春雨と海風が大鳳と戦うその近くでは、残りの4人がコロラドを相手取っている。本当は春雨達の側に行きたかった白露も、コロラドに度重なる妨害をされたことで、合流を諦めて斃すことを優先した。
そのコロラドは、4人がかりであっても殆ど互角。先程まではそこに大鳳がいたために余計に手が付けられなかったが、1人でも充分すぎる程に難敵。むしろ、コロラドも不利になればなるほど強くなるタイプにすら見えた。
あちら側にいた時の白露がまさにそれだったのだが、今は体内から泥が消えたことでその特性は失われている。だが、コロラドは同じ特性を持っている可能性は高い。泥の力だとすれば、全ての敵が持っていてもおかしくないのだから。
「
暴れれば暴れるほど精度が高くなるコロラドの砲撃。その一撃は、戦艦棲姫ならば艤装により強引に弾くことが出来るが、他の3人の駆逐艦には掠るだけでも致命傷になりかねない危険な攻撃。
叢雲は自慢のスピードで回避は可能。白露も元々の実力が4人分になっているおかげで対応が出来るのだが、薄雲はかなり厳しい。鎖付きの主砲を器用に扱い、不意打ちや搦め手で敵を追い詰めることは可能なのだが、一度見られた搦め手が通用しなくなるのは大きく不利になる。毎度毎度新しいことをやらなければならない。
「面倒臭いわね貴女。こっちは4人がかりよ?」
戦艦棲姫の艤装が今度は接近戦を仕掛ける。その豪腕を振り上げながら、巨体とは思えないほどのスピードで突進。その体当たりは、甲羅の盾如きでは止められない程の衝撃となる。
「それだけアンタ達が貧弱ってことでしょ。そもそも私は負ける気なんてさらさら無いんだから!」
その突撃をヒラリと避けつつ、お返しと言わんばかりにロブスターのハサミをその腹に打ち込む。本来ならコレだけでも艤装が粉々になる程のダメージなのだが、戦艦棲姫の艤装はギリギリでその衝撃を受け流しており、致命傷は受けていない。
「ったく、コレだけは使いたくなかったんだけど、アンタ達があまりにも鬱陶しいから、仕方なく使ってあげるわ。光栄に思いなさい!」
ここでコロラドが杖を両手で持ち、砲撃するでも無く上に掲げた。何をするのかと思いつつも、それはやらせてはならないものと認識し、全員一斉にコロラドに主砲を構える。もう救うなんてカケラも考えておらず、ここまで苦戦させられたのもあり、始末を優先していた。
「来なさい、私の
コロラドは掲げた杖をそのまま海面に突き立てた。その時には全員が全員砲撃を放った直後。何もしなければそれが直撃してコロラドは間違いなく死ぬ。それなのに、何の躊躇もなくそこから退こうともしない。
言い放った本当の艤装というのが、その集中砲火を覆すことが出来る程の力を持っているということに外ならない。
「何をしようと……」
4人の砲撃がコロラドに直撃する瞬間、突然とてつもない水柱が立ち昇り、砲撃を全て無に帰した。コロラド本人はその水柱の上に立ち、4人を見下すようにニヤリと笑みを浮かべる。
ただ水柱に勢いを殺されただけではない。
「何よアレ……いきなり出てきたわよ!」
海中も感知出来る叢雲がそう言うのだから、本当にたった今そこに出現したのだ。何も無いところから、コロラドの数倍はあるであろう何かが展開されたということは、やはり本人が言う通り艤装なのだろう。
だがそれは、まず艤装とは思えないモノだった。意思を持つ生体兵器である戦艦棲姫の艤装ですらここまでのサイズは無いし、艤装であると言われればそう見える意匠をしている。しかし、水柱の中から現れたそれは、生体兵器ではなく
それは、
あまりにも非常識な艤装が現れ、目を丸くしてしまったのは戦艦棲姫だった。今まで旅を続けている間に出会った
施設のメンバーである伊47の持つ艤装もかなりの大きさだが、コロラドの艤装は、それをさらに上回っていた。戦艦棲姫であっても、白鯨にはペロリと丸呑みされてしまいそうなサイズ。
「っはぁ、これやたらと疲れんのよ。だから、さっさと終わらせてやるわ!」
スタミナ不足が露呈しているコロラドが、そのスタミナを大幅に削ってまで展開した巨大な白鯨艤装。吠えることも無ければ、潮を噴くことも無い。そういうところは艤装なのだろう。
何故だかついている赤ん坊のような腕で這いずり回りながら、真っ先に狙ったのはやはりと言っていいかはわからないが戦艦棲姫である。
「こんなのと真正面からやり合おうだなんて思わないわよ……!」
これは流石にまずいと、戦艦棲姫も回避に専念する。この質量を押さえ込めるほどの膂力は流石に無い。立ち向かったら最後、艤装も本体も粉砕されてしまう。
「アッハハハ! さっきまでの威勢はどうしたのよ!」
さらに艤装の上から杖による砲撃も追加。高台から一方的に砲撃を乱射して蹂躙し、そこにいる4人を嬲り殺そうとスタミナ度外視で暴れ回る。
白鯨に触れたらほぼ終わり。そこに砲撃まで加わったことで、回避する場所自体を制限される。コロラドはそこも狙って暴れ回っていた。
「何なのさアレ! 砲撃も全然効かない!」
「縛り付けようと思っても大きすぎて無理です! 避けるしか」
「砲撃が鬱陶しいわね! このクソ鯨!」
三者三様の反応ではあるが、総じて必死に回避するしかなくなっている。
これをどうにかするには、選択肢は2つしか無い。1つはコロラドのスタミナ切れまで粘ること。そしてもう1つは。
「こんなの、本体をヤれば終わりでしょうが!」
叢雲が取った選択。白鯨を無視して、その上に立って見下すコロラド本体を斃してしまえば、この猛攻は終わる。白鯨はあくまでも艤装。本体がいなければその存在を維持出来ない。
しかし、その本体までの道が遠い。巨大な白鯨の上に陣取るということは、この暴れ回る巨体を登らなくてはならない。それだけでも至難の業なのに、さらにはコロラド自体が上から攻撃を加えてくるのだから、近付く隙は無いと言っても過言では無いだろう。
ここに空襲が出来る者がいたらまた話は変わっただろうが、残念ながら戦艦棲姫以外は艦載機とは無縁の全員駆逐艦。さらに戦艦棲姫は戦艦であるため攻撃機は扱えない。出来ても偵察機程度だ。
「本体狙えるのは……あたしと薄雲だね。薄雲、鎖目いっぱい伸ばしたらアレに届く!?」
本体を狙うために白鯨を登らずに済ませるためには、砲撃で撃ち落とすか、白露や薄雲が扱う鎖付きの武器でダイレクトに狙うかになる。砲撃は一直線にしか飛ばないため、コロラドを狙おうにも簡単に避けられる上に状況次第で白鯨に弾かれる。実際に白露はコロラドを狙って砲撃を放っているのだが、暴れ回る白鯨にそれを何度も弾かれている。
そうなると、使えるのはある程度の自由が利く鎖付きの武器。白露は錨、薄雲は主砲だ。特に薄雲の主砲は曲がった後にさらに別の場所に放てる曲芸のような攻撃まで可能だ。今はそれが最もコロラドに通用する。
「届き……ます、届かせます!」
「あたしも頑張るからさ、とりあえず吠え面をかかせてやろう!」
この白鯨をどうにかするキーパーソンとして選抜されたことに若干の緊張感を持ちつつも、この危機を乗り越えるために立ち向かう。
「だったら、私達がサポートするわ。叢雲、いいわね?」
「あのクソ戦艦が叩き落とせるなら何でもやるわよ。薄雲が鍵だって言うなら、私がその背中を押してやるわ。一応私も姉なんだから」
「いいわ。なら私は白露を援護する。行くわよ」
白鯨の猛攻を回避しながら、戦艦棲姫は白露と、叢雲は薄雲と合流し、その攻撃を援護しつつ身を守ってやる。2人が斃れたらそのまま持っていかれるだろう。身を挺してでも守らなくてはならない。
「2組に分かれたところで、今の私には関係ないわ!」
しかし、コロラドの猛攻は一層勢いを増す。白鯨の尾鰭が錨のような形状へと変化し、グルングルンとのたうち回るように周囲を薙ぎ払う。ただ突進されるだけでも回避に専念しなくてはならないのに、ここまでされるとさらに回避が厳しくなる。むしろ、近付くことが出来ないのが問題。
「白露、大丈夫かしら」
「問題無し! ちょいちょいしんどいけど、まだやれる!」
暴れ回る尾鰭の風圧に体勢を崩されつつも、その場からは一歩も退こうとしない白露を守るべく、戦艦棲姫が艤装と共に盾となる。
白露の方へと飛んでくる砲撃をどうにか弾き飛ばしているため、白露は大きく傷つくことはない。その間にも、鎖付きの錨を振り回しながら上に投げるタイミングを見計らっている。
「薄雲、アンタが要よ。私が守ってやるんだから、しっかり決めなさいよ!」
「は、はい、やります! やってみせます!」
同じように叢雲も薄雲の前を陣取り、その砲撃を斬り払いながら薄雲を守り続けた。
戦艦棲姫と違うところは、叢雲自身も白鯨やコロラド本体に向かって攻撃を繰り出し続けていること。何かしら自分でも有効打が無いかと模索していた。
「あの艤装、魚雷も効かないのはインチキね……硬すぎるわ」
しかし、その全ての攻撃が跳ね返されているのを確認している。戦艦棲姫の砲撃すらも弾いているので、駆逐艦の砲撃はまるで効かない。そして魚雷すらも効かないとなると、艤装
だが、自分の攻撃がまともに効かないことに苛立ちがどんどん募っていく。そもそも溢れている怒りがより強くなっていた。
「イライラする、なんであんな奴がこんな強い力を持たなくちゃいけないのよ」
その苛立ちを口から出すほどにイライラしながらも、薄雲のために道を切り開こうと白鯨に立ち向かう。
砲撃が効かないならば、自慢の槍もまるで歯が立たない。自分の攻撃が全て無意味にされている。ここまで何も出来ないことがあまりにも腹が立ちすぎて、叢雲は手が震える程に力んできた。
「この怒りを、苛立ちを、憎しみを、恨みを、全部アイツに吐き出してやる。一回殺すだけじゃもう抑えられない。何度も、何度も、何度も何度も何度も串刺しにしてやる!」
その怒りは全て槍に込められていく。それに気付いた薄雲が、白鯨の猛攻の中隙を探しつつも、叢雲の異変にも目が行った。
「姉さん、それ、
その槍が、少しだけ
ならば、この全力の怒りを槍に乗せて解き放った時、槍はとんでもない変化をするのではないか。薄雲はそう考えた。
「怒りを解き放つ……いいわよ。私の怒りを、思い知らせてやるわ!」
「はい! 姉さんの怒りを、ぶつけてください!」
もう殆ど八つ当たりみたいなところもある。だが、ずっとずっと耐え続けていた怒りが溜まりに溜まってストレスとなっているのは確か。そのストレスを槍に乗せて、今も溢れ続ける怒りを更に乗せて、白鯨に向けて突き出した。
瞬間、叢雲の槍が
「ちょっ、アンタ何を!?」
「ぶち抜いてやるわよ、そんなゴミみたいな鯨!」
燃え上がり続ける怒りを糧にしてグングンと伸び、さらには太くなり、硬くなる。もう槍とすら言えない、
「鯨ってんなら、もっと可食部くらい増やしてこいっての! そんな筋張った身体、クソ不味そうだわ! だから、ぶっ壊れろ!」
最後は理不尽な怒りまで上乗せされ、その怒りと対象となっている白鯨の口内を貫く。
本来ならば全く通用しない一撃だっただろう。だが、今の叢雲の怒りは、本当に今まで発散出来なかった全ての怒りの集合体だ。怒れば怒る程力を増し、そして、全てを貫く刃となる。
そして、
「ぶち抜けぇ!」
その巨大で強大な白鯨は、叢雲渾身の一撃で串刺しとなった。
「ふ、ふざけるな、何なのよそれ! 私の艤装を、そんなことで」
「せっかく姉さんが作ってくれた隙です。有効に使わせてもらいますよ」
「おうさ、叢雲最高にカッコよかったよ!」
この隙を薄雲も白露も見逃すわけが無かった。白鯨の上を陣取るコロラドへ向けて、薄雲は主砲を、白露は錨を投擲。しかも、叩きつけるような角度で振り下ろした。