交戦中、コロラドが本当の艤装という生体艤装、白鯨を展開したが、怒りを発散することによる新たな力に目覚めた叢雲の渾身の一撃により白鯨そのものを貫いた。これにより大きな隙が出来上がる。
「せっかく姉さんが作ってくれた隙です。有効に使わせてもらいますよ」
「おうさ、叢雲最高にカッコよかったよ!」
この隙を薄雲も白露も見逃すわけが無かった。白鯨の上を陣取るコロラドに向けて、薄雲は主砲を、白露は錨を投擲。しかも、叩きつけるような角度で振り下ろした。
「こんな、ところで、負けるかぁ!」
しかし、コロラドもタダでは転ばない。2人の攻撃を、持っている2つの艤装で食い止める。白露の錨はロブスターのハサミで挟み、薄雲の主砲はカニの甲羅の盾で受け止めた。ガギンと酷い音が鳴ったが、疲労を見せるもののコロラドは無傷だ。
わざわざしっかりと主砲を盾で受け止めている辺り、スタミナを消費した上に予想外に白鯨がやられてしまっても頭は回っているようである。ここでさらに砲撃と行きたかったが、盾であるためにコロラドに攻撃は届かない。
「しぶといなぁホントに! 前のあたしもあんなだったっけ!?」
「うざさは似たようなモンよ」
白鯨を貫いた槍を本来のサイズに戻した叢雲だが、これだけでは怒りはまだ発散されない。これだけのことをやったというのに、まだ斃れないことに苛立ちが止まらない。そしてその分だけ、また力が扱える。
槍に再び力を込めると、まだまだ変化させることを実感出来る。一撃で破壊出来ないのなら二撃、それでダメなら三撃と、ダメージを積み重ねれば最終的には斃せるはず。そして一撃積み重ねるごとに叢雲の苛立ちは膨れ上がるため、殆ど無限ループに入る。
「同じことを、何度も喰らう私じゃないわ! I'll kill you!」
ロブスターのハサミで挟んだ錨を振り回そうとしたことで、白露は咄嗟に艤装を消す。そのまま持っていたら腕が持っていかれていただろうし、白露自身が振り回されて海面や白鯨の胴体に激突させられていただろう。海面ならまだしも白鯨の胴体だと、普通以上にダメージを受ける。
さらには薄雲の主砲を杖で払い除けつつも絡め取り、そのまま突き付けることで薄雲自身に狙いを定める。鎖を消す以外の選択肢を与えないが、そんなことをする前に動きを固定化したことで、回避をさせないようにしていた。
1人ずつ確実に始末すると、ここに来て妙に冷静なコロラドは、まず真っ先に狙ったのが薄雲である。手近だったからというのが一番の理由だが、本能的に最も始末しやすい者であると判断したというのもある。
「薄雲! ボーッとしてんじゃないわよ!」
しかし、それを防ぐのはやはり叢雲である。戦艦棲姫と白露が組んで行動しているため、薄雲の場所には手が届かない。叢雲は元々組んでいたのだから、当然守ることが出来る。
コロラドが放った砲撃を、叢雲はいとも簡単に斬り払った。速さと力を兼ね備えた存在へと成長した叢雲は、薄雲を守ることも容易い。
「ぼ、ボーッとしてませんよ。鎖を引っ張られて、消す瞬間を狙われたんですから」
「ったく、アンタなら躱せてたかもしれないけど、私がいなかったら多少傷付いてたかもしれないでしょうが。白露とかが傷付くのは何の痛みもないけど、アンタは一応私の妹なんだから、もっと強く在り続けなさいよ」
口は悪いが、薄雲にはそれが激励であることがわかっている。伊達にこの叢雲の妹をやっているわけではない。
叢雲も怒りに塗れながらも妹のことを思っている部分が出ている。少し歪かもしれないが、姉妹がちゃんとやれている。
「戦艦が一番うざったいと思っていたけど、考えを変えるわ。アンタが一番よ、Spear soldier!」
叢雲の急激な成長、最早
「それはこっちのセリフよコロ助が! 私の怒りはアンタら全員に行ってんのよ! ここで始末してやる!」
最初から救うつもりなんて毛ほども無い叢雲にとって、コロラドが何を言おうが斃す以外の選択肢は無い。むしろ、口悪く罵られれば罵られるほど怒りが募り、叢雲はより強い力を得ていく。
「アンタだけはここで終わらせてやる。
「終わるのはアンタよ! その筋張った鯨ごと、海の藻屑にしてやるわ!」
これだけ時間をかけても、未だ白鯨は半壊状態を維持し続け、コロラドはその上から見下しているのみ。とはいえ、白鯨はのたうち回ることは出来なくなっていた。それでも、あくまでも自分が上なのだと知らしめるように、絶対に白鯨から下りようとしない。
それがまた叢雲の苛立ちを加速させる。今度は白鯨ではなく本体を貫いてやろうかと槍を握る手に力を込めた。
「あら、私達のこと、忘れてるのかしら。貴女の敵は叢雲だけじゃないわよ」
そこに乱入するように、戦艦棲姫が白鯨の上まで跳んできていた。自らの艤装を使い、コロラドの近くにまで
コロラドの意識が叢雲と薄雲の方へと向いている隙に回り込み、この行動に出た。勿論白露も、消した錨を再度展開し直している。
「このっ、寄ってたかってぇ!」
「だから、貴女達にそういうことは言われたくないのよ。平和な島にわざわざ襲撃してくるような連中、何されたって文句言えないでしょうに」
戦艦棲姫の砲撃は、またもや甲羅の盾で弾き飛ばした。しかし、スタミナが大きく減少している今、コロラドはそれだけでもふらつく。
叢雲に白鯨を貫かれたのは、本体にも大きな影響を与えていた。戦艦棲姫もそうだが、本体と艤装は痛みなどは共有しないが繋がっている部分もある。いくらでも展開出来るからと言っても、破壊された部分を即座に修復することは難しい。何故なら、本体にも影響が及んでいるからだ。
艤装が破壊されれば、その分スタミナが削られる。それは誰だって同じ。春雨の義脚や海風の義腕もその影響下に置かれている。疲れればもう一度構築するなどは出来なくなる。
それでもコロラドは半壊状態の白鯨を維持し続けているのだから、消耗は全て本体に乗ることになるだろう。結果がコレだ。今まで出来ていたことが出来なくなる。
「っしゃあ、もういっかぁい!」
そのふらつきを見逃すわけもなく、今度は白露が先程と同じように錨を振り下ろす。鎖による遠心力を充分に使った一撃は、二度目だからか先程よりも速く、そして威力も高い。
「そんな野蛮な攻撃に、私がやられるかぁ!」
同じ攻撃をしたということは、同じように防がれるということ。猛烈に突っ込んでいく錨はロブスターのハサミにより挟まれ、すんでのところで食い止められてしまう。
しかし、二度目のそれは一度目のそれとは違う部分があった。白露は同じことをしたが、コロラドの消耗が激しい。それ故に、
「なっ」
ハサミにヒビが入った。そもそも一度目の攻撃を受けた時に酷い音が鳴っていたのだが、その時に既にハサミは脆くなっていたのである。
艤装の破損は本体へと影響する。痛みは無くとも、疲労感が一気に駆け巡る。コロラドのふらつきはさらに強く。
「そこから、下りてください!」
さらには薄雲からも同じように主砲が投擲される。こちらも白露に倣ってより強めに遠心力をかけて。
「同じことを何度も何度も! 私がそんな攻撃でっ」
これも先程と同じ攻撃であるため、同じように対処しようと盾で防いだ。だが、コロラドの消耗はさらに加速する。盾にもピシリとヒビが入った。
「上から見てんじゃないわよ!」
そして力を溜め込んだ叢雲が、もう一度槍を突き出す。それはまたもや叢雲の怒りを反映するかのように巨大化し、今度は口から通しての串刺しではなく、真横から装甲を破壊した。
のたうち回り、暴れていたその時とはまるで違い、装甲そのものも脆くなっていた。叢雲による一撃が相当に効いていたか、まるでガラスを叩き割るかのように突き破っていた。
もう殆ど攻城兵器である。巨大な艤装を使えば使うほど叢雲は怒りを覚え、その分力が増していく。今まさにその真価が発揮されているのだ。
「きゃっ!?」
白鯨がそこまでやられたら、コロラドもまともに立ってはいられなくなるだろう。ふらつきはさらに酷くなり、その場に崩れ落ちた。杖で身体を支えることで膝をつくことはなかったが、代わりに白鯨は音を立てて壊れていく。
「私は
槍のサイズを元に戻した後、その切っ先をコロラド自身に突き付ける。狙いは当たり前のように左胸、心臓。一撃で終わらせてやると容赦なく振りかぶる。
だが、コロラドはここまでされてもまだ諦めていない。
「まだよ」
崩れていた白鯨のカケラが叢雲の槍の軌道を逸らした。崩壊した白鯨を内側から再構築しようとしたことで、コロラドを包み込むようにその形を作ろうとしている。
この意地に、叢雲は一瞬恐怖を感じてしまった。ここまでされても諦めず、尚抗おうとするコロラドは、敵とはいえ感心すらしてしまう。
しかし、コロラドが再構築しようとする白鯨は、もうそのカタチになることは無かった。最後にコロラドを守るだけ守って、カケラも霧散。コロラドもそれと同時に気を失った。
完全にスタミナ切れ。傷は殆どついていなくとも、白鯨を使い続けたことによる体力の枯渇。もう起き上がるどころか目を覚ますだけの力も残されていなかった。
「……アンタ、めちゃくちゃすぎるわよ。こんなにギリギリまで粘るだけ粘って、勝算があるにしてもやりすぎ。他の連中なら撤退だって考えるでしょ」
こんな相手をわざわざ殺そうだなんて思わず、叢雲も槍を消した。瞬間、猛烈な疲労に襲われて膝から崩れ落ちる。
「姉さん!?」
「腹が立つほど疲れたわ……」
二度も繰り出した槍の巨大化は、怒りを込めた渾身の一撃だったのだが、後々に響いてくる諸刃の剣。膨れ上がった怒りだけでは、あんなことは出来ない。叢雲の体力も根刮ぎ奪い取り、全てが終わった後にその代償を払うことになった。
だが、叢雲は久しぶりに気分が晴れやかになっている気がした。溜まりに溜まった怒りをああいうカタチで発散することが出来たからか、今だけは怒りが溢れ出そうとしない。今だけは、怒りの無い真っ白な状態だと思えた。だから気を失ったコロラドに追撃をしようとも思わなかったようだ。
「甘いもの食べたいわ……こんな時間だけど」
「戻ったら何か食べましょう。誰も咎めませんよ」
「咎められても困るわよ……自分で歩くのもキツいわ。曳航してちょうだい」
「はい。じゃあ鎖を握ってもらって」
叢雲と薄雲が帰り支度をしている中、白露と戦艦棲姫は気を失ったコロラドの対処。それに、まだ戦いは終わったわけではない。
「春雨、春雨はどうなった!?」
落ち着いたところでハッと気付いて、春雨達の戦場を見る。そこは、思った以上に凄惨な光景だった。
「え、えぇ……あれ春雨がやったの……?」
戦っていたはずの大鳳は血塗れで横たわり、片腕が鋭利な刃物で切り取られている。そして春雨は返り血を浴びているような状況。今はその血を雨と海水で洗い流しているところだった。
大鳳をあそこまで痛めつけたのだとわかると、一体何が起きたのだと勘繰ってしまう。
「い、一旦あたしは春雨と合流する。戦艦さんはコロ助のことお願いしていい?」
「ええ。コイツが泥を吐き出すかもしれないから、慎重に運ぶわ」
「うん、そうして。ちょっと春雨が心配になってきた」
妹達の心境が心配になった白露は、コロラドのことを任せて春雨の元へと駆け出した。
大鳳とコロラドはこれで撃破となる。まだ泥を吐き出しているわけでは無いのだが、勝利したことには変わりない。
残すところは潜水艦姉妹なのだが、こちらはこちらで波乱に満ち溢れていた。