空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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本当の目的

 仲間達の力を借りて、山風の渾身の一撃は龍驤の両脇腹を穿った。ど真ん中を撃ち抜いてしまったら、いくらなんでも死んでしまう。だが、掠めただけならば重傷にすら至らない。この一撃は、どちらでもないちょうどいい場所。

 龍驤も反応は出来ていた。混ぜられている島風の力で、本来の空母としての速度とは一線を画した回避性能を発揮したのだが、それは僅かに間に合わず、しっかりと砲撃はダメージを与えていた。

 

「っぎ……!?」

 

 思わず息を呑む。先に腕を抉られているが、それ以上の痛みが龍驤を襲った。その全てが山風によって引き起こされたもの。今までは北上に対しての怒りばかりだったが、ここに来てダークホースとも言える存在が頭角を現した。

 その山風は、冷ややかな目で龍驤を見ている。これで終われと言わんばかりに。むしろ、さんざんこちらのことを格下と見ていた龍驤を見下すかのように。

 

「まだや……まだ終わらへん。そんな目で見んなぁ!」

 

 痛みを堪えながらも、脇腹の傷を塞ぐように、服が包帯のように変化し傷口をしっかり締め付け、さらには白露や古鷹にやらせたように体内に艤装を展開することで強引に止血。激痛に苦しむものの、敗北だけは絶対にしないと心はまるで折れていない。

 そして巻物を展開。まだ艦載機を発艦させようと力を込めるが、その瞬間を見逃さずに北上がそれを蹴り飛ばす。

 

「やらせるわけないでしょ。もうアンタは終わりなんだよ」

「まだや……!」

 

 飛ばされた巻物が消滅したかと思えば、落としたはずの主砲をコロラドの杖と同じ要領で再展開。間近にいる山風に向けてその照準を定めた。

 しかし、最初からそうするのではないかと考えていた山風は、砲塔が自分に向く前に撃ち、その主砲を破壊する。深海の艤装であるために主砲とて簡単には破壊出来ない代物なのだが、今の山風は一味も二味も違った。相変わらずの1発で2発撃つ砲撃が、()()()()()()()()()()()ことによって、どれほど強固であっても破壊してしまった。

 

「まだまだや、うちは終わらへん! 離れろやダボがぁ!」

 

 まだ諦めることなく魚雷を放つ。流石にこの超至近距離で対処は難しく、だからといってジャンプでやり過ごすのは隙を見せることに繋がる。

 北上と山風は、仕方なく龍驤から離れ、すぐさま魚雷を処理。それを隙と見たか、水柱に隠れて2人から一気に遠ざかる。間合いを取ればまだ立て直せると信じて。

 

 だが、龍驤は自分に苦汁を飲ませた北上と山風しか視界に入っていなかった。ここにはまだ、仲間達がいる。

 

「何逃げようとしてンだよ」

 

 涼風と共に身を守っていた江風が、既に龍驤の後ろに回り込んでいた。主砲は再び逆手に持つことで近接戦闘スタイルに。ここで追い討ちとして撃とうものなら、龍驤は確実に命を落とすため、あえて拳を使う方を選んだ。

 

 江風としては、別に撃ってもいいとすら思っていた。前回の鎮守府での戦いでもそうだが、やたらと言い方などが気に入らない。生かしておく理由があるのかと考えた程である。

 しかし、龍驤だって白露や古鷹のようにただ利用されているだけの存在。哀れな被害者の1人だ。悪意の塊のせいで性格を歪められているせいで、こんな物言いになっていると理解している。

 そのため、苛立ちはあれど命は奪うまいと最初から決意してこの場に立っている。殺したくても、殺さない。

 

「さんざんやっておいて、不利になったら逃げるだなンて、無ぇよなぁ!」

 

 逆方向に空砲を放ち、その勢いで拳を打ち込む。その狙いは、よりによって山風によって抉られた脇腹。追い討ちにも程がある。

 

「黙れやカスがぁ!」

 

 しかし、まだまだ諦めるつもりはない龍驤。その一撃すらも綺麗に打ち払い、お返しと言わんばかりに江風の顔面に拳を叩き込んだ。

 江風のそれより勢いは無いものの、容赦ない反撃に江風は少しだけフラつく。だが倒れない。北上や山風がアレだけやったのだ。身体まで張って。ならば自分も同じように身体を張らずしてどうする。その思いが、江風をさらに先へと進ませる。

 

「テメェに言われたかねぇよ!」

 

 さらに空砲を放ち、自分の身体に鞭を打ってその拳を突き出した。次は回避もさせずに龍驤の顔面に直撃。やられた分と合わせておあいことなる。

 

「江風、ちょいと退きなぁ!」

 

 そこへさらに涼風が参戦。艦載機が全て無くなったことを確認出来たため、すかさず雷撃で龍驤を牽制した。

 直撃は致命傷に繋がるものの、今の龍驤の心を折るためにはこれくらいしなければどうにもならない。

 

「っざけんなぁ! うちはまだ負けん言うとるやろがぁ!」

 

 何処にそんな力が残されているのか、またもや360度全てに艦載機を発艦させて自らを守る。涼風からの雷撃は艦載機からの射撃で処理し、再び先程の状況を作り上げる。

 

 が、北上も山風も、それに対して無理な攻撃をしようとはしなかった。江風や涼風もだ。

 何故なら、その射撃は元より、爆撃や雷撃も相当雑。素人でも避けられる程度の出力しか出ていない。

 

「お疲れさん。もうスタミナ切れでしょ。おしまいなんだよアンタは」

 

 敵側の元艦娘のほぼ全てに共通する欠点、スタミナ不足。その限界がついに龍驤に訪れた。

 ただでさえ無茶苦茶な攻撃をし続けていたのに加え、腕や両脇腹に怪我を負っているのだ。その上で逃げるために動き回り、さらに無傷の時と同じようなことをしようとしているのだから、すぐに体力なんて尽きてしまうだろう。

 

「いい加減に諦めろっての。あたしらはアンタを取って食おうってわけじゃ無い。()()()()()()()としてんの。とはいえ、死ぬほど痛い目を見てもらわなくちゃいけないんだけど、その傷で充分じゃないの?」

 

 溜息を吐きながら見下した視線で龍驤に語りかける北上。そんな態度も全て気に入らない龍驤は、歯軋りしながら主砲を北上に向けた。

 だが、もう主砲を持って腕を上げることすら難しいほどに限界に近い。消耗し続けて、艦載機の数も自然と減っていく。

 

 だが、泥を吐き出すようなことはない。まだ致命傷には届いていない。もしくは、吐き出すのをどうにか耐えている。

 

「何がアンタにそうさせるのさ。逃げるなら最初っから逃げればいいでしょ。それでも追いかけてこうしてたけど、スタミナ不足を考慮しなすぎる。まるで()()()()()()()()()()()()()()……」

 

 そこまで話して、北上は思い出した。鎮守府での戦い、最後に戦況をひっくり返したのは、混ざり過ぎていて何者かもわからなかった謎の潜水艦の存在。それが、ここまでの状態になっても表に出てくる気配すらない。

 今更ながら謎の潜水艦の存在も考慮しなくてはいかなかった。とはいえ、今この海域にいるとは思えない。別行動中なのか、それとも感知出来ない何かがあるのか。

 

 しかし、この龍驤の行動は、明らかに北上達の動きを自分に引きつけておこうとするものが交じっていた。そこにようやく気付けた。

 

「あのさ、()()潜水艦は来てんの? いるなら何処にいんのさ」

 

 北上からのその言葉を聞いたことで、龍驤は疲労の中でもニタリと笑った。

 

「ようやっと……そっちに気付いたか。へっ、誰が教えたるかい」

「……今、目が向こう向いた」

 

 その視線の動きに即座に勘付いたのは山風。その方向は、()()()()()

 

「えっ……まさか……()()()()()()()()()()……!?」

 

 そして、全てが繋がる。

 

 

 

 

 一方、その3組の戦いの外、泣きじゃくるジェーナスを慰めている春雨。海風もその傍から離れず、周辺警戒を欠かさない。海の上から海の中まで、隅から隅まで隈なく確認している。

 深海棲艦化したことで、電探からソナーまであらゆる力を使えるようになっている。当然、春雨の直感や叢雲の感知には程遠いのだが、艦娘だった頃から考えれば格段に強化されているのは間違いない。

 今の春雨は完全に無防備だ。ジェーナスのために全神経を使っているようなもの。それを守るのが自分の役目なのだと、海風は今は特に気合を入れてそこにいる。このドサクサに紛れて春雨を始末しようとするような輩がいれば、容赦なく牙を剥くだろう。

 

 そんな海風が特に気にしているのは海中の敵。目に見えないところからの攻撃は、今されるとまずい。ジェーナスがそこにいる以上、目に見えている敵と比べれば咄嗟の判断はさらに難しくなる。

 

「……ん?」

 

 そして、入念に確認していたからだろう。その違和感に気付いた。ソナーの反応がおかしい場所がある。

 

「……敵? 敵ですね?」

 

 それに気付いた瞬間、その反応から明確にわかる反応が飛び出した。それは確実に魚雷。狙いは確実に春雨。

 

「雷撃来てます!」

 

 気付いた時には声が出ており、身体も動いていた。春雨の命を守るため、その魚雷を排除するため。

 海中に砲撃を放ったところで、真下から来るような角度の魚雷を破壊するのは難しい。ならばと、それに合わせるように海風も魚雷を放った。タイミングが合うかはわからないが、春雨を守るためなのだ。一発勝負でも必ず成功させてみせる。

 

 その気合が成功に導く。春雨に届くよりも遥かに先に、魚雷同士が衝突した。しかし、魚雷2本分の爆発は半端ではなく、本来起きる以上の水柱が時間差で発生した。

 その場所は、春雨のほぼ真下と言ってもいい。それに巻き込まれることになった春雨だが、抱きかかえていたジェーナスのことは絶対に離すことはなく、そこからすぐに退避した。

 

「連射、来ます!」

 

 だが雷撃はこれだけでは終わらない。春雨が避けた方向に追尾するように、次々と次の魚雷が発射され続ける。1本ずつ、丁寧に、海中から春雨の動きをトレースするように、ダダ漏れの殺意を隠すことなく。

 

「ジェーナスちゃん、ちょっと我慢してて」

 

 状況が変わっても立て直すことが出来ないジェーナスに優しく語りかけた後、春雨はまるで何処に魚雷が来るかを把握しているかのように海上を動き回った。

 春雨の通った場所を表すかのように魚雷が飛び出しては、その場で爆発していく。その全てが直撃すれば跡形もなく木っ端微塵にされるほどの一撃なのだが、その爆風すらも受けないレベルで回避を続けていた。

 今この時にも、春雨の直感は冴え渡っている。ジェーナスを救うときのように瞳が輝くようなことは無いのだが、一度目覚めた力の余波か、この上なく性能が高まっている。

 

「春雨姉さんを狙うとは、不届き千万。確実に沈めます」

 

 春雨ばかりを狙うその魚雷に腹を立てた海風は、相手が何者であるかなど関係なく殺すつもりで爆雷を用意。これでもかというほど海中に投射し続ける。

 だが、あちらもかなりの上手。爆雷をヒラリヒラリと回避し、その間も攻撃の手を緩めない。

 

 春雨はジェーナスを抱きかかえているため、反撃は不可能。ただ逃げ回ることしか出来ないが、このままではジリ貧になる。

 だが、このまま施設に戻るのは得策では無い。あちらに施設の場所を教えるようなものだ。それだけは絶対に避けなくてはならない。

 そうなると、春雨が執る手段は1つしかなくなる。あちらが諦めるまで避け続けることだ。

 

「姉さんは避け続けてください。私が処理します」

「殺しちゃダメ。この魚雷撃ってきてるヒトも、多分泥にやられたヒトだよ」

 

 泥という言葉を聞いてジェーナスがビクッと震える。やはり完全にトラウマとして刻まれてしまっている。言葉だけでもこうなってしまうのは、可哀想にも程があった。

 

 だがここで、予期せぬ援軍がやってくる。施設の方から駆けてきたのは、叢雲と薄雲。

 

「まずいことが起きたわ!」

 

 そして第一声がコレである。こちらでは現在進行形でまずいことが起き続けているのだが。

 

「春雨姉さんが狙われること以上にまずいことですか?」

「アンタの春雨至上主義は今はいいのよ! 本当にまずい!」

 

 叢雲がここまで焦っている姿は見たことが無かった。そのため、余程切羽詰まっているということがわかる。

 

 そして、次の言葉で驚愕することとなる。

 

 

 

 

「施設が、奴らに見つかったわ!」

 

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