空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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迷い

 大鳳とコロラドに苦戦を強いられる春雨達。数的優位はあれど2人とも手練れ。やはり1人に3人分入っているというのが非常に大きく、本来出来ないような技まで確実に仕掛けてくる。薄雲、叢雲、春雨のほぼ同時攻撃もいなされ、戦艦棲姫の砲撃も回避されて、まるで傷もつかない。

 

 この時誰もが、大鳳がこの戦闘の中心にいると理解した。コロラドはどちらかといえば考え方が幼いというか若干前のめり過ぎるきらいがあるが、大鳳は感情が無いのではと思えるほど冷静。

 こうしながらも施設に泥を撒き散らそうと艦載機も置いているのだからタチが悪い。しかし、感情が無いと考えれば、それも納得が行く。あちら側にいた時の白露や古鷹、そして今ここにはいないがやたらと口が回る龍驤とは正反対な存在。それ故に、その力と共に恐怖すら感じる。

 

「あまり時間をかけていられません。貴女方もご存知の通り、我々は体力がありませんから」

 

 またもや抜いていた刀を鞘に納め、今度はしっかりと握り締める。今までの攻撃回避のための抜刀とは違った、明確な()()()()の構え。

 戦艦棲姫の砲撃すら斬り飛ばした膂力と斬れ味は、一撃を喰らえば確実に致命傷。艤装で止めることも出来ない可能性が高い。むしろ、それ以外にも何かあるようにすら思える。

 

「コロラド、一旦離れます。チームプレイもいいですが、辿り着く者の始末は最優先ですから、前衛をさせてもらいますよ」

「構わないわ。偶には花を持たせてあげる。私も上手いことサポートしてあげるわ」

「感謝します。それでは」

 

 ギシッと、柄を強く握り締める音が聞こえた瞬間、大きな水柱が立つほどの踏み込みと同時に突撃していた。

 その狙いは、やはり春雨。いの一番に始末する必要があるとして、他の者達を全て置いておいて真っ先に狙いを定めた。

 

 春雨もタダではやられない。踏み込んだ時には直感的に避けなければならない方向はなんとなくわかっていた。

 この居合抜きは、自分の胴を真っ二つにするような一撃だ。しかも、()()()()()()()()()()、掠るのも絶対にダメ。大きく避けなければまずいことになると、ただ避けるだけでなく砲撃や雷撃まで絡ませての退避。

 

「その危機回避能力は、辿り着く力の断片でしょうか。でも、逃がしません」

 

 春雨の回避方向を見てから、もう一度強く踏み込む。そこに魚雷があろうがお構いなし。自分に触れる前にそこから足を離し、既に春雨に向きを変えた後。

 

「来ないで!」

 

 ここで咄嗟に春雨が繰り出したのは、脚部を脚ではなく()()()()()()()()()()()()()()()

 手に持つ主砲がそのまま脚になったかのように生成され、その仕組みもあたまにはいっていることから、まるで蹴るように砲撃しつつ、その勢いを乗せたバックステップでより遠くへと退避。

 

「器用ですね。ですが、それは効きません」

 

 駆逐艦の砲撃如きと言わんばかりに、片手で刀を振り回すだけで砲撃は全て弾き飛ばしてしまう。

 

 そもそも、春雨は本気で砲撃が出来ていない。大鳳だって侵蝕を受けた艦娘の1人。今でこそ深海棲艦化させられているが、白露や古鷹と同じような犠牲者なのだ。

 それがどうしても春雨の頭の中で引っ掛かっていた。救うためには傷付けなくてはいけないと理解していても、心の奥では無傷で助けたいと考えてしまっていた。それが砲撃の威力に影響を与えている。

 

 ジェーナスが無傷で助けられた経験が、春雨をそうさせていた。救えるのならば、余計な傷は与えたくない。ジェーナスに出来たのだから、他の者にも。

 これが大き過ぎる()()に繋がっている。攻撃をしたら傷を付けてしまうかもしれない。だが、攻撃しなければ自分がやられる。どうしたらいいのかわからない。

 そのせいで、本来もう見えていてもおかしくない光の道が、全く見えない。最善に繋がる道が、何処にも見当たらない。それどころか、直感的な回避すらままならなくなる。

 

「辿り着く力はあっても、本人が脆弱ならば、今のうちに始末がいいでしょう。抵抗しなければ、痛み無く首を飛ばします。()()()()()()()()()()()、逃げ回らずに止まりなさい」

 

 大鳳にも言われてしまい、自分の迷いが明確にされる。大鳳を救いたいという気持ちが先行しすぎて、攻撃するという気持ちが薄れている。

 加速して至近距離に近付けたとしても、それはあくまでも救うために前回やった一撃がもう一度やりたいと考えたからだ。しかし、光の道も見えなければ、光の点も見えていないため、今やったところで救うどころか致命傷を与えかねない。

 迷いは、より深く。今の春雨は、()()()()辿()()()()()()。一度の大きな成功体験が、完全に足を引っ張っている。

 

「春雨姉さんを追いかけ回すなんて、万死に値します。白露姉さん、春雨姉さんを守りますよ」

「動機はさておき、あたしだってそれは考えてた。妹をあんな風にされて、黙って見ていられるかっつーの!」

 

 そんな春雨を救うため、海風が白露を連れて大鳳を止めようと動く。しかし、その行く手を阻むのはコロラドだ。大鳳のサポートをするため、海風と白露の前に立ち塞がる。

 

「させるわけが無いでしょうが!」

「こっちのセリフなのよ!」

 

 春雨の救援に向かおうとする海風に杖を向けた瞬間、叢雲が接近。撃つ前に心臓を貫いてやらんと槍を突き出す。

 さっきと殆ど同じ光景。そのままなら、またロブスターのハサミに食い止められるところだが、同じ轍を踏む叢雲では無い。槍をガードされることを最初から見越して盾では防ぐことが出来ない足下に魚雷も放っていた。槍を防げば魚雷が直撃、魚雷から逃げれば槍が直撃。そういうコースを選択。

 

How frustrating(鬱陶しい)!」

 

 しかし、コロラドも一筋縄ではいかない。攻撃は最大の防御と言わんばかりに、杖を振り回しながら主砲を連射。狙いを定めない代わりに、周囲全てに一斉射をしたようなものなので、叢雲が近付けなくなるのみならず、海風と白露の行動も抑制する。

 前に進めない、春雨を救えないと感じ、海風は叢雲のように苛立ちが強くなる。それを表情から読み取った白露は、海風だけでも送り出すために尽力する。

 

「海風、アンタだけでも春雨のところに行きな! 1人でもいれば変わるっしょ!」

 

 背中を強く押しつつ、錨に鎖を繋いで振り回し、その乱射を食い止める。少しだけでも進めるタイミングを作ったことで、海風だけならばコロラドから行く手を阻まれない状況を作り出した。

 代わりに白露が擦り傷程度の傷を負う羽目になったが、妹のためだと表情すら変えずに耐える。

 

「ありがとうございます白露姉さん。海風、春雨姉さんを必ずお守りします!」

「頼んだ! アンタも気をつけなよ!」

 

 そして、海風はその場から春雨のもとへと向かった。

 1人だけ逃がしたことにコロラドはご立腹のようだが、高が1人くらいと考え直す。

 

「まぁいいわ。残り4人くらいなら私だけでも充分よ。かかってきなさい」

「アンタ、もしかして自分が主人公か何かと勘違いしてないかしら」

 

 戦艦棲姫の艤装がコロラドの乱射をものともせずに肉薄し、その豪腕で押し潰そうと拳を振り上げる。この一撃は盾で止められてもそのまま振り下ろせるため、コロラドといえどもひとたまりもない。

 

「アンタはただの愚かな侵略者。平和を望む者からそれを奪っている時点で、ただのクズなのよ」

「あっそ。アンタにはそうなんでしょうよ!」

 

 しかし、そこはロブスターのハサミにより食い止める。手首の部分を挟み、その動きを完全に止めた。力比べはおおよそトントン。ちょん切ろうとハサミに力を加えるが、そうすると拘束が解かれて逆にやられかねないため、あえて破壊はせずに杖を艤装の腹に向けた。

 

「侵略者には容赦しません。私達はただ、ゆっくりと平和に過ごしたいだけなんですから」

 

 そこへ薄雲が主砲を投擲。戦艦棲姫の艤装の腰を使って角度を急変更し、回り込むようにコロラドの胴に向かう。

 

Acrobat(曲芸師)が!」

「アンタにはここであたし達と遊んでもらうよ。春雨と海風が合流するまではね!」

 

 薄雲の主砲は盾で弾き飛ばすが、そこに合わせて白露が同じように錨を振るっていた。

 

「人様の庭に土足で踏み込んでおいて、タダで済むとは思っていないでしょうね、このクソ戦艦が!」

 

 それに合わせるように叢雲も動き出した。

 

 各々のチームワークは、同じ思いを持っているために徐々に研ぎ澄まされていく。

 元々薄雲はそういうところが得意であり、白露も4人分の力を扱うために周りがよく見えていた。叢雲は猪突猛進なところはあるものの、サポートしやすい動きを心がけた前衛を務め、そして戦艦棲姫は艤装とのコンビネーションを仲間達と繰り出す。

 4人がかりならば、コロラドを追い詰めることも出来る。そう考えて、攻撃の手を止めることはなかった。

 

 

 

 

 一方、その場から抜け出すことが出来た海風は、1人大鳳に狙われ続ける春雨を救うため、大鳳に砲撃を始める。

 

「春雨姉さんに何をするんですか」

 

 静かに、しかし怒りで塗れている海風の砲撃は、逆に研ぎ澄まされていた。今の大鳳が一番狙われたくないであろう場所、刀を握る腕を集中砲火。

 対する大鳳は海風の存在に気付いたが、そちらを見ることなくボウガンを展開して艦載機を飛ばす。砲撃に関しても、艦載機を盾に使うことで完全に無視。

 

「海風っ」

「春雨姉さんはこの海風が命に替えてもお守りします。春雨姉さんに痛みを負ってほしくないですから」

 

 砲撃は食い止められても進むのは止まらず、艦載機からの射撃も回避しながら春雨の側に辿り着いた。大鳳からの攻撃も止まることを知らないが、春雨のみに振るわれていた暴力を分散するためにも、2人がかりで抵抗する。

 だが、春雨としては今の言葉、()()()()()()の部分は嬉しくなかった。守られることは嬉しいことでも、海風を失うことは望んでいない。自分のために海風が散ろうものなら、春雨は一生立ち直れない傷を負う。

 

「1人増えても同じことです。貴女は辿り着く者の拠り所でしょうか」

「そうあると信じています。妹ですから」

「ならば、貴女もここで始末してしまいましょう。立ち塞がったのならば、そうなる覚悟があるということでしょうから」

 

 春雨を集中的に狙っていた大鳳は、海風にも狙いを定めた。刀を鞘に納め、砲撃主体に移行。複数を相手にするのならこちらの方が早いと判断したようである。

 2対1となっても、大鳳の底知れぬ力の前には防戦一方になってしまう。それ程までに大鳳は強い。手練れなだけでなく、あまりにも容赦が無かった。やはり感情が無いのだろう。2人のことを上に見ることも下に見ることも無く、淡々と排除のために攻撃を続けてくる。

 

「春雨姉さんを心から愛しているからこそ、私は心を鬼にして姉さんに言わなくちゃいけないことがあります」

 

 大鳳からの攻撃を回避しながら、目を合わせることは出来ずとも心から言葉を紡ぐ。こんな状況でも、海風は今の思いを伝えなくてはと。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 断言した。その言葉に、春雨の心は少なからず揺れ動いた。

 

「春雨姉さんは慈悲深いお方、手の届く誰もを救いたいという気持ちはわかります。でも、それで一方的に嬲られることがおかしいことくらい、聡明な春雨姉さんなら理解しているでしょう。やり返してはいけないなんて、誰も言っていません。誰も望んでいません」

 

 大鳳の強烈な砲撃が春雨に向かい、それを海風が腕を盾に変形させて向きを逸らす。直撃では無いにしろ、その衝撃はかなりのもので、海風は艤装の腕でも痺れているように錯覚した。

 

「アレは敵です。救えるのならば救えばいいと思いますが、出来ないのならば排除しないといけない。気持ちはわかります。私だって救いたい。あのヒトは被害者であり、悪いのはあのヒトじゃない。でも、無理なものは無理なんですよ! 今、現実を見て、手を抜いて戦える相手だと思いますか!」

 

 無傷で救いたいなんて到底無理なこと。この大鳳は今まで戦ってきた誰よりも強い。全力で戦っても勝てるかわからないのに、そんな甘いことを考えていては負けが確実になる。

 海風は春雨に負けてもらいたくない。負けと死がイコールで結ばれているのだから尚更だ。

 

「キツいことを言います。思い入れの無い相手にまで、手を伸ばさないでください。相手はそれを利用して春雨姉さんに噛み付くような輩です。だから!」

 

 盾だった腕を刃に変えて、砲撃を繰り出しながら突撃する。迷いが振り払えない春雨に、自分の覚悟を見せるために。

 

「私は! もう、このヒトを救おうとは思わない! そうしないと、本当に良くないことが起きるから!」

 

 散ろうだなんて思っていない。だが、無謀でもあった。大鳳を斃すためには、砲撃だけではどうにもならないことはわかる。しかし、あえてあちらの間合いに入るのは自殺行為だ。

 春雨が同時に動いていれば、また何かが変わったかも知れない。だが、迷いがより深くなっていた春雨は、動くのが一手遅れた。

 

 直感的に、海風がやられると感じてしまった。

 

「海風、ダメっ!」

「素晴らしい姉妹愛です。私を救わないと決意することにも覚悟が必要だったでしょう。そして、貴女は正しい」

 

 大鳳が刀に手をかける。また居合抜きの構え。しかも全力だ。あんなのを受けたら、海風はひとたまりもない。直撃ならまだしも、掠ってもダメ、おそらく風圧だけでも重傷。

 

「しかし、その力が私に及んでいなければ、どの選択もただの無駄に過ぎません」

 

 海風だけは守らなくてはならない。自分のことをここまで考えて、覚悟をして、心の底から思いの丈を語ってくれた妹を、ここで失うわけにはいかない。

 その妹を排除しようとする大鳳に対し、初めて、本当に初めて、春雨は黒い感情が生まれた。

 

 救う救うと言いながらも迷い続けた春雨は、海風が絶体絶命となったその時に、ようやく迷いが晴れた。

 

「私が救うのは、海風()()だ」

 

 大鳳の居合抜きが炸裂する瞬間、春雨はまるで風にでもなったかのように軽やかに駆け出した。一手遅くとも、一手速かった。

 

 その斬撃は海風を確実に殺す一撃だったはず。しかし、春雨の目にはもう、そうならない()()()が見えていた。

 こうすれば海風が、海風()()は救える。その最善の道、答えに辿り着いていた。

 

 

 

 

「ごめん、海風。ありがとう」

 

 気付けば、海風は救われていた。春雨に抱きかかえられ、大鳳の間合いから離れた場所にいた。

 

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