ヒトのカタチへと生まれ変わったミシェルと対面して、大いに驚いた調査隊一行。大淀と明石はミシェルの存在を話にしか聞いていなかったが、それでも元々駆逐イ級だったはずなので、同じように声を上げる。
真っ先にミシェルに近付いたのは島風。誰よりも早く陸に上がってミシェルに駆け寄ったかと思ったら、ベタベタベタベタと身体中を触る。
「うわ、うわー、私達と同じ身体だ。ミシェル、なんでこんなことになったの?」
驚きは簡単には引かないが、ひとまず何故こんなことになったかを尋ねる。
「んー、よくわかんないっぴょん。でも、ジェーナスちゃんを守るんだーって思ったら、ヒトのカタチになれたぴょん。だから、ミシェルはもうみんなと同じっぴょん!」
島風のことも友人として認識しているため、お返しするように島風にベタベタ触る。
同じことが出来たということを実感し、2人揃ってニカッと笑った。
「でも、何か服着ないの?」
島風が言うのは、ミシェルの格好である。今のミシェルは、艦娘や深海棲艦が着る制服ではなく、明らかに布1枚を全身に纏っているようにしか見えなかったのだ。
この一晩で、ジェーナスを筆頭に施設の仲間達がミシェルに一般常識を教え込むために尽力したのだが、服だけはどうしてもうまく作れないようだった。
ジェーナスが最初に服について教えたとき、疲れからか、それが自分である証明と教えたのがよろしくなかった。何故なら、ミシェルがミシェルとして成立するものが、使わないシーツをリボン代わりに身体に巻いているだけだったからである。ミシェルにとっては服とシーツが完全にイコールで繋がってしまっているのだ。
そのため、今は苦肉の策として、シーツ1枚で服を作るという荒技で乗り越えている。ジェーナス達はそれを知らなかったのだが、古代ギリシャで着られていたというキトンのようになっていた。
「まだ時間が無くって、今は
「そうなんだ。じゃあ、時間があるなら私も手伝うよ! 人数いる必要があるかはわかんないけど」
「
その教育も、戦闘後の疲れているところにさらに徹夜をしているという状況下で行われているため、時間が無い以上に正しく教えられているかもわからない。
もう少しシャキッとした状況でなら、効率よく教育出来ていたかもしれない。兎にも角にも、今は施設の者達は全員が疲れ切っていた。
「明石、ダメよ」
「私の心読めるの大淀!?」
「長い付き合いなんだから、何考えてるかくらいわかるわ。ミシェルさんには近付かないこと」
大淀に先んじて行動を封じられた明石だったが、そう言っておかないとミシェルにもいつものマシンガントークから研究素材として手伝ってくれと言いそうだった。
それに、絶対にやってはいけないボロを出しそうなのも明石である。このミシェルに対して、絶対に言ってはいけない言葉があるのだ。それが、
「いや、だってこの子、完全にうづ」
「だから言うなって言ってるでしょ」
完全に口に出す前に腹に一撃入れた。不意打ちされたことで明石の言葉はそこで止まり、
当然だが、ミシェルに対して『卯月』という言葉は事前に禁じられている。髪飾りを見せただけでも発作を起こしたのだから、本来の自分を思い起こすような言葉は確実によろしくない。
そのため、いくら姿形や言動が100%卯月だとしても、そのことには触れずにミシェルとして扱うのである。
「じゃあ……えっと、3組に分かれるってことで……」
このままだと時間がいくらあっても足りなそうなので、隊長である山風が一旦話を区切った。ここからは調査隊に任された仕事をこなしていく時間。
1つ目の班は、明石と共に施設の敷地内に付着してしまっている泥を探し出し、持ってきた装備でそれを消していく。
2つ目の班は、宗谷のクルーザーに積み込まれている若干の食糧を施設に運び込む。数日分とはいえ、願いを叶えてくれたことに姉妹姫は大いに喜んだ。
そして3つ目の班は、この施設に捕らえられている泥に侵蝕された元艦娘達の治療と
「よーし、じゃあ私と大淀は予定通り泥掃除ですね。一通り見て回りながら装置を使っていくので、案内してもらえると助かります。ああ、あとサイズはフリーサイズで作ってますが、姉姫達にも身につけられる泥探知の眼鏡をいくつか持ってきましたので、どうぞ!」
ささっと眼鏡をいくつか取り出して、まずは中間棲姫に渡す。それ以外にも2つあったため、1つは飛行場姫が、1つは春雨が受け取った。
前者は単純に施設の管理人であるため、中間棲姫と共に身につけておいてもらいたいから。そして後者は、姉妹姫と違って海にも出られる者として、鎮守府と一番付き合いの長い者を優先した。そういう意味では白露でも良かったのだが、海風からの謎の推しがあったのは言うまでも無い。
早速眼鏡をかけてみて、施設の周囲を見てみると、その時点で反応がいくつも見える。それは、昨晩の内に確認した泥の場所とドンピシャ。
「すごいわぁ、遠くからでもしっかり場所がわかるのねぇ」
「はい、海中を見るためにも感度はかなり高めに設定してありますから! 深海棲艦の皆さんでも扱えるように外付けにして正解ですね!」
誰が使っても泥が確認出来るという優れ物。艦娘だけでなく、深海棲艦でも装備可能としたのは、明石の腕があってこそである。やろうと思えば人間でも問題なく使えるところまで配慮しているのが、明石の凄まじいところである。
「こうやって見ると、その、かなり散らばってしまっているんですね……」
「お姉でも取り零しが出ちゃうくらいなんだもの。アイツらのやり方がそれだけ汚いってことよね」
同じく眼鏡を使って泥を確認している春雨と飛行場姫。物凄く汚れているというわけではないのだが、どうしても気になるレベルで反応が見えてしまう。まるで雑に掃除した時の埃のよう。それだけあちらの雨に紛れた散布という手段が効率的であったことを表している。
この中間棲姫だからここまでで済んでいるわけで、そうで無かったら地面にも建物にも薄く全体的に張り巡らされ、隙を見て1人ずつ抵抗することも出来ずに侵蝕されていただろう。これで済んだのは運が良かったとすら思えてしまう。
「あそこだけは完全に取り除かれていますけど、やっぱり……」
「ええ、お姉が爆撃した畑ね。木っ端微塵にすれば泥は無くなるってことがよくわかったわ」
飛行場姫が歯軋りするように嫌そうな顔を見せる。
「次に使う泥を消滅させる波長は、人体に影響なく海中のそれも排除することが出来るのは実証済みなんですが、地中となると話は変わります。波長が届くかもわかりませんし、それこそ掘り返さないとダメな可能性はあります。本当に必要なモノが出来ないのは、不甲斐ないばかりです」
明石も研究の最中に土壌汚染の可能性までは考えていなかったため、それを除けば最善のモノを作れたと自負している。しかし、本当に求められているモノはそれ以上のモノだったというのが科学者としては不服だったようで、次はこうは行かないと明石も燃え上がっていた。
「少なくとも、この
話しながらも次の研究分析のことを考えている明石。今回直にここに来たのはそれもあるから。
「海風、どうかした?」
念のためと眼鏡でここにいる者達全員に、実は侵蝕されていないかの確認をしていると、春雨が海風の様子がおかしいことに気付いた。とはいえ、海風のこういう言動は割と見られるため、不安は一切無いが。
「姉さん、眼鏡も似合いますね。いや、これはなかなか見られないレアな姉さんですから、もう少し堪能したいですね。新鮮でとてもイイです。あえて服装も替えてみるのはどうでしょう。あのバレンタインの時のメイド服とかいいと思うんです。メイド長みたいで聡明な姉さんにはとても合うと思うんですよね。でも、知的なところをもっと押し出すように教師のようなスーツを着てみるのも」
「はいストップ、一回止まろうね」
相変わらずの海風に苦笑するしかなかった。
「……とりあえず、作業」
ここで山風がもう一度作業分担。しっかりと調査隊の隊長として指揮が出来るようになっている姿を海風に見せようとしているのは、後ろからずっと見続けていた江風と涼風にもすぐにわかった。
鎮守府から海風が失われてから、山風も精神的にいろいろあったが、成長しているのも確か。北上と大井という師にも出会い、心身共に強くなっている。引っ込み思案な山風が、こういう状況でも割って入れるくらいになったのは大きい。
「戦艦のヒト達は……宗谷さんと荷物を運び込む感じで……。力仕事いっぱいだから」
「Okay. 比叡、武蔵、私達は宗谷を手伝うネ」
「了解です! 力仕事ならお任せください!」
武蔵もいいだろうと力強く頷く。この中でも膂力が一番あるのは武蔵であるため、こういう作業もお手の物だろう。
「空母のヒト達は……捕まってる敵だったヒト達の様子を」
「ええ、私達が見てくるわ。治療薬は明石さんから貰っておけばいいわよね」
「まずは正気に戻ってる大鳳の様子からがいいんじゃないかな。話せる状態ならいいけど」
実際大鳳はこの一晩で顎のダメージがある程度回復し、話せるくらいにはなっている。そこで話を聞ければ幸い。
「残りは……泥の駆除……」
「山風の姉貴、意見具申いいかい」
ここで江風が提案。
「江風と涼風、あと島風くらいは、ミシェルのこと知っておいた方がいいと思うンだよね。ほら、予想外にヒト型になってたわけだしさ」
「……確かに。江風にしてはいいこと言う」
「一言多いぜ姉貴。だから、4つ目の班として、ミシェル調査ってことでいいかい?」
当初は3つの班に分ける予定だったが、ミシェルという知らない要素があったため、そちらの調査も必要になった。江風がそれを率先して言い出したが、これは根っこの部分に力仕事や精神的に疲れそうな仕事を回避しようという魂胆もあったりする。
「わかった……じゃあ、お願い」
そうなると、残った山風は明石と大淀と共に泥の駆除に。ここには春雨がついていくことになるため、海風も確実にいる。江風としては、海風のことをずっと考え続けている山風に
山風も江風にそういう気持ちがあることには気付いていたので、心の中で感謝しつつも班行動を始める。
「それでは、こちらもすぐに準備しますね。機材がちょっとあるので、それだけ持ってきますので。あと、その場でいろいろと調べることもあるかもしれませんから、時間はかかると思います。改めて、よろしくお願いしますね!」
「ええ、よろしくお願いねぇ。私達の平和を、取り戻してちょうだいねぇ」
「任せてください! 私も平和のために研究を続けてるんですから!」
大淀を筆頭に明石に対して『本当か?』という思いが強かったものの、実際明石は物騒な発明が多いだけで基本的には世界の平和のために尽力しているのは確かだ。思いと行動が若干食い違うことがあるだけ。それに、その技術力で大損害があったりはしていないため、全員がちゃんと信じることが出来る。
なんやかんやあったが、ようやくここから作業開始。まずは最優先である泥の駆除から。
海風が鎮守府からいなくなってから、精神的に少し歪みかけつつも、最も成長した山風。隊長として、海風にいいところを見せるため、今日も奮闘します。
支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/96593427
MMDアイキャッチ風島風。島風といえばこうやって走っているイメージが強いですね。ここの島風は過去にいろいろあったので、積極的に友達を作りにいく社交性の権化みたいな存在に。今回も早速ミシェルと仲良くしていました。