空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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解放の薬

 施設の外で泥駆除が進められている間、調査隊の空母組、千歳、千代田、そしてサラトガは、施設の中へと入れさせてもらっていた。今は治療中という大鳳の様子を見るためである。

 まだ泥を吐き出していないコロラドと潜水艦姉妹は、リシュリューに絞め上げられているため外にいる。そちらは後にして、まずは正気に戻った大鳳の話を聞くことを優先した。同じ空母ということで話もしやすいだろう。

 

Ça fait longtemps(お久しぶりです). 千歳さんに、千代田さん。そちらは、Saratogaですね。話に聞いています」

「ええ、サラも話に聞いていました。サラが以前にここに来た時は、ここでフルタカの看病をしていて顔を合わせられませんでしたからね。改めまして、Nice to meet you Commandant Teste」

 

 空母組がやってきた大鳳が寝かされている部屋には、当然コマンダン・テストが常駐。大鳳も大分安定してきているようで、痛みはまだまだ強いものの、話せるくらいにまでは回復していた。

 古鷹の時のように内臓がズタズタなんてこともなく、骨は折れていてもそれだけで済んでいるため、少量ではあるものの朝食も摂っていた。代わりに利き腕である右腕を刎ねられているため、今はコマンダン・テストに食べさせてもらっている程。

 流石にまだ艤装の展開と同様に腕を作るまではやっていない。斬られた痕の痛みがあるため、まともに動かせそうにないからだ。今の傷口は艤装の蓋がしっかり嵌め込まれ、血も流れていない状態。

 

「貴女が大鳳ね……正気に戻っていると聞いているけれど」

 

 話を聞くのは千歳。コマンダン・テストに促され、ベッドの横に腰掛ける。

 大鳳もその声に視線を向け、小さく頭を縦に振る。話せるくらいになっていても、まともに話せるわけではない。まだ顎には痛みがあり、かつ胸の強打によって息苦しさも残っているため、動きはなるべく小さくしていた。

 

「話せないのなら、YesかNoだけでもいいから答えてもらえると嬉しい。勿論、無理はさせないわ」

「……出来れば……自分の口で……話したいですが……」

 

 ゆっくりと言葉を口にする。しかし、話すたびに顔を顰めるため、まだまだまともに話を聞くことが出来るのは先になりそうである。

 

 大鳳としては、今までにやらされてきたことを反省するという意味でも、この施設に、延いては世界の平和のために身を尽くしたいと思っていた。それが自分の意思では無かったとしても、血に塗れた手は紛れもない事実。

 失われた腕もその証であると、痛みも今では()()()()()()()と感じる程だった。この痛み、この苦しみは、自らの罪を如実に表してくれるモノ。痛くなくなったとしても、死ぬまで残り続ける傷を見ることで、犯した罪を一瞬たりとも忘れずに済む。

 

「……私は……拭いきれない罪を……犯しました……。償うためにも……私は……知る限りのことを話したい……今すぐに……」

 

 ゼエゼエ言いながらも、少しずつ少しずつ話す。

 

 境遇は今までに古鷹から聞いたものと殆ど同じ。突然泥に襲われ、口に飛び込み、そして仲間だった伊勢と日向を殺害して遺体と共にその場から消えた。そして気付けばこの身体である。

 またもや本当に重要なところは泥と共に吐き出してしまっていた。黒幕の居場所も、自分がされたこと、他の者にしていること、その何もかもがすっぽ抜けてしまっている。白露や古鷹と全く同じだ。

 

 だが、ここからは大鳳のみが知っていることが展開される。

 

「私達は……この施設に悪意の塊をばら撒くために……夜に来ました……。雨が降ってきたのは……本当に偶然……狙ってやったわけでなく……準備が出来たら雨だっただけ……」

 

 天気がどうであっても、昨晩に決行していたらしい。その日がたまたま雨だっただけ。潜水艦姉妹が施設の場所を発見する前から龍驤がこの作戦を考えていたらしく、いざ発見したら真っ先に準備をして行動に移す予定だったらしい。

 結果的に雨という好条件まで手に入れたことで最高の状況での実行となったが、ミシェルが潜水艦姉妹に気付いたことと、春雨が深夜でも直感的に目を覚ましたこと、そして中間棲姫の超火力によって、その作戦は8割失敗に終わった。残り2割は現在明石の発明品によって駆除中。

 

「立案者の龍驤が来ていなかったのは何故? あの子の性格なら、自分の立てた計画が上手く行くところを見たがりそうなものだけれど」

「龍驤は……今、療養中です……。私は少なくともそう聞いています……」

 

 前回の戦いで、山風と北上にやられた傷がかなり深かったらしく、黒幕の本拠地で治療をしていると、大鳳は話した。だが、その本拠地のことがすっぽり抜けてしまっているせいで、どのように治療しているかなどはまるで思い出せないとのこと。ただ、治療しているという事実だけを覚えているのみ。

 それを悔しそうに話す大鳳に、千歳は大丈夫と落ち着かせる。無理をするなと言うかのように、その額に手のひらを置いた。

 

「無理させてごめんなさいね。大鳳、今は眠った方がいいわ。コマさん、よろしくお願いします」

「Oui. ゆっくり休んで、回復に専念してもらいます」

 

 これ以上話させるのも酷に思えてきたため、大鳳との対話はここで一旦終了。

 

 やはり、泥を失った時点で真相まで失っているのは誰だって変わらない。ならば、()()()()()()()()()に尋問をするのがいいだろう。

 

 

 

 

 空母組はそのまま施設の外へ。畑とは別方向の庭には、戦艦棲姫とリシュリュー、そしてその艤装に絞め上げられている3人の()

 さらには、コロラド辺りが余計なことをしないようにと、叢雲もそこに槍を持った状態で陣取っていた。勿論薄雲も隣に。

 

「……こちらはこちらでとんでもないことになってるわね……」

 

 自分の数倍の長さを持つ艤装で3人を拘束し、身動き1つ取らせないようにしているその光景は、やはり艦娘とはかけ離れたモノ。

 

 その3人は、抵抗もせず拘束されている状態。コロラドに至っては、今までに目を覚ます素振りも見せなかったらしい。今までにないスタミナ切れによる気絶が敗因だったからか、その回復にも相当時間がかかっている。

 代わりに、潜水艦姉妹の方は既に目を覚ましている。スタミナに関しては他と違って相性のいい同種艦が混ざっていることでデメリットとして機能していないが、そもそも陸上では何も出来ないため無駄な抵抗をやめている。艤装すら消しているため、顔の半分を隠すシュノーケルも消え、その顔は曝け出されていた。

 

「この子達を治療しにきてくれたの?」

 

 3人の到着にいち早く反応したのは戦艦棲姫。実際は叢雲が感知していたが、それだけを伝えてまたコロラドが目を覚まさないように見張っている。

 

「はい、薬も明石さんから貰っているので、正気に戻すことは出来ますよ。ただ……出来れば治療前に尋問をしておきたいんですが」

「この潜水艦の子は、何も話してくれないわよ。守秘義務だそうで」

 

 依頼に入っていないことはやらないということを徹底しているようで、陸で目を覚ました後は無言に徹している。何処を見ているかわからない視線でぼんやりとしており、隣に姉妹がいても我関せずと、抵抗もしない代わりに何も言わない。

 善意も悪意もないが故に、この行為も意思なんて無い。悪意をもって無言に徹しているならまだしも、ただ話す必要が無いから話さない。だからこそ、何をしても話さない。おそらく、拷問をしようが、それこそ死にかけても話さないだろう。

 

「コロ助は置いておいて、Sous-marin(潜水艦)は治療してもらえるかしら。3人同時に拘束するのも疲れるの」

 

 リシュリューからも少しだけ弱音が出る。何せ、戦艦棲姫とリシュリューは一晩この状態を維持しているのだ。施設の中に入ることも出来ず、最初は雨すら降っていたので、疲労もかなり溜まっている。

 

「わかりました。では、その2人は先に治療しましょう」

 

 言いながら千歳が懐から取り出したのは薬瓶。そこには妖精さんも一緒におり、荒潮の時と同じように薬を()()()飲ませる係である。

 千歳がその妖精さんにお願いすると、サムズアップをした後に薬を2錠手に取り、器用にリシュリューの艤装を駆けていく。

 目の前に妖精さんに立たれても、潜水艦姉妹はどこ吹く風。薬を持っているからか、しっかりと口も噤んでいた。飲まされたら依頼を達成出来ないと判断したのだろう。

 

「薬を飲むだけで泥が消えるなんて、便利なものね。そういうのがあるなら早く出してもらいたかったわ」

 

 叢雲の悪態も軽いもの。戦闘で怒りを発散出来たことが良かったか、まだ常に怒りを振りまくところにまでは行っていない様子。なので、薄雲も叢雲の発言を諌めるようなことはしない。

 

 一切口を開こうとしない潜水艦の前に立った妖精さんは、何を思ったか潜水艦の鼻の辺りに触れ始めた。フェザータッチでやんわりと触れつつ、その手は徐々に鼻の穴へ。

 潜水艦は何かに耐えるような表情になってきていた。妖精さんは、どういう手段を使っても口を開かせようとしているのがわかる。

 

「っ……へっくしゅ! んぅっ!?」

 

 それでも限界が訪れ、くしゃみをしてしまった。その時にどうしても口が開くため、妖精さんはその隙を突いて口の中に薬を放り込む。突然のことだったため、嫌でも呑み込む羽目に。

 

 ちゃんと入ったことを確認したので、また次の潜水艦の方へ。今やられていたことを見ていたため、くしゃみを誘発させることには耐えるように意気込む。

 しかし、妖精さんの技はそれだけでは無い。口を開かせるために手段を選ばないため、鼻ではなく顎の下へと手を伸ばし、くすぐり始めた。

 

「やってることエグいわね。いいぞもっとやれ」

「姉さん……でも、手段を選んでいられませんよね……」

 

 叢雲は少し楽しそうに妖精さんのやることを眺めており、薄雲はその姉の姿を見て呆れつつも、この手段を取らざるを得ないのは納得していた。

 戦艦棲姫もリシュリューも、この容赦の無さには複雑な表情。最初に自分の小ささを利用して手を()()()代わりにくしゃみを誘発させたところから、かなりダーティーなことをするのはわかっていたが、今度はくすぐり。それでもダメなら、次は強引に痛みを与えるなりする可能性が高い。

 

「っ、ぶふっ、んぅっ!?」

 

 くすぐられていた潜水艦も限界が来たことで噴き出し、その瞬間に薬を放り込んだ。その腕もなかなかのモノで、綺麗に喉の奥まで投げ込まれたので、嫌でも呑み込む羽目になる。

 

「っ!?」

 

 そして2人同時に身悶え始めた。薬の効果が始まったことがよくわかる。泥の消滅は侵蝕されている者に大きな快楽を与えるのだが、明石はあえてその要素を少ししか落としていない。意識がある状態で薬を呑み込んだ場合、耐えようとして効果がうまく発揮しない可能性があるからだ。耐え難い感覚を与えることで、嫌でも受け入れさせるという明石の作戦でもある。

 潜水艦姉妹はそれにどうにか耐えようとするのだが、明石の策略は綺麗にハマり、どう頑張っても耐えられない。

 

「〜〜〜〜!?」

 

 声なき声を上げて、潜水艦姉妹はビクンと大きく震えた後、グッタリと力を抜いた。その後も度々身体を震わせるものの、力は入っていないらしく、もう拘束の必要もないと判断し、リシュリューは2人を解放した。

 それでも立つことが出来ずその場に倒れ込み、ハァハァと荒い息を吐きながら震えている。

 

「……絶対に侵蝕なんてされたくないわね。こんなのやらされるわけでしょ」

「ですね……。死ぬほど痛いか、コレか……ですか」

 

 あの叢雲ですら引いているため、これがどれだけ壮絶なのかがよくわかった。

 

 

 

 

 これで潜水艦姉妹は解放された。残りはコロラド、ただ1人。

 




お薬の妖精さん、明石の気質を受け継いでいる説。多分見た目も明石に近い。


支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/96635923
MMDアイキャッチ風武蔵。自他共に認める最強の戦艦は、今も施設のために平和のために荷物運びに勤しんでいます。鎮守府に戻ったら荒潮を鍛えて、戦いのための準備までして。すごい働き者だ。
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