空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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優位はあれど

 深夜の迎撃戦、島からかなり離れたそこにいたのは、装甲空母大鳳と、戦艦コロラド。その2人に因縁のある白露と戦艦棲姫が先導し、その場所での戦いが始まる。

 

「前までならバラバラで戦っていただろうし、なんなら本気も出さずに戦ってたわ。でも戦艦の、アンタが私達に組んで戦うってことを教えてくれたんだから、ちゃんと使わせてもらうわよ」

「好きにしなさい。貴女達はグダグダ喋らないと戦えないわけ? アンタといい、あのチビといい」

 

 小さく溜息を吐きながら艤装と並び立つ戦艦棲姫。

 数的優位は自分達のものではあるが、あちらは魂の混成により1人に見えて複数人の力を持っているのはわかっている。少なくとも、コロラドには他の姫級の力が2人分、大鳳には伊勢と日向の戦艦2人分が含まれているのだから侮れない。

 あちらが1人で3人分なのだから、こちらも1人につき3人を用意したに過ぎない。それでもまだ隠し球を持っていそうなのだから、まだ人数が欲しいとさえ思える。

 

「アンタ達をここで始末して、さっさと()()()を戴くわ。タイホーの悪意の塊が効いてないのは残念だけど、もう実力行使でどうにかしてあげる。どうせ逃げられないんだから、精々耐えなさいよ」

 

 コロラドは最初から本気を出すように、前回の戦いでも展開したロブスターのハサミとカニの甲羅がその場に現れる。その手に持つ主砲内蔵の杖も健在。遠近共に隙がない装備。

 大鳳は大鳳で、未だ施設上空に艦載機を配置しながら眼前の敵対する者に対して主砲を構えた。腰に差した一振りの刀はまだ使わないらしい。

 

「特にアンタ、Arriver(辿り着く者)よね」

 

 杖を春雨に向ける。春雨はコロラドの言葉がすぐにはわからなかったが、自分のことを言われているのは直感的に気付いたため、一言そうだと答える。

 

「だったら、この場で選択肢をあげるわ。こっちに来るか、この場で死ぬか。うちのPrincess()は、器だけじゃなくアンタもDesired(御所望)なのよ。その力、こっちで使いなさい」

 

 至って真剣に春雨を勧誘するコロラドだが、春雨の答えは決まっている。

 

「お断りします」

「まぁそうよね。じゃあさっさと死になさい」

 

 春雨に向けた主砲が当たり前のように火を噴いた。至近距離というわけでは無いが、その砲撃はかなり回避のしづらいタイミング。

 しかし、既に直感が働いていた春雨は、放つ直前には回避行動をとっていた。紙一重でもダメージは入るであろうため、かなり大きく行動するように。

 

「始末の方向で決まったのならば、容赦はしません。徹底的に追い詰めさせてもらいましょう」

 

 その回避した方向に向けて、大鳳も砲撃。火力はコロラドと近しいため、こちらも大きく回避しなくてはならない。

 ならばと、春雨は回避直後に脚を生やして、海面を蹴るようにさらに加速。その砲撃を爆風を受けることなく回避に成功するのだが、春雨だけが孤立することになる。

 

「他の連中よりPriority(優先順位)が高いわ。Arriver(辿り着く者)だけはここで確実に殺す。タイホー、いいわね」

「はい、元よりそのつもりです。こちらに来ないのならば、彼女はもうこの世にいてもらっては困りますので」

 

 コロラドと大鳳はあくまでも春雨を集中狙いすると宣言した。そんなことを聞いては黙っていられないのは勿論海風。春雨が狙われたことで簡単に怒りが湧き上がり、理性がプツンと切れる。

 こんな相手でも春雨は救うと話していたし、春雨がそれを望むのならばそれを手伝うと宣言したが、直接の殺意を見せつけられてしまってはそんなことは言っていられなくなる。

 

「今、春雨姉さんを殺すと言いましたか。ならば、やはり救われることは許しません」

 

 海風が真っ先に狙ったのは、当初の通り大鳳。回避先を狙ったことが許せなかったようで、義腕を刃に変形させつつ、もう片方の腕には主砲を展開させ、さらには魚雷もばら撒きながら突撃。

 

「春雨のことになると海風が突出しちゃうの厄介だなぁ! 戦艦さん、最初の通りにお願い!」

 

 それに白露が反応し、海風が先行しないようにその突撃をサポートする。砲撃を重ね合わせるように放ちつつ、魚雷も邪魔にならないように発射。

 白露も、この2人は今のところ救おうとは思っていない。海風のように春雨を狙ったからとかではなく、救おうとして()()()()ことが出来ない相手だからだ。殺すつもりで戦わなければ、勝てるものも勝てない。

 

「その程度ならば、さしたる問題はありません。雷撃は出来ずとも、届かせなければいい話」

 

 大鳳はそれに対して、回避ではなく艦載機による処理を選択した。主砲が一時的にボウガンへと変化すると、数機の艦載機が発艦し、射撃で魚雷を次々と破壊していく。砲撃に関しては、魚雷を気にしなくなった分で簡単に避けられる。

 

「元よりそのつもりだったからいいわ。こっちのこと、無視しないでもらえるかしら、コロ助」

 

 続いて戦艦棲姫の艤装が猛攻を仕掛ける。コロラドは春雨の方に目を向けているため、そのままだったら何の苦労もせずに薙ぎ倒すことが出来るだろう。そんなわけがないのはわかっているのだが。

 

「はっ、どうせ来るとは思っていたわよ! アンタのPriority(優先順位)Arriver(辿り着く者)の次なのよ!」

 

 春雨のことは大鳳に任せ、即座に戦艦棲姫に対応。艤装からの砲撃は軽々と避け、返り討ちにしようと杖を向ける。その時には艤装もさらなる砲撃を重ねるように腕を振り上げ、さらには戦艦棲姫自身もコロラドを狙うために主砲を展開していた。

 

「カバーしましょうか」

 

 しかし、艤装から放たれた砲撃は、真後ろにいた大鳳がコロラドと位置が入れ替わり、腰に差していた刀を抜いたことで真っ二つに斬られてしまった。まるで重さを感じていないように。

 

「Thanks, タイホー。Teamworkいいじゃない」

 

 そして入れ替わったコロラドは、その杖を春雨ではなく海風に向けていた。

 

「やらせるかっての!」

 

 そこに被せるのは白露。錨を投擲し、その杖に直撃させ、砲撃の瞬間に狙いを僅かにズラす。

 

「ナイスです白露姉さん。この春雨姉さんを付け狙う外道は、私の手で始末します」

 

 ズレた砲撃を躱しつつ、コロラドに肉薄する海風。砲撃を仕掛けてもカニの甲羅の盾で弾かれてしまったため、義腕の刃を使ってダイレクトにその首を奪いにいこうとする。

 

 しかし、コロラドは近距離も出来る万能型だ。接近した海風に向かってロブスターのハサミを突き立てようと身体を捻った。

 その握力は、全てを握り潰すであろう大鳳のそれよりも強く、挟まれた瞬間に粉砕は確実。頭をやられれば成す術なく潰されるだろうし、艤装だって木っ端微塵にされるだろう。それが戦艦棲姫の艤装のような強靭な四肢であろうが関係ない。

 

「何してんのよコロ助ぇ!」

 

 その海風を救ったのは、春雨でも白露でもなく、同じように肉薄していた叢雲だった。凶悪で醜悪なハサミを砕くために槍を突き出し、そのハサミの付け根、ハサミをハサミとする接続部分を狙って貫こうとした。それが貫けなかったとしても、海風に向かうその勢いは殺せる。

 

「そんなチャチなSpear()で、私のScissors(ハサミ)を止められると思って」

「止められるようにするんですよ。強引にでも」

 

 さらにそこに加わったのは薄雲。鎖付きの主砲を先程の白露のように投擲し、槍の柄の尻に直撃させる。叢雲の腕力だけでなく、薄雲の腕力も加わったことで、ハサミは海風に届くことなく弾き飛ばされた。

 しかし、その勢いは相当なモノで、叢雲も腕が痺れる程の衝撃を受けて若干弾かれることに。

 

「まだです」

 

 さらに薄雲は鎖を引っ張り、その遠心力でもう一度投擲。叢雲もそれを理解し、腕の痺れを我慢しつつも槍を海面に刺し、それを軸に跳んだ。

 薄雲の振り回した主砲の鎖は、叢雲の槍の柄を軸に角度を急激に変え、その砲塔がコロラドに向いた。

 

「そんなもの、当たるわけ」

「当てるために振り回してるわけじゃないですよ」

 

 薄雲は中空でトリガーを引く真似をする。瞬間、鎖の先にある主砲から砲撃が放たれた。

 薄雲の艤装の特徴は、この主砲の遠隔操作。手から離れていても、鎖を握っていれば砲撃が可能。途中で主砲の場所が固定されるわけでは無いので、やっていることは不意打ちも不意打ちなのだが、何かと応用が利く力。

 

「何よそれ!」

 

 しかし、コロラドには盾もある。照準を定めたわけでもない砲撃であるためか、その勢いは軽く、カニの甲羅の盾で簡単に弾かれてしまった。

 それでも、一瞬だけでもコロラドの動きをその場に縫い付けたのは間違いない。砲撃を放った瞬間に、一時的に主砲も鎖もそこから消える。つまり、叢雲の行動を妨げるモノがそこから失われたということ。

 

「何かにつけて堅いのが気に入らないわ! 絶対にぶち抜いてやるわよ!」

 

 ガードしたカニの甲羅の中心を狙うように、姿勢を整えた叢雲がその槍を突き出す。甲羅ごとコロラドの胸を貫き、一撃で死を与えるかの如く。

 

「私のShieldは、そんなものじゃあ崩れないのよ! もっと腕を上げてから来なさい!」

「崩れなければ、退かすまでです」

 

 そこにまたもや薄雲の一撃。再生成した鎖と主砲を、今度は真上から振り下ろすように振り回し、コロラド本体に狙いを定める。

 それを防がなければ、主砲そのものが脳天に直撃して致命傷になるだろう。だが、盾で防いだら叢雲の槍が直撃して致命傷になるだろう。そうなると、この一撃を防ぐために使うのは、杖、もしくはロブスターのハサミとなる。

 

「ええい、鬱陶しい!」

 

 コロラドはハサミで食い止めるという判断をした。杖で止めたところで先端の主砲から砲撃を放たれる可能性が高いため、ハサミで圧し潰す方が堅実だとした。

 

「ここ!」

 

 そこへ飛び込んできたのは、回避させられ続けていた春雨だ。もう一度脚を生やす勢いで超加速を見せ、一気にコロラドの至近距離にまで詰めていた。

 

Arriver(辿り着く者)!」

「まだ救う道は見えていないけど、ここで止まってもらわないとみんなが酷い目に遭うんだから」

 

 春雨の目には、まだ光の道は見えていない。瞳には白い光が灯っているが、まだ最善の道は存在していなかった。

 救いたくとも足りないのはわかっている。だが動かないとどうにもならない。せめて少しでも消耗させなくてはどうにもならないということなのだろう。春雨はそう結論付けて、この隙を狙って行動を起こす。

 

「申し訳ないですが、コロラドをやられるわけにはいきません」

 

 しかし、その突撃の前に大鳳が立ち塞がる。戦艦棲姫の攻撃を振り払い、コロラドを守るために再び鞘に納めていた刀に手をかけていた。

 直感的に近付くのはまずいと考えた春雨は、再度脚を生やす勢いを使って真横へと跳躍。同時に砲撃を放ち、大鳳に牽制。

 

「間合いを取りますか。堅実ですね」

 

 その砲撃は軽々と斬り払う。その時には、コロラドへの攻撃も全て食い止められた後。

 

「だったら、2人まとめて」

 

 そこに戦艦棲姫が艤装と共に砲撃を放った。今なら仲間達はそこにおらず、2人同時の砲撃で誰にも被害は無い。

 

「コロラド、避けてください」

「わかってるわよ」

 

 流石にこれは回避以外に選択肢が無いと、2人同時にそこから跳ぶように退避。本体と艤装同時の砲撃は、海面を抉るようなとんでもない火力を誇っていたが、残念ながら掠ることも無かった。

 

 

 

 

 6人がかりで2人を相手にしても、ここまで手こずる。未だに触れることも出来ていないようなものだ。

 苦戦は必至。しかし、ここで勝たなければ、施設に先は無くなる。

 

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