぞにはもう近付かせん! これがうちの本気や。全部避けてみぃ!」

 

 さらにその隙間から魚雷が放たれるという、360度全てを網羅した一斉攻撃。回避出来る場所を無くし、必ず殺してやるという意志が表現された、凄まじい一斉射。

 

 これには北上も変な声が出ていたが、もう分析は終わっていた。

 

「そもそも、本気だとか言わない方がいいんじゃない? それ、ミジンコみたいなスタミナを消費してやるような技でしょ。なーにが今まで加減してただ。疲れたくないから自分の意思でやらなかっただけなのに、今更本気出しますとかクソダサいっつーの」

 

 龍驤のコレは、当然ながらメリットだけではない。これだけの連射と密度を維持しようとすれば、自ずと体力を使っていくのは必然。いくら最初からスペックが艦娘を超えていようが、それは変わらない。

 ならば回避し続ければいいだけ。ただでさえスタミナ不足が露呈している龍驤がこうしてきたのだから、その消耗を待っていればいい。

 しかし、北上はこうしてくる理由も考える。怒りで後先考えなくなっているというのもあるかも知れないが、こんな自滅するようなことをするのには何か理由があるのでは無いか。

 

 とはいえ、まずは回避しなくてはどうにもならない。爆撃も魚雷も直撃は死と直結するわけだし、射撃だって当たりどころが悪ければアウト。むしろ、上から下から正面からと3方向から一斉に攻撃が来ていることが問題だ。

 金剛の盾のような防御策があれば何も問題は無いのだが、不幸にもそういうものは誰も持っていない上に、北上も加えて耐久力が低い者達ばかりが揃っている。全回避が絶対条件。

 

「北上さん……とりあえずあの艦載機墜としていくから」

 

 ボソリと呟いた後、山風が龍驤を的確に狙い、周囲を飛び交う艦載機を確実に墜としていく。当然回避しながらになるのだが、そこは練度の高い山風だ。全て紙一重で避けながら攻撃を繰り返す。

 

「江風達も続くぜぇ!」

「おうさ! 魚雷はあたいに任せろー!」

 

 江風と涼風も負けてはいない。山風に倣って、全ての攻撃を避けながら艦載機を対処していった。合間に放たれる魚雷は、涼風が必要最低限を破壊して被害を最小限に食い止める。

 嫌でもダメージは入っていくのだが、言うほどでは無い。チリも積もればとなるかも知れないが、まだそこまでのダメージにはならない。だが避け続けるのにも体力がいる。

 

「ただ耐えるだけもいいけど……()()()()()()()()()()()()()()

 

 なかなか強い言葉が山風から飛び出した。あの龍驤には山風もイライラしているようだった。

 常にこちらを見下すような視線。怒りを露わにしている理由も、格下にやられたことが気に入らないからと、あくまでも自分が上位であるという態度を変えない意思。その何もかもに、山風はいい加減嫌気が差していた。

 

「ちゃんと斃す……正面から、正々堂々と、完膚なきまでに」

「耐久でもいいかもしれないけど、それだとアイツ言い訳しそうだもんね。いいねぇ、それ。シビれるねぇ」

 

 ただ勝つだけならスタミナ不足を狙って耐久を続ければ勝てるだろう。だが、それでは龍驤は難癖をつけて負けを認めないまである。調子付いた状態から何も変わらない。

 もう二度と楯突かないと思えるくらいに完膚なきまでに敗北を味わわせなくては、龍驤はどうにもならない。後のことを考えれば、ここで心を折る必要がある。

 

 そんな山風の過激な発言を、北上はケラケラ笑いながら称賛した。

 

「何わろてんねん! 死を前に諦めたんか!?」

「はいはい、アンタにはそう見えるんだろうねぇ。アンタの中ではそうなんだろ。アンタの中ではな」

 

 全方位に放たれる爆撃、射撃、雷撃をうまく躱しながら、付け入る隙を探す。こういうのは山風や涼風が得意だろうが、北上もその辺りは得意な方。ここには目がいい者が3人もいるのだから、確実に打開策は見つかる。

 

「涼風、アンタは対空。やれるよな?」

「あたぼうさぁ!」

 

 指示と同時に雷撃をやめて対空砲火に切り替え。爆撃を未然に防ぐために射撃も雷撃も全て無視して上を見る。

 

「江風、涼風を守りつつ雷撃を防ぎな」

「了解! 涼風は江風が守るぜぇ!」

 

 その対空砲火を補助するように江風が動く。射撃に関してはまだ見えるかも知れないが、魚雷に関しては意識もすることが出来ないだろう。それを江風がサポート。

 

「山風、アンタはあたしと」

「うん……真正面から……壊す!」

 

 そして山風は北上と共に龍驤へと突撃を開始する。その鼻っ柱をへし折るために、山風としては少し無理をしているかもしれないが、いつも以上に前向きに敵を見据えていた。

 

 近付かせないための艦載機の群れのど真ん中を、お構いなしに突っ込むそれは、龍驤には気が狂ったかのように見えただろう。だが、勝算がない状態でそんなことはしない。

 魚雷に対しては山風が砲撃と雷撃を組み合わせて処理。いくら水柱が立とうが、そのど真ん中を突っ切って龍驤に接近するのを止めることはない。近付けば近付くほど射撃を回避することは難しくなるだろうが、それすらも計算の上。擦り傷程度なら考慮せず、ギリギリの隙間を掻い潜る。

 涼風と江風が見えないところからの攻撃を全て防いでくれているため、何の心配もなく突っ込むことが出来た。横から何か来ることもない。後ろからは尚更だ。前だけ向いていればいい。

 

「なんや、なんなんやお前らは! なんでそんなに……」

「んなもん決まってんだろ」

 

 射撃の紙一重の回避は北上も同じ。山風と一緒に、身体を少しずつ傷付けながらも、最近扱い方が雑だなと苦笑しながら艦載機の群れの中に魚雷を放り込んだ。

 龍驤を守るように飛び交うそれにコツンとぶつかった瞬間、並ではない爆発が発生。自分で引き起こした爆発だからか、一切の躊躇なくその爆発に飛び込んだ。

 

「これ以上、好き勝手させたくないんだよアンタに。こっちが害被るのも嫌だけど、残念ながらアンタも侵蝕されてるクチなんだから、さっさと救ってやらないといけないって思ってんだ。建前でも」

 

 艦載機の群れに確実に穴が空き、そこを少し火傷した北上と山風が突っ込んで来ていた。群れによって守られていた龍驤も、その内側に入られたらもう自分を守ることが出来るのは自分しかいない。

 ここまでされると思っていなかった龍驤は、咄嗟に主砲を構える。しかしその時にはもう遅い。主砲を持つ腕を山風が撃っていた。直撃は免れたが、肉を削ぐような砲撃に思わず主砲を落としてしまう。

 

「っが……!?」

「これだけやったんだから……もう終わって」

 

 低く、怒りの篭った山風の呟きが、龍驤に届いた。ゾワリと冷たい汗が背筋を伝う。

 

「やらせるかい!」

 

 だが、タダでやられるほど龍驤も甘くない。ここまで来られたのなら仕方ないと、最後の手段である徒手空拳に打って出た。

 北上はともかく、山風はそういうタイプではないのは見ればわかる。殴りつければ撃退は出来るだろうと踏んで、その手を伸ばす。

 

「やらせないのはこっちのセリフなんだよ」

 

 その手は山風に届かない。伸ばした手をさらに伸びた北上の手が掴み上げる。いくら膂力があろうが、一瞬掴まれればその動きは鈍くなる。それだけの隙があれば、今の山風には充分だ。

 

「山風!」

「……うん!」

 

 山風は改めて主砲を構える。狙うのは龍驤の腹。これなら生死ギリギリのところで止められる可能性が高い。

 

 

 

 

「避けないで」

 

 そして、砲撃。1発で2発分放たれた砲撃は、龍驤の両脇腹を見事に穿った。

 




支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/95637407
MMDアイキャッチ風戦艦様。旅人なのに、ここ最近はずっと施設に居候させてもらってる彼女。またこんな風に着の身着のまま旅に出られるようになってもらいたいものです。
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