明石の作った薬によって、潜水艦姉妹は治療完了。これで残るのはコロラドのみとなった。その姉妹は未だに薬の効果でビクンビクン震えているため、千歳と千代田が介抱。
「すぐに立ち直るのは難しいだろうから、私達はこの子達を見ています。サラトガさん、本当にいいんですね?」
「はい、彼女には、Coloradoには、サラが話をします」
千歳がサラトガに問うのは、コロラドに対する尋問は自分がやると言い出したからだ。姉妹をこうする前から話していたことであり、むしろコロラドが敵対していることを知ってからずっと考えていたことでもあるらしい。
サラトガはコロラドと同郷。リシュリューとコマンダン・テストの関係性と近い。それ故に、出来ることなら自分でコロラドを止めたかったとのこと。残念ながら最後まで戦うことは無かったのだが、この最後の大役を自分で出来ることに感謝していた。
「今からサラがするのは
潜水艦姉妹に強引に薬を飲ませたあの妖精さんが、サラトガに向かってサムズアップ。いくらでもやらせてくれと言わんばかりに、薬を抱えてニヤリと笑う。
「それではRichelieu、Coloradoの
「Oui. 叢雲、もし何かあったら、痛めつけていいわ」
「任せなさい。殺さない程度にぶちのめしてやるから」
まだ眠っているコロラドに対する拘束が解かれ、その場に置かれる。同時に全員が警戒を強めた。
一番危ないのは、ここでコロラドが白鯨を展開することである。長い時間気を失っていたかもしれないが、だからといって体力が回復しているかどうかはわからない。それに、陸であそこまでの艤装が展開出来るかもわからない。
しかし、展開出来てしまった場合、ここら一帯が酷いことになることは確定している。施設にも影響が出るだろう。そのため、出来る限り施設から離れ、それでも海には近付きすぎない場所まで持っていく。
「ふぅ……少し緊張しますが、やります」
小さく息を吐いた後、よしと気合を入れた後、キッとコロラドを睨み付けるように見据えた。そして、
「
サラトガから出たとは思えないドスの利いた声でコロラドに声をかける。その声色を耳にして、ここにいた者達はゾクリと背筋に冷たいものが走った。そこに乗せられた感情は、怒りなのか、呆れなのか、それとも。
「……ん、ここは……」
その声でコロラドも目を覚ます。両サイドにはリシュリューと戦艦棲姫が陣取っており、海へ向かうルートは槍を突き付けている叢雲と鎖を握りしめる薄雲。そして、真正面には腕を組んで仁王立ちのサラトガ。
「……Sara、アンタもここにいるとはね」
明確に敵対の意思を瞳に宿し、睨み返す。そんな顔をされてもサラトガはどこ吹く風。
「貴女がどういう経緯でそのようになったかは知りません。ですが、Enemyとしてそちら側に立つのでしたら、サラも容赦は出来ませんので」
しっかりと目を見つめる。コロラドも負けじと睨み付けつつ、その冷たい瞳に内心驚いていた。コロラドがこうなる前に、別の個体のサラトガのことは知っていた。故に、こんな表情が出来る性格とは思っていなかった。
いつも穏やかで、笑顔を絶やさず、しかし戦場では凛々しく仲間達を後ろから助ける素晴らしい空母。それがサラトガに対する印象。
しかし、今のサラトガからは穏やかさなんて微塵も感じない。敵対しているという気持ちをコレでもかというほどぶつけ、目でコロラドを殺してしまいかねない程になっている。
「わかっていると思いますが、貴女はもう逃げられません。なので、知っていることを全て話してください。悪いようにはしませんよ」
「はっ、何を勝ったつもりでいるのよ。戦場で私にトドメも刺せない甘ちゃん達は、そのせいで後悔することになるわ」
やはり往生際悪く艤装を展開しようとするコロラド。睡眠である程度の体力が回復しているため、戦場で見せた白鯨以外の艤装の展開は可能だった。流石に白鯨は体力を使いすぎるのか、ここで展開しようとは考えなかったらしい。
だが、それは誰もが見越していたことだ。そして、そうすることだって誰もが予想していたことだ。まともに攻撃させるつもりなんて最初から無く、むしろ展開だけはさせてからさらに上から叩き潰すつもりですらあった。
その筆頭が、何を隠そうサラトガである。煽ればムキになって攻撃を仕掛けようとしてくるのはわかっていた。さらに言えば、コロラドはほんの少しの煽りでもムキになる。サラトガのような穏やかな者の煽りならば、即座に反応してこうなることくらい考えるまでもなかった。
「
それ故に、サラトガはコロラドよりも早く動いていた。コロラドの艤装展開前には、サラトガも艤装展開が完了しており、コロラドの艤装が展開完了する時には既に手に持つトミーガン型の飛行甲板から艦載機が発艦、いや、
あれ程強固だったカニの甲羅の盾も接続されている根元を吹き飛ばされ、ロブスターのハサミも同じように接続されている根元を抉られる。防御に動く暇すら与えられない。
艦載機そのものが弾丸と化し、しかしコロラド本体を狙わずに抵抗する手段のみを奪い取る。これはコロラドが完全に回復していないことを如実に表していた。
万全ならば、この程度で艤装が破壊されることはない。しかし、スタミナ切れで倒れた挙句、一晩絞め上げられ続けた状態で、本調子なんて出るわけがない。ムキになって戦おうとしているのだから尚更だ。
「Colorado、サラの質問にただ答えるだけでいいんですよ。余計なことはしなくて結構です。Okay?」
一切表情を変えず言ってのける。そのあまりにも冷酷な瞳に、コロラドは動けなくなった。
プレッシャーが普通では無かった。確実にいつものサラトガではない、コロラドを見下したような視線。並の艦娘がその視線を受けたら、恐怖でへたり込んでしまうほどの圧。
「貴女も
コロラドは小さく舌打ちをした。たかが空母1人と考えていただろうが、目の前の空母はこの距離でも隙が無いのである。
大将の艦隊に属している者なら、サラトガの隠し続けている真の実力を知っている。何せ、このサラトガは
そんなサラトガが、全力で敵意をぶつけて尋問をしようとしているのだから、こうなっても仕方なかった。敵ですら震え上がらせるその目は、コロラドとて例外では無い。
「貴女は、黒幕の居場所を知っていますか」
質問に対して、コロラドは無反応、黙秘権を使った。しかし、それはサラトガの求める解答では無い。
「Colorado、貴女は本来聡明なBIG SEVENの1人。強く賢く尊敬に値する者だとサラは理解しています。いくら
念を押してもコロラドは無反応。睨まれている視線に対して目を逸らさないでいるものの、あえて質問には答えないというスタンスを貫こうとしている。
1回目はまだ良かったのだが、2回目はよろしくなかった。サラトガは表情を変えずに艦載機を発艦し、コロラドの腹に食い込ませる。
「っぐっ!?」
「3度目はありません。Yes or No. Okay?」
あまりにも強引なやり方に、周りは少しだけ引いていた。叢雲ですら、怒りが鎮静化するほどだった。
コロラドも、ここでまた同じように無反応でいたら本当に殺されると感じた。余計な情報を吐くよりはここで死んだ方がマシだろうと考えたものの、それを察したサラトガが先んじて手を打つ。
「ああ、サラは貴女の命を奪うつもりはありませんよ。素直になるまで
本当にそれをやるぞという目。このサラトガは、言ったことを本当にやってしまうくらいの信念を持っている。コロラドはそこまで察した。
だが屈するわけにはいかないと、今度は違うカタチで乗り越えようと画策する。反撃の機会を掴み取るため、今は従っている
「……No」
「あら、知らないんですね。でもColorado、サラは嘘を吐いているかどうかくらい、顔を見ればわかるんです。仕方ないから全てNoで答えてやろうとでも思っているのでしょう。
艦載機がもう一発コロラドの腹に食い込んだ。撃ち込まれてはその場で消滅し、またサラトガのサブマシンガンに装填されていく。こうしている間は無限に撃てるようである。
「こふっ!?」
「貴女は黒幕の居場所を知っている。それはそうでしょう。そうでなければ4人で纏まってこの
このサラトガには何も嘘がつけない。感情の機微を読み取っているとかそういうのでは無く、本当にその場の空気でそれが嘘が本当かを読み取れてしまっている。
ここでコロラドは観念した。だが、姫の不利益になるようなことにはならないようにと言葉を選んで話そうと尽力する。
「……Yes. 私は姫から直接指示を受けているわ。この施設にいる器を奪取しろってね」
「なら次の質問です。その姫の居場所は、この施設の近くにありますか」
「No. 私達は器のためにわざわざここまで来ている」
当たり障りなく、しかし嘘はついていない。どれだけ聞いても、黒幕の居場所に関しては曖昧な答えで躱していく。サラトガも、これは真意までは聞き取れないだろうと感じた。ここまでしても、黒幕の居場所は曖昧で終わらせるつもりなのは変わらない。
おそらく、あちら側も詳細を知る者を極小数に抑えて、いざという時に情報が漏洩しないように努めているのだろう。一度の敗北から、黒幕はその辺りを大きく学んでしまっている。
これは擦り切れる程に痛めつけても変わらないだろう。その信念にはサラトガも感心しつつ、別の質問に入る。
「次、今回の
そこは重要なところ。実は他のところで実験している、もしくはした後だったとなると、他の鎮守府にも影響が出てくる。
「それは本当に知らない。私は戦力として動いているだけだから、上から悪意の塊をばら撒くだなんて初めて聞いたわ。確かにそれは効率がいいわね」
あくまでもコロラドは強力かつ凶悪な戦艦戦力としてのカウントのようで、詳しい作戦の内容は伝えられていないらしい。今回の件は大鳳にしか伝えられていない作戦のようだ。
圧倒的な力で侵略を進めるための駒。それがコロラドだ。頭を使うことなく、やりたいように暴れろというのが優先される指示のようである。
「そうですか。では次、貴女はどのように作られたか理解していますか」
次は魂の混成についての詳細を聞き出そうとしている。
「No. 私も気付いたらこの身体だったもの。ああ、でもその前に一度
「余計なことを言わなくていいですよ」
またもや艦載機が腹に食い込む。調子に乗りかけていたので黙らせた。
しかし、ここでわかったのは、魂の混成のために生きていたコロラドを一度殺しているということ。他の証言や白露の存在から、魂の混成は
「そうですか。結局、黒幕の居場所に関しては何も教えてくれませんか」
「アンタの質問には答えたわよ。それが私の出来ることだけれど?」
「なるほど、そういうところはColoradoなんですね。芯が強く、簡単には折れない。仲間ならば心強いですが、敵となると厄介極まりない」
ここで妖精さんに合図。これ以上は尋問しても意味がないと判断したか、コロラドにも治療を施すことに。
コロラドは潜水艦姉妹がどうされたかを見ていないため、不意打ちが完全に決まった。妖精さんの持つ薬が綺麗に口内へと飛び込んでいき、そしてすぐにあられも無い姿を見せることとなった。
コロラドの治療もこれで終わり。敵対していた者全てが正気に戻ることとなる。
黒幕側の情報は多少は引き出せたが、あちらもやたらと慎重なのか、根幹に関わることはまだ触れることが出来ていなかった。
コロラドの痴態は想像にお任せします。今までで一番大人の子の悶絶なので、見せられないよな可能性が高い。
支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/96659486
MMDアイキャッチ風サラトガ。穏やかで優しいお姉さんだったけど、今回の話でちょっと覆っちゃいました。でも、声帯の妖精さん的には武器商人だったりするので。