空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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ヒトのカタチ

 泥に呑み込まれたミシェルは、溢れた疑問による特性により侵蝕を受け付けず、そして仲間を救いたいという心の力により覚醒。駆逐イ級という繭を突き破り、ヒトのカタチへと昇華した。

 

「ジェーナスちゃんを守るため! ミシェルは、ヒトのカタチになることが出来たっぴょん!」

 

 にかっと笑って、ジェーナスに飛び付いた。今までの大変さを微塵も感じさせないほどに明るく、ジェーナスとこう話せるようになったことを心から喜んでいた。

 しかし今は戦場。こうしている間も、海中──足下では伊47が潜水艦姉妹と向かい合い、春雨達が海上から牽制をし続けている。

 

「Michelle、私もすっごく嬉しいけど、今は戦いの最中なの! 海の中にいる潜水艦の子達をどうにかしなくちゃいけないのよ!」

 

 ジェーナスも喜びは大きいのだが、今はこの戦いをどういうカタチでもいいので決着をつけなくてはならない。喜び合うのはその後だ。

 ミシェルも、自分を痛めつけた相手が海中にいるのは理解している。それは疑問にもならない。自分の目で見ているのだし、そもそもダメージを体感しているのだから、疑問になるわけがない。ミシェルにとっても、その潜水艦姉妹は敵という認識で問題ない。

 

「そうっぴょん。ジェーナスちゃんもそいつらに嫌なことをされたんだもんね。だったら、ミシェルが痛い目を見せてやるっぴょん!」

 

 表情も無ければ四肢も無い状態でアレだけ感情表現が豊かだったミシェルが、表情どころか言葉まで得てしまったため、とてもハイテンションに全身を使って自分の感情を表した。駆逐イ級だった時の癖も残っているようだ。

 ジェーナスとしても、ミシェルがここまで変わるとは思っていなかった。おそらくこの姿と性格が、話に聞いていた艦娘卯月なのだろう。妙な語尾がついてしまっているのも、その艦娘の特徴。

 

「Michelle、その前に服を着ましょ。ほら、雨でビショビショになっちゃってるし、せっかくヒトの姿になったんだもの」

「服? ()()()()()()()?」

 

 あまりにも論外な言葉だった。

 

 ミシェルの常識、理解していることは、とてつもなく狭い。駆逐イ級として見てきた施設で知ったこと以外は、ミシェルの世界には存在しないのだ。今までは服すら着ていなかったわけで、仲間達は服を着ていてもそれはそういうものとしてしか理解出来ていない。着たり脱いだりするものとは思っていない。そもそも着るという行為がわからない。

 それほどまでに、ミシェルの知識は極端なのである。艦娘と深海棲艦としての本能として戦うという行為は理解している。施設の仲間達を守るという決意も出来る。感情だってしっかり喜怒哀楽が兼ね備えられている。しかし、それ以外はもう滅茶苦茶。生きていくための行為として、食べるということは理解していても、ミシェルはヒトの身体となっても生魚をゴリゴリと食べるだろう。

 

「えーっと、その、ほら、私が着てるコレ、コレ」

「あーっ! みんなが身体にくっつけたヤツぴょんね! それホントに必要なモノっぴょん? 今やらなくちゃいけないのって、海の中のヤツらをぶっ倒すことっぴょん! ミシェル、いっきまーす!」

 

 服のことはもう置いておいて、ミシェルは何を思ったのか海の中へと飛び込んでいった。

 

「ちょっ、Michelle!?」

 

 慌てて手を伸ばすが、ミシェルはもう海中だった。普通の駆逐艦ならば、そもそも潜ることなんて出来ない。むしろ、今のミシェルは孵化したばかりで()()()()()()()()()()()()()

 

「大丈夫っぴょん。ミシェルが今までやってこれたことなんだから、カタチが変わった今でもやれるっぴょん!」

 

 なんと、ミシェルはヒトのカタチとなっても海中で活動が出来た。それは駆逐イ級として活動していたのだから、ミシェルにとっては当たり前のこと。

 そして、駆逐イ級から孵化した存在ということになるため、その特性は据え置き。当然海中に潜ることは出来た。

 

Can't Believe It(信じられない)! Michelle、とんでもないわ!?」

 

 流石のジェーナスもこれには驚きが隠せなかった。本当にミシェルがヒトのカタチをしているだけ。駆逐イ級が出来ることは、今のミシェルでも全て出来るということになる。

 過去(艦娘)の自分のことを全て忘れているおかげで、戦い方の常識も駆逐イ級が基になっている。海上でも海中でも戦えるとなると、もう施設の中でもトップクラスの力を持っていると言っても過言では無い。

 

「ジェーナスちゃんを泣かせようとしたのは、何処の何奴ぴょん! って、あの潜水艦の2人組だよね。何処にいるぴょん! このミシェルがギッタンギッタンのグッチャグチャにしてやるっぴょん!」

 

 海中まで一気に潜ってきたミシェルは、早速潜水艦姉妹の眼前に迫っていた。

 伊47も流石にこれには驚いたし、潜水艦姉妹も感情が失われているにもかかわらず、全裸の少女が現れたことに唖然とした。どう見ても潜水艦では無い存在が目の前にいたら、こうもなろう。

 

「あ、ヨナちゃん、ミシェルも手伝うぴょん!」

「えっ、み、ミシェルちゃん!?」

 

 潜水艦姉妹との激戦で、海上で起きていることが見えていなかった伊47は、当たり前のように海中に現れた少女があのミシェルであるということに、より一層驚くことになった。

 キョロキョロと大袈裟に周囲を確認した後、唖然としている姉妹の姿を視界に入れた瞬間、ビシッと音が鳴りそうなくらいに力強く指を差した。

 

「オマエ達がみんなを泣かせようとしてる奴っぴょんね! さっきはやられたけど、次はさっきみたいにいかないぴょん! このミシェルが、オマエ達をメッタメタにしてやるぴょーん!」

 

 そして、啖呵を切る。若干語彙が足りないのは、単純にミシェルにそこまでの知識が無いから。

 

「なにあれ」

「なにあれ」

 

 潜水艦姉妹も、これくらいしか言うことが無い。秘密兵器として放った悪意をばら撒く魚雷によって、施設側の誰かを仲間に引き込んで脅威を排除しようとしたら、瀕死だった駆逐イ級が飛び込んできた挙句、新たな戦力として立ち塞がってきたのだ。

 あまりにも理解が出来ない内容だった。本来の効果とは真逆の結果が出てしまった。聞いていた話と違う。ならば、あの駆逐イ級はなんだったのだ。疑問は尽きない。

 

「ヨナちゃん、あのお魚を捕まえる時のあれ、やるっぴょん。アレもお魚みたいなものだし、ミシェルとヨナちゃんでなら、いろいろやれるっぴょん!」

「えっ、あ、追い込み漁のこと……かな。うん、そうだね、ヨナ1人だとあの2人を追い込むのは難しかったけど、2人ならやれるヨナ」

「ぴょん! あんなおっきいお魚なら、みんな喜んでくれるぴょん!」

 

 ミシェルは伊47との漁の経験がある。相手は潜水艦ではあるが、やることは追い込み漁と同じ。2人がかりで逃げ場所を固定して、海上の仲間達の手が届く場所まで移動させる。

 潜水艦姉妹ですら、魚扱いである。別に相手を下に見ているわけではない。ミシェルはそういう知識しかないのだから仕方ないのである。

 

「それじゃあ、行くぴょーん!」

 

 海中だというのに、殆ど潜水艦のように行動が出来るミシェルは、あまりにも例外が過ぎた。潜水艦姉妹にとっては、ミシェルの艦種すら理解が出来ない。

 

 ミシェルはそんなことを気にせず潜水艦姉妹の右側へ。それに合わせて伊47は左側へと向かう。眼前から一気に挟み撃ちの様相。

 

「なんかまずい」

「うん、関わってちゃダメ」

 

 このミシェルの行動から嫌な予感がした潜水艦姉妹は、これまで以上に撤退の意思を固める。

 秘密兵器を使った結果、新たな敵が生まれてしまったとなれば、これは突然仲間割れがあったこと以上に依頼主に報告しなければならないこと。生きて帰る以外の選択肢が無くなったため、2人がかりの追い込み漁は無視してすぐにでも戻りたいと感じた。

 

「逃がさないぴょん!」

「向こうには行かせないヨナ」

 

 左右に散ったところで急旋回し、2人同時に姉妹に突撃。だがそれは体当たりをするとかそういうことではなく、施設から離れる方向の進路を完全に封じるため。

 

「邪魔」

「うん、邪魔」

 

 姉妹も黙って妨害されているわけがない。突撃してくるのなら、それに向けて魚雷を放てば簡単に迎撃出来る。躱されたとしても、進路妨害をさらに妨害して、逃げ道を作ることが出来る。

 

「ぴょっ!? 反撃してくるお魚とか普通いないぴょん! でも、ミシェル負けない! ヨナちゃんと一緒だから、上手く行くっぴょん!」

 

 その魚雷を華麗に避けて、あくまでも逃げ道だけは封じるように泳ぎ回る。攻撃してこないにしても、そもそも進路のど真ん中を陣取られたら、行けるものも行けない。

 放つところが見えている魚雷なんて、素人でも避けられる。ましてや、ミシェルは今まで海中でも活動出来ていたのだ。避けられないわけがない。さらりと躱した後は、施設とは逆方向へ。

 

「逃がさないヨナ」

 

 そして伊47は逆方向へ。施設側にも行かせないと立ち塞がる。

 

「生きて帰ることが依頼だから」

「だから、邪魔しないで」

 

 ならば、前でも後ろでもない場所へと向かおうとするが、潜水艦姉妹はこの2人の動きに気を取られていたことで、海上のことが頭から抜けていた。

 右へ行こうとした瞬間、猛烈な量の魚雷が降ってくる。先程も同じようにされたため、その犯人がコマンダン・テストであることはすぐにわかった。まるでカーテンのように進路を塞がれ、こちらはダメだと早々に諦め逆方向へと向かおうとする。

 だが、そちらもすぐにダメだと悟る。進路を埋め尽くすのではないかという爆雷の群れ。勿論それを投射したのは、真上にいる春雨と海風である。

 

「右も、左も、いけない」

「前も、後ろも、いけない」

 

 そうなると、上か下しかない。しかし、上──海上に出ようものなら、海上艦達に狙い撃ちにされる。そうなると、向かう先はたった1つ。下──海底しかない。

 勿論、それを見越した追い込み漁だ。相手側の行動範囲を極端に狭めて、思い通りに動かし、最終的に目的を達成する。海中に1人ならば逃げ道が出来ていただろうが、2人となった途端に密度が上がり過ぎていた。

 

「なら」

「下っぴょん?」

 

 さらに急速潜航しようとした時には、ミシェルが既にその場所に移動していた。そして、ニカッと笑ったと思った瞬間、ミシェルは急速浮上を開始。

 今なら逃げ道が開いている。ここから移動すれば、施設からも離れることが出来て、生きて帰ることが出来る。それなのに、身体が動かなかった。

 

 追い込み漁の真骨頂。あらゆる逃げ道を考えさせることで、一瞬頭の中がパニックを起こす。嫌でも身体がピタリと止まる。頭が良ければ良いほど、パニックは顕著に。ミシェルが驚かせることも加味して一気に移動したため、余計に動きを止める結果になった。

 

「オマエ達が行くのは、上っぴょん!」

「うん、打ち上がってもらうヨナ!」

 

 伊47も真下に来ていた。普通なら追い込み漁で体当たりなんてしないのだが、相手がこれなら話は別。かなり強引な方法でも、仲間達のところに追い込む。

 

「ちょあーっ!」

 

 ミシェルの掛け声と同時に、2人纏めて海上へと打ち上げた。主に伊47の巨大な艤装の力なのだが、ミシェルの尽力もあってか、その衝撃から姉妹は逃げることが出来なかった。

 

「えっ」

「まずい」

 

 そう思った時にはもう遅い。激しすぎる伊47の艤装の尾鰭に打ち付けられた姉妹は、強烈な圧がかかって急浮上させられる。もがこうにもこの一撃は非常に重く、嫌でも海上まで打ち上げられた。

 

「こうなってくれれば、Richelieuでもどうにか出来るわね。良い仕事よ、2人とも」

 

 そして、リシュリューが尻尾の艤装によって打ち上げられた潜水艦姉妹を捕らえた。恐ろしく長いそれならば、姉妹を纏めて拘束することが出来た。

 

 

 

 

 これにより、潜水艦姉妹も捕獲成功。殆ど無傷で攻略出来たのは僥倖と言えよう。

 

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