空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

228 / 506
それは正しいこと

 調査隊の作業で最も重要なのは、施設に散らばって付着した泥を排除すること。そのための装備を明石が作ってきているため、まずはそれを装備する。

 今後のことを考えると、その装置の扱い方はここにいる者全てが知っておく必要があるため、泥駆除班に便乗する姉妹姫と白露型姉妹はそのやり方をしっかりと学ぶ。

 今は疲労も取れておらず眠気もそろそろ来そうではあるが、施設の維持のためには重要なことであるため、これを今日最後の仕事として気合を入れ直した一同。

 

 しかし、明石が持ち出した装備を見て眠気が一気に飛んだ。

 

「えぇと、明石ちゃん。それが泥を消滅させるっていう装備かしらぁ?」

「はい、そうですよ。冗談みたいな見た目ですけど、これが一番わかりやすく効果的に泥をピンポイントで吹っ飛ばすことが出来ますので」

 

 明石が持ってきたのはどう見ても()()()だった。長い柄の先端に回転する刃……ではなく、ただの円盤が接続されており、ここから明石が話していた波長が放出されるらしい。金属探知機のように回転させないタイプもあったらしいのだが、ここが回転するのがミソらしい。

 

「特殊な波長を扱いますので、こう、捻じ切るように泥を排除します。ただ飛ばすだけだと相当な力が必要なんですけど、それ以上の力を軽い負担で作り出すために、遠心力などなどを使ってみました。本来そういう波に回転なんて意味がないかもしれないんですけど、そこは私の発明ですので、しっかり効果的にしてあります。あ、ちなみに作動中は絶っっっ対に円盤に近付かないでくださいね。ヒトに向けるのも以ての外です。これはそこにある泥を消し去るために作ったモノでして、海中のそれにも対応出来るくらいの高出力ですからね」

 

 相変わらずのマシンガンのようなセールストークに、姉妹姫はタジタジである。明石のこの性質を知っている白露型姉妹は、久しぶりにこれを見たので変に安心してしまった。離れてそれなりに経つ鎮守府は、何も変わっていないと実感出来る。

 

「ちなみに、万が一それに触れてしまった場合、どうなってしまうのかしらぁ?」

「回転する円盤に触れたらまぁ間違いなく触れたところが吹っ飛びますね。あと、泥を捻じ切る波長を身体に受けたら……どうなるかわかりますよね?」

「なるほど……大分危険なモノであることはよくわかったわぁ。でも、それくらい使わないと対処が出来ないということでもあるのよねぇ」

「そういうことです。身体に影響のあるモノを排除するためには、身体に影響のあるモノを使わなければ難しいんですよ。そもそもそれなりに強い火力でないと消し飛んでくれないような存在ですから、ある程度は出力を高めないとどうにもなりません。でも強くしすぎると、何処までも被害が大きくなりますから、今回は()()()()で抑えたんです」

 

 毒を以て毒を制するわけではないのだが、強いモノに対しては強いモノを使わなければどうにもならないということである。

 そして、それだけ危険なモノであっても、使う者さえ正気であれば危険ではない。明石だって、こういうモノを作っている科学者であっても、根幹は平和を願う艦娘だ。

 

 そもそも、艦娘の艤装だって言ってしまえば危険物なのだから、この装備だけを危険視するのは間違っている。本当に見なくてはいけないのは、使い手だ。

 

「実際に効果をお見せしましょう。大淀、その眼鏡で泥を確認しながら、これを使って消し飛ばしてやって。威力は最小でいいからね」

「ええ」

 

 装備を渡された大淀がそれを下段に構え、泥があるであろう場所に向かう。今ここにいる者の中で泥の場所が正確にわかるのは、眼鏡を預けられている姉妹姫と春雨。その3人は、大淀が真っ直ぐ一番近くに向かっているのがよくわかる。

 

 施設を少し大きく回って辿り着いたのは、これといって何かあるわけでも無い庭の一部。しかし、そこには泥が僅かに付着しており、近付けば目視でもわかるのだが、近付き過ぎたら危ない。

 

「では、これを第一号として処理を始めたいと思います」

「よろしくお願いねぇ」

 

 大淀が中間棲姫に伝えると、早速装備を掲げて円盤を泥に翳すように構えた。そして、手元に配置されたトリガーを引く。

 その瞬間、装備の先端に備え付けられた円盤が唸りを上げて回転を始めた。そこまで大きな音ではなく、しかも風が出ているわけでもない。ただ回り続けるだけなのだが、そこにある泥には明らかな異変が起きる。

 

「わ、わ、すごい。本当に反応が消えてく!」

「消滅というより、霧散と言った方がいいのかしら。飛び散るわけでもなく、その場で綺麗さっぱり消えているわ」

 

 春雨と飛行場姫がその様子を見て感心した。明石が言っていた通り、本当に泥がその場から綺麗さっぱり消えていくため、中間棲姫も全ての場所を爆撃するようなことにならなくて良かったと安心する。

 

「特殊な波長によって構造を分解しているイメージですね。この泥は群生している微生物みたいなものなので、その群を解き、そこから無へと昇華する。これがこの装備の仕組みです。小さい泥なら最小威力でも問題ありませんが、もし大きな泥があった場合は、威力をより大きくすることが出来るのでご安心ください。とはいえMAXはダメですよ。ふとした弾みで誰かに波長を照射するようなことになったら、タダじゃ済みませんから」

 

 明石がその効果を話してくれている中でも、中間棲姫はいろいろと考えてしまっていた。

 

「もしかしたら……貴女が来てくれるのを待っていたら、畑を壊さなくても良かったのかしらぁ」

 

 悲しそうな声色で中間棲姫が呟く。この装備の効果を見ている限り、見つけた泥はその場で消滅し、そしてそれは泥()()を排除している優れ物だ。付着している庭の一部を破壊することもなく、そこには元々何も無かったと言わんばかりに綺麗になっている。

 もしこれが最初からこの施設にあったのなら、畑を破壊することなく泥のみを排除出来ていたかもしれない。辛い思いをして、今まで可愛がってきた野菜達に爆撃を浴びせるようなことをしなくても良かったのかもしれない。

 

 それに対して、明石は少しだけ考える素振りをした後、小さく納得したような表情で中間棲姫に向き合う。

 

「いえ、貴女のやったことは正しいです。施設のことを考えるのなら、真っ先にやってもおかしくはないです。畑を優先したのも大正解ですよ」

 

 何を根拠にという視線を向けるが、明石は続ける。

 

「この装置はあくまでも表面上の泥を排除するモノです。見た目は綺麗さっぱりとなっていますが、泥は泥、流動体なので、()()()()という性質が確実にあるでしょう。ただでさえ増殖して侵蝕するという性質まで持ち合わせているんですから、そこにあるだけでもゆっくりと確実に蝕んでいくでしょう。それが野菜に付着ですよ。土や石と違って、口に含む可能性が高いモノです。私達には見えないところに染み込んで、この波長の届かないところに潜伏していた場合、何も出来ずにアウトです。そのまま食べたらおしまい」

 

 明石が微生物と称するだけあって、その泥は視認出来ない程に小さな悪意の群生。それ故に、肌に触れてもアウトの可能性を示唆しており、あらゆるカタチでの接触を禁じている。明石が作った防護服も、完全に密閉された侵蝕の隙も与えないスーツになっているくらいである。

 そんな相手に対して、それこそ入り込む隙間だらけの野菜なんて、どれだけ波長を当てても排除しきれない。そして、そこからまた増える。食べられないのなら全て廃棄するのは変わらない。畑ごと破壊する必要もあっただろう。

 

「むしろ、ここで畑を破壊していなかったら私が破壊してましたよ。こういう庭と違って、耕している土なんて泥に染み込んでくださいと言っているようなものですもん。一度全部掘り返す必要があったんですから、真っ先に破壊したのは最善手だと私は思います。言い方は悪いですが、畑も野菜も作り直せますからね」

 

 今回はこのマシンガントークもありがたかった。中間棲姫に反論の余地も与えずに、苦しみながら実行した破壊を肯定し続ける。間違っていないと言われることが一番の癒しだった。

 

「ただ、1つ気になることが」

「気になること?」

「はい。私……というか全員がそうだと思うんですけど、陸上施設型の深海棲艦とお付き合い出来るなんて初めてのことじゃないですか。で、この施設というか島ってどういう扱いなのかなと思って。これって貴女の艤装になるということでいいんですか?」

 

 艦娘側には絶対にわからないこと。陸上施設型の深海棲艦の持つ陣地、この島の扱いである。

 

 実際は殆ど艤装と同じ扱い。中間棲姫と飛行場姫が死ねば、この施設も島もその場で消失する。元々ある島を改造して艤装扱いの島にしているわけではないため、島そのものが姉妹姫そのものであるところもあるのだ。

 艦娘にも深海棲艦にもあることだが、身体と艤装はある程度リンクしている。どちらかといえば身体から艤装への一方通行ではあるのだが、身体が休まれば艤装も修復されるくらいには繋がっている。

 そうなると、この島と姉妹姫は繋がっており、そんなところに泥が付着して、しかも染み込んでこようとしてくるのだから、気掛かりになるのは当然のこと。

 

「この島すらも艤装だというのなら、泥が付着していることで貴女方に何らかの影響を与えてしまいかねないんですよ。本体に付着しているわけではないので、大きく変化はないかもしれませんけど、何かしらの体調不良なり何なりが出てもおかしくありません」

 

 姉妹姫としては、今のところ何も感じるところはない。島全体の大きさを100として、泥の規模が1にも満たないため、正直蚊に刺された程度である。しかし、その蚊に毒があるから問題。

 

「泥が付着していた土などは持ち帰って分析させてもらいますが、何か違和感とか不調があれば、必ず言ってくださいね。どうにかして治療しますから。薬とか薬とかいーっぱいありますので、その身体も隅から隅まで調べて調べて調べてまくりますからね!」

 

 最後の最後で欲望が出てしまったが、明石の優しさはよく理解出来た。言葉選びとテンションが悪いだけで、本当に平和を望んでいる者の顔をしている。

 

「ふふ、ありがとう明石ちゃん。私達に何かあったらお願いするわねぇ。そうだ、分析のために私の何かを持っていく? 髪とかなら渡せるけれど」

「いいんですか!? 是非ともお願いします! 姉姫は今の黒幕の器ということなので、確実に何かしらの関係性があると思うんですよ! なので、姉姫の何かを調べられたら、黒幕の居場所や、弱点まで分析出来る可能性があるんです!」

 

 急に押しが強くなったことで、中間棲姫が一歩下がった。

 

「一番いいのは身体の一部なんですが、流石にそんな猟奇的なことは言えません。入渠で全てが修復される艦娘と違って、深海棲艦はそういうカタチで治せないと聞いていますから、傷つけたくはないんです。なので、欲しいのは髪か爪、体液が妥当ですね。体液と言ってもなんでもいいんですが、血をくださいというのは怪我をしろというのと同義ですから、なんでしょう、唾液か、涙が一番いいかなと思います。流石に下の」

「明石、ステイ」

 

 かなり危ないことを言いそうになったからか、円盤をちゃんと止めてから大淀がまた明石に一撃入れた。抉りこむように腹を殴ったことで、明石の言葉はそこで止まる。

 白露型姉妹は相変わらずだなぁとほのぼのしていたが、飛行場姫としては気が気でない。姉の貞操の危機まで感じてしまった。

 

「すみません、コレにはよく言って聞かせておきますので」

「別に構わないわぁ。後から髪を数本あげるから、それで研究を続けてちょうだいねぇ」

 

 若干引き攣った笑みではあるが、明石は信用を得た。

 

 

 

 

 ここから泥駆除はどんどん進展していき、時間はかかったものの眼鏡で見える限りの全ての泥は消失。あとは染み込んだ泥がどれだけあるかの調査になる。

 




明石とて艦娘。平和を願い、担う者。


支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/96615498
MMDアイキャッチ風宗谷。この宗谷の発見がミシェルが卯月であると決定づけるものになりました。今は輸送班みたいな行動をしていますが、また調査をする時が来るでしょう。何せ、黒幕の器の一部が手に入ったわけですから。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。