空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

208 / 506
兵器としても

 大将と大塚提督の対談はその後少し続き、現在堀内鎮守府で行なわれていることまでほぼ全てが伝えられた。伝えられていないのは、姉妹姫が住まう施設の場所と、そこに所属している()()()達の詳細。

 古鷹がその元艦娘のうちの1人であるというのは複雑な気分だったようだが、それ以外のことはおおよそ納得したようだった。

 

「ではまた後日、開発された泥対策を持ってきます。その時には、中心となって動いている堀内提督も連れてくるけれど、良かったかしら」

「はい、お待ちしています。堀内提督とも一度話をしてみたいです」

「あちらもそう言っていたわ。方針は違うけれど、貴方達はまず間違いなく協力出来る関係になれるわ。是非話してみてちょうだい」

 

 堀内提督は艦娘を人間として見ているタイプの提督。兵器として見ているタイプの大塚提督とは方針が違う。しかし、大将はそれでも確実に気が合うだろうと言い切った。

 大塚提督も、他者のやり方に口出しをするような人間ではない。こちらにはこちらの、あちらにはあちらのやり方があるとして、完全な不干渉を貫いているだけだ。お互いのメリットもデメリットも理解し、それで考えた結果、今のやり方の方がメリットが大きいと判断したまで。

 このやり方で艦娘達が嫌がることもなく、むしろ完璧なメンテナンスのおかげで十全の力を発揮出来ていると言える。表でも裏でも不満の声が上がったことは一切無い。

 

 だからこそ、自分とやり方が違う提督であり、同じような境遇を背負った堀内提督には興味が湧いていた。

 

「時間を取らせてしまってごめんなさいね。それじゃあ。吹雪、手を貸してちょうだい」

「はい、司令官」

 

 吹雪も一礼した後、大将の歩行を手伝うように寄り添い、執務室から出て行った。

 

 

 

 

 大将との対談が終わり、小さく息を吐く。やはり、大本営の大将を目の前にすると緊張はしてしまうようだ。冷静に振る舞うことに徹していても、それはどうしても難しい。

 

「お疲れ様なのです、司令官さん」

「ああ、電もご苦労様」

 

 電も少し疲れた様子。大将の前にいたからというわけではなく、今回話された内容に驚きっぱなしだったからである。

 普通に艦娘として鎮守府で活動している時にはまず知り得ないような、今までに無かったことが次から次へと出てきて、最終的には感情を出さないようにすることが不可能になっていた。

 

「電達の知らない間に、あんなことがあったなんて」

「……正直俺も驚いている。穏健派の深海棲艦、艦娘の侵蝕、魂の混成……訳がわからないことばかりだ。だが、あの大将が直に来てまで内密に話してくれたことなら、信憑性は高い……いや、真実なんだろう。その深海棲艦とは繋がっていると話していたくらいなのだから」

 

 この鎮守府では、古鷹達が失われた事件以外では、これといって特殊なことは起きていない。強力な姫が現れた時も、ある意味いつもと変わらず全力で対処するだけだ。搦め手を使ってくるような敵は現れたことがなく、最悪の姫以外にはそもそも記録にも残っていない。

 しかし、今回の姫は姿を一切現さず、それがこの鎮守府の近くに潜伏している可能性まで出てきてしまった。絶対とは言わないが、古鷹が侵蝕されたのだから、その戦場に泥を設置出来る何かがあったというのは間違いない。

 

「でも」

「どうした?」

「電としては、戦わずに済む深海棲艦がいるとわかったのは、嬉しいのです」

 

 艦娘の中でも屈指の心優しい性格の持ち主である電は、手が届く範囲ならば深海棲艦だって救いたいと考えている。しかし、それが夢物語であることも理解しているため、心を鬼にして戦いを続けていた。

 だが、話がわかる深海棲艦も存在しているということがわかったのは、電としては僥倖だった。余計な戦いをしなくてもいい可能性だってある。傷つけるばかりが戦いでは無いのだ。

 

「確かに余計な消耗をしなくて済むのはありがたい。最悪の姫、中間棲姫が分裂して、どちらとも戦わなければならないとなったら、どうしても犠牲が出るだろう。お前達を失うわけにはいかないからな」

 

 こんなときめきそうな言葉も、電は真意を理解している。失いたくないという言葉に、感情的な意図は含まれていない。

 大塚提督からしてみれば、あくまでも艦娘はヒトのカタチをした兵器。道具は道具だが、新たに練度を高めるのには相当に時間がかかる。それに、感情を持っているため、兵器が1つ潰れた場合、周囲の兵器のスペックが格段に落ちる。だからこそ失いたくない。そういう意図だ。

 

 だが、この考え方は兵器としての考え方ではあるものの、艦娘を普通の兵器とは違うという考え方をしているとも言える。人とは別モノ。だが、扱い方には細心の注意が必要。そこにはやはり、大塚提督なりの優しさが見え隠れしている。

 

「そんな深海棲艦は、どれだけいるのでしょう」

「さてな。だが、そういう輩が多ければ多いほど戦いは早く終わる。多ければ多い方がありがたい」

 

 相変わらずの感情があるのか無いのかわからないような受け答えではあるが、電は常に隣にいるため、そんな言葉を出してくれるだけでも嬉しいものだった。

 

「だが……古鷹が生きていた、か……」

 

 やはりそこは予想していなかったところだったようだ。その時行方不明になった部隊の捜索はそれなりに長期間実施されていた。それこそ、堀内鎮守府の調査隊と同じかそれ以上の期間だ。しかしどうしても見つからなかった。1週間以上の行方不明は、さすがに戦死と見なす。そこで捜索を諦め、今に至る。

 現れた戦艦棲姫の撃破は出来たはずなのだが、そのまま通信途絶というのはあまりにも不可解だった。当時も何が起きたのか全くの謎だったが、そのままズルズルと引き摺っていたら、艦隊運営もままならなくなる。そこで遺憾だが調査を打ち切った。

 

「見つかるはずもなかったんだ。侵蝕され、自分の意思で戻ってこないでいたんだからな。我々の鎮守府を避けることだって出来ただろう。あの時の調査打ち切りは、あながち間違ってはいなかった」

「そう……ですね。多分、間違っていなかったのです」

 

 感情を持ち出してしまえば、その選択の間違いはいくらでも言える。だが、長々と戦力をそこに投じていたら、出来ることも出来なくなっていただろう。今の鎮守府があるのは、そこで決断したから。

 

「だが、その結果、幾人もの艦娘が犠牲になったのかもしれない。大将は古鷹が()()()()()()()()()も話してくれていたな」

「はい……黒幕の手足となって、いろんな場所で艦娘を……沈めて」

「ああ。古鷹の意思があったかどうかは知らないが、その時の古鷹は人類の敵だったのは間違いない」

 

 だが、古鷹のことを責めようだなんて思っていない。あくまでも利用されていたに過ぎないのだから。

 

「兵器は使う者によって人々を守るものにも人々を滅ぼすものにも変わるということだ。我々は正しく使い、海の平和を守る。だが、()()は兵器を誤って使い、海に破滅を齎そうとしている」

 

 艦娘がヒトのカタチをした兵器であるという思想のおかげで、使い手によって善にでも悪にでもなるという事実を受け入れやすくなる。古鷹はその犠牲者だ。使い手が黒幕に変わったことで、その兵器は破滅を齎す尖兵に仕立て上げられただけ。

 

「ならば、古鷹がどうされていたのかは気にしない。今我々に味方してくれるのならば、そのように使うまでだ」

 

 大塚提督としては、古鷹のことは裏切り者だなんて何一つ思っていない。やらされていたことが重たくても、そのことを気にも留めていないのだ。もし鎮守府に戻りたいと言うならば、()()()()と返すだろう。姿形が深海棲艦となっていても、その信念が艦娘であるのなら何も変わらない。言ってしまえば、無くしていた兵器が形を変えて手元に戻ってきただけ。あくまでも使い手の違いにより正しく使われるだけだ。

 

「電、お前としてはどうだ。艦娘としての意見を聞いておきたい」

 

 こういうところは大塚提督も艦娘のことを信用している。感情を持つ兵器の考え方というのは、人間とはまた違った見解に繋がるからだ。実際に戦場に出ることが出来る者の意見は、戦場に出られない自分では思いもつかない何かを孕んでいるかもしれない。

 

「古鷹さんが生きていてくれたのは、本当に、本当に嬉しいことなのです。他のみんなが沈んでしまったのは悔しいですし……古鷹さんがやらされていたことは酷いと思うのですが……でも、でも、今の古鷹さんは電達の知ってる古鷹さんなのですよね。だったら、また一緒に戦いたいのです」

 

 電もこの鎮守府の一員。優しくもあるが、自分のことを平和のために戦う兵器であると自覚している。共に平和を望むのなら、手を取り一緒に進んでいきたいと、それこそ人間よりも人間らしい感情で答える。

 

 その答えに対して、大塚提督はとやかく言うことは無い。兵器は感情を持つなとは言っていないのだから。むしろ、『感情を持つ兵器である』という認識をしているために、正しく納得して意見を取り入れる。兵器の分際でなどという考え方は何一つしていない。

 兵器であり、部下であり、仲間である。人間としては見ていなくとも、それがそういう生命(いのち)であることは理解しているのだ。そうでなければ、行方不明になった時に堪えるなんてことは無い。

 

「そうだな。俺もそれを望む。古鷹がそれを望めば、だがな。古鷹は古鷹で自分の道を定めているだろう。その施設とやらがどんなところかは知らないが、そこを守るための力となるのなら、俺は古鷹のやり方を認めてやることしか出来ない」

「電もそう思うのです。その、古鷹さんにも()()()を感じているところがあると思うので、強要は出来ません。でも、同じところを向いているのなら、一緒に戦ってるって、言えますよね」

「ああ、その考え方でいい」

 

 いつも冷静で表情を変えない大塚提督の口角が少しだけ上がった。古鷹だけでも生きていたことに安堵しているような、電が同じ考えでいてくれることが嬉しいような、そんな表情。

 

 電は極稀に見える大塚提督の感情表現が好きだった。それをずっと隣で見続けたいために、生きることに全力を尽くしている。

 そんな感情を持つことを大塚提督は許してくれるかはわからないし、兵器である自分がそんな感情を持っていいかは疑問ではあったが、今の在り方が心地良いので想いを押し隠し、戦いが早く終わることを望み、一緒に歩いていくと決めていた。

 それは別に綱渡りではない。これが最善であると確信している。歩き方を変えるなんてことも考えていない。

 

「古鷹さんとお話し出来ますかね」

「さぁな。だが、出来るのなら話くらいはしたいだろう。俺もそう思っている」

 

 表情は戻ってしまったが、そんな大塚提督の隣に立つことが、電にとっては至上の喜びだった。

 

「昼食までまだ時間はある。書類を片付けてから昼食だ」

「はい、なのです」

 

 淡々と仕事を再開する大塚提督に、笑みを浮かべながら手伝う電。見た目はそこまで相性がいいように見えないのだが、これで長い戦いを乗り切っているのだから、この鎮守府ではこれがベストなのだ。

 

 

 

 

 この先、大塚鎮守府も施設との関わり合いを持つことになるのだが、それはもう少し後の話。

 




電だって女の子。そういう気持ちを持つこともあります。でも鎮守府の在り方がそれを許容してくれるかはわかりません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。