空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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忍び寄る者

 時は少し遡る。

 

 春雨達が援軍に出て行った頃の施設。バタバタと飛行場姫が施設の中に入ってきたことで少し騒めき立つ。勿論その後は叢雲の耳にも入り、何事かと薄雲を引き連れてダイニングへ。

 鎮守府への通信は既に終わっていたものの、中間棲姫はまだダイニングにいたため、春雨の悪寒の件をそこですぐ話すと、それは大変だとすぐにまた鎮守府に連絡をする。

 

「妹姫、私達は先に出るわよ。春雨が悪寒感じたって言ったなら、命中率高いでしょ。白露と古鷹以外にも敵がいるのは知ったんだから、そいつをやりに行くから」

「姉さんはこう言ってますけど、単純に春雨ちゃん達を助けに行きたいという気持ちはあると思いますので」

「余計なこと言ってんじゃないわよ。アンタも来なさい薄雲!」

 

 飛行場姫が止めようとしなかったため、叢雲は薄雲と共に出撃準備。ちょうどタイミング悪く昼食前であったため、適当に食べ物を摘んでいく辺りが何とも叢雲らしい。

 

「他の連中も出られるようにしておいてよ。どんな連中が来るかわからないし、万が一があるでしょ」

「そうね。なら叢雲、薄雲、アンタ達に春雨達は任せる。後から誰かが追えるようには準備しておくから」

「ええ、それで頼むわ」

 

 飛行場姫からのお墨付き。そして、中間棲姫も鎮守府と再度通信しながら、ジェスチャーで行ってほしいと表現したため、これはもう後押しを貰ったと考えてすぐに駆け出した。

 

 しかし、島の外に出ようとした時点で叢雲の感知に何かが引っかかった。

 

「な、に……なんかおかしなのが」

「どうしました姉さん」

「海の中……底に何かいる……!?」

 

 叢雲の感知は海上だけではない。叢雲を中心に球体、当然下方向にも伸びている。施設にいる間は、そこが島であるために地中なんて当然感知出来ないのだが、少し外に出ればかなり深くの海底まで確認は出来た。それこそ、漁をしていたら追い込み漁をする伊47とミシェルの存在が常に何処にいるか確認出来るほどに。

 だが、今は伊47は例のドロップ艦の方へと向かっており感知外。ミシェルは今目の前にいる。そうなると、海中にいるものは100%()()()()()()()()ということになる。

 

「じゃあ、誰かが流れ着いてきた……とか」

「わからない。でも、艦娘の潜水艦なのは確定よ。私の感知はヒト型かそうでないかくらいはわかるんだから。しかも、2()()なのよ」

 

 形状までしっかり確認出来るわけではないのだが、それが()()であることは確定。鎮守府から潜水艦が来たことはないのだから、そう考えるのは当たり前のこと。

 それが薄雲の言う通り溢れた艦娘なりヒト型の深海棲艦なりが流れ着いたのだとしても、それがここにいるというだけでも問題だ。それが2つとなるともっとおかしい。

 

 すると、ミシェルが任せろと言わんばかりに海中へと潜っていく。今この場にいる海中を確認出来る者はミシェルしかいない。薄雲が止めようとする前に、自分の意思で施設の役に立とうと動き出した。

 

「危ないのに、行っちゃいました……」

「まったく……でも、アイツもアイツなりに施設のこと考えてんのよ。意外と苛立ちは少ないわね」

 

 叢雲としても、ミシェルがこうやって動いてくれたのは割とありがたい。感知出来てもそれが何かわからないものは、直接見てきてもらうに限る。その行動は、叢雲にだけは筒抜けなのだから。

 そうなると、急いで行こうとしても少し動けない。その感知された謎の反応次第では、今からやるべきことが春雨達の元へと向かうことでは無くなる。

 

 そのため、ひとまず陸からミシェルの行動を見守ることにした。見守れるのは叢雲だけなので、薄雲にもわかるように少しだけ実況するように。

 

「接近したみたいね。アイツ、思った以上に早く動けてるわ」

「やっぱり普通の駆逐イ級では無いんですよね。ホントすごいです」

 

 ミシェルの反応が、謎の2つの反応に接近。あくまでも近付くだけで、危険を考えると付かず離れずの位置を保つ。そういうところもイ級としては相当に頭がいい。観察という手段がとれるのは、知能が高いということにほかならないのだ。

 

「……薄雲、私は艦娘になってからの時間がかなり短かったから、他の同胞(はらから)のことは知らないんだけど、例えば姉妹の潜水艦とかいるのかしら」

 

 それが迷い込んだだけの戦うつもりのない深海棲艦だとしたら、該当する者がいるかを尋ねる。

 薄雲もこの叢雲ほどではないが、物凄く長いわけではない。しかし、薄雲が艦娘であった頃に慕っていた秘書艦叢雲からは、過去に戦ったことのある深海棲艦のことを話してもらったことがある。その中に該当する深海棲艦はいるにはいた。

 

「いたらしいです。私が直接相手をしたわけではないんですが、私が艦娘だった頃に話を聞いたことがあります。潜水艦だけど潜水艦じゃないような武装の双子棲姫という同胞(はらから)がいたと」

 

 深海双子棲姫と名付けられたその深海棲艦は、過去に敵として現れ、撃破された存在。それ以降はまるで姿を見せていないらしいが、いたという前例があるのなら、他のところにいてもおかしくない。それが中立の立場となっている可能性も普通にある話だ。昔ならそんなことを思わなかったが、施設で暮らしていれば自然とそういう考えにも至る。

 

「この反応、それじゃないわよね……一緒に行動はしてるけど、やってることは個別ね」

 

 しかし、話を聞いていく内に、叢雲はこの反応がそれではないと確信する。

 双子棲姫は2人で1つの艤装を扱っているが、叢雲が今感知している存在は、バラバラに動いている。変異種と言われてしまえばそれまでなのだが、それは1%にも満たない確率だ。なら、その考えは取っ払ってもいい。

 

「ミシェルに近付いてきてるわ。何か気付いたからじゃないわね。たまたまこちらに来てる。でも、妙にゆっくり……ん、待って、やっぱりおかしい」

「姉さん……?」

「アイツら……! ミシェルに魚雷撃ったわよ!」

 

 反応だけでしか見えていないとはいえ、明らかに攻撃の意思を持っていることは確定。たまたま漂ってきた艦娘が、深海棲艦を見たから攻撃したというのなら、仕方ないことかもしれない。だが、叢雲からはそうは見えなかった。

 そもそも行動が()()()()()()()()()()()フラフラとし、ミシェルを見つけたかと思えば即座に攻撃。まるで()()()()()()()()()()かのようだった。

 

「ミシェルが猛スピードで浮上してくるわ!」

 

 攻撃を受けたからか、ミシェルは潜水をやめて一気に浮上してくる。これ以上は危険だと判断出来たようだ。普通の駆逐イ級ならこうは行かない。

 

「私達も迎え討つわよ。どんな奴か知らないけど、売られた喧嘩は買ってやるわ!」

「対潜装備をしておけばいいですね。了解です」

 

 2人して爆雷を展開。薄雲はソナーも展開して、陸から海へと飛び出す。2人とも対潜が得意というわけではないのだが、駆逐艦故に苦手でもない。しっかりと対策さえ積んでいれば、並には出来る。それが深海化しているのだから、艦娘と比べれば並以上だ。

 

 薄雲もちゃんとソナーを装備したことで海中で繰り広げられているミシェルのデッドヒートがわかるようになった。

 ただの駆逐イ級ではないとあちらも勘付いたか、雷撃を繰り返し執拗に追い回す。どちらかといえば、どんな相手でも()()()()()()()()()()()()()()ということかもしれない。

 

「来た! 薄雲、行くわよ!」

「はい、爆雷投射します」

 

 ミシェルが海面まで浮上し、イルカのように飛び出しながら宙を舞う。それと同時に、叢雲と薄雲が海中に爆雷を投げ込んだ。勿論、一緒に浮上してきた者に対して、直撃まで狙って。

 しかし、それを見透かしていたか、その爆雷をさらりと回避してミシェルと同じように海面の上へ。だが流石に宙を舞うようなことはなく、その頭を海上にひっそりと出し、叢雲と薄雲の姿をその目に捉えた。

 

 潜水艦は2人。どちらもシュノーケルのような艤装が顔の半分以上を埋めているため、表情はおろか顔の形も判断が難しい。ただ、髪型は多少違うが叢雲はそれを姉妹だと判断した。雰囲気がどちらも近い。本来のそれとは違うのかもしれないが、何処となく()()()がある。

 

「アンタ達、何なの。うちのミシェルを攻撃するってことは、敵でいいのよね」

 

 喧嘩腰で2人に尋ねる叢雲。薄雲もあえてそれを咎めることはしない。ミシェルが狙われたのは間違いないのだから、八割方敵としていいだろう。それが、黒幕側なのか、ただの野良なのか。それが問題。

 

 しかし、2人の潜水艦は叢雲と薄雲を見据えたかと思えば、即座に雷撃を再開。そして逃走。対象がミシェルから叢雲達に変わっただけ。

 

「コイツら……!」

「姉さん、今あの2人、ボソッと何か呟きましたよ!」

 

 怒りに震える叢雲には届かなかったが、薄雲にはその言葉が聞こえていた。

 

 

 

 ──()()()()、と。

 

 

 

「……つまりアイツらは」

「黒幕の手のものと考えていいと思います」

「クソッ、ここは敵対するヤツから見つからないんじゃないの!? 追うわよ!」

 

 向かってくる雷撃を砲撃で対処し、2人の潜水艦を追う。島からはグングンと遠ざかっていく足の速さは相当なものであり、簡単には追いつくことが出来ない。だが、叢雲の感知のおかげで何処にいるかは手に取るようにわかる。

 追うだけなら簡単だ。だが、撃破を考えると難しい。ひとまず、追えるところまで追うというのが得策だと考え、2人は突き進んだ。

 

 

 

 

 そして現場。春雨達と合流した叢雲達は、その事実を端的に伝える。

 

「はっ、はは、ようやってくれたで。これでうちらも帰れるわ」

 

 傷だらけでもうギリギリというところにいるのに、あくまでも負けていない、思惑通りに事が運んでいると龍驤はまだ勝ち誇ったように笑う。

 

「はぁ……そういう事。アンタ達自身も陽動だったわけだ。施設を……姉姫の居場所を突き止めるためにこんなに大袈裟なことを。負けを認めないのも時間稼ぎだったってことかい」

 

 龍驤は何も言わないが、フラフラと北上の目の前であっても撤退の姿勢を見せた。これで逃げられると思っているくらいに傲慢であり、ここまでされても勝ち誇れるその神経を疑う。

 

「逃がすわけ……ないでしょ」

 

 呆れて動けなかった北上に代わり、山風が龍驤を捕縛しようと動き出す。しかし、叢雲と薄雲は見ているが、ここには潜水艦が2()()()()のだ。片方は春雨を攻撃していたが、もう片方は龍驤の下へとやってきており、急浮上することで山風の行動を阻害する。

 

「っ……」

「すまんな……またうちボロボロにされてん。ホンマ、北上が言う相性っちゅーのはあるのかもしれんな……」

 

 口ではこう言うが、負けたとは露ほども思っていない。潜水艦に守られたからここに立っていられるだけだというのに、口だけは達者だった。

 そしてこの潜水艦、鎮守府に現れた個体とはまた違うモノ。あまりにも混じっていて特定が出来ないところや、着ている水着のデザインは、前に見たモノと同じなのだが、髪型や体型がほんの少しだけ違う。だからだろう、北上もこれを姉妹として断定した。

 

「撤退する」

「おう、頼むわ。うち結構ギリギリやねん」

 

 潜水艦はシュノーケル越しに溜息をついて、龍驤を引っ張って撤退。それを確認したからか、大鳳とコロラドも即座に撤退の姿勢に。

 

「戦艦のヤツと、比叡、だったかしら。次もこうなるとは思わないことね!」

「ええ、次はちゃんと終わらせてあげる。今は貴女達のことよりも優先しないといけない事があるもの」

 

 戦艦棲姫はその撤退を容認。今は無理して戦うより、各所のケアの方を優先したいと考えた。当然その対象は、ジェーナス。

 

「私は貴様を逃すつもりは無いが?」

「いえ、撤退させてもらいます」

 

 大鳳の周囲の艦載機が急降下爆撃を始める。当てる気がないそれは、そこにいる者達の視界を隠し、気付いた時にはそこには敵の姿も無くなっていた。春雨を襲っていた潜水艦も、それに呼応してすぐに遠退いている。

 

 

 

 

 これにより、戦いは終了。結果的に何も変わらず、施設の位置が敵に知られるという最悪な事態になってしまった。

 

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