空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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示された道

 コロラドの治療もされたことで、施設に捕獲された元艦娘の4人は全て正気に戻ったこととなった。

 それが全て終わって少しした後、島内をグルッと一周して眼鏡に反応した泥を全て駆除して戻ってきた姉妹姫一行が、施設外で待機している戦艦棲姫達と合流。元艦娘達が明石の薬によって治療されたことを知り、大いに喜んだ。

 

「それじゃあ、みんなが元に戻れたのねぇ。よかったわぁ」

「ま、まぁ、そうね」

 

 ほんのりと顔が赤い戦艦棲姫の表情に疑問を覚えつつも、未だに薬の効果で息も絶え絶えなコロラドがフラつきながら起き上がるのを見たことで、中間棲姫はより一層喜ぶ。

 

「なんなのよこの薬……」

 

 汗やら涙やらで顔がビショビショなコロラドは、どうにかその効果を振り払った。潜水艦姉妹より身体は大人だからか、()()()()()()()からの復帰は早いようである。

 その潜水艦姉妹は未だに厳しいようで、千歳と千代田に介抱されたまま動けないでいる。しかし、意識は失っているわけではないようで、よくわからない感覚にビクビクと震えるのみ。

 

「何かあったのかしらぁ」

「そこにいる薬の製作者に聞きなさい。正直コロ助が可哀想になったわよ」

 

 既に戦艦棲姫はコロラドに対して憐れみの視線になっていた。一部始終を見ることになったここにいた者は全員同じような視線。叢雲に憐れまれるとなると相当である。

 それだけ、薬での反応が激しかったと言える。あまりにも酷いことになりそうだったため、反応が溢れるまでリシュリューが再度拘束し直したレベル。そうでもしないと、本当に見ていられない状態になりそうだった。

 

 姉妹姫と一緒に戻ってきた明石がテヘッと舌を出していたが、その様子を見て大淀が溜息を吐いたのは言うまでもない。

 

「元に戻りましたね、Colorado」

「Sara、アンタ知ってて飲ませたわけ!?」

「この手段しか無かったんですから、仕方ありませんよね?」

 

 コロラドは口を噤むしか無かった。

 

「Colorado、まだ何か覚えていますか。正気に戻ったのなら、サラ達に貴女の知る全てを教えてもらいたいのですけど」

「……あれ? さっきまであんなに姫のことを考えていたのに、顔すら思い出せないわ……。Why!?」

 

 ここはやはり他の救われた者達と同じである。泥が失われた時に、同時に最も必要な記憶も失われる。コロラドもそれには納得がいかないらしい。

 今の今までさんざん利用されていたのが気に入らない。今までやらされてきたことも含めて、何故それで自分がこんな気持ちにならなくてはならないのだと、その場で暴れてしまいそうな程に苛立っている。

 

「何も、何も思い出せない。やらされてきたことは思い出せるのに、あの姫のことになるとそれだけMist()がかかるのよ! なんで、なんでよ!?」

 

 先程とは違う理由で震え出す。拳を強く握り、歯軋りしそうなくらいに奥歯を噛み締めた。感情が抑えられそうに無かった。

 

「そもそもなんでこんな身体にされてるのよ! なんで艦娘を殺し回らなくちゃいけないのよ! なんでそれで()()()()()のよ! この私が、BIG SEVENたるコロラドが! 私にそんなことやらせたヤツの顔すら思い出せないとか、どうなってんのよ! ああもう、Don’t be silly(ふざけるな)!」

 

 苛立ちが抑えきれず、地面を拳で殴りつける。薬によって体力を奪われているため、そんなことをしても地面に何か起きるわけでも無いのだが、次から次へと湧き立つ怒りのせいで、何かに八つ当たりしないと気が済まないようだ。

 

「えぇと、コロ助ちゃん、ちょっと落ち着いてちょうだい」

「誰がコロ助だ!」

 

 戦艦棲姫から聞いていた名前で触れようとしたため、凄まじい剣幕で中間棲姫を睨み付ける。しかし、中間棲姫は怯むことはない。

 

「Sisters、彼女はColoradoと言います」

「あら、あらあらあら、ごめんなさいねぇ。そんなこととは露知らず。コロラドちゃん、一度落ち着きましょう。深呼吸、深呼吸よぉ」

 

 サラトガに指摘されて、すぐに謝りながら改めて手を差し伸べる。そんなことをされても気が治まらないコロラドは、差し伸べられた手を打ち払った。

 もう殆どここに来て正気を取り戻したばかりの叢雲である。言いようのない怒りに呑み込まれ、自分が加害者にされている上に自分を陥れた者の顔も思い出すことも出来ないため、誰に怒りをぶつけていいかもわからず、ただ八つ当たりをすることしか出来なかった。

 

「っ……大丈夫よぉ、落ち着いて。私達は、貴女を救うためにここにいるの。まずはその怒りを収めて」

 

 そんなことをされても、中間棲姫の物腰柔らかな態度は一切変わらない。コロラドに寄り添い、とにかく落ち着かせることに尽力する。狂犬を手懐けようとするかのようにも見えなくもない。

 

「コロラドちゃん、大丈夫。ここにいる子達はみんな貴女の味方。貴女の怒りの理解者。貴女と同じ境遇の子もいるの。だから、今は落ち着いてちょうだい」

 

 暴れそうになっているコロラドを押さえつけるように抱きしめ、耳元で囁くように思いを伝える。

 

「いい、コロラドちゃん。貴女が怒るのもわかるわ。やりたくないことを悦んでやるように頭の中を弄られていたんだもの。腹を立てても仕方ないわよねぇ。でもね、ここで暴れ回っても何も変わらない。むしろ、貴女のことだから絶対後悔する。今は落ち着きましょう。ね?」

 

 不思議と心に響くような声色に、最初は逃がれようとジタバタしていたコロラドも一旦動きを止める。怒りのせいで息は荒く、この拘束を解いたらまた暴れ出してしまいそうだが、中間棲姫の温もりと声には癒しの効果があるのか、今はそうすることなく話を素直に聞いていた。

 事実、中間棲姫の声色には落ち着く性質もあるようだった。力の強い姫だからこそ、

 

「なんで私なのよ……なんでこんな目に遭わなくちゃいけないのよ。とんだ辱めだわ……」

 

 怒り狂ったかと思えば、次は溢れる涙を腕で拭いながら心の内を曝け出す。情緒が不安定になっているのも、薬の副作用。敵対していた時の心を、治療時の快楽でグチャグチャにしているのだから、こうなっても仕方がないことである。

 起きている時に飲ませたことで荒潮のように性格そのものに影響を与えることは無かったが、それでも治療直後であるためにガタガタ。時間経過で元に戻っていくとはいえ、今は難しい。ただでさえコロラドはプライドが高いため、今までやらされてきたことを醜態、痴態と考えて余計に怒りが募る。

 

 対する中間棲姫は、そのコロラドの怒りと悲しみを自分のことのように受け入れ、落ち着かせるように頭を撫でる。

 

「私の中身がごめんなさい。本当にごめんなさい。私が仲間に代わって貴女に謝罪するわぁ」

 

 中間棲姫からの突然の謝罪に、コロラドも少し驚く。自分が狙われているというのに、それでもそれが自分のせいであるかのように振る舞い、利用されたコロラドに対して本気の謝罪をしているのだ。

 

「……アンタが謝る必要は無いわよ」

 

 その行為が、コロラドを冷静にさせた。プライドが高いが故に、無実の者に謝罪をさせるという現状が許せなかった。

 

「悪いのはあの姫、全部アイツのせいよ。私をこんな身体にしたのも、私に艦娘を殺させたのも、アイツのせいなのよ。アンタは何も悪くない。私も悪くない。アイツ以外、誰も悪くない」

 

 そう思わないと心が潰れてしまう。ただでさえ深海棲艦化の影響で不安定だというのに、ここからまたおかしくなったらまずい。

 

「だから、私はアイツに恨みを晴らしてやる。この手で、絶対に潰してやる」

 

 しかし、コロラドに混ぜ込まれているのが艦娘ではなく()()()であるというのがまた厄介なところであり、艦娘コロラドとしてのプライドと同時に、深海棲艦としての破壊衝動も持ち合わせてしまっている。

 結果、仲間のために力を振るうという根本的な部分は艦娘なのだが、自分のために全てを壊すという深海棲艦的な要素もかなり強め。

 叢雲の怒りとは別方向で制御が難しい存在となるかもしれない。だが、コロラド自身のプライドが、それをどうにかするだろう。破壊に頼るのは醜態と考える可能性は非常に高い。

 

 コロラドは開き直っているようなもの。全ては黒幕が悪く、自分は悪くないのだと考えられるために、やらされてきたことへの後悔が後を引かなかった。

 

 

 

 

 一方、潜水艦姉妹はというと、ようやく薬の効果による震えが取れてきたところ。2人揃って千歳と千代田に介抱されているのだが、やはりその表情は無い。

 

「そろそろ大丈夫かしら?」

 

 千歳が姉妹の片方を座らせてやる。先程までの感覚のせいか、顔はほんのり赤い。しかし、感情そのものが壊れているため、羞恥心だとか怒りや悲しみがまるで無かった。

 

「……」

 

 言葉すら失ってしまったかのようにぼんやりとしていた。記憶も無く、感情もなく、支配が終わったために行動する理由も無い。もう何をするべきかも自分で考えることが出来ず、ただそこでボーッとしているだけになる。

 千代田に介抱されていた姉妹のもう片方も同じ。千歳と同じように座らせてやるのだが、何をするでもなくボーッとしているだけ。

 

「こっちは完全に心が壊れているのね。ヨナから聞いたけど、指示が無いと動けないんだっけ?」

 

 こちらには飛行場姫がつく。心が壊れているために善意も悪意も無く、ただ上に立つ者の指示を受けてその通りに動くだけの機械と成り果てた潜水艦姉妹に、少なからず憐れみを持っていた。

 

「この子、何者かはわかる?」

「いろんな要素が混ざり合ってしまっていて、誰を元にしているかが本当にわからないんですよ。潜水艦も何人もいますが、その全てが混ざり合っているようにすら思えるくらいで……」

 

 千歳もこれには困っていた。混ざり合いすぎて、特徴と言える特徴もわからない。名乗ることも出来ず、名乗るための名前も覚えていない。違う方向のミシェルのようなもの。

 

 疑問が溢れた結果、何もかもがわからなくなってしまったミシェルは、おそらく根底にはその記憶が存在するのだが、それが見えなくなってしまっている。

 この潜水艦姉妹は、あまりにも多くの記憶が混在してしまっているせいで自分の記憶が探れなくなり、その結果心そのものも砕け散ってしまっている。

 

「一応聞いてみましょうか。貴女、名前は?」

 

 聞かれた潜水艦姉妹の片方は、視線を飛行場姫に向けたものの、質問の意味がわかっているようには見えない。

 

「何か覚えていることはある?」

 

 その質問に対しては反応を見せるものの、首をただ横に振るのみ。黒幕からの依頼でのみ行動していた潜水艦姉妹から泥が失われたため、その記憶自体が泥に持っていかれてしまっている。

 逆に言えば、今までの記憶が何もなく、感情もないおかげで、後悔から自暴自棄になったり暴れたり塞ぎ込んだりすることもない。ただぼんやりしているだけである。

 

「ふぅん……じゃあ、アタシから『依頼』をしたらいいのかしら」

 

 依頼という言葉にピクンと反応する。そこは今までやらされていたことだからか、深く刻まれているようだった。姉妹共々飛行場姫の方を向き、次の言葉を待っているようにも見えた。

 上に立つ者からの依頼を受けるように調整されているのだとしたら、姉妹姫はまさにその立ち位置になる。中間棲姫は黒幕の半身なのだから余計に依頼をしやすいだろうし、その妹たる飛行場姫も同じくらいの影響力を持っていてもおかしくない。

 

「アンタ達はもう解放されたの。だからアタシからの依頼は、『()()()()()()()()()()()』よ。感情も壊れているかもしれないけど、だったらまた覚えていきなさい。ここにいれば、楽しいや嬉しいくらいならすぐに覚えられるわ」

 

 思い出せ、ではなく、()()()。新しい自分となったと考え、過去のことを引きずるわけでもなく、ここからが第一歩なのだと。

 

「承った。楽しく生きる」

「楽しく生きる。了解」

 

 あくまでも機械的に、しかし飛行場姫からの依頼として、その言葉を刻み込んだ。ここから変われるかはわからないが、無いよりマシ。

 

 

 

 

 今までとはまた違うカタチでの復帰となりそうではあるが、コロラドと潜水艦姉妹は、大鳳と共に施設の一員となる。

 すぐに馴染めるかどうかはわからない。とはいえ、道は示された。




これを開き直ったと言えるかはわかりませんが、やらされてきたことを悲観してウジウジするようなことをしない3人だったおかげで、受け入れ自体はすんなり終わりそうです。


支援絵を頂きました。ここで紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/96678866
MMDアイキャッチ風北上。涼風を鍛え上げているの図。空間把握能力にもフィジカルが大事よねーとスパルタ教育しそう感はある。そもあの煽りが出来る北上さんぞ。
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